ぼくらの就職活動日記

大杉たま

エピソード9(脚本)

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〇大きい病院の廊下
  『12:59』
真田紅音「くそ、ここも満室か! どっか、どっか。ここまできて・・・」
若山柿之介「おら、あっち探すだ」
  教室の扉に『残席 1つ』と書かれている。
  柿之介の方を見ると、柿之介は紅音に気づいていない。
真田紅音「・・・・・・」
「紅音さ、あっただ!」
  紅音が振り返ると、柿之介が『残席 二つ』と書かれた教室の前に立っている。
  あわてて柿之介の方へと走っていく紅音。

〇説明会場
真田紅音「ハァッ・・・ハァッ」
  『13:00』
真田紅音「間に合った・・・」
  そのとき、教室のモニターが点く。

〇黒
戸川仁「はーい、時間になったので、試験を開始したいと思いまーす」
戸川仁「それにしても申し訳ない、こちらのミスで試験会場を伝え忘れてしまったみたいで」
戸川仁「一万人いたのに、三千人しか会場に来られていないなんて。いやー、反省反省」
戸川仁「さて、では始めようと思うのだけど、そこの二人はなんで床に座ってるのかな」

〇説明会場
若山柿之介「え、見えてるだか?」
  柿之介がモニターに手を振ると、モニターの中の戸川も手を振り返す。
真田紅音「部屋の四隅にカメラがあるんだ」
  モニターの戸川が喋る。
  当然のことだけど、教室の様子は全部こちらでチェックしていますので
  あと、君たちの乗ってきた自転車は駐輪場に運んでおくので、帰りにちゃんともって帰ってくださいね
  空いている席に移動する紅音と柿之介。
「・・・クク」
藤原一茶「なんや、自分らとは縁があるな」
  隣の席の一茶(いっさ)が、押し殺したように笑う。
中園瑚白「・・・・・・」
  その後ろでは、瑚白(こはく)がじっとモニターを見ている。
  さてさて、いま三千人か。じゃあ、千人くらいに絞ろうか
  教室に作業員が入ってきて、紅音たちの周囲を仕切りで囲む。
真田紅音「え」
  一次選考はチーム戦
  いま仕切りで分けられたチームで協力して、選考試験に取り組んでください
  教室をセッティングするのに10分ほどあるので、その間に自己紹介を済ませて、選考に備えてください

〇説明会場
  紅音、柿之介、一茶、瑚白の四人がグループになっている。
  瑚白はコホンと咳払いを一つすると、他の3人に向かって話し始める。
中園瑚白「・・・自己紹介をします」
中園瑚白「学院大学、国際社会学部四年、中園瑚白(なかぞのこはく)」
中園瑚白「英語とドイツ語が堪能。小さい頃からいろいろな習い事をしていて、ピアノと乗馬が得意。物事は論理的に割り切って考える質」
中園瑚白「よろしくお願いします」
真田紅音「へぇ、ドイツ語」
真田紅音「まあ、僕も英語はできる方で、TOEICも700ぐらいはあるんですけど」
真田紅音「ドイツには留学行ってたとかですか?」
中園瑚白「それを知ってどうするの」
真田紅音「え」
中園瑚白「私がどういう経緯でドイツ語を身につけたか、それはこの場で必要な情報?」
中園瑚白「ただ私はドイツ語ができる、それだけわかっていればいいでしょう」
真田紅音「いや、まあ、僕はただ親睦を深めようと」
中園瑚白「別に仲良しこよしをやりたい訳じゃないの。ただ次の選考に備えて、お互いの生かせる能力を確認したい、それだけ」
中園瑚白「ちなみにTOEIC700点なんて、100人規模のサークルの副代表やってました、ぐらいパンチ弱いから、二度と言わない方がいい」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「ええな、ええ考え方してるわ」
藤原一茶「うん、俺は藤原一茶(ふじわらいっさ)。 大学名は意味ないからやめとくわ」
藤原一茶「エリートピアを受けるんは四度目や。 他のやつらとは持っとる情報量が違う」
中園瑚白「四度目。三度落ちているということね」
藤原一茶「はっ、まあそのとおりや。 去年最終の一つ前まで進んで、それが一番惜しかったわ」
中園瑚白「最終の一つ前、ホント?」
藤原一茶「ほんまやで。なあ、俺嘘ついてへんよな?」
真田紅音「ええ、彼は嘘ついてないです」
中園瑚白「ああ、あなた、人の嘘がわかるとかなんとか」
真田紅音「はい、明陰大学、法学部四年。 真田紅音(さなだくおん)です」
真田紅音「特技はいま言ったように、他人の嘘を見抜けること。英語はそこそこ話せるし、パソコンも——」
中園瑚白「私は青森出身」
真田紅音「え」
中園瑚白「どっち、うそほんと」
真田紅音「う、嘘」
中園瑚白「私の好物は揚げナス」
真田紅音「本当」
藤原一茶「渋いやん」
中園瑚白「私の初恋の相手は田所君」
真田紅音「嘘」
藤原一茶「田所君どっからでたんや」
中園瑚白「・・・どうしてわかるの?」
真田紅音「まあ、見てれば分かるというか、微妙な表情の変化とか、言い方の違和感とか、あとは感覚の問題だから一般人には理解できな——」
中園瑚白「いつから分かるの?」
真田紅音「え、いや、それは・・・」
若山柿之介「才能だべ、なあ」
若山柿之介「紅音さは、生まれた時から人の嘘がわかったんだべ、そう言ってたべ」
中園瑚白「あなたは、なんなの?」
若山柿之介「おらは若山柿之介(わかやまかきのすけ)だ。東京さくるのは何年ぶりだかな」

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