ホワイト・インフェルノ

夜市千景

救いの手(脚本)

ホワイト・インフェルノ

夜市千景

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〇劇場の舞台
仮面の男「今回のトップバッターはこちらの混血の二匹です!」
仮面の男「ご覧の通り黒持ちの混血ですが、見た目だけは一級品です! 手をかければ宝石にもなりましょう。では五リラから始めます!」
リュカ「・・・・・・」
  目を開けたリュカが右手を小さく上げると、会場内にて待機していた騎士がいっせいにこの場にいる者を制圧すべく動き出した。
騎士「全員動くな!」
貴婦人「何よこれ?! こんなことになるなんて聞いてないわ!」
紳士「くそっ! こんなところで捕まってたまるか!」
  混乱を極める会場を横目に、ノエルはインフェルノの腕を引く。
ノエル「フェル、行くぞ。逃げるなら今しかない」
インフェルノ「うん、分かった」
  しかし二匹が駆け出す前に複数の騎士が
  二匹の前に立ちふさがった。
騎士1「君たちは王の命令でいったん保護することになっているんだ。一緒にきてくれるかい?」
騎士2「君たちを守るためでもあるんだ。どうか我々についてきてほしい」
ノエル「・・・・・・フェル、どうする」
インフェルノ「・・・・・・分かりました」
  その日、オークション会場にいた妖精は全て捕縛及び保護された。奴隷を買おうとした妖精には厳しい罰が下され、
  商品として競りに出される予定だった妖精はみな一時的に王宮に保護され、妖精王自ら一人一人の引き取り手や家族を探した。
  しかし最後まで引き取りても家族も
  見つからなかった妖精が二匹いた。

〇上官の部屋
リュカ「ネモ、あの子たちの家族はまだ見つからないのか?」
ネモ「全力を尽くしてはいますが、未だ見つかりません。調べた限りではこれまで買われた先々で毎回問題を起こしています」
ネモ「その関係で、恐らく引き取り先を見つけるのも難しいでしょう」
リュカ「・・・・・・そうか。これだけ探して見つからないとなると、あの子たちは孤児なのだろうか?」
ネモ「その可能性が高いかと」
リュカ「あの子たちは今、何をしているんだ?」
ネモ「客室にいます。いつ部屋を訪ねても部屋の隅で身を寄せ合うようにして縮こまっています」
リュカ「これまでもそうして生きてきたのだろうな。しみついた習慣はそう簡単に抜けるものではない。まだあんなに幼い子どもなのにな」
ネモ「やりきれませんね。メイドですら近寄らせようとしません」
リュカ「ネモ、僕は決めたぞ」
ネモ「その笑顔、とても嫌な予感がします」
リュカ「あの子たちは今日から我が子だ」
ネモ「止めても聞き入れては下さらないのでしょうね。分かりました。そのようにいたします」
リュカ「有能な部下を持って僕は幸せ者だな」
ネモ「話もひと段落したことですし、今日はもうお休み下さい」
リュカ「ネモはよほど僕を寝かせたいようだな」
ネモ「御身にもしものことがあったら、」
リュカ「分かった分かった。今日は寝るとしよう」
ネモ「そのお言葉、信じて良いんですよね?」
リュカ「僕がこれまで嘘をついたことがあったか?」
ネモ「ありません。では私はこの辺で失礼させて頂きます。おやすみなさいませ陛下」
リュカ「ああ。おやすみ」

〇可愛らしいホテルの一室
リュカ「はじめまして。僕はリュカ・ルル・フェデネージュ。今日から君たちの家族だ。気軽にリュカと呼んでくれ」
インフェルノ「・・・・・・」
ノエル「・・・・・・」
リュカ「服も着替えたんだな。よく似合っているよ。ジャケットやドレスはお気に召さなかったようだな」
インフェルノ「ドレスはいざという時に動きにくいので」
リュカ「ここはどこよりも安全だ。もう命の心配をする必要はない」
ノエル「生きている限り、いつ何が起こるか分からない。備えておいて損はない」
リュカ「やはり最初から仲良く、とはいかないか。だが僕は君たちと仲良くなりたい。だから名前を教えてくれないか」
インフェルノ「・・・・・・インフェルノです」
ノエル「ノエル」
リュカ「インフェルノとノエルか。良い名前だ。すぐには無理でも、少しずつここでの生活に慣れていってくれたら嬉しい」
リュカ「何か要望があれば教えてくれ。それから、ここに君たちを害する者はいない。護衛騎士やメイドもそうだ」
リュカ「だからそんなに警戒しなくていい」
インフェルノ「私、帰りたいです」
リュカ「帰る? 家があるのか?」
インフェルノ「はい。なので大丈夫です」
リュカ「そうはいっても、君たちはまだ大人の庇護が必要な年齢だ」
ノエル「ずっと二人で生きてきた。問題ない」
リュカ「・・・・・・参ったな」
ネモ「陛下、そろそろお時間です」
リュカ「もうそんな時間か。この話はまた明日にしよう。僕はもう行くが、ゆっくり休んでくれ」

〇豪華な部屋
ファレノプシス公爵「白の末裔はまだ見つからないのか」
仮面の男「白髪の子がいたらとっくに話題になってますよ。きっと上手く姿を隠しているんでしょう」
ファレノプシス公爵「一刻も早く見つけ出せ。そいつらを殺せば、晴れて私たちの天下だ」
仮面の男「分かっていますよ。力は尽くします。今しばらくお待ちください、ファレノプシス公爵」
ファレノプシス公爵「君には期待しているんだ。朗報を待っている」

〇城の会議室
  翌朝
リュカ「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
インフェルノ「はい。おかげさまで」
リュカ「それは良かった。何が好きか分からなかったから色々用意した。好きなだけ食べてくれ」
インフェルノ「・・・・・・」
ノエル「・・・・・・」
リュカ「どうした? お腹が空いていないのか?」
インフェルノ「これ、どうやって食べるんですか?」
  インフェルノの質問に、リュカははっとした。長年奴隷だった二人がテーブルマナーに詳しいわけがない。完全に失念していた
リュカ「すまない、僕の配慮が足りなかったようだ。形式上ナイフやフォークは沢山置いてあるが、好きなように食べるといい」
インフェルノ「分かりました。いただきます」
ノエル「・・・・・・いただきます」
リュカ「ああ。沢山食べてくれ」
インフェルノ「・・・・・・美味しい。ノエル、このお肉すっごく美味しいよ!」
ノエル「そうか。なら俺のも食べるといい」
インフェルノ「ダメだよ。それはノエルの分なんだから。また前みたいに肋骨が浮き出てきちゃうよ」
ノエル「心配するな、そんなにすぐ痩せない。それに一日二日食わなかったところで支障はない。今までもそうだったしな」
インフェルノ「一日以上食べない日が続くと、何か食べた時に絶対吐いちゃうんだよね。ふふっ」
  リュカは二匹の会話を聞きながら、胸が苦しくなった。
  世間話をするように飛び交う話は、
  どれも到底笑えるような内容ではない
  フェルの口から語られる過酷な出来事は、
  二匹にとって当たり前の日常だったのだ。
  そして二匹は、自分たちがどれだけ異常な
  環境で過ごしていたかを分かっていない
  だからこそ笑顔で、まるで今日の天気を
  話すような口ぶりで会話ができるのだ。
  食堂にいるメイドや執事が困惑してるのを
  みかねて、リュカは口を開いた。
リュカ「昨日家へ帰りたいと言っていたが、君たちの家はどの辺りなんだ?」
インフェルノ「市場の近くです」
  リュカが話しかけた途端、インフェルノの顔から花が咲くような笑顔は消える。仕方ないことではあるが、リュカは少し寂しく思った
リュカ「市場か。ここの近くには三つほどあるが、どの市場だ?」
ノエル「聖堂が近くにある、小さい市場です」
リュカ「ああ、あそこか。今日はちょうどこの後予定が空いているんだ。もしよければ、二匹の家に案内してくれないか?」
インフェルノ「・・・・・・」
ノエル「・・・・・・」
インフェルノ「分かりました。ご案内します」
リュカ「ありがとう。食事がすんで着替えが終わったら、部屋で待っていてくれ。迎えに行く」

〇西洋の街並み
リュカ「ここの市場には最近足を運べていなかったが、相変わらず活気があって安心した」
インフェルノ「もうすぐです。そこの角を曲がれば・・・・・・あっ!?」
ノエル「フェル、どうした!?」
インフェルノ「・・・・・・家が、お母さんと暮らしてた家が、ない・・・・・・!」
ノエル「平地になってる。どういうことだ? ここ数年の間に取り壊されたのか?」
リュカ「どうした? 何があった?」
インフェルノ「家が・・・・・・ないんです」
リュカ「なんだって?」
老婆「そこの家なら、何年も家主が帰ってこなくて空き家になってたから、去年取り壊されたよ」
インフェルノ「そんな・・・・・・この家には、お母さんとの思い出がいっぱい詰まってたのに・・・・・・っ!」
リュカ「インフェルノ、ノエル。昨日も言ったが、王宮で暮らさないか? 不自由はさせないと約束しよう。したいことは何でもやっていい」
インフェルノ「お母さんと約束したんです。王宮には、」
ノエル「フェル、陛下の言う通りにしよう」
インフェルノ「でもノエル!」
ノエル「大丈夫だ。何があっても、フェルのことは俺が守る。あの人と、約束したから」
インフェルノ「・・・・・・分かった。今日から、お世話になります。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。国王陛下」
リュカ「そんなにかしこまらないでくれ。もっと気楽に接してくれて構わない」
  かくして、二匹の王宮での暮らしは幕を開けた。

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