バロンと男爵(5)(脚本)
〇ファンタジーの学園
運命の日。
〇城の会議室
義孝「・・・」
桜子「・・・」
義孝「お前の女学校にも検閲に入らねばならんな」
桜子「・・・?」
義孝「何だそのスカートの丈は」
義孝「校長の指示か?理事長の方針か?」
桜子「私の意思です。この方が動きやすいので」
義孝「お前がしつらえたのか?」
義孝「・・・」
義孝「着替えなさい」
桜子「ごちそう様でした」
義孝「そのスカートを捨てろと言っている!」
桜子「分かりました。ここで脱ぎます」
義孝「馬鹿者!」
義孝「下らん思想に染まるくらいなら、学校など行かんでいい」
桜子「私は来栖川令嬢として恥ずかしくない教養を身につけるべく」
義孝「教養?」
義孝「柔肌の晶子など教養とは言わん!」
桜子「・・・!」
桜子「部屋に入ったのですか?」
義孝「娘の部屋に親が入って何を驚く」
桜子「汚らわしい・・・」
義孝「・・・なんと言った?」
桜子「汚らわしい憲兵!」
義孝「桜子!」
桜子「子は親の所有物ではありません!女は男の所有物ではありません!」
桜子「人は国家の所有物ではありません!」
義孝「お前・・・」
義孝「何を言っておるのだ?」
桜子「お母様はあなたの・・・」
義孝「もういい」
桜子「お父様がお母様を・・・!」
義孝「黙れ!」
義孝「・・・」
桜子「何を驚かれているんです?」
桜子「今まで色んな人にやってきた事でしょう?」
桜子「大して痛くありませんでしたわ」
義孝「・・・」
義孝「俺を嘲笑っているのか?」
義孝「それとも・・・呪っているのか?」
〇宮殿の門
「閣下、どうかお考え直し頂けませんか?」
「くどい」
〇上官の部屋
最上「閣下自ら視察なさらずとも良いではありませんか」
最上「民間のお祭り程度憲兵隊を出すまでもありません。巡邏の警官で十分です」
天粕「民間の催し、だからこそ締める必要があるのだ。公序良俗、を害するおそれのあるものは早い段階で芽を摘まねばならん」
義孝「そうだ。日比谷の焼き討ちをわすれたか?一度溢れた波は止めることができんのだ」
大泉「もっとも、最上少尉の意見も一理あります」
帝国陸軍憲兵隊副司令、大泉吾一准将
大泉「狂騒状態を作り出す芸能活動は破壊衝動の温床となりかねません。もし司令に万が一あらば」
義孝「この俺が乱痴気騒ぎを恐れると言うか」
大泉「そ、そういう意味では・・・」
天粕「軍部での陰口など言わせておけば宜しいのです」
天粕「我々はただ司令の身を案じて」
義孝「案じるのは国家だけでよい。上が率先して動かねば下はついて来ぬ。そういうものだ」
天粕「はっ」
最上「ではせめて警備の者を」
義孝「俺を守らせるなど本末転倒ではないか!」
義孝「たかが民間の祭りであろう。せいぜい楽しませてもらう事とする」
大泉「さ、さすがは武士(もののふ)」
大泉「自ら先陣に立つは将の鑑です!」
「司令、お車の準備が出来ました」
義孝「では出動する」
大泉「留守はお任せを」
最上「門までお送りします」
義孝「暇か」
大泉「行ってしまわれたな」
天粕「これが司令殿の生き様かと」
大泉「うむ・・・」
大泉「本望であろう」
〇荒れた小屋
バロン「やっぱり脱ぐ」
デンキ「ちょっと待ったあ!」
デンキ「僕が一生懸命作った衣装、気に入らない?」
バロン「軍服なんて体が痒くなるんだよ」
バロン「気色悪い・・・」
トラ「仮面の軍人さんが舞台でバイオリンを弾く」
トラ「皮肉が効いてていいじゃねーか」
ヒナ「なんか、バロンっぽくない気もするけど」
トラ「座長の演奏は、人の心に火をつける凄さがあるんだ」
トラ「ブルジョワ連中に目にものみせてやれ!」
バロン「まあ、仮面はつけるからいいか」
ヒナ「ほい。念のためにいつもの衣装も入れといたぜ」
バロン「じゃあ行ってくらあ」
ヒナ「行ってらっしゃい。父ちゃん」
バロン「おう」
ヒナ「え?」
ヒナ「へへへ・・・」
〇中世の街並み
『デ~モクラシイ♪デモクラシイ♪』
『貴方も私もデモクラシイ♪』
『デ~モクラシイ♪デモクラシイ♪』
『男も女もデモクラシイ♪』
『デ~モクラシイ♪デモクラシイ♪』
『大人も子供もデモクラシイ♪』
義孝「・・・」
〇王宮の入口
浅草、大芸能博覧会
呼び込み「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
呼び込み「はるか南方より捕獲した、世にも恐ろしい二つ頭のヘビ女だよ~」
呼び込み「この博覧会を逃したら一生お目にかかれないよ~!」
ニャンギマリ「にゃあああん!」
人造ドラゴン「がおおおおん!」
測天學「イチタスイチハニ二タスニハヨンヨンタスヨンハハチハチタスハチハ・・・」
時代を越えるチャラ子「ねえ~アイスクリン買ってよ~」
時代を越えるチャラ男「僕のデカダンスな詩を聴いてくれたらね」
時代を越えるチャラ子「いや~ん。超デカダンス~」
一言居士学生「つまりそれは軍部が弱腰だから政治が迷走し腐敗するという短絡的思考にほかならず最早暴論の域に達すると言っても過言ではない」
一言居士学生「暴論結構。力の時代に回帰する事こそが、永久に続く倦怠を打破する突破口だ。僕は必ず将校となり肥え太った老害共を・・・」
呼び込み「ヘイガ~イズ!呼ビ込ミデース!」
呼び込み「登録オネガイシマ~ス!違ウカ~HAHAHA!」
呼び込み「歌謡、舞踏、アンドバイオリン。会場コチラデース」
義孝「外人を装えば目をつけられないと思ったか」
義孝「ふざけた日本語を使うな。事情聴取するぞ」
呼び込み「すいません。本当すいません」
呼び込み「でも出し物は一見の価値がありますよ」
呼び込み「なんてったって貧民窟の星、仮面のバロンが出るんでさ」
義孝「バロン?男爵だと?」
義孝「なんだそれは?」
呼び込み「そいつは見ての、いや聴いてのお楽しみってことで」
義孝「クッ・・・ふざけた祭りだ。気分が悪い」
〇劇場の舞台
「失敬」
義孝「失敬」
義孝「失敬」
義孝「失敬」
義孝「・・・」
カンイチ「ええい!」
カンイチ「今月今夜のこの月を。来年の今月今夜のこの月を。再来年の今月今夜のこの月を」
カンイチ「僕の涙で曇らせてみせる!」
オミヤ「よよよ・・・」
義孝「フッ。金色夜叉か。よい出し物をやっておるではないか」
『泣いていたって始まりませ~ん!』
オドリコ!「さあみんなで歌って踊って、嫌なこと全部忘れましょー!」
カンイチ「オッケー!」
オミヤ「カモーン!」
義孝「・・・」
義孝(後から全員公然猥褻で捕縛してやる・・・)
〇ライブハウスの控室
バロン「う~む」
バロン「やっぱこっちの方が決まるな」
バロン「なんでえ。こりゃヒナのバイオリンじゃねえか」
バロン「やれやれ・・・」
「バロンさん。出番でーす」
バロン「あいよ!」
〇劇場の舞台
「さて皆さまお待ちかね!続いては蓬莱街の英雄!炎のバイオリニスト!」
義孝「英雄?」
「バロン吉宗!」
バロン「フランツ・シューベルト『魔王』」
義孝「魔王・・・」
Siehst, Vater, du den Erlkönignicht?
Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?
〇廃倉庫
ヒナ「いてっ!」
ヒナ「足ひねった~」
Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?
Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?
ヒナ「・・・え?」
ヒナ「風の音か・・・」
〇おしゃれな廊下
Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?
桜子「え?」
Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?
学友ちゃん「お姫さま、どうなさったんです?」
桜子「・・・ただの空耳ですわ」
〇劇場の舞台
Erlenkönig
義孝「黙れ」
Erlenkönig
義孝「だ、黙れ・・・」
Erlenkönig
義孝「黙れええええーッ!」
バロン「!?」
バロン「何だ・・・この煙は?」
〇劇場の舞台
観覧客「様子がおかしいぞ?」
観覧客「演出の煙でしょう?」
観覧客「舞台の下から昇ってる!火事よ!」
観覧客「おい逃げろ!火事だーッ!」
観覧客「ひいいいっ!」
〇劇場の舞台
バロン「逃げろ!みんな早く逃げろ!」
義孝「今度は何の悪ふざけだ?」
バロン「!?」
義孝「何が自由だ」
バロン「・・・」
義孝「何が新たなる時代だ」
義孝「何もかも・・・何もかもふざけおって」
義孝「こんな世界など、こんな時代など、俺は認めん!」
義孝「断じて認めん!」
バロン「・・・確かにそうかもな」
義孝「騒乱罪で捕縛する」
義孝「そのふざけた衣装を脱げ!道化!」
バロン「全く、何もかもふざけてらあ」
バロン「だから面白れえ」
義孝「こ、これは一体?」
義孝「何の奇術だ・・・貴様あ!」
義孝「な、何?」
バロン「ど、どけっ!」
義孝「・・・!」
〇黒
「バロン・・・」
「バロン」
「バロン!」
「バロン!」
〇結婚式場の前
警官「待て!ここから先は入っちゃいかん!」
ヒナ「うるせえ!どけ!」
最上「憲兵隊、最上少尉である!通る!」
警官「はっ!どうぞ!」
ヒナ「どけっつってるだろ!」
トラ「落ち着けヒナ!」
ヒナ「放せよ!放せ!」
ヒナ「放せええええっ!」
お蝶親分「ヒナ!」
ヒナ「うあああああああっ!」
お蝶親分「落ち着け!落ち着くんだ!」
お蝶親分「気をしっかり持つんだ!まだ何も分かっちゃいないだろ!」
ヒナ「バロンが・・・バロンが!」
「間違いない!来栖川司令だ!」
「すぐに陸軍病院へ移送しろ!」
ヒナ「バカヤロウ!バロンを助けろーッ!」
ヒナ「出てこいよ!どこで寝てんだよ!」
ヒナ「何やってんだよ!帰るぞバロン!」
ヒナ「うう・・・ううう・・・」
お蝶親分「・・・」
ヒナ「父ちゃん・・・父ちゃん・・・」
鹿沼「親分!見つかりやした!」
ヒナ「・・・え?」
鹿沼「近くの雑木林の中に倒れていました」
デンキ「僕が作った軍服着てたよ!」
デンキ「焦げてボロボロになってるけど間違いない」
お蝶親分「すぐに医者に運ぶんだ!」
ヒナ「バロン・・・」
お蝶親分「この私がついてんだ。河原もんだからって断らせたりはしないよ!」
お蝶親分「大丈夫だ・・・」
お蝶親分「さあ戻るよ。私達の街へ・・・」
〇炎
Erlenkönig
Erlenkönig
Erlenkönig
義孝「黙れ・・・」
『魔王』
『魔王』
『魔王』
バロンと男爵(終)
こうやって二人は入れ替わったのですね。
世界観もキャラもしっかり作ってあって毎回見応えがあり面白いです。