特異地蔵譚

わらやま

週末地蔵 オムニバス(脚本)

特異地蔵譚

わらやま

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〇古いアパートの一室
  ある日の金曜日の夜
おじいさん「ふぅ、やっと静かになったわい」
おじいさん「明日は朝から部長とゴルフじゃから、早く寝なければ・・・」
おじいさん「グーグー」

〇古いアパートの一室
おじいさん「ん・・・ 朝か・・・」
おじいさん「どれ・・・何時じゃ・・・」
おじいさん「げ!!もうこんな時間!? 完全に間に合わんぞ!!」
おじいさん「なぜじゃ、ワシは6時のアラームをかけてたはずなんじゃが!?」
おじいさん「と、とにかく詫びの電話を・・・ん!?」
おじいさん「今日は月曜日じゃと・・・!?!? そんなばかな!?」
おじいさん「スマホの故障か!?テ、テレビはどうじゃ!?」

〇華やかな広場
キャスター「みなさーん!! おはようございます!!」
キャスター「月曜日、休み明けで身体が重いかもしれませんが、元気出していきましょう!!」

〇古いアパートの一室
おじいさん「う、げ、月曜日じゃ・・・」
おじいさん「そんな・・・たしかに昨日は金曜日だったはずじゃが・・・」
おじいさん「だが、月曜日であればまずい!!会社に行かねば!!」

〇オフィスのフロア
  お、おはようございます!!
営業一部部長「なんだなんだ騒々しいなぁ」
営業一部部長「珍しくギリギリじゃないか!!」
おじいさん「はぁはぁ部長すみません。 朝の準備がギリギリになりましてのぅ」
おじいさん「それに土曜日のゴル・・・」
営業一部部長「しかし土曜日のゴルフは楽しかったなぁ!!」
おじいさん「へ!?」
営業一部部長「お前さんにしては珍しく好成績だったじゃないか!!」
営業一部部長「俺も刺激を受けて久しぶりに100で回れたしな!!」
おじいさん「は、はぁ・・・ 部長すみません・・・ ワシはゴルフには行けなかったんですが・・・」
営業一部部長「・・・とんでもない寝ぼけ方だな」
営業一部部長「そんな冗談はいいから!! さ、仕事だ仕事!!」
おじいさん「ワシがゴルフに行った・・・!?」
おじいさん(どういうことじゃ 全く記憶にないんじゃが・・・)

〇古いアパートの一室
おじいさん「さて、また明日は土曜日なわけじゃが・・・」
おじいさん「一体どうなるんじゃ・・・」
おじいさん「部長とのバーベキューがあるが・・・」
おじいさん「とにかく寝るか・・・」
おじいさん「グーグー」

〇山道
  なんじゃこの風景は・・・
  夢・・・なのか!?
  どこかの山道のようじゃが・・・
  む、また・・・意識が・・・

〇古いアパートの一室
おじいさん「何だったんじゃ・・・あの風景は・・・」
おじいさん「で、今日の曜日は・・・」
おじいさん「月曜日じゃ・・・な」
おじいさん「・・・会社に行くか」

〇オフィスのフロア
  おはようございます・・・
営業一部部長「なんだ・・・!!今日もギリギリだぞ!!」
おじいさん「部長すみません・・・ ところで土曜日のバーベキューって」
おじいさん「ワシはいましたかね・・・!?」
営業一部部長「・・・それ、マイブームか何かなのか?」
営業一部部長「普通に参加してただろ!!」
営業一部部長「まぁ、いつもより口数は少なかったかもしれんがな」
おじいさん「は、はぁ・・・」
営業一部部長「月曜日だからってダラけるな!! シャキッとしてけ!!」
おじいさん「部長!! バーベキューの時の写メはありますかな!?」
営業一部部長「ん!?ああ・・・撮ったぞ!?」
おじいさん「それを見せて欲しいです!!」
営業一部部長「まあ、いいか・・・これ見たら仕事しろよ」

〇広い河川敷
  ほら、その時の写真だよ。
  よく撮れてるだろ・・・
  確かにワシじゃ・・・じゃが・・・
  ワシにこんな週末の記憶はないぞ・・・!!

〇オフィスのフロア
営業一部部長「一体何なんだ・・・!! 仕事するぞ」
おじいさん「ワシの身に一体何が起きてるんじゃ・・・」
おじいさん(確かめねば!!)

〇古いアパートの一室
おじいさん「・・・カメラはセットした」
おじいさん「服に小型カメラも取り付けた」
おじいさん「これで何か分かるといいが・・・」
おじいさん「寝るか・・・」
おじいさん「グーグー」

〇山道
  またこの夢か・・・
  じゃが、前よりは明晰じゃ・・・
  これは本当に夢・・・なのか!?
  この山道・・・
  どこかで見覚えが・・・
  身体は・・・動かんのぅ
  まるで石にでもなったかのようじゃ
  なんだ!?
  ワシ!!!?
おじいさん「申し訳ない・・・」
  ど、どういうことじゃ!?
  ん・・・意識が・・・

〇古いアパートの一室
おじいさん「あれは・・・まさか夢じゃない・・・!?」
おじいさん「曜日は・・・!?」
おじいさん「月曜日・・・」
おじいさん「カメラ!!カメラの確認じゃ!!」

〇古いアパートの一室
  おお!!撮れとる!!撮れとるぞ!!
  撮影の曜日は・・・
  間違いなく土曜日じゃ
  起き出した!!
  外に出かけるようじゃ!!

〇森の中の小屋
営業一部部長「ん、おお、来たか!!」
  おはようございます
営業一部部長「よっしゃ、じゃあまずはテントを準備するぞ!!」
  わかりました

〇古いアパートの一室
おじいさん「なんなんじゃ・・・ 普通にキャンプに参加しておる・・・」
おじいさん「ワシの姿をした何かが・・・」
おじいさん「・・・帰るようじゃな」
おじいさん「ん!?あああ!!」

〇山道
  そうじゃ!!
  この山道・・・!!キャンプ場の帰り道じゃよ!!
  見覚えがあったんじゃよ!!
  ん!?
  地蔵・・・!?
  そう言えばこのあたりに地蔵があったわい!!
  あまりにひっそりしてるもんだから、一度拝んでみたわい!!
  こんなとこで立ち止まってどうしたんじゃ!?
  申し訳ない・・・
  !!!!!!!?
  これは・・・あの夢と同じ状況!!
  ま、まさか・・・
  いやそんなバカな・・・!!
  ワシは・・・週末・・・
  地蔵になっていたということか!?

〇古いアパートの一室
おじいさん「・・・・・・」
おじいさん「この地蔵を確認しに行くしかないのぅ」

〇山道
おじいさん「たしかこのあたりだったはず・・・」
おじいさん「あ、あれじゃ!!」
おじいさん「間違いない!!この地蔵じゃ!!」
おじいさん「じゃが、何の変哲も無いただの地蔵じゃな・・・」
地蔵「おじいさん・・・」
おじいさん「うおっ!?」
おじいさん「なんじゃあ!?」
地蔵「おじいさん・・・」
おじいさん「地蔵が!!喋りおる!!」
地蔵「おじいさん・・・ 申し訳ないです」
地蔵「ここまでいらしたということは、もう気付かれているんですかね」
おじいさん「う、うむぅ・・・ 正直信じられないのだが、状況的にはこれしか考えられん・・・」
おじいさん「お主とワシが週末の間入れ替わっておる・・・のじゃろ!?」
地蔵「そうです」
地蔵「私はある日急に自我が生まれました」
地蔵「そして、私を拝んだ人間と中身を入れ替える能力があることも認識しました」
地蔵「ただ、私を拝む人間は長年現れませんでした」
地蔵「そんな時にあなたが通りかかり私を拝んだのです」
おじいさん「なるほどのう、あの時に・・・」
地蔵「私は人間としての生活というものに憧れておりました」
地蔵「なので、大変申し訳ないのですが、少しだけ・・・少しだけでもと思い、身体を交換させてもらいました」
地蔵「ですが、予想以上に人間としての生活というものが素晴らしく、結果3度も能力を行使しました」
おじいさん「そうじゃったか・・・」
地蔵「申し訳ございません・・・」
地蔵「もう能力は使用しません・・・」
地蔵「地蔵として静かに暮らしていきます」
おじいさん「・・・・・・地蔵よ」
おじいさん「別によいぞ」
地蔵「どういうことでしょうか!?」
おじいさん「ワシの身体しばらく使ってよいぞ」
地蔵「そ、それは本当ですか!?」
おじいさん「ああ・・・ 週末だけと言わずしばらく交換してもよい・・・」
おじいさん「この場所で1人でずっと居たんじゃもんな」
地蔵「おじいさん・・・いいんですか!?」
おじいさん「かまわんよ!!早速やってくれ」
地蔵「では・・・」
地蔵(おじいさん)「ふむ・・・起きている時に入れ替わると、今までと違い、普通に現実と認識できるな・・・」
おじいさん(地蔵)「ええ、金曜日の夜の寝ている時に入れ替わっていたので、おじいさんは虚だったんだと思います」
おじいさん(地蔵)「そして、今分かりましたが、起きてる時の発動だと、入れ替わりの能力の行使の権利はおじいさんにあるようです」
おじいさん(地蔵)「なので、いつでも戻りたければ、能力を使ってください」
地蔵(おじいさん)「・・・わかったよ」
地蔵(おじいさん)「今日は会社を急遽休んできたから、明日から会社に通ってくれ」
おじいさん(地蔵)「おお!!会社!! あの部長さん達もいらっしゃるところですね!!」
「では、失礼します」
地蔵(おじいさん)「・・・・・・」
地蔵(おじいさん)「静かじゃ・・・」

〇オフィスのフロア
おじいさん(地蔵)「おはようございます」
営業一部部長「・・・お前か」
おじいさん(地蔵)「部長、先日のキャンプは大変楽しく・・・」
営業一部部長「お前!!昨日はよくも休んでくれたな!!」
おじいさん(地蔵)「!?」
営業一部部長「お前がいないからお前の仕事は俺がやったんだぞ!!」
おじいさん(地蔵)「も、申し訳・・・」
営業一部部長「大体有給なんか使ってんじゃねーよ!! 体調不良だかなんだか知らねーが、這ってでも来いよ」
おじいさん(地蔵)「・・・申し訳ございません」
営業一部部長「クソがっ」
おじいさん(地蔵)(・・・あんなに土日は優しかったのに)
人事部「ちょっと失礼。お話いいですか?」
おじいさん(地蔵)「あ、はい」
人事部「この前お話あった嘱託での勤務継続希望の件、1年契約で無事申請おりましたので」
おじいさん(地蔵)「はぁ・・・」
人事部「こちらが契約書なのでご一読を」
人事部「では、私はこれで」
おじいさん(地蔵)(な、なんですか!!この内容は!?)
おじいさん(地蔵)(勤務形態は変わらないのに・・・ 給料が半額以下になっています!!)
おじいさん(地蔵)「おや、電話です」
おじいさん(地蔵)「・・・非通知設定」
おじいさん(地蔵)「はい」
  やっとでやがったなジジィよぉ!!
おじいさん(地蔵)「!?」
  テメェこらカネ返せや!!
  土日はテメェいつもいねぇから平日夜に家行ってんのに毎回居留守使いやがって!!
  200万円耳揃えて返しやがれ!!
  じゃねぇとテメェの職場乗り込むぞ!!
おじいさん(地蔵)「わ、わ、わ、わ」
  何とか言いやがれやコラ!!
  ぶっこ・・・
おじいさん(地蔵)「ハァ・・・ハァ・・・ 何でしょう・・・胸が苦しいです・・・」
営業一部部長「よう!!さっきは怒鳴って悪かったな」
おじいさん(地蔵)「部長・・・」
営業一部部長「俺も気が立ってたんだ。ごめんなぁ。 でよぉ・・・」
営業一部部長「今週末またゴルフ行かないか?」
おじいさん(地蔵)「ゴルフですか・・・ でもゴルフはついこの前もご一緒し・・・」
営業一部部長「俺の誘いを断るってのかよ!! どうしたんだお前よぉ!! 今までそんな事言った事ないだろ!!」
おじいさん(地蔵)「・・・わかりました。 ご一緒させてください・・・」
営業一部部長「おう!!よろしくなぁ!!」

〇更衣室
事務員「おつかれー また部長のカミナリ落ちてたねぇ」
営業「もうホント嫌なんだけど。隣りのシマの私達にとっちゃいい迷惑よ」
営業「あの部長、火曜日からはずっと機嫌悪いから最悪よ」
事務員「情緒不安定で鬱陶しいよねぇ。おじいさんもよく付き合うわぁ」
営業「断れない性格なだけでしょ」
営業「なんかほぼ毎週色んな遊びに誘われるらしいよ」
事務員「うげ、無理 まあ、誰も行きたくないよね・・・ なんでも従うおじいさんくらいしか誘えないのかな」
営業「しかも、道具とか会員権とか色々買わされてるらしくて・・・」
営業「噂だと結構な借金あるらしいの!!」
事務員「・・・今後嘱託になって給料も減るのに、人生詰んでんね・・・」
営業「私だったら耐えられないわー」

〇オフィスのフロア
おじいさん(地蔵)「ハァ・・・ハァ・・・ なんでしょう・・・ 動悸が止まりません・・・」
おじいさん(地蔵)「これが私が憧れていた人の営みというものなんでしょうか。思っていたものと違います。耐えられません・・・」
おじいさん(地蔵)「おじいさんに会いに行かなくては」

〇山道
おじいさん(地蔵)「ハァ・・・ハァ・・・」
おじいさん(地蔵)「おじいさん!!」
地蔵(おじいさん)「地蔵か・・・ 随分早いな・・・ まだ1日しか経っておらんぞ、どうしたんじゃ?」
おじいさん(地蔵)「な、なぜか身体の不調が止まらないのです」
おじいさん(地蔵)「不安や恐怖が押し寄せて来るのです」
地蔵(おじいさん)「・・・そうか」
おじいさん(地蔵)「昨日あのように言った手前申し訳ありませんが、元に戻していただけないでしょうか」
地蔵(おじいさん)「地蔵よ」
地蔵(おじいさん)「それが人間の生活というものじゃ」
地蔵(おじいさん)「人生は週末だけというワケには行かないのじゃ」
おじいさん(地蔵)「そ、そうなんですか!?」
地蔵(おじいさん)「お主は週末にキャンプを楽しむ幸せな人々しか見たことなかったかもしれんがな・・・」
地蔵(おじいさん)「・・・まぁ、ワシにとっては、その週末ですら決して楽しいものではなかったが」
地蔵(おじいさん)「それに比べると地蔵としての時間とは何と穏やかで心地よいのだろうか」
おじいさん(地蔵)「そ、そんな、では・・・」
地蔵(おじいさん)「悪いがワシは戻る気はない」
地蔵(おじいさん)「ワシの枯れた人生の中で僅かな喜びを見つけてくれ」
おじいさん(地蔵)「わ、私には耐えられない!!」
地蔵(おじいさん)「ワシも最初はそう思ったもんだ なに、すぐに順応するよ・・・」
地蔵(おじいさん)「借金取りからの連絡だ・・・ この時間の電話は出て平謝りした方がいい」
地蔵(おじいさん)「じゃないと嫌がらせで家に来るのでな」
おじいさん(地蔵)「そ、そんな また、また来ますからね!! 心変わりして下さいよ!!」
地蔵(おじいさん)「ふぅ・・・ まさかこんな形で夢が叶うとはな・・・」

〇山道
おじいさん「はぁ、もう部長のお供は嫌じゃ・・・ 一体実質何連勤なんじゃ・・・」
おじいさん「ん!?」
おじいさん「こんなところに地蔵がおったのか。 全然気づかなかったわい」
おじいさん「・・・地蔵様」
おじいさん(ワシはもう疲れました)
おじいさん(人と関わらずに生きていきたいです)

〇山道
地蔵(おじいさん)「ここは静かで心地良い」
地蔵(おじいさん)「今までの喧騒の日々が嘘のようじゃ・・・」
地蔵(おじいさん)「地蔵には悪いが」
地蔵(おじいさん)「ワシはここで穏やかに過ごすよ」
地蔵(おじいさん)「永遠の週末を」
地蔵(おじいさん)「世界に終末が訪れるまで」

次のエピソード:番外編 名地蔵アキオ

コメント

  • おおおっ!これはすごい!
    途中まで「毎週部長と遊んでるの?仲良しだねぇ」なんて呑気に考えてたら、上司と毎週って確かにそうだ、遊ぶというより接待だ😂
    まさか地蔵の方が幸せだとは。世界が塗り替えられる過程がお見事でした✨️

  • なるほど、ホラーはホラーでも人怖でしたか…!これはシンプルに堪えますね😱 そもそもキャラ名「おじいさん」なのにゴリゴリの現役っぽく出社してる時点でちょっと怖かったですが…笑
    冒頭の「静かになったか」や、地蔵を拝んだおじいさんなど、伏線もいい感じに効いてましたね~
    そしてラストもキレイに締まって最高でした👍
    人間に憧れたばかりに悲惨な運命に陥った哀れな地蔵には、違う意味で合掌したくなりますね 笑

  • うををを…… 恐! 怪奇現象なんぞよりも、人間の方がよっぽど恐いという…… ちょっと考えさせられるお話でした。
    それにしても多才ですね。地蔵だけでこんなにバリエーション豊かなストーリーが作れるとは。続きも待ってます❤

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