『強くてニューゲーム』な恋(脚本)
〇中庭
キタザワアイ「は~い腕を前から出しておおきく背伸びの運動~」
キタザワアイ「痛みのある人は無理しないでいいっすよ~」
キタザワアイ「自己責任っすよ~自己責任~」
キタザワアイ「腕も足も健康寿命も、がんばって伸ばしやしょ~」
ソノダサキエ「あら?」
ソノダサキエ「ツヅキ君?」
ソノダサキエ「ツヅキイチロウ君じゃない?」
ツヅキイチロウ「どこかでお会いしましたっけ?」
ソノダサキエ「サキエ。小中高と一緒だったソノダサキエ」
ツヅキイチロウ「サキエちゃん?」
ツヅキイチロウ「サキエちゃんか。久しぶりだな~。小学校以来か?」
ソノダサキエ「もう。同窓会で何度も会ってるじゃない。最後に会ったのはいつだったかしら?」
キタザワアイ「ほ~い。次足伸ばしや~す」
ソノダサキエ「そう。あなたも今は一人なの」
ツヅキイチロウ「ああ。久しぶりだね。小学校以来か?」
ソノダサキエ「私、手を動かす為にここに来てるの」
ツヅキイチロウ「あれ?どこだここは?」
ソノダサキエ「手は脳と一番強く繋がってるの。だから手を動かすのが一番いいのよ」
キタザワアイ「はいはいお二人さん。体操しやしょう」
ソノダサキエ「何よ。久しぶりに会った友達なのよ。体操どころじゃないのよ今」
キタザワアイ「へいへい。わっかりやした~」
パイセン「ちょっとキタザワさん。利用者様に対してその口の利き方は何?注意なさい」
キタザワアイ「う~い」
ソノダサキエ「分かればいいの。あなたさんお幾つ?」
キタザワアイ「ハタチっす」
ソノダサキエ「まあお若い。ピチピチじゃない」
キタザワアイ「ソノダさんほどじゃないっすよ」
ソノダサキエ「いい人いるの?ねえ?」
キタザワアイ「いえいえ。私めなんぞ・・・」
ソノダサキエ「ダメよ若いんだから。女は幾つになっても恋をしないと」
キタザワアイ「そうっすか」
キタザワアイ「そうっすね~」
ソノダサキエ「ツヅキ君ね。昔はとても恰好よかったの。今も面影あるわ」
キタザワアイ「そうっすか~」
キタザワアイ「そうっすね~」
〇結婚式場のテラス
キタザワアイ「ほーい」
キタザワアイ「そろそろお昼ご飯っすよ~」
ソノダサキエ「あら?」
ソノダサキエ「ツヅキ君?」
ツヅキイチロウ「はい?」
ソノダサキエ「ツヅキイチロウ君じゃない?」
ツヅキイチロウ「どこかでお会いしましたっけ?」
ソノダサキエ「サキエ。小中高と一緒だったソノダサキエ」
ツヅキイチロウ「サキエちゃんか。久しぶりだな」
キタザワアイ「まあその、何だ」
キタザワアイ「いつも新鮮な気持ちでいられるのは、いいことなのかもね~」
パイセン「ちょっと、知った風な口をきくのはやめなさい!」
パイセン「少しは気の毒とは思わないの?」
キタザワアイ「さ、サーセン・・・」
パイセン「あなた、この仕事向いてないんじゃないかしら?」
キタザワアイ「かも知れないっすね~」
パイセン「・・・フン。さっさと食堂まで誘導してちょうだい」
キタザワアイ「・・・気の毒か」
ツヅキイチロウ「久しぶりに会えて嬉しいよ。小学校以来かな?」
ソノダサキエ「私も嬉しいわ。これから楽しくなりそうね」
キタザワアイ「全然そう見えないんだけどな~」
〇木の上
「向いてねーのかな。この仕事・・・」
「ちょっとあなたさん。お茶頂ける?」
「ダメ~。もうすぐ昼ごは~ん」
「固いこと言わないの。あなたおいくつ?」
「ハタチっす」
「たくさん恋しなさい。女は幾つになっても恋をしないと」
認知症が入っていても、毎回新鮮に恋愛出来るのっていいですよね。
「気の毒だと思わないの?」の言葉に違和感を覚えた彼女は正しい気がします。
99歳で亡くなった祖母は何十年間と半分痴呆が入っていたので、たまに正気な時に夫や婿達が他界したことを自覚する度泣き出していたので、私は気の毒でいっそのこと完全に痴呆が入ったほうがいいのにと思っていたほどです。そういうお年寄り相手に仕事をされる方には頭が上がりませんが、当の本人達は穏やかに暮らせているのでしょうね。
確かにボケても毎回新鮮な気持ちになれるのはある意味幸せなのかもしれません。ポジティブに言えばですが…。
人間何が良くて悪いかなんて、本人たちしかわかりませんからね。