流し屋

敵当人間

育児疲れの男性の話(脚本)

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〇田舎町の駅舎
育児疲れの男性「・・・いざ話をするとなると」
育児疲れの男性「緊張してしまって・・・」
「ゆっくりで構いませんよ?」
育児疲れの男性「ありがとうございます」
育児疲れの男性「強いて言うなら」
育児疲れの男性「何もかもに疲れてしまって」
「と言うと?」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「貴方も結婚されていますよね?」
「・・・」
「えぇ、まぁ・・・」
育児疲れの男性「お子さんはいらっしゃるんですか?」
「いいえ」
育児疲れの男性「あぁ・・・」
育児疲れの男性「そうなんですね・・・」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「きっとその方が良いですよ・・・」
育児疲れの男性「・・・実は僕」
育児疲れの男性「子どもを作ったことを後悔してるんです」
「・・・なるほど」
育児疲れの男性「困りますよね、急に」
育児疲れの男性「でも、事実なんです」
育児疲れの男性「人として間違ったことを言っている自覚はあるんです」
育児疲れの男性「でも、言わないと壊れてしまいそうで・・・」
「奥様はなんと?」
育児疲れの男性「毎日キレてますよ」
育児疲れの男性「僕もなるべく協力しているつもりなんですが」
育児疲れの男性「全然足りないようです」
育児疲れの男性「どこまで頑張れば許してもらえるのか」
育児疲れの男性「他の家庭でもこんなものなのか」
育児疲れの男性「訊くに訊けず、こうして来てしまいました」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「いつも仕事終わりに見かけていて」
育児疲れの男性「こうして話してみたかったんです」
「ありがとうございます」
育児疲れの男性「お礼を言うのは僕の方です」
育児疲れの男性「流し屋さんはどう思いますか?」
「・・・そうですねぇ」
「貴方が普段どのように過ごしているのか教えてもらえると」
「もっと分かりやすいのですが」
育児疲れの男性「そうですよね」
育児疲れの男性「とりあえず、僕は普通の会社員として働いていますので、」
育児疲れの男性「月曜日から金曜日までは全て妻が面倒を見てくれています」
育児疲れの男性「僕は土日の休みで子どもの面倒を見るんですが」
育児疲れの男性「僕がオムツを付けると子どもが愚図るので」
育児疲れの男性「オムツだけは妻の仕事です」
育児疲れの男性「娘はもうすぐ1歳を迎えるので」
育児疲れの男性「乳離れのために離乳食を与えたりもしているんですが、」
育児疲れの男性「妻の時は美味しそうに食べるのに、」
育児疲れの男性「僕が与えると不味そうに吐き出してくるんですよ」
育児疲れの男性「同じ離乳食を与えているのにですよ?」
「えぇ?そうなんですか?」
育児疲れの男性「そうなんです!」
育児疲れの男性「僕も理由が全く分からなくて・・・」
「・・・そうですね」
育児疲れの男性「本当に困ったもんです」
育児疲れの男性「あ、お風呂に関しては僕の仕事なので、」
育児疲れの男性「毎日入れてあげています」
育児疲れの男性「後は抱っこなんですが、」
育児疲れの男性「コレも僕がすると直ぐに愚図ってしまって・・・」
「お母さんっ子なんでしょうかね?」
育児疲れの男性「多分、そうですよ、きっと」
育児疲れの男性「でもですよ?」
育児疲れの男性「嫁がやった方が絶対に効率が良いのに」
育児疲れの男性「嫁は、私ばっかりが子育てしてるってキレてくるんですよ」
育児疲れの男性「この子は貴方の子よ!?とかなんとか」
育児疲れの男性「僕だって必死に頑張ってるのに」
育児疲れの男性「頭ごなしに否定してくるんですよ」
育児疲れの男性「妻は今育児休暇中でして」
育児疲れの男性「仕事もないからそれなりに熟せるんでしょうけど」
育児疲れの男性「仕事で疲れ切って、娘をお風呂に入れて、」
育児疲れの男性「冷めた飯を食って床に着く夫に酷いと思いませんか?」
育児疲れの男性「下世話な話ですが、」
育児疲れの男性「あんなに気を遣ってくれていた彼女が」
育児疲れの男性「子どもが出来た途端に手のひらを返したように横暴に振る舞ってくるのは」
育児疲れの男性「キツいものがありますし・・・」
育児疲れの男性「異性として見れない分、そういう行為にも及ばなくなりました」
「それは、そうでしょうね・・・」
育児疲れの男性「それなのに、嫁はまだ自分がイケてると勘違いしてるんです」
「・・・なるほど」
育児疲れの男性「どこまでもポジティブなので、呆れてしまって・・・」
「そうだったんですね」
育児疲れの男性「・・・」
「・・・」
育児疲れの男性「正直な話・・・」
育児疲れの男性「離婚が脳裏にチラつくんです・・・」
育児疲れの男性「・・・本当はそれを彼女も望んでるんじゃないか」
育児疲れの男性「僕が努力すればする分だけ鬱陶しく感じてるんじゃないか・・・」
「・・・」
育児疲れの男性「彼女が怒号を吐き出す度に」
育児疲れの男性「察しろよと叫ばれているようで」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「どうしろって言うんだよ」
育児疲れの男性「僕にどうして欲しいんだよ!!」
育児疲れの男性「そう、叫び出したくなる自分も居るんです」
育児疲れの男性「金を落とすだけで良いなら」
育児疲れの男性「結婚してなくたって良いでしょう?」
育児疲れの男性「親の喧嘩は子どもに悪影響とも言いますし、」
育児疲れの男性「こんなに責められるぐらいなら離婚して」
育児疲れの男性「毎月養育費を支払った方が気が楽です」
「・・・そうでしょうね」
育児疲れの男性「娘にも拒否され、妻からも否定されて」
育児疲れの男性「本当に毎日が苦しいんです」
「・・・あの」
「もしよろしければ、次回奥様も一緒に来てみていただけませんか?」
育児疲れの男性「・・・」
「気が引けますか?」
育児疲れの男性「・・・」
「第三者が差し出がましいですが」
「一人で考えると、悪い方向にばかり考えることがあります」
育児疲れの男性「・・・」
「僕が間に居れば、奥様も叫んだりしにくいでしょうから」
「冷静に話し合う手助けが出来るかもしれません」
育児疲れの男性「・・・」
「今の環境が辛いのは分かります」
「逃げ出したくなるのも」
「でも、娘さんの父親は紛れもなく貴方で」
「奥様の旦那さんもまた、紛れもなく貴方です」
「貴方じゃなければならなかった理由が、」
「きっかけがあったはず」
「どうか、気をしっかり持ってください」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「そうでしょうか?」
「もちろんです」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「考えてみます」
育児疲れの男性「直ぐにとはいかないかも知れないけど」
育児疲れの男性「上手くいかなくても努力すべきですよね」
「・・・そうかもしれません」
「・・・唯一無二の、夫婦ですから」
育児疲れの男性「ありがとうございます」
育児疲れの男性「もう少し逃げずに、向き合ってみます」
「はい」
育児疲れの男性「・・・ただ」
「ただ?」
育児疲れの男性「もう少し、ここで泣いても良いですか?」
育児疲れの男性「家には居場所がなくて・・・」
「構いませんよ」
「流し屋ですから」
育児疲れの男性「お恥ずかしい、限りです」
育児疲れの男性「・・・情けない」
「いいえ」
「一生懸命生きている人が」
「恥ずかしい筈がないでしょう」
育児疲れの男性「・・・」
「いつまでも、お待ちしていますから」
  男性は、ただただ、静かに頷くばかりでした。

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