第九話 空の思い(脚本)
〇田園風景
高校生の時にはすでに、自分がゲイだって気づいていた。
でも、住んでいたのは田舎で、ゲイバレなんてしたら終わりだってわかってた。だから、出来るだけ目立たないようにしてた。
勉強ばかりしている、つまらないヤツ・・・それでよかった。
大学の薬学部6年制に入ることだけが目標だった。
実家が薬局を経営していて、家業を継ぐことを条件に
実家をでることを許されたから・・・
〇おしゃれな大学
自由になれるのは6年しかない。そう思っていたから、大学に入ってからの僕は積極的だった。
いわゆる、大学デビューをした。
ガリ勉の象徴のメガネをやめ、コンタクトにした。初めて、オシャレ美容院にも行った。服装にも気を使った。
実は、まぁまぁイケているという事がわかった。
そんな僕に、運命の出会いが待っていた。大学で見かけた凪に一目惚れをした。
凪はその華やかな容姿に似つかわしくない
地味な格好をしていた。
極端に目立つことを避けているようだった。
友人A「あっ、風間じゃん」
夕凪(大学一年)「ああ、どうも」
空(大学一年)「さっきの人、知り合いなの?」
友人A「ああ、同じ高校出身 相変わらず無愛想だな」
友人A「あいつ、あんな感じだけど あの顔だから高校の頃はモテてて」
空(大学一年)「へぇー」
友人A「でさ、何か男もいけるらしくて 男の先輩と付き合ってるって噂があったんだよなー」
空(大学一年)「そっ、そうなんだ」
友人A「そーゆーのどう思う?」
空(大学一年)「べっ、別にいいんじゃない」
友人A「そっかぁ!? 俺は絶対無しだなぁ」
いつ見ても独りぼっちの凪。
自分から声を掛けて付き纏った。
付き会えることになった時は、天にも登る気持ちだった。
凪は、最初ぶっきら棒で、何を考えているかわからなかったが、一緒に過ごすうちに優しくて愛らしい人だとわかった。
僕は初めての恋人に夢中になった。
凪も僕をいっぱい愛してくれた。
大学3年の冬、凪と一緒に暮らし始めた。
それから一年・・・
この上なく幸せだった。
〇黒
なのに、凪が病気に・・・
少しでも長く凪と一緒にいたかった。
親に嘘ついた。
『勉強が大変でバイトが出来ない』と言って仕送りを増やして貰い、病院の近くに引っ越した。
〇綺麗な病室
この一年、凪は病に侵されながらも、僕を気づかってくれた。僕を側に置いてくれた。
弱っていくところなんて見せたくなかっただろうに・・・
凪──僕の最初で最後の恋人。
一緒に過ごした五年間、凪は僕を幸せにしかしなかった。
一生離したくないと思うほどに・・・
〇一人部屋
奏羽「空くんは凄いね。欲しいものをちゃんと欲しいって言えて・・・・・・ 俺は夕凪を手に入れられなかった」
空「僕は運がよかったんだ 僕を変えてくれた人がいたから・・・ 自分だけの力じゃない」
奏羽「変えてくれた人?」
空「こっちに来て直ぐに思い切ってゲイバーに行ってみたんだ」
奏羽「凄い行動力だな」
空「でも、結局入れなくて・・・ けど、その時にゲイの友達ができて その人が色々と相談に乗ってくれたんだ」
奏羽「へぇー」
空「その人が教えてくれたんだ 『チャンスの神様は前髪しかない』って だから直ぐに掴んで離さないようにってね」
奏羽「前髪しか無いなんて 聞いてねーよ」
空「そーいえば、思い出したんだけど」
奏羽「何?」
空「凪が成人式に出たあと 凄く嬉しそうで・・・ 『久しぶりに幼馴染に会えた』って」
奏羽「えっ?」
空「女の子かと思って気が気じゃなかったけど あれ、君の事だったんだね 紹介したいって言ってた」
奏羽「そっか、3人で会ってた可能性もあったんだな」
空「うん、でも僕が余り乗り気じゃなかったから」
奏羽「だよね、俺も無理かも 夕凪って無神経だよなー」
こっそりと夕凪を睨む夕凪。
空「大学を卒業したら実家に帰って、ひっそり暮らしていくよ」
奏羽「夕凪は、そんなこと望んでないよ」
空「親に嘘ついちゃたし、金銭的にも迷惑かけた 約束は守らないと」
奏羽「そこじゃなくて」
空「僕は女性を愛せない。だから結婚もしない 田舎でゲイバレはできないから・・・ だからひっそり暮らしてくしか無いんだ」
奏羽「俺が言うのもなんだけど それでいいの?」
空「元の自分に戻るだけだよ」
奏羽「それで幸せ? 夕凪は君の幸せを誰より望んでると思うよ」
空「僕は最低だから・・・」
奏羽「どこが?」
空「大学卒業したら、凪と別れようと思ってた」
奏羽「何で?」
空「凪に田舎で窮屈な思いさせられない けど、離れてたら心配で耐えられない 凪はモテるだろ」
奏羽「まぁモテるね」
空「凪は僕と違って女性も愛せるから・・・ 結婚も出来るし、家族も作れる その可能性を奪っちゃいけないって・・・」
夕凪「空・・・そんな風に思ってたんだ」
奏羽「そんなの話し合えば済んだことだろ どこが最低なんだ?」
空「違う! そんな綺麗事じゃなくて」
奏羽「話して楽になるなら話して」
空「自分の都合で別れようって思ってたくせに、他の誰かのものになるかと考えると耐えられなくて・・・」
奏羽「わかるよ。だから、俺は逃げた」
空「凪が病気になって、もう誰にも取られることはないんだって、僕だけのものにできるんだって思っちゃったんだ」
空「最低だよ そんな僕が幸せになんてなれない」
夕凪「空のせいで病気になったわけじゃない 空が罪悪感を感じる必要なんか無い」
奏羽「伝えたいことは?」
夕凪「最高だよ、そこまで思ってもらえて」
奏羽「最高だって、そこまで思ってもらえて」
空「えっ!?」
奏羽「・・・って思ってると思うよ 夕凪は君の事を最低だなんて思わなし、罪悪感も持って欲しくないと思う そういうヤツだろ?」
空「君の方が凪のことわかってるよね 僕が知ってる凪は五年だけだから」
奏羽「最新の五年だろ、俺のはバックナンバーの十年だし」
空「今度、昔の凪のこと教えてよ」
奏羽「いいよ」
空「小さい頃の凪は可愛かったろうな」
奏羽「言っとくけど、その頃から夕凪のこと好きだったからね」
空「何その先取りしてました感 でも、ありがと、聞いてくれて 寝るね。おやすみ」
奏羽「おやすみ」
2人の出会い、凪君の病気、そして別れ...悲しくも愛がある物語だからか、とても心地よい読後感でした。