Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

バロンと男爵 (2)(脚本)

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山本律磨

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〇宮殿の門
  一年前
  陸軍省
「最上少尉。入ります」
「声が小さい!」
「も、最上一真少尉入ります!!!」

〇上官の部屋
  憲兵司令官執務室
  帝国陸軍憲兵隊司令官、来栖川義孝少将
義孝「入れ」
最上「失礼します!」
  同、最上一真少尉
最上「不穏分子、オオスギアマネの居場所が分かりました!」
義孝「ようやく吐いたか。骨が折れるな」
最上「やはり既に神戸を出て帝都に潜伏しているよううであります」
義孝「帝都のどこだ」
最上「潜伏先が絞られた以上、各分駐所に調査の増員を伝達いたします」
義孝「絞られた、だと?」
最上「は、はい。仲間の尋問に思いのほか手間取っており、未だ潜伏先の確定までは」
義孝「手緩い!」
最上「も、申し訳ございません!」
義孝「我らが職務は国家に仇なす者を、徹底的に駆逐する事である!よいか、徹底的にだ!」
最上「はっ!」
義孝「何としても吐かせろ!」
最上「了解致しました!」
義孝「『骨を折る』のは我らばかりか?最上」
最上「え?」
義孝「尋問する相手は、まさか未だ五体満足ではないだろうな?」
最上「・・・」
最上「かしこまりました。失礼致します」
義孝(この国は狂っている・・・)

〇地図
  『俺が生まれる少し前まで、日本は美しい秩序に満たされたモノノフの国だったと聞く・・・』
  『だが黒船の来航と共に、人々はその美しいものをあっさり捨て去り、かの文化を、諸手をあげて受け入れてしまった』

〇渋谷のスクランブル交差点
  『脆弱で』
  『醜悪で』
  『軽薄で、下品で、混沌として、奇怪極まる島国。それが今俺の生きている国だ』

〇上官の部屋
  『だが、まだ間に合う。なぜなら』
義孝「この俺が秩序の頂に立ったからだ」
義孝「俺がこの国を正してやる。最後のモノノフとして。最後の侍として」

〇ファンタジーの学園
  来栖川邸
執事「お帰りなさいませ。旦那様」
義孝「うむ」
義孝「晩飯はいい」
執事「かしこまりました」
執事「・・・」
執事「・・・おい」
女中「承知しております」
女中「ぬかりなく」

〇洋館の階段
「お帰りなさいませ。お父様」
  義孝の娘、桜子
義孝「うむ」
義孝「今日は久しぶりに早く戻った。飯でも食いに出かけるか」
義孝「大泉副司令に美味そうな鰻屋を教えてもらってな。軽薄な男だがそういう調査だけは信用できる」
桜子「申し訳ありません。お友達と済ませて参りました」
義孝「友達?」
義孝「年頃の娘が連れ立って外食とは」
桜子「はい。共に勉学に勤しんでおります」
桜子「お父様の名に恥じぬよう立派な男爵令嬢として寸暇を惜しんで学んでおります」
義孝「そ、そうか。励め・・・」
桜子「御期待なさって下さい。ではお休みなさいませ」
義孝「・・・」
義孝「誰かいるか」
女中「はい」
義孝「外食は止めだ。いきなりですまんが」
女中「はい。すぐにご用意できます」
義孝「すぐに?」
女中「あ、いえ、それはいついかなる時でもお言いつけに従えるように準備していたという意味で」
女中「決してお嬢様に拒否されるのを予測していたという訳では」
女中「あ!」
義孝「・・・」
女中「た、ただ今ご準備を・・・」
義孝「さすが、我が来栖川家の女中。行き届いておる」
義孝「忌々しいほどに・・・」

〇貴族の部屋
桜子「病みませるうなじに細きかいな巻きて熱にかけわる御口を吸わむ・・・」
桜子「・・・」

〇城の会議室
義孝「・・・」
義孝「・・・」
義孝「龍子・・・」
義孝「俺一人に桜子を任せおって」
義孝「成仏などさせんぞ」
義孝「断じて、させぬ」

〇華やかな裏庭

〇貴族の応接間
義孝「・・・下らん」
最上「そうお思いなのは閣下だけであります」
最上「皆さん、閣下の御生誕を心からお祝いしたいのです」
義孝「最上。お前まで俺におもねるか?」
最上「め、滅相もない」
最上「憲兵司令部に配属以来、男爵閣下を師とも父とも思っております。それだけでございます」
義孝「父?」
義孝「桜子はやらんぞ」
最上「そ、そういう意味では」
義孝「冗談だ」
最上「・・・」
最上「はは・・・はははは・・・」
執事「旦那様。朝風呂のご用意ができております」
義孝「いらん、そんなもの」
最上「そう仰らずに。気分もさっぱりして気合いが入りますよ」
義孝「・・・ふん」
最上「全く。誰が道化師どもを呼んだんだ」
最上「閣下に見せられるかよあんな連中・・・」
執事「まあ、色々ありますので。来栖川家は」
最上「大変ですね」
執事「お互いに」

〇華やかな裏庭
「スッチャカランランメッチャカバンバン!」
トラ「アチラもコチラも大騒ぎ~!」
デンキ「スッチャカランランメッチャカバンバン!」
デンキ「アナタもワタシも大騒ぎ~!」
ヒナ「もういっちょ!」
トラ「スッチャカランラン!」
デンキ「メッチャカバンバン!」
ヒナ「アナタもワタシも大騒ぎ!」
校倉「まるでジプシーだ」
校倉「知ってるかい?文字も国家も持たない流浪の民ジプシー。故に彼らは歌と踊りを自らの文化として生きている」
桜子「あの方々は日本人です」
校倉「そこだよ面白いのは」
校倉「貧民街に生れた彼らは奇しくも海を越えた同じ境遇の人々と、同じ様な生活手段を用いている。これは本能だ」
校倉「芸能芸術とはまさに生きるか死ぬかの末端層から本能的に生まれる物なんだよ!」
「ちょっと待ったあ!」
ヒナ「やいやいやいやいインテリお兄さん。今の言葉聞き捨てならねえな」
ヒナ「本能とか末端とかよ、そういう言葉わりと傷ついちゃうんだぜ」
ヒナ「オイラのダンスだって適当に踊ってるわけじゃなくて、ちゃんと関節の一本一本まで神経とがらせてやってんだい」
校倉「はは・・・これは失敬。かわいいダンサーさん」
ヒナ「子供扱いすんねい!このモボ野郎!」
トラ「わーっ!すんませんすんません!」
トラ「おいヒナ!ここはいつもの道端芸じゃねえんだぞ!」
トラ「いつもいつも厄介ばかり起こしやがって。何でそんなに血の気が多いんだ全く・・・」
デンキ「ねえ、先に帰っていいかな~」
デンキ「ふ~あっちいあっちい」
トラ「客の前で脱ぐな!」
ヒナ「がるるるる!」
トラ「客を威嚇するな!」

〇華やかな裏庭

〇華やかな裏庭
ヒナ「ゴルァ!勝手に何しやがんだ!」
桜子「ご、ごめんなさいね。これは写真機といって決して魂を抜き取るものではなく」
ヒナ「知ってるよカメラぐらいぶっ飛ばすぞ手前コノヤロウ!」
トラ「スイマセンスイマセンスイマセン」
桜子「あなたがとても綺麗だったからつい・・・」
ヒナ「き、キレイだとお!?」
ヒナ「分かってるじゃねえかい。お姉さん」
桜子「私、来栖川桜子と申します。出来上がった写真を送りたいのでご住所を教えて頂けませんか?」
ヒナ「住所か・・・『河原』で届くかな?」
トラ「無理だろ・・・」
デンキ「ねえもう帰ろうよ~腹へったよ~」
桜子「よろしければここの料理を召し上がって下さいな」
デンキ「いいの?あざ~っす!」
ヒナ「どりゃ!」
ヒナ「粗にして野なれど貧ならず!オイラ達は物乞いじゃねえんだ!」
桜子「こ、これは立食パーティーと言ってみんな自由に食事を」
ヒナ「お客さんのもんに手を出しちゃいけねえ。それがバロン一座の仕事の流儀」

〇花模様
トラ「帝都に流れる大河川!そこに集うは自由人!」
  バロン一座の弾き語り、トラ
デンキ「天下御免の黄金郷!その名も高き蓬莱街!」
  バロン一座の仮装芸人、デンキ
ヒナ「バロン一座の大道芸!またの御目文字楽しみに!」
  バロン一座の踊り子、ヒナ
ヒナ「本日はこれにて!」
最上「終わったか?じゃあ早く出ていってくれ」

〇華やかな裏庭
ヒナ「なんだあその言いぐさ!」
トラ「全くお前は手当たりしだいかよ!」
ヒナ「がるるるる!」
トラ「それに相手は憲兵だ。ここがどこだか忘れたのか」
最上「すまんすまん。口が過ぎた」
最上「お嬢ちゃん。飴をあげよう」
ヒナ「舐めるな!」
ヒナ「舐めるけど!」
トラ「へへ、すいやせんね。じゃあ失礼致します」
最上「やれやれ・・・」
天粕「気苦労が絶えんようだな」
  帝国陸軍憲兵隊、天粕公彦中尉
最上「お、お疲れ様です天粕中尉」
天粕「今は私用だ。敬語はやめてくれ」
最上「そ、そう?」
最上「本当、大変だよ。有能なお前と違ってペコペコしないと出世できない身だからね」
天粕「今のピエロ、ども。誰が呼んだか知っているか?」
天粕「来栖川商会社長来栖川実朝」
天粕「政商にして来栖川『分家』の筆頭。司令にとっては目の上の瘤、のような人物だな」
天粕「憲兵司令の誕生祝いに河原者を呼ぶ。中々に手間のかかった嫌がらせだ」
最上「人の好さそうな爺さんにしか見えないけど」
天粕「さて。どうだろう?」
  来栖川分家筆頭、来栖川実朝
桜子「叔父様!もう来ていらしたのですね!」
実朝「キャメラは楽しんでいるかい?」
桜子「極上ですわ」
実朝「義孝君はまだかね?」
実朝「バロン一座の歌と踊り、是非見てほしかったんだけどなあ」
桜子「もう解散でよろしいのではないですか?」
桜子「皆様もお忙しいことでしょう」
実朝「じゃあ桜子ちゃんが挨拶して終わりということでいいんじゃないか」
実朝「なんてね」
桜子「叔父様ったら」
最上「み、皆さま!ご静粛に!」
最上「来栖川義孝閣下がおいでさなれました!」

〇空
桜子「・・・」

〇華やかな裏庭
実朝「来栖川家当主、偉大なる憲兵司令官来栖川義孝男爵閣下の御誕生を祝し」
実朝「乾杯!」
義孝「かくの如き祝宴、悼みいる」
義孝「さて・・・」
義孝「我が国は未だ列強の圧力に脅かされる小国である」
義孝「しかしながら、世にはデモクラシーなどと下らん夢想に取り憑かれ、身を滅ぼす者もおる」
義孝「雲霞の如く帝都に群がり狂騒と退廃に溺れたうかれびとが形成する貧民窟は二百にも及ぶ。まこと由々しき事態である」
義孝「ここに集まってくれたお歴々は左様な狂気と快楽に我を忘れ傾国の徒とならぬよう、憲兵司令として強く御頼み申し上げる」
義孝「重ねて若人諸君に申し上げる」
義孝「報恩を忘れ忠孝を踏みにじるは最早人にあらず!家族の繁栄は我が国の繁栄と心得られたし!」
ご学友「・・・」
桜子「・・・」
義孝「以上である。引き続き楽しんでくれ」
桜子「・・・」

〇空
桜子(お天道様も顔を背けてらっしゃいますわ)
桜子(哀れな人・・・)

次のエピソード:バロンと男爵(3)

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