月曜日1(脚本)
〇安アパートの台所
リュウイチ「ただいま・・・」
誰もいない部屋に俺の声がむなしく消える。
いつものコンビニバイトから帰宅し、家賃5万3千円の安アパートに帰って来た俺はそそくさと靴を脱いだ。
〇古いアパートの部屋
リュウイチ「疲れた。今日は疲れた」
俺はがくりと膝を折ってその場に座り込み、天井を見上げた。
昨日彼女と喧嘩をした。
原因はなんだったか定かではない。ただかなりヒートアップしてしまい、言わなくていい事まで言い合ってしまった。
リュウイチ「俺がいけないのかな・・・」
色々な事を思い返し、答えが出ないままぐるぐると思考が回る。
ガタンッ!
リュウイチ「え?」
リュウイチ「な、なんだ?」
俺は突然大きな物音が聞こえてきた押し入れへと視線を向ける。
押し入れの中には掛け布団と洋服をしまってあるだけなのであんな音が鳴るはずはない。
リュウイチ(ここは角部屋だから隣もいないし壁ドンでもないだろうしなぁ・・・)
俺は立ち上がり押し入れの前に立つ
ガタタッ!
リュウイチ「ひぃ!?」
リュウイチ「な、なんだよ。絶対なんかいるだろコレ・・・」
リュウイチ「くそっ! こっちは色々疲れてるってのになんなんだよ!」
ガラッ!
少女「んー」
リュウイチ「────」
すべての思考がストップし、声も出なかった。
──スッ
そして俺は無意識のうちに襖をそっと閉じて現実を遮断する
リュウイチ「ははは、色々あって精神的に疲れてるんだろうな」
リュウイチ「いやー、まさか幻覚を見るとはなぁー。こりゃ休まないとヤバいぞー」
ガタンバタン!
リュウイチ「・・・・・・」
俺は襖をゆっくりと開ける。
少女「えへへへ」
リュウイチ(寝ながら笑ってる。幸せそうに笑っていらっしゃっる・・・)
俺は崩れ落ちてその場で膝をつく
リュウイチ「うわああああああああ!」
リュウイチ「みっ、見知らぬ幼女さんがッ!幼女さんが押し入れに不法侵入してるううあああ!」
リュウイチ「ま、まま、待て!落ち着いて、リュウイチ。コレなに?どう言う状況ですか?」
頭を抱えながら俺の脳内では様々な煽り文句で報道される自分自身の姿が浮かんでは消える。
リュウイチ「いやいやいや、俺は何もやってない!」
リュウイチ「同い年の彼女もいるしそういう趣味はない!」
リュウイチ「でも──」
少女「ぐー」
リュウイチ「幼女さんめっちゃ寝てる・・・」
俺は夢なら覚めろと自分の頬をつねる
リュウイチ「痛い」
リュウイチ「あはっ」
リュウイチ「あははははは」
リュウイチ(もうダメだ。終わった・・・)
少女「んー」
少女「ふあ・・・」
少女「・・・・・・」
リュウイチ「あ、目が覚めたかい?あのね、お兄さんは怪しい人じゃないんだよ」
少女「・・・・・・」
リュウイチ「実はお兄さんはここに住んでるんだけど、君はどうやってここに入ったのかな?」
少女「・・・・・・」
リュウイチ「あ、もしかしてかくれんぼ?かくれんぼしててここに入っちゃったとか?」
リュウイチ「もう夜も遅いし早く帰らないとパパとママが心配──」
少女「パパ・・・」
リュウイチ「はぅ!?な、泣かないで!ほ、ほらお兄さんがちゃんとお家まで──」
少女「パパァ!」
リュウイチ「え?」
女の子が突然俺に飛びついてきた。
リュウイチ「ちょっ、え、なに?」
少女「パパだぁ!パパァ!」
リュウイチ「え、えええっ!?いやいや、違う!俺は君のパパじゃない!」
少女「パパだもん!ぜったいパパ!」
リュウイチ「違います!」
リュウイチ「お兄さんの顔をよく見なさい!」
少女「んー」
少女「やっぱりパパ!」
リュウイチ「なんでやねん!」
リュウイチ「俺には君みたいな子供はいない!そもそも結婚してないから!」
少女「んー」
少女「ママとリコン?」
リュウイチ「独身です!」
少女「んー、ムズカシイのわかんない」
リュウイチ(離婚はわかってなんで独身がわからないんだ・・・)
リュウイチ「ともかく俺は君のパパじゃないの!どこから来たの?お家まで送って行くか、警察に──」
少女「なんでパパなのにそんなこというの?」
少女「パパはワタシのことキライ?」
リュウイチ「いや、嫌いとか好きとかじゃなくて・・・」
少女「うぐぐぐぐぅ」
リュウイチ「あー、ダメ泣かないで!」
リュウイチ「好き好き大好きー!」
少女「ワタシもパパすきー」
なんだかとても犯罪チックな気持ちになるが、俺におかしな気持ちは全くない。
この状況をなんとかするにはこの子のご機嫌を伺うしかないないのだ。
リュウイチ(ここで大声で泣かれでもしたら近所の人に怪しまれて警察を呼ばれてしまうかもしれないしな)
リュウイチ(その後の事を想像するだけで恐ろしい・・・)
リュウイチ(今はなんとかこの子の事を聞き出して家に帰えさないと大変な事になるぞ)
リュウイチ「なんでここにいるかはもういいや。とりあえずお名前教えてもらえるかな?」
少女「おなまえ? おなまえはナリタ───」
少女「あれ?」
リュウイチ「どうしたの?」
少女「おなまえ──ワカンナイ」
リュウイチ「ええ?どうして!?」
少女「わかんない──おなまえ、でてこない」
少女「うぐぐぐぐぐぅ」
リュウイチ「あーあー!大丈夫、わかった。わかったから!」
少女「おなまえ、いつもいえるんだよ。エライねってみんないうの」
リュウイチ「そうなんだね。偉いねー」
少女「うん!」
リュウイチ(うーん、自分の名前は分からないか。じゃあ親の名前か)
リュウイチ「えっとじゃあ、パパとママのお名前教えてくれるかな?」
少女「なんで?パパも、おなまえワカンナイの?」
リュウイチ「ははは、そうなんだ。わからないんだー」
少女「パパのおなまえは、ナリタリュウイチだよ!」
リュウイチ「え?」
リュウイチ(俺と同姓同名?)
リュウイチ(ま、まあそんなに珍しい名前でもないしあり得なくはないか・・・)
リュウイチ「え、えーっと・・・じゃあママの名前は?」
少女「ママは、ナリタアヤ!」
リュウイチ「え・・・」
リュウイチ(アヤ? アヤって彼女の名前じゃないか)
リュウイチ(いやでも、アヤって名前だってよくある名前だし・・・)
リュウイチ「歳は?」
少女「4さいです!」
リュウイチ「あ、いや、君じゃなくて・・・パパとママの」
少女「んー」
少女「ワカンナイ!」
リュウイチ「まあ、そうか・・・4歳だもんな」
少女「4さいです!でももうすぐ5さいです!」
リュウイチ「あ、はははっ、それはよかったねー」
少女「でもパパとはひさしぶり!うれしい!」
リュウイチ「ん?パパはいつもお家にいないの?」
少女「うん、いまはとおくにいってるんだって。ママがいってた」
リュウイチ「そうなんだね」
リュウイチ(なるほど。お父さんは仕事でこの子とあんまり一緒にいられないのか)
リュウイチ(このくらいの年頃を見れないのはもったいないとは思うけど、子供の為に必死に働いてるんだろうな)
少女「パパ、ワタシがもうすぐ5さいになるからかえってきたんでしょ?」
少女「サプライズ!」
両手を上げて喜ぶ女の子。そんな彼女の姿に何故か胸が痛んだ。
リュウイチ(俺と同じ名前のお父さん、そんなに家にいないのかな)
リュウイチ(何を勘違いして俺を父親だと思っているかはわからないけど、相当お父さんに会いたかったんだろうな)
少女「ねえ、なにしてあそぶ?」
リュウイチ「え、いやー・・・」
少女「ワタシ、パパのすきなのでいいよ!」
リュウイチ「・・・・・・」
リュウイチ(ここで情に流されちゃダメだな。きっと親御さんがめちゃくちゃ心配してるはずだ)
リュウイチ「よし、じゃあパパとお散歩しよう」
少女「おさんぽ!いいよー!」
リュウイチ「よし、じゃあ行こうか」
少女「うん!」
女の子が俺に手を伸ばしてくる。俺はその手を握り、ゆっくりと立ち上がった
リュウイチ(このまま警察に連れて行こう。こんな小さい子だ。遠くから来た訳じゃないだろう)
リュウイチ(親御さんだってきっと心配して警察に相談してるはずだ)
少女「ねー、パパ。どこ行くのー?」
リュウイチ「そうだな。決めてないけど楽しいところかな」
少女「ワタシ、よるのおさんぽはじめて!おとなのせかい!」
女の子は鼻息を荒くして目をキラキラとさせている。
リュウイチ「よし、じゃあ行こうか」
少女「うん!」
〇古いアパート
俺は女の子を連れてアパートを出た。最寄りの警察署はそんなに遠くはない。10分もあれば着くはずだ
リュウイチ(短い間だけど、その間だけはパパを演じるしかないか)
少女「おおお、よる!」
リュウイチ「夜でそんなに興奮する?」
少女「ワタシ、よるはおウチですから!」
リュウイチ「はは、子供なんだからそりゃそうだ」
アヤ「リュウイチ?」
リュウイチ「あ、アヤッ!な、なんでここに!?」
アヤ「昨日の事直接謝ろうと思って・・・」
アヤ「でも、その子誰なの?」
リュウイチ「あ、いや、これには色々あって俺もよく分からないんだけど、決して犯罪とか隠し子とかそう言うのでは──」
少女「ママ!おかえりなさい!」
アヤ「え?」
アヤ「私が、ママ?」
少女「そうだよ、ワタシのママとパパでしょ!」
俺とアヤに向かって疑う事のない笑顔を浮かべる女の子。
俺の頭の中はさらに混乱していく。
リュウイチ(いきなりどーなってんだよ・・・!)
客観的に見たら…もしかしてそういうこと?っていう予想はつきますが、実際に自分の周りで起きたらしんじることなんでできず即警察に行きますね笑
見知らぬ女の子が家の押し入れに、、まさかのスタートで驚きながら見入ってしまいました。今後女の子の正体や、彼女にまつわる謎が明らかになっていくのが楽しみですね。
急に現れた女の子がこんなに自信満々にパパママ!っていうなんて、どこかの世界からワープして来たのでしょうか?続きが楽しみです!