闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

エピソード1(脚本)

闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

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〇宇宙船の部屋
  仕切秀人(しきりひでと)は研究室を離れて、仮眠室のベッドで足を伸ばしていた。
  夜の宵闇を通り過ぎ、朝の白んだ空気も過ぎ去り、昼の黄色みを帯びているだろう中
  ぼんやりとワイドショーを見る。
  それにどれほどの価値があるのかは分からない。
  ただ、疲れきっているはずなのに眠れないのだ。
  しかも、昨日の夜間から本日の昼までしていた仕事を終え、
  少し眠っても良い筈なのに、やはり眠れない。
仕切秀人「まぁ、家に帰るよりはマシか・・・・・・どうせ、夜にはまた仕事だ」
  ワイドショーでは芸能人が話題のスイーツを食べて
  思い思いのレポートが展開されていたが、速報が流れる。
  速報 闇堕ち病、5人目の罹患者

〇古いアパート
藤堂法子「はい、こちら藤堂です。私は今、現場に来ています」
  若い女性レポーターは神妙な面持ちで、カメラに向かって言っている。
  すると、1人の男性がアパートらしき建物から出てくる。
藤堂法子「すみません。こちらにお住まいの方ですか?」
大家「ええ、大家です」

〇宇宙船の部屋
仕切秀人「(あ、この人、ゼミの時の先生に似てるかも・・・・・・)」
  カメラワーク上、顔は見えないが、
  仕草がどことなく仕切の学生時代の教授を彷彿とさせる。
仕切秀人「(まぁ、特に面白い訳じゃないけどさ)」
  徹夜明けの・・・・・・血液が上手く行き渡っていない脳みそ。
  何時間も飲まず食わずの消化器官。
仕切秀人「(ああ、やばいな・・・・・・やばい・・・・・・)」

〇古いアパート
大家「今時の方って感じだったけど、挨拶もしてくれたし、明るい感じだったと思うですけどね」

〇宇宙船の部屋
  取材を受けているゼミの教授似の男性は残念だという風に話を終える。
  現場からは以上です、と藤堂は締めくくり、
  テレビの中では「闇堕ち病とは何か」という説明が始まる。
仕切秀人「(ああ、珈琲、飲みたい・・・・・・)」
  闇堕ち病とは関係もなければ、何の脈絡もないが、珈琲が飲みたいと仕切は立ち上がる。
  テレビを特に切ったり、チャンネルを変えたりしないで、珈琲カップに手を伸ばす。
  インスタント珈琲の粉をティースプーンで3杯ほど入れる。

〇黒
月夜野健「え、それ、飲まれるんですか!?」
  仕切の研究やその他諸々の世話をする助手・月夜野健(つきよのたけし)にも、
仕切美弥子「見てるだけで、胃に穴が空きそう・・・・・・」
  仕切の妻の美弥子(みやこ)にも入れすぎなのでは、と咎められたが、

〇宇宙船の部屋
  仕切はこの安っぽくて、酸味の際立った珈琲が嫌いではなかった。
仕切秀人「はぁ、死んだ脳細胞も生き返るって感じ!」
仕切秀人「まぁ、死んだ脳細胞が生き返ることなんてこと、ないんだけど・・・・・・」
  猫舌などというものには無縁な分厚い舌で、熱々の珈琲をガブガブと飲み干す。
  仕切はもう1杯、と乾いたティースプーンを手にした。
月夜野健「あ、先生っ!」
  仕切に駆け寄るように部屋に入ってきたの美弥子ではなく、
  仕切の研究や必要であれば、「おはよう」から「おやすみ」までサポートする
  助手の月夜野健だった。
仕切秀人「あ、月夜野くんだ。お疲れ様〜」
月夜野健「また珈琲ばかり、しかも、珈琲しか飲んでないんでしょ」
月夜野健「ダメですよ。ちゃんと食べないと!」
  やや小柄な体躯だが、とにかく、よく気がつく男で地頭もルックスも悪くない。
  世間体の為に、下手な女性と籍と入れるよりは月夜野健という男は
  公的なパートナーとしても、私的なパートナーとしても、最良だと仕切は思っていた。

〇黒
月夜野健「ダメですよ。ちゃんと食べないと!」
  少し口喧しい奥さんみたいところはあるが、面倒臭い女性特有の
  「貴方の為に言ってるのよ」
  と押しつける感じも
  「私、良い女だよね」
  と求めてくる感じもない為か、素直に「うん」と言える。
  それに、月夜野のフォローも完璧だった。

〇宇宙船の部屋
月夜野健「落合さん・・・・・・いや、美弥子さんが作られるのよりは」
月夜野健「そうでもないかも知れないですけど、きのこのソースを作ってきて・・・・・・」
月夜野健「パスタなんですけど、茹で上がるまで待つのが嫌ならこちらをどうぞ」
  月夜野の指がエコバッグと机を行ったり来たりを繰り返すと、
  机にはすぐに食べられそうなものが並んでいく。
仕切秀人「あ、卵サンドに、焼きそばもある!」
月夜野健「ええ、あとサラダとスープ。アイスも買ってますけど、ご飯も食べてくださいね」
仕切秀人「ありがとう。でも、君の作ったパスタが良いな」
仕切秀人「まぁ、君が作るのが嫌ではないならね」
  仮眠室には家庭用のキッチンと比べて簡素ではあるが、
  コンロや片手鍋、フライパン、電子レンジもある。
  月夜野が手際よく準備している中、仕切の意識はワイドショーの方へ向かっていた。

〇黒

〇宇宙船の部屋
月夜野健「お待たせしました。和風きのこのパスタでございます」
  ややおどけて、月夜野は出来上がったパスタを机に置く。
  きのこのソースをフライパンで温めて、茹で上がったパスタと絡ませた時から
  醤油やバターといった匂いが空腹をナイフで抉ってくるぐらいしていて
  仮眠室は一気にダイニングと化していた。
月夜野健「僕は余ったおにぎりをいただきますね」
仕切秀人「ああ、どうぞ・・・・・・」
  もはや、今の仕切は月夜野特製のきのこのパスタ以外に興味はなく、
  月夜野がおにぎりを食べようが、焼きそばを食べようが眼中になかった。
月夜野健「じゃあ、いただきます」
  月夜野はおにぎりを齧ると、テレビの方を見る。
  来た時は闇堕ち病の特集をやっていたが、もう既に違う話題になっているらしかった。
月夜野健「あれ? さっきの特集、終わってしまったんですか?」
仕切秀人「んっ、何だって?」
  仕切は頻りにきのこパスタを口の中に放り込むと、カランと箸が皿へと転がる。
  月夜野が買ってきたサラダとスープも流し込むように食べると、また珈琲を淹れる。
  ゴク、ゴク、ゴク!!
仕切秀人「はぁ・・・・・・満腹だ〜〜〜」
月夜野健「よく噛まないで食べると、今は良くても、将来、大変なことになりますよ」
仕切秀人「うん、分かってるよ。で、言いたかったのはそれじゃないでしょう?」
月夜野健「はぁ、闇堕ち病のことだったんですけど・・・・・・」
仕切秀人「ああ、闇堕ち病、ね」
  闇堕ち。
  というのは、何年か前にアニメやライトノベル等で、
  味方だったり、善人だったりしたキャラクターが敵側になったり、
  悪人になってしまったりすることで、そんな設定が流行っていた時期があるらしい。
仕切秀人「まぁ、盛り上がるよね。昨日の友は明日の敵とか」
仕切秀人「悪側に回った友人とか、恋人を助けるとか・・・・・・」
仕切秀人「あと、助からないなら、闇堕ちした人間の哀しくも美しい末路とか・・・・・・」
  闇堕ち病、とは昨日までは善人だった人物が突然、ダークサイドに落ちたように
  社会的に宜しくない言動をし出す、そういうものだった。
月夜野健「意外ですね。先生もそういうの、読まれるんですね」
仕切秀人「うん、ああ、でも、人間よりもきのこの方が美しいけどね」
月夜野健「ははは、究極のきのこ最愛者だ」
月夜野健「まぁ、まだ強奪とか、殺傷事件が起こったという事例はないみたいですけど」
月夜野健「どうなるんでしょう、僕ら・・・・・・」
  月夜野は仕切の使った食器を片っ端から片づけていくと、さらりと恐いことを呟く。

〇黒
  そう、今のところは月夜野の言うように

〇広い玄関
  家出や

〇オフィスのフロア
  無断欠勤のようなものが主な症状だ。

〇黒
  そして、数日後に発見されると、
  まるで形だけが同じな、姿も言動が全く違う人物になっているのだという。
  まるで、別人のように・・・・・・。

〇雑踏

〇流れる血

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • 研究者の仕事は昼夜を問わずお仕事大変ですね。研究所の仮眠室では助手の用意した食事が美味しそうに見えました。ところで闇落ち病って何でしょうか?

  • コーヒーってやめられませんよね。笑
    私も好きなんですが、せめてミルクを入れて、と言われてます。
    二人の会話と不思議な病気が興味深かかったです。

  • タイトルから興味を惹かれました。第一話を読み終わって、今後の展開が気になるのと同時に、きのこパスタが無性に食べたくなってしまいましたw

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