第三話 廃村の殭者(脚本)
〇古いアパートの居間
泉から戻った白栴は、頭を抱えていた。
空聖「いっやぁー!しかし、この甘露水は美味ぇな!」
天玉「当たり前だ! 功徳様から託された泉の水! 不味い訳がないっ!」
白栴「ふ、二人共! あんまり飲まないで! このままじゃ、せっかく汲んだ甘露水がなくなっちゃう!」
空聖「いいじゃねーか! また汲みに行きゃいいんだし! ケチケチすんなよ!」
天玉「そうだ。 功徳様の頼みならば、いくらでも甘露水を提供しよう!」
白栴(な、何か普通に馴染んでいるけど・・・。 天玉さん・・・、家までついて来ちゃった・・・)
白栴「あ、あの・・・て・・・天玉さん?」
天玉「ん? 功徳様、どうされた?」
白栴「あ、あの・・・その・・・私、天玉さんの知り合いの功徳様じゃなくて・・・一応、白栴って名前なんですが・・・」
白栴のその言葉に天玉は悲しい表情を浮かべる。
天玉「・・・空聖・・・。 功徳様は・・・記憶がないのか?」
空聖「ああ! 何か、なさそうだな! でも、姿形が違っても・・・痣が証明してるしな?」
天玉「・・・他の二人と逢えば・・・記憶は戻るのだろうか?」
空聖「・・・あぁ・・・アイツらね・・・。 天玉、アイツらの居場所知ってんのか?」
白栴(いやいやいや! 何かよく分からない話してるけど・・・)
そこへ白栴の爺様が夕食を抱えて部屋に入ってきた。
白栴の爺様「話に花が咲いているようじゃが、そろそろ夕食時じゃ! 白栴、手伝っておくれ!」
白栴「あ、はーい!」
そう言って、白栴は爺様が運びきれなかったお膳を取りにその場を一旦離れる。
白栴の爺様「いやはや、天玉殿。 今日は、ゆるりと泊まっていくが良い」
天玉「ああ。すまない」
空聖「爺さん? 部屋、余ってんだろ? 良ければ、天玉もしばらくこの家に住まわせてくれよ」
白栴の爺様「ほっほっほっ。 白栴が連れて来た”友人”じゃからな。 良いじゃろ。良いじゃろ」
そこへ勢いよく襖を開けて白栴が戻って来た。
白栴「何、言ってんの!? 空聖さんっ!! 爺様の優しさに付け込まないでっ!」
天玉「空聖・・・。功徳様にとって・・・俺は邪魔なのか?」
白栴「・・・あ・・・いや・・・邪魔ではないですけど・・・! 何で当たり前のように家で和んでいるんだろうと・・・」
空聖「白栴。 カタい事、言うなよ。 用心棒が一人増えたって事で! 気楽に行こうぜっ!」
白栴の爺様「ほっほっほ。 儂は構わんぞ。白栴。 賑やかな方が活気があって良いわい!」
白栴の爺様「ところで、早速で悪いんじゃが・・・空聖殿と天玉殿にお願い事があっての」
空聖「ん? なんだ?なんだ?」
白栴の爺様「麓の村人からの依頼なんじゃが・・・。 なんでも・・・隣り村の廃村に夜な夜な殭者が現れては行き交う人々を襲っておるらしい」
白栴「殭者(きょうじゃ)って、墓から蘇っては人を襲うって言う・・・キョンシー?」
白栴の爺様「ああ。そうじゃ。 どうにかならんかのぅ?」
空聖「ああ、いいぜ! な?天玉!」
天玉「・・・ああ。 明日、向かってみよう」
〇ボロボロの吊り橋
次の日、白栴は空聖と天玉と共に廃村の隣り村を目指していた。
白栴「・・・うぅ・・・。 いくら隣り村に行く道がここしかないって言っても・・・! ・・・うぅ・・・」
空聖「おいおい! こんな吊り橋くらい、ちょちょいっと渡っちまえよ!」
天玉「無理を言うな。空聖。 こんなボロい橋、普通の人間なら怖がって当たり前だ」
白栴「お、お願い!二人共! 静かにっ!揺らさないで〜!!」
白栴は、なるべく下を見ないように早足で吊り橋を進む。
白栴が、吊り橋の中程に来た時・・・
空聖「白栴!!伏せろっ!」
白栴「へっ!?」
空聖の掛け声と同時に吊り橋の前方から不気味な風が吹き、何かが弾けた。
〇薄暗い谷底
次の瞬間!
ブツリと橋が崩れ、白栴は谷底に放り出された!
白栴「うわあぁぁぁ!!!!!」
痛みの衝撃に覚悟した白栴は、目を瞑る。
だが、衝撃はなく、
代わりに空聖の声が響いた。
空聖「・・・色気のねぇ叫び声だな? おい! もう、目ぇ開けても大丈夫だぜ?」
白栴「へ?」
天玉「功徳様! 無事か?」
白栴が目を開けると、横には空聖がいて・・・。
空聖に抱えられている事に気付く白栴。
白栴「あっ、ありがとう!」
空聖「気にすんな! っと、それより──」
空聖「オマエの痣は・・・良くも悪くも”封印”を解いちまうみてーだな?」
白栴「へ?」
天玉「ああ。さっきの禍々しい気配・・・。 ・・・廃村にいる殭者は・・・もしやすると──」
空聖「”ヤツ”かもな?」
すると突然、地響きのような音がしたかと思うと・・・竜巻のような風が白栴達を谷の奥へ誘う。
〇古びた神社
風に誘われるまま谷底を進むと、そこに古い社が忽然と現れた。
白栴「えっと・・・こんな所にこんな社あったっけ?」
空聖「くんくん・・・」
天玉「空聖・・・この気配・・・」
空聖「ああ。 アイツらの気配がするぜ・・・!」
空聖「なぁ?白栴! ちょいとその腕、借りるぜ?」
白栴「へ?」
空聖は、徐に白栴の痣のある方の腕を掴み、社の扉にその腕で触れると──
社の扉に絡んでいた木の根が弾け、扉が開く。
空聖「おっ! やっぱり、開いたな!」
天玉「さすが!功徳様!」
白栴「え?えええっと?」
白栴が驚くのを後目に、空聖と天玉は社の奥に進み・・・。
中心にある二つの柩の前で止まる。
白栴「えっ!? ちょちょっと? 何その柩!? こわっ!怖いんだけど!?」
空聖「白栴!! ちょいとこの柩に触れてみ?」
白栴「へ? な、なななな何で? 出来れば──触りたくないかな!」
空聖「いいから♪いいから♪ ホラ、よっと!」
空聖は、白栴の肩をとんっと叩くと・・・その勢いで白栴は二つの怪しい柩に手をついてしまった。
すると──
柩についていたお札が弾け、バンっと勢いよく柩が開いたかと思えば・・・!
蓬戒「・・・っ! なんて、愛らしいっ! 僕を目覚めさせてくれたのは・・・君かい!?」
白栴「ひゃあっ! えっ、えーとっ!?」
柩の片方から、軽そうな男が飛び出てきて白栴に迫る。
そして、もう片方の柩からは厳格そうな男が出て来た。
簾浄「・・・蓬戒(ほうかい)、やめろ。 困っているだろ?」
白栴「ひょえっ!!」