悲劇の幕開け(脚本)
〇謁見の間
妖精の王国、フェデネージュ。
雪のように白い髪に薄い紫の目をした
初代妖精女王が興した国。
王位は代々直系である白髪の一族が
継いできた。しかし三年前に傍系による
反逆が起きる。
その反逆により、白髪の一族と
代々その護衛を務めてきた黒髪黒目の
騎士の一族、シュヴァリエ家は
滅びたのだった。
ーーフェデネージュ王国創世記より
〇西洋の街並み
インフェルノ「お母さん、早くしないと特売のじゃがいも売りきれちゃうよ!」
母「そんなに急がなくても大丈夫よ。それに走ると危ないわ、フェル」
ノエル「俺がちゃんとみておくので、心配いりません」
母「ノエルは頼もしいわね。いつもフェルを見守ってくれてありがとう」
ノエル「いえ。それが俺の役目ですから」
インフェルノ「お母さん、ここを抜ければ市場だよ! 早く早く・・・・・・」
インフェルノ「うわっ」
ノエル「フェル、大丈夫か?」
母「すみません。この子が前を見ていなかったみたいで。お怪我はありませんか?」
怪しげな男1「いてーな。なんだこのガキ。チッ、黒髪かよ。飯の足しにもならねえ」
ファデネージュは魔法により発展してきた
国だ。全ての妖精が生まれつき大なり小なり魔力を持っている。
魔力の量は髪色から判断できる。白に近い
薄い色ほど魔力量が多く、色が濃く黒に
近いほど魔力量は少ない。
王族は言わずもがな白、現在は薄い灰色で、貴族は王族との婚姻もあったため王族に次いで薄い色を持っている。
それ以外の者は茶色や青、紫など様々な
濃い色を持って生まれてくるが、
黒は例外である。
濃い色を持つ妖精同士が結ばれても、黒髪の子は生まれない。黒。それは誇り高き妖精たちが嫌悪し、迫害の対象とする色。
黒髪の子は、一度でも多種族と交わることで生まれてくる、いわば混血の証なのである。
怪しげな男2「いや待て。母親は綺麗な顔してる。混血といえど一応妖精だ。少しは金になるかもしれん」
ノエル「二人とも、逃げて下さい」
母「いいえ、私は大丈夫よノエル。あなたはフェルをお願い」
インフェルノ「おっお母さん・・・・・・!」
母「大丈夫よフェル。お母さんに任せて」
怪しげな男1「はっ自分から前に出てくるとはな。馬鹿な女だ」
母「うぐっ」
インフェルノ「お母さん!!!!」
怪しげな男2「へぇ、腐っても妖精だな。混血にしちゃ見事な羽だ。ついでにそれももらっておくぜ」
妖精は普段は羽をしまっているが、感情が昂ることで表に出る。妖精ごとに色や模様が異なるため、それを集める羽狩りも存在した。
母「っく・・・・・・うう!!」
ノエル「見るなフェル!」
インフェルノ「放してノエル! 助けないとお母さんが 殺されちゃう!」
怪しげな男1「母親も連れてこうかと思ったが、こりゃ 無理そうだな。諦めてそっちのガキ二人にするか」
ノエル「フェル、立て! とりあえずここからっ」
母「インフェルノ、ノエル、愛してるわ。必ず、生きてっ幸せに・・・・・・」
〇地下室
ノエル「ん・・・・・・」
ノエル「ここは? はっフェルは!? フェル、起きろ。フェル!」
インフェルノ「う、ん・・・・・・」
インフェルノ「ノエル? そんなに大きい声出してどうし・・・・・・そうだっお母さんは?!」
インフェルノが周囲を見渡すと、大勢の妖精の子どもが怯えながら身を縮こまらせていた。母の姿はどこにもない。
ノエル「ここにはいないみたいだ。たぶんもう、」
インフェルノ「そんな・・・・・・」
黒装束の男「ガキども時間だ。ここから出ろ」
黒装束の男「チッもたもたしやがって。泣いてる暇が あったらさっさとしろ!」
インフェルノ「ノエル、ここどこ? 私たち、これから どうなっちゃの・・・・・・?」
ノエル「とりあえずあいつについて行こう。逆らうと余計めんどうなことになりそうだ。大丈夫、俺がついてる」
インフェルノ「う、うん」
〇暗い廊下
〇劇場の舞台
インフェルノ「なに、ここ? 妖精がたくさんいる・・・・・・」
ノエル「この場所と妖精の数からして、たぶん オークションだ」
インフェルノ「オー、クション?」
仮面の男「紳士淑女の皆々様、今宵もお集まり下さりありがとうございます! こちらにおりますのが本日の商品たちでございます!」
仮面の男「大きいのから小さいの、痩せぎすから肉付きの良いものまで、幅広い商品をご用意しております!」
仮面の男「きっとお気に入りの一匹がみつかることでしょう! では早速最初の商品の紹介に入りたいと思います!」
仮面の男「一匹目は痩せぎすなソバカスの少女! 今は骨と皮だけですが、あなた好みに育てるのもアリでしょう! 百リラからスタートです!」
仮面の男「お次は黒髪の兄妹です! ご覧の通り混血なので価値は低いですが、二匹とも整った顔立ちをしています」
仮面の男「成長する過程を楽しむも良し、将来自分好みにしつけるも良し。使い道は色々あります。混血ということで、一リラから始めます」
婦人「三リラ!」
紳士「五リラ!」
太った男「二十リラ!」
仮面の男「二十リラが出ました! 他にはいらっしゃいませんか? ・・・・・・はい、ではこの兄妹は三十二番の方に決まりました!」
係員「ついて来い」
太った男「おお、遠くで見るより綺麗な顔してるじゃないか。これからたっぷり躾けてやるからな。楽しみにしておけ」
この日から、二匹の奴隷としての過酷な日々が幕を開けた。けれど今はまだそのほんの序章に過ぎない。本当の地獄はこれからだった
〇上官の部屋
リュカ「はぁ、これだけ探しているのに手がかり一つ掴めんとは。一体どこに隠れてるんだ・・・・・・?」
リュカ「ネモか。入れ」
ネモ「失礼します。陛下、まだお休みになっていらっしゃらなかったのですか?」
リュカ「ああ。もう少ししたら寝ようと思っていた」
ネモ「そう言ってて何度朝を迎えたことか。あなたは国王なんですから、もう少し自覚を持って頂かないと困ります」
リュカ「何度も言っているが、妖精は徹夜したくらいでどうにかなるほど軟弱ではない。お前も同じ妖精なんだから分かっているだろう?」
ネモ「それとこれとは話は別です。今陛下がお倒れにでもなったら、ファレノプシス公爵の天下です。そうなればこの国は、」
リュカ「分かっている。だが安心しろ。僕は強い」
ネモ「そうですね。陛下を手にかけられる妖精は早々いないでしょう。それより、定期的に奴隷オークションが開かれているらしいです」
リュカ「なに? 奴隷制は廃止されて久しいはずだが。よほど命が惜しくないとみえる。詳しく調べろ。僕が出向き、この手で罰を下そう」
ネモ「かしこまりました」
妖精王と側近が密談を交わす傍ら、
夜は静かに更けて行くのだった。
〇荒れた小屋
太った男「おい、早く酒を注げ。って、おい、何こぼしてやがる! こんな簡単なこと一つまともにできねぇのか?!」
インフェルノ「ひっ、ご、ごめんなさ・・・・・・!」
ノエル「フェル!」
インフェルノ「きゃああ! ノエル、ノエル!!」
太った男「ちょっと殴ったくらいでうるせぇなあ! 体に教え込まないと分かんねぇか? ああ?」
ノエル「お前、今何て言った?」
太った男「聞こえなかったのか? 体に教え込んでやろうかって言っ、おっおいお前、何すん・・・・・・っ」
太った男「こっこんなに強暴なんて聞いてないぞ! お前らはお払い箱だ。売りに出してやる!」
〇荒廃した市街地
老爺「まだ掃除が終わらんのか? この出来損ないが。やはり混血は使えんな」
インフェルノ「った・・・・・・」
ノエル「お前、今誰に向かって手を上げた?」
老爺「使えん奴隷を躾けただけだ。何をそんなに怒って、まっ待て、何故こっちに来る? やめろ、来るっ」
そうして二匹は様々な主の元を点々とした。そして数年後、再びオークションに出されることになる。
ノエル「フェル、叩かれたところは大丈夫か?」
インフェルノ「うん、もう慣れたよ。今回はグーじゃなかったし、これくらい平気。ねえノエル。私ね、決めたよ」
ノエル「何を?」
インフェルノ「お母さんを奪った妖精を見つけ出して、この手で復讐する。地の果てまでだって追いかけて、必ずやりとげてみせる」
ノエル「フェルがその手を汚す必要はない。その時がきたら、俺が手を下す。殺してくれって縋りつくくらいの苦痛と後悔を味わわせてやる」
ノエル「髪の根元、伸びてきてる」
インフェルノ「本当? じゃあ今日の夜にでも染めないとね」
夕陽を浴びたフェルの髪の根元は、
白く輝いていた。
〇劇場の舞台
ーー五年後
リュカ「・・・・・・」
仮面の男「紳士淑女の皆様、今宵もお集まり頂きありがとうございます。では早速、最初の商品を紹介致します!」
インフェルノ「・・・・・・」
ノエル「・・・・・・」
三人の運命が、今交わろうとしていた。
生活も生きている場所も違う子たちが、きっかけで交差し始める、続きが気になります!!
王族の血が流れている…ということですよね…。実は腹違いの…おっと予想はここまでにしておきます!
綺麗なストーリーですね、お母さんを思う2人の気持ちがとても逞しく描写されていて、同じ気持ちになりながら読ませて頂きました。
中世のイタリアが舞台でしょうか?美しい母親を奪われた屈辱をぜひはらしてほしいですね。段々と強くなっていく二人、兄妹愛が物語の魅力になっているように思いました。