1カンデラ × =

きせき

エピソード1(脚本)

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きせき

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〇シックな玄関
  信じられないことだが、父が亡くなった。
  私の名前は黒野すみれ。
  21歳。大学生。母は既に故人で、家族は父だけだった。
黒野すみれ「これからどうしたら良いんだろう・・・・・・」
  確かに父が死んだ感覚はなく、
  病院の霊安室や葬儀の会場でも
  泣くようなことはなかった。
  でも、叔父さんに家まで送ってもらい、
  1人しかいない家を入ると、嫌でも実感してしまった。
  ああ、もう父はいないのだと・・・・・・。
  ああ、このサンダル、
  あの時、買ってもらったヤツだな。
  とか
  この靴、ベルトがダメになってるじゃん。
  よく履いてたけど、お気に入りだったのかな。
  とか・・・・・・思えば思うほど、涙が溢れてくる。
黒野すみれ「せめて、あと1日、帰ってくるのが遅かったら・・・・・・」
  父の死因は事故で、本当だったら、
  もう1日、旅先にいた筈だった。
  ただ、仕事が早く終わったとかで、
  1日早く帰り、その道中で事故に遭ったのだ。
黒野すみれ「・・・・・・」
  泣けたのが良かったのか、
  次第に気持ちも落ち着いてきた。
  疲れた・・・・・・
  とりあえず、今日はもう着替えて寝よう。
  と、思った時だった。
  ピンポン、ピンポーン
黒野すみれ「・・・・・・」
  正直、ちょっと空気の読めない
  タイミングのインターホンだった。
  でも、叔父さんかも知れないしな。
  車で送ってきてもらった時も
  暫くうちに来ないかと言ってくれたが、
  気を遣かわれても、気を遣えそうになかったので断った。
黒野すみれ「(でも、忘れもの、届けてくれたとかかも知れないし)」
  私はティッシュで涙を拭うと、
  ファンデーションを馴染ませた。
  ドアを開け、インターホンに応える。
黒野すみれ「はい」
  すると、そこにいたのは、
  叔父さんではなく、若い男が立っていた
黒野すみれ「え・・・・・・」
  私と同じくらいの年くらいのようだが、
  見覚えのない男だ。
  何が楽しいのか、
  人好きそうな笑顔まで浮かべて、彼は話し出した。
明石春刻「こんにちは。いや、もう18時近いからこんばんはかな? 何にしても、久し振り!」
黒野すみれ「・・・・・・」
  久し振り・・・・・・
  私の認識が正しければ、
  それは長らく会っていない知り合い同士が交わす言葉だ。
  でも、先程、私が感じたように、
  私は彼に見覚えはないし、知らない男だ。
  初対面。かつ、明らかに頭のおかしな男だ。
明石春刻「どうしたの? 頭がおかしいヤツを見るような目をして」
黒野すみれ「・・・・・・」
  私は疲れているのだと思った。
  思えば、母が亡くなった時は
  まだ私は2歳くらいだったらしいし、父もいた。
  初めて本格的に味わう身内の死。
  叔父さん達はいるが、誰にも守ってもらえない状況。
  私は自分を守る為、
  男を無視して、ドアを閉めようとした。
明石春刻「ああ、待って! 待って! 実は、僕は命を狙われていて、君に助けて欲しいんだ」
  そこから、彼・・・・・・
  明石春刻が語ったのは
  父の死以上に信じられないことだった。

〇黒
「じゃあ、まずは自己紹介」
明石春刻「僕は明石春刻(あかしはるとき)。明石家の三男。一応、現・明石家の当主です」
黒野すみれ「あかしけ?」
  あかしけ・・・・・・ではなく、
  あやしげの間違いでは?と
  私は思った。
  あとは、やはり明石春刻なんて人物は知らない。
  とも
明石春刻「まぁ、僕の名前を君が知らないのは仕方ないと思う。というか、僕も君の名前は知らないしね」
黒野すみれ「え?」
明石春刻「昔、会ったことはあるんだけど、お互いに名乗る暇もなかったからね」
  春刻はそんな風に言うと、
  自身の母のことを語り出した。
明石春刻「明石刻世(ときよ)。僕の母で、僕の前に明石家の当主だったんだけど、何年か前に亡くなってね」
明石春刻「それで、先日、彼女の遺書が開封されたんだけど、それが今回の事件の始まりだった」
黒野すみれ「事件?」
明石春刻「そう。僕は明石家の三男なんだけど、遺書には次期当主には僕がなり、一子相伝の秘術も継ぐように書かれてあったんだ」
  一子相伝の秘術。
  それは明石家が代々してきたという生業に
  関係があるらしい。
明石春刻「元を辿れば、明石家は和蝋燭を作る職人の家系だったんだけど、」

〇黒
明石春刻「ある時、偶然、タイムマシン機能を持つ蝋燭を作り出すことができたんだ」

〇シックなリビング
黒野すみれ「はぁ?」
  玄関で話し続けるのも・・・・・・と思い、
  私は春刻をリビングへ連れて、
  話を聞いていたのだが、
  その話はまるで荒唐無稽なものだった。
黒野すみれ「(警察に連絡した方が良い? それか、何とかここから逃げるか?)」
明石春刻「なに、警察に連絡した方が良いか、ここから逃げた方が良いかって悩んでるの? って、まぁ、その反応が正しいよね」
明石春刻「僕も最初、母・・・・・・先代から聞いた時はそうだった。でも、残念ながら作り話じゃない」
  終始、笑みを崩さなかった春刻の顔が一瞬だけ
  崩れる。
  いや、笑顔は笑顔なのだが、
  悲しいような、どこか諦めたような笑顔だった。
明石春刻「ねぇ、お父さんが最後にこの家にいたのっていつ?」
  突然の春刻の問いかけに、私は戸惑ったけど、
  5日前かな? と答える。
明石春刻「5日前ね。じゃあ、悪いんだけど、5日前にこの家にあったものを何か貸してくれない?」
  何か・・・・・・私は一瞬、考えると、
  あるものを持って、春刻の待つリビングへ戻ってきた。
黒野すみれ「これでも良い?」

〇カラフルな宇宙空間

〇シックなリビング
明石春刻「これは?」
黒野すみれ「ああ、父が買ってきたよく分からないお土産。よく出張に行く人だったから。ダメなら他のもの、探してくるけど・・・・・・」
明石春刻「いや、本当に何でも良いんだ。まぁ、どこかに備えつけてあるとか、大きすぎるものは向かないんだけど・・・・・・」
  春刻は私の手から謎のお土産を受け取ると、
  色んなものを取り出す。
明石春刻「5日前の8時くらいにお父さんは家にいた?」
黒野すみれ「うん、家を出たのは9時前だったと思う」
明石春刻「了解。じゃあ、20XX年◯月◯日8時」
  春刻はノートの紙面を破ると、口にした日付を書いた。
  20XX年◯月◯日8時。
  それはまだ父が生きていた時間。
  それから、春刻は蝋燭にマッチで火をつけ、
  魔法陣の中心にすみれの父のよく分からないお土産を
  置く。
  そして、最後に
  春刻は日付を書いた紙面を蝋燭の火へ近づけた。
明石春刻「行ってらっしゃい」

〇魔法陣2

〇魔法陣2

〇女性の部屋
黒野すみれ「・・・・・・」
黒野すみれ「あれ?」
  私が目を開けると、そこは見慣れた場所だった。
  見慣れた自分の部屋。
  いつも着ている服。
  爽やかな青い朝の空。
黒野すみれ「どういうこと?」
  自分がさっきまでいたのはリビングだった筈で、
  着ていたのはスーツで、
  時間は正確には分からないが、夕方だった筈だ。
黒野すみれ「(そうだ、リビング・・・・・・)」

〇一階の廊下
  リビングにはあの頭と話が
  少しおかしい男もいる筈だった。

〇黒
  バーン

〇シックなリビング
黒野草輔「ん?」
黒野すみれ「と、父さん・・・・・・?」
  ドアを開けて、リビングへ。
  私がリビングへ入ると、そこにいたのは
  頭と話が少しおかしい男・春刻ではなく
  先日、亡くなった父の
  黒野草輔(くろのそうすけ)だった。
黒野草輔「どうしたの? 今日は先、出るからって言ってたのに」
  読んでいた新聞をバサバサと音をたててたたみ、
  一口だけ残していた珈琲を飲み切る。
  私が物心ついた頃から
  父が死んでしまう何日か前まで
  よく見ていた父の仕草だった。

〇黒

〇シックな玄関
黒野草輔「さて、もう行くわ。出かけるなら、鍵かけて。あと、あんまり遅くまで遊んでいるなよ」
  いつまで経っても子ども扱い。
  それはあと1年経っても、5年経っても
  もしかしたら、いつまでも続いていたかも知れない。

〇黒
黒野すみれ「父さ・・・・・・」

〇魔法陣2

〇魔法陣2

〇シックなリビング
明石春刻「おかえりなさい」
黒野すみれ「え・・・・・・あ!!」
  目の前にはもうすみれの父の姿はなく、
  春刻がいた。
黒野すみれ「私・・・・・・過去へ行ってたの? それども、夢・・・・・・とか?」
  夢・・・・・・というには
  新聞のバサバサとした音。珈琲の香り。
  記憶でいくら覚えているとは言え、リアルな感覚だった。

〇黒
明石春刻「そう。人にも記憶があるように、ものにも記憶がある」
明石春刻「曖昧な人の記憶なんかより確かな記憶がね」
明石春刻「だから、過去の日付を書いて、その日付を明石家の蝋燭で燃やして、」
明石春刻「例の秘術を行えば、人はより正確な過去に戻ることができる」

〇黒
「だから」

〇黒
明石春刻「お願い。過去へ行って、僕を助けて欲しい」

次のエピソード:エピソード2-無色の刻-

コメント

  • とても不思議で、細やかに練り込まれた設定に、すっかり読み入ってしまいました。すみれと春刻の関係性も気になります。次話が楽しみです。

  • とても不思議な世界観にひきこまれました。こんな魔法?がつかえるのなら、なくなった人にまた会うことができますね。彼を助けることでなにか未来かわるのか、など今後の展開に期待がわきます。

  • 過去や未来にムーヴするストーリーは、スピリチュアルな要素からが多いような気がしますが、物の記憶を軸に人が動かされるという描写がとても興味をそそりました。

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