バロンと男爵(3)(脚本)
〇華やかな裏庭
義孝「失礼する」
義孝「桜子の御学友の方々かね。いつも娘を良くしてくれて礼を言う」
ご学友「こ、こちらこそ」
学友さん「桜子さんにはお世話になりっぱなしで」
学友さん「お姫(ひい)さまは大人しい方ですから。これも来栖川男爵家の御教育の賜物」
ご学友「私達なんてお姫さまに比べれはアバズレですわ。恥ずかしい」
校倉「何を恥ずかしがる事があるんだい?」
校倉「僕達は新しい時代を生きていかなきゃいけないんだ。アバズレ結構大いに結構」
義孝「誰かね?」
校倉「校倉(あぜくら)と申します。お誕生日おめでとうございます。来栖川さん」
義孝「・・・さん?」
桜子「さあ皆様、こちらへ・・・」
校倉「大丈夫だよ。桜子ちゃん」
義孝「・・・ちゃん?」
校倉「僕は来栖川司令と対話できる機会を逃したくないんだ」
義孝「どこで桜子と知り合いに?まさか女学校に忍び込んでいるのか?」
校倉「ご冗談を。カフェーにて意気投合したんですよ。これを運命とでも申しましょうか」
義孝「失礼だがお仕事は?」
校倉「アーチストです」
校倉「畏れながらレボリューショニストでもあります」
義孝「忠告しておくが、目上の者に横文字を使うのはよした方がいい」
校倉「さすがにそれだけで逮捕はできませんよね」
義孝「さて、どうかな」
桜子「早い話、芸術家さんです」
校倉「早く終わらせないでくれよ」
校倉「絵画、彫刻、文筆、オールラウンドに活躍してます」
義孝「ではそのオールなんとかを、革命ではなく国家の為に役立てるよう励みなさい」
校倉「お待ちください。今日は来栖川さんにプレゼントを用意致しました」
校倉「フリーダムエンゼル。自由の天使」
義孝「君が作ったのかね?」
校倉「原始女は太陽だった。今は月である。ご存じですか?」
校倉「女権拡張。ブルジョワ解体。ステップからフラットへ。祈りから行動へ。全ての弱者のモニュメントとなるべく制作しました」
義孝「ふむ。新進気鋭の芸術家となればさぞかし価値が出よう」
校倉「お言葉ですが芸術は自由な魂の象徴です。お金に変えられるものじゃありませんよ」
義孝「自由自由と・・・」
義孝「人生楽しそうで何よりだ」
桜子「有難うございます。私がお預かりしておきます」
校倉「駄目だよ。直にお渡しすることに意義があるんだ」
義孝「はっはっは。まあ、折を見て拝見しよう」
校倉「今ですよ今!」
校倉「万事今の衝動が大切なんです。古い思想に凝り固まっているから、日本はいつまでたっても三流国家なんです」
校倉「刀を手に黒船に突っかかっていた恥ずかしい過去は早く捨て、僕達は一刻も早く西洋列強と肩を並べアジアのリーダーとして」
校倉「ひ、ひいっ!」
〇モヤモヤ
義孝「どうした?講釈を続けなさい」
義孝「恥ずかしい刀なぞ、何ほどのことでもなかろう」
校倉「あ、いや、その・・・そういう意味では」
義孝「そういう意味にしか受け取れぬ。説明してくれないかね」
校倉「いえ、何と言いますか、その・・・」
義孝「遅い。鈍い。のろい」
義孝「議論の停止は即ち死に直結する。お前たちレボリューショニストの基本理念ではないのか?」
義孝「さあ喋り続けろレボリューショニスト」
義孝「それともこう呼ぼうか?」
義孝「ピエロと・・・」
〇華やかな裏庭
義孝「知っておろうが、俺は憲兵としてお前が今語っているご高説を何十年も聞いてきた」
義孝「そして何十年もその口を塞いできた」
校倉「ひゃあっ!」
義孝「反軍思想、自由思想、過激思想、口舌の徒の舌を抜き暴徒の手足を切った」
義孝「それでも奴らは増え続ける」
義孝「思想活動に溺れ働かず、阿呆踊りをするだけに飽き足らず、我が国を享楽で滅ぼそうとする害虫共!」
義孝「さて若き芸術家先生。講釈を続けたまえ。国家について自由について語りたまえ」
義孝「ここは私の家。私も自由にさせてもらうとしよう」
義孝「ククッ・・・クククク・・・」
校倉「あ、いや、ぼ、僕はそろそろ・・・」
校倉「うう・・・」
最上「か、閣下!この小僧も身の程を知ったことでしょう!どうか・・・」
義孝「さしでがましい!」
最上「も、申し訳ございません!」
桜子「お、お父様!」
義孝「桜子。これは憲兵司令としての仕事である」
桜子「あ、校倉さんは私の友達です!」
義孝「鳴いて飛び回るだけのクズ虫ではないか!我が娘ならば友くらい見極めよ!」
校倉「クズ虫・・・」
義孝「・・・」
義孝「おい、貴様」
義孝「誰を睨んでおる」
義孝「虫けらめが!踏み潰してやろうか!」
校倉「うう・・・」
桜子「校倉さん・・・」
義孝「逃げるか虫けら!」
桜子「あの人が虫けらなら父上は・・・」
桜子「父上は人でなしです!」
〇華やかな裏庭
義孝「・・・何だと?」
桜子「お母様が亡くなったのも、こんな雨の日だったそうですね」
義孝「桜子!」
実朝「義孝君。とりあえず皆さんを中に」
実朝「宴はお開き。後は私に任せなさい」
義孝「実朝叔父。気を使わせて申し訳ない」
実朝「全く、父子ともども手がかかる」
義孝「ハハハ・・・返す言葉もありませぬ」
実朝「桜子ちゃん。さあ中に入ろう・・・」
桜子「・・・」
最上「閣下・・・」
義孝「頭を冷やしている。お前も帰宅してよい」
義孝「・・・気苦労をかける」
最上「勿体ないお言葉です」
最上「最上曹長、直帰いたします!」
義孝「帰る時は元気がいいな」
最上「あ、いや、ははは」
義孝「お前も、光に集る羽虫などと付き合うのはよせ」
最上「え?」
義孝「帝都日報の美島」
義孝「女だてらに記者などと」
最上「ご、ご存じで?」
義孝「我らは憲兵隊である。早く別れろ」
義孝「それとも女狐に使い道でもあるのか?」
最上「・・・失礼します」
義孝「どいつもこいつも浮かれおって」
義孝「・・・」
義孝「そうだ。あの時も、雨であった・・・」
〇川沿いの原っぱ
「お待ちください!まだ検死の最中です!」
「どけ!俺の妻だ!」
義孝「どけと言っている!」
義孝「・・・!」
義孝「龍子・・・」
義孝「何だこれは・・・」
「二つの亡骸の手を結んでいたものです」
義孝「・・・」
義孝「・・・クク」
義孝「クククク・・・」
義孝「こんなものが」
義孝「こんなものが、お前の望んだ自由だというのか!」
義孝「うおおおおおおおおおおーーーーーッ!!!」
〇華やかな裏庭
義孝「認めぬ・・・」
義孝「自由など・・・認めてなるものか」
〇ファンタジーの学園
「くそ・・・くそ・・・くそ」
校倉「くそ!くそ!くそ!」
校倉「クソクソクソクソクソクソ糞糞糞糞糞糞!」
「持っていくといい。風邪をひくぞ」
???「ふむ」
校倉「・・・」
???「いい目だ」
???「自由を掴み取る戦士、の目だ」
???「実にいい・・・」
校倉「・・・」