王城編 クレイスの夜明け(脚本)
〇可愛らしい部屋
ルイス「ふぁあ・・・」
ルイス「・・・眠いなぁ」
〇可愛らしい部屋
ルイス「さて・・・」
〇洋館の廊下
まだ日も昇りきっていない中、王城内を進んでいく。
こんな時間から活動をしているのは朝食の準備をしている炊事場位な物で、辺りは静まり返っている。
〇華やかな裏庭
季節は既に春から夏に移り変わろうとしている。
日の出前の薄暗闇の中を歩いていると、今日も暑くなりそうだと感じた。
グレイスの夏は気温もさることながら、日差しがとても強い。
その為、避暑地であるタレイアでの毎年の休暇はとても楽しみだった。
夏にタレイアで行われる王族の夏期休暇。
何故私が王族の夏季休暇に同行できるのか?
それはルセラン女王のお側つきメイドという立場があるからだ。
〇洋館の階段
〇洋館の廊下
さらに何故、若輩な私がそのような立場につく事が出来ているのか。
それは私が特別優秀なメイドであるから、ではない。
ひとえに幸運によるものだ。
そもそも、私は元は地方の農民の出であったらしい。
そんな私の転機となったのは、前女王夫妻の不幸である。
幼いルセラン様と共に地方の視察と慰問に巡られていた際、自然災害に見舞われた。
事故により女王夫妻は死去。
ルセラン様はご夫妻が庇われた為、一命を取り留めていた。
その災害現場からまだ赤子であったルセラン様を救助したのが私の両親であるらしい。
私の両親は多額の報酬を得ると同時に、一つの申し出を行ったそうだ。
それが生まれたばかりの私を王城のメイドに、というものだった。
地方の田舎で過ごさせるのに不憫に思ったそうだ。
その申し出が受理されることになり、私は幼い頃からこの王城で生活している。
年期だけならベテランの方々にも負けていないだろう。
また同い年という事もあり、ルセラン様からとても気に入られていた。
それこそ、不敬ではあるが姉妹のようにも思っている。
もちろんその立場に甘えることなく研鑽も続けてきた。
私を迎え入れてくれたレオフォルディーネ殿下、ルセラン女王、他の従者の皆様、そして両親にも恥じない仕事を心掛けている。
ゆえに。
ルイス「失礼致します、ルセラン女王」
〇貴族の応接間
ルセラン「あら、おはようルイス」
今のこの状況はどうかと思うのだ・・・。
ルイス「・・・あの、ルセラン様?」
ルイス「一体何をなさっているのですか?」
ルセラン「何、って」
ルセラン「日の出を待ってるのよ」
ルセラン「ほら、もうすぐよ」
ルセラン様の視線の先では海が白み始めている。
確かに言葉通り、日が昇ろうとしていた。
ルイス「いえ、あの、そうではなくて」
ルセラン「ほら、来るわよ」
〇朝日
〇貴族の応接間
ルセラン「綺麗ね」
ルイス「そう、ですね」
ルセラン「私、グレイスの中で一番この時間が好きだわ」
ルセラン「夕焼けも好きだけど、やっぱりこっちね」
ルイス「・・・ルセラン女王」
ルセラン「ルイスは」
ルイス「ルセラン女王!!」
ルセラン「・・・」
ルセラン「・・・」
ルイス「今日はダメですからね」
ルセラン「・・・ダメ?」
ルイス「ダメです」
ルセラン「どうしても?」
ルイス「何があろうとも、です」
ルセラン「で、でももう着替えも済ませちゃってるし・・・」
ルイス「そもそもどうしてメイド服を持っていらっしゃるんですか・・・」
ルセラン「貴方の予備だけど・・・」
ルイス「本当に何故ですか!?」
ルセラン「他の従者に、ルイスは私の部屋にずっといるから念のため衣類も準備しておいて欲しい、って言ったら快くやってくれたわ」
ルイス「あぁ、もうっ!!」
ルイス「とにかく!!」
ルイス「今日は絶対に公務をしてもらいますからね!!」
〇貴族の応接間
ルイス「何故、こんな事に・・・」
ルセラン「やっぱり似合ってるわよ」
ルイス「似合っていてはダメなんですよ・・・」
私は結局ドレスを着せられている現状を嘆く。
しかし。
ルセラン「ごめんなさい、ルイス」
ルセラン「けど、今日は本当に必要なのよ」
ルイス「ルセラン様・・・」
ルセラン「正直に言いましょう」
ルセラン「現在、女王の立場はあまり良くありません」
ルセラン「先代女王の子供は一人だけ、つまりは現在の王家の直系はルセランだけです」
ルセラン「成長するまではレオフォルディーネ殿下が女王として振る舞って下さりましたが、既に王座は降りられています」
ルセラン「今の王座には姉妹も、まして子供もいない年若い女王のみ」
ルセラン「仮に、その女王が亡くなった場合・・・」
ルイス「ルセラン様!!」
ルイス「そのような不吉な事をおっしゃらないで下さい」
ルセラン「・・・ですが、事実です」
ルセラン「王位は王家の血筋の者か、あるいは外様か」
ルセラン「少なくとも直系の血筋は途絶える事になります」
ルセラン「そうなった方が都合の良い者も存在しているでしょうね」
ルセラン「・・・ゆえに、此度の城下町の視察では必要な事なのです」
ルセラン「貴方にはとても危険な事をを強いているのは理解しています」
ルセラン「・・・ですが」
ルイス「ルセラン様・・・」
ルイス「分かっております・・・」
ルイス「私も覚悟はできています」
ルイス「その役目、かならずやりとげてみせましょう」
ルセラン「ルイス・・・」
ルセラン「ありがとう」
ルイス「それで、今日は何処に向かうのでしょうか?」
ルセラン「今日は王家が運営している孤児院を回るわ」
ルイス「たしかレオフォルディーネ殿下が設立した施設ですよね」
ルセラン「えぇ、よく知ってるわね」
ルイス「・・・女王の公務に含まれていましたので」
ルセラン「・・・」
ルイス「・・・それに」
ルイス「あの施設がある場所は王城の近く、比較的治安が良い区画だったような?」
ルセラン「・・・」
ルイス「・・・そもそも少数ですが警備に兵も配置されていますし、関係者以外の立ち入りも出来なかったかと」
ルセラン「・・・」
ルイス「ルセラン様?」
ルセラン「・・・」
ルセラン「・・・さ、出発しますよ、ルセラン様」
ルイス「ルセラン様!?」
ルセラン「早くしないと時間に遅れてしまいますから」
ルイス「い、いや!? え!?」
ルイス「た、謀りましたね!?」
ルセラン「はて? 何の事でしょうか?」
ルセラン「あ、時間は本当ですよ」
ルイス「ルセラン様~!!」
〇児童養護施設
視界の先で彼女は子供達と遊んでいる。
施設の人間は青い顔をしていたが、彼女が良いと言った以上文句は言えなかった。
そんな彼女は時折私の方に咎めるような視線を向ける事を忘れない。
しかしにこやかに笑顔を返すと、一瞬だけ眉間に皺を寄せるもすぐに子供達の相手に戻った。
おそらく内心私に文句を言っているのだろう。
・・・本来は女王である貴方の仕事であるのに、と。
けれど、違う。
それは違うのだ。
ルセラン「・・・やはり、その姿は貴方の方が似合いますよ」
ルセラン「・・・ルセラン様」
そう、私なんかがその名を語って良い訳が無いのだ。
私のこの身は、罪深き罪人であるのだから。