〇理科室
白崎蓮「人って、どこまで追い詰めたら壊れるんだろうな」
白崎蓮「・・・いや、お前は意外と丈夫だと思ってさ」
白崎蓮「毎日こんなに殴られて、よく学校に来られるよな」
　　お前らがやってるんだろ・・・
白崎蓮「試してみようか。 どこまでやったら、お前が壊れるか」
白崎蓮「おっと、目立つ怪我はさせるなよ。 誰かに見つかって止められたらつまらない」
白崎蓮「・・・そろそろ授業か」
　　やっと終わった・・・
白崎蓮「あ、お前はここを片付けてから戻れよ。 鼻血も拭いとけ」
白崎蓮「わかってるだろうけど、お前が勝手に転んだんだからな」
白崎蓮「遅れるなよ」
宿利ユウ「どうして、僕が・・・」

〇学校の廊下
　　僕は学校でいじめられている。
　　高校に入学してすぐに、白崎のグループに目をつけられたのだ。
　　きっかけは些細なことだった。
　　僕が、白崎に歯向かったから。
　　あれから約半年。
　　僕は毎日殴られ、蹴られ、罵られている。
　　逆らっても勝てるわけがない。僕は非力だし、あちらは人数も多いのだから。
宿利ユウ「・・・はぁ」
　　人を壊すって、本気だろうか。
　　有り得ない話じゃない。
　　相手は、あの白崎なのだから・・・
　　教室に入りたくない。でも、遅くなったら、それを口実にまた殴られそうだ。

〇教室
先生「宿利（しゅくり）、遅いぞ」
宿利ユウ「す、すみません・・・」
　　僕はこそこそと席に戻って、授業とは関係のない本を開いた。
　　実は、学校のゴミ箱に捨ててあったこの本を、つい拾ってしまったのだ。
　　僕がこれを持っていたら、白崎も怯むんじゃないかと思ってた。
　　・・・さっきまでは。
宿利ユウ「え？」

〇魔法陣2
宿利ユウ「ここは・・・？」
　　『ユウ・シュクリの自殺意志を確認しました』
宿利ユウ「誰!?」
　　『ユウ・シュクリが生贄として承認されました。システムにより、自殺が実行されます』
宿利ユウ「!?」
宿利ユウ「待って！　僕はまだ──」

〇黒背景
　　・・・僕は、死んだのか？
　　あんな本を持っていたせいで？
　　僕は死にたかったわけじゃない。
　　ただ、救われたかっただけなんだ・・・
？？？「・・・て」
？？？「起きて、宿利くん！」

〇洞窟の深部
宿利ユウ「ハッ」
宿利ユウ「・・・二宮さん？」
二宮叶恵「よかった。宿利くんだけ意識を失ってたから、心配で・・・」
宿利ユウ「いったい何があったの？」
二宮叶恵「わからない。突然教室が光って、気が付いたらみんな知らない場所にいたの」
二宮叶恵「ごめんね。宿利くんは私を助けてくれたのに、私は何もできなくて・・・」
宿利ユウ「僕だって何もしてないよ」
二宮叶恵「ううん。あのとき・・・」

〇教室
白崎蓮「お前、本当に気持ち悪いよな」
馬田「う・・・」
白崎蓮「何だ、言い返さないのか？」
馬田「や、やめ・・・」
白崎蓮「聞こえないな。 お前ら、ちょっと遊んでやろうぜ」
馬田「ぐえっ」
白崎蓮「ハハッ。 気持ち悪い声だ」
宿利ユウ「・・・やめろよ」
白崎蓮「あ？」
宿利ユウ「大勢で暴力を振るうなんて、最低だ」
白崎蓮「・・・へぇ？」

〇洞窟の深部
二宮叶恵「宿利くんが言わなければ、きっと私が言ってた」
二宮叶恵「そうしたら、いじめられていたのは私だったと思う・・・」
宿利ユウ「さすがに白崎でも、女子に暴力なんて──」
　　いや、アイツならやりかねないか。
　　4月の僕たちはまだ、白崎の恐ろしさを知らなかった。
　　だからあんな無謀なことができたんだ。
二宮叶恵「あのときの宿利くん、かっこよかったよ」
宿利ユウ「その結果が、このザマだけどね」
クラスメイト「カナエ、そんな奴ほっときなよー！」
二宮叶恵「あ・・・、ごめんね。 私、戻らないと」
　　二宮さんは行ってしまった。
　　でも、起こしてくれただけでありがたい。
　　僕と話しているところを見つかったら、二宮さんまで目を付けられるかもしれないのに。
　　そういえば、白崎は・・・？
　　・・・いない。
　　ここにいるのは、僕を含めて10人くらいだ。先生もいない。
宿利ユウ「ここはどこなんだろう？」
宿利ユウ「ん？」
宿利ユウ「え・・・、マップ・・・？ この洞窟の!?」
　　やっぱりそうだ。
板東「おい、起きてんのかよ」
板東「ちょうどいい。 お前、ここから出て助けを呼んでこい」
宿利ユウ「え・・・？」
板東「電波が通じねぇんだよ」
板東「歩き回るには暗すぎる。 うっかりしてると道に迷うかもな」
板東「そこでお前の出番ってわけだ」
　　つまり、僕なら遭難してもかまわないと？
板東「さっさと行けよ、オラ！」
宿利ユウ「ぐっ──」

〇暗い洞窟
　　殴られたくないから、大人しく命令に従った。
　　痛みがあるのは、夢じゃないから。
　　僕は生きてる。
宿利ユウ「生きてる、よな・・・？」
宿利ユウ「――え？」
　　これは、ゲームのステータス画面？
　　待った。意味が分からない。
　　ここは現実の世界だろ？
　　それに、『種族：ゴースト』って何だ？
　　称号、『ゲーム廃人』はともかく、『生贄』って・・・
宿利ユウ「なんだ!?」
クラスメイト「ば、化け物が出た！」
クラスメイト「どっちに逃げればいいの!?」
クラスメイト「こっちだ！」
二宮叶恵「宿利くんも、早く！」
　　みんなパニックになってる。
　　何があったんだ？

〇洞窟の深部

〇暗い洞窟
宿利ユウ「うわあああ！」
クラスメイト「行き止まりよ！」
クラスメイト「いやぁ！　暗い！」
　　言うほど暗いだろうか？
　　スマホのライトをつけている人もいるのに。
　　──いや。
　　みんなにとっては暗いのだ。
　　僕の目が、暗闇でも見えている。
　　・・・ゴーストだから。
　　だとしたら、あの化け物も──
宿利ユウ「くっ」
クラスメイト「板東、何とかしてよ！ 喧嘩強いんでしょ!?」
板東「バ、バカ言え！ あんなの相手にできるわけが──」
板東「ああ、そうだ」
板東「俺たちには、生贄がいるじゃないか」
板東「オラ！　行ってこい！」
　　・・・こうなる気はしていた。
　　こいつらにとって、僕は何なのだろう。
　　殴ってもいいサンドバッグ？
　　壊してもいいおもちゃ？
　　――違う。
　　僕は人間だ。
　　こんな本なんかに惑わされるんじゃなかった。
　　僕は、死にたくなかったんだ！
？？？「グルルッ」
　　ステータス画面にあったはずだ。使い方のわからない、『スキル』という項目。
　　もし、もう一度生きられるなら、僕は──
宿利ユウ「この命を誰にも渡さない！」
宿利ユウ「はぁ、はぁ」
宿利ユウ「決まった。 スキル『反撃　Lv１』」
宿利ユウ「うっ」
　　攻撃を跳ね返したようだが、こちらも無傷ではない。
　　痛い。
　　殴られるより、ずっと──
　　『レベルが上がりました』
　　『レベルが上がりました』
　　『反撃のスキルレベルが上がりました』
宿利ユウ「えっ まさか、あれを倒したから!?」
　　本当だ。
　　ステータスが少しずつ上がってる。
　　でも、今のでHPが半分くらいまで減った。
クラスメイト「・・・今の、見た？」
クラスメイト「宿利が倒したの・・・？」
宿利ユウ「・・・」
宿利ユウ「――うん、そうだよ」
クラスメイト「ヒッ」
宿利ユウ「ねぇ、板東」
板東「ッ──」
宿利ユウ「『生贄』ってどういう意味？」
板東「ち、違うんだ！ 俺はみんなを助けようとして・・・」
板東「なぁ、そうだろ？」
板東「おい、誰か何とか言えよ!?」
板東「ヒィィィィ」
板東「ま、待て！ 許してくれっ」
宿利ユウ「・・・」
宿利ユウ「土下座して謝ったら──」
板東「ごごご、ごめんなさいいい！」
　　・・・早いな。
　　『考えてやる』って言いそびれた。
　　まぁ、許さないけど。
　　とはいえ、スキルは不発だった。
　　たぶん、攻撃を受けたタイミングでしか発動しないんだ。
宿利ユウ「はぁ」

〇洞窟の深部
　　ひとまず、出口を探そう。
　　皆がぞろぞろとついてくる。
　　マップ機能には誰も気づいていないらしい。
　　簡単に手の平を返す奴らめ。
　　それにしても、この『反撃』というスキル。
　　戦う覚悟を決めたら、自然と使い方がわかった。
　　もしかしたら僕は、最初から抗う力を持っていたのかもしれない。
　　ただ、心の奥底にしまい込んでいただけで。
　　このスキルがあれば、白崎にも勝てるだろうか？
　　いや、勝てるかじゃない。
　　勝つんだ。
　　僕の人生を取り戻すために。

〇謁見の間
市沢恭也「で、どうする、レン？ こいつらの望み通り、魔王を倒すのか？」
白崎蓮「ああ。そうするしかないだろう」
賢者「・・・あの、お怒りではないのですか？」
賢者「自殺願望のあった方とはいえ、我々はあなた方のお仲間を生贄にして召喚の儀を・・・」
白崎蓮「アイツの魂は転生してこちらに来てるんだろ？」
賢者「ええ、この世界のどこかには・・・」
白崎蓮「だったら問題ない」
市沢恭也「しかし、まさかアイツが自殺を考えたせいで、クラス全員が異世界に来てしまうとはな」
市沢恭也「教室で自殺の本なんか読みやがって──」
白崎蓮「フフ・・・」
白崎蓮「あの本、実は俺のなんだ。 わざとアイツの目に入る場所に捨てておいた」
市沢恭也「!?」
市沢恭也「ハッ。 お前、よくやるよ」
賢者「・・・」
白崎蓮「なあ、賢者さん。 急いで宿利ユウを探してくれよ」
白崎蓮「生贄のアイツがいないと、俺たちは元の世界に帰れないんだから」
賢者「・・・わかりました」
白崎蓮「ステータスですべてが決まる世界か──」
白崎蓮「宿利ユウ」
白崎蓮「『人権』という概念のないこの世界で、お前と再会するのが楽しみだよ」