死神珍奇譚

射貫 心蔵

レトロフューチャーの死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

今すぐ読む

死神珍奇譚
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇路面電車
  一九五X年
  日本のおもちゃメーカーが
  時代を先取りするオーパーツを開発

〇魔法陣のある研究室
  手足のついた炊飯ジャー?
  否
  驚くなかれ
  世界初の人工知能を搭載したアンドロイド!
  素体を肉づけして──
  完成!
  人工お手伝いさんロボット、トトリ一号!!
  抽選で一名様に、彼女をプレゼント!!!
  ――という
  あまりに先鋭的な商業戦略で
  トトリ一号は貰われていった
  このメーカー
  赤字続きで倒産は時間の問題
  会社を潰す前に
  華々しく最後っ屁をかましてやろうと
  社員の趣味と情熱を注いだ代物であった
  言うなれば、一世一代の置きみやげ
  最後の最後までユーザーに
  驚きと感動を与える、不屈の遊び心

〇お化け屋敷
  トトリ一号は
  ある金持ちの屋敷に貰われた
  彼女の性能はオーパーツと呼ぶにふさわしく
  経済的、効率的に、シャープな働きを見せた
  当初はロボットであることを
  危惧していた家族も
  「トトリなら安心」と太鼓判をペタリ
  あっちゅー間に
  正式な家族の一員となった

〇お化け屋敷
  七十年後

〇洋館の一室
「いただきます!」
トトリ「どうぞお召し上がりください」
  子の代、孫の代、そのまた孫の代と
  トトリは一家に仕えた
  二代目が破産し
  財産を失っても、律儀に従い続けた
トトリ「坊っちゃん そんな食べ方じゃ ソースが袖についちゃいますよ」
マー坊「わ、わかったよ」
トトリ「お肉を噛むとき クチャクチャ音を鳴らすのは止めなさい」
マー坊「はいはい」
トトリ「坊っちゃん!」
トトリ「坊っちゃん!!」
トトリ「坊っちゃん!!!」
マー坊「だぁ! もううるさいなぁ!!」
マー坊「機械のクセに、人間に指図するな!!」
トトリ「坊っちゃん?」
お父さん「マー坊、トトリに謝りなさい!」
マー坊「なんで僕が!?」
お父さん「彼女はお前にマナーを教えてくれたんだ 社会に出ても恥ずかしくないマナーを」
お父さん「お前はそれに感謝せねばならん」
マー坊「・・・・・・」
マー坊「・・・・・・」
マー坊「お前なんか壊れちまえ! 旧式のポンコツロボット!!」
お母さん「マー坊!!」
トトリ「キツく言いすぎましたかしら?」
お父さん「君は悪くないよ 家事もしつけもよくやってくれている」
お母さん「いいえお父さん 今のはトトリにも責任の一端がありますわ」
お母さん「頭ごなしに指導! 指導!! 指導!!! あれじゃあ文句の一つも つけたくなりますよ」
トトリ「お言葉ですが奥様 私は間違ったことはしておりません」
トトリ「坊っちゃんに立派な大人に なっていただくべく 心を鬼にしているのです」
お母さん「それも一つの方針だけれど 私はあの子にもっと伸び伸び 育ってほしいのよ」
お母さん「私とお父さんは 昼間お勤めに出なければいけない」
お母さん「家で窮屈な思いを してるんじゃないかと思うと いたたまれなくなるわ」
お父さん「大丈夫 トトリは優秀なお手伝いさんだ」
お父さん「なんたって僕のおじいさんの代から 面倒見てくれてるんだもの」
トトリ「恐縮でございます」
  「時代は変わったのよ、お父さん」
  この言葉を、母は寸でで飲み込んだ

〇怪しい部屋
マー坊「ホント嫌になっちゃうよ、トトリのヤツ!」
  あっはっは! 災難だったなマー坊
マー坊「笑いごとじゃないよ」
マー坊「いいよなぁ レンジの所は最新鋭の美人ロボットで」
マー坊「トトリと違って優しいんだろうなぁ」
  あぁ、すっごく優しいぜ!
  俺のやることに文句は言わないし
  絶対に怒らない
  どんなイタズラしたって
  「ご主人様のご命令とあらば」って
  なんでも許してくれちゃうんだ
マー坊「いいなぁ」
マー坊「ウチもトトリが壊れたら 新しいお手伝いさんロボットに 買い替えてくれるだろうか」
  おいおいマー坊
  まさかとは思うが
  よからぬことを企んでねーだろうな?
  いくらなんでも壊すのはお前──
マー坊「バ、バカ! そんなことしないよ!!」
  はは、冗談だよ
  それよりお前、進路決まった?
マー坊「あ、あぁ」
マー坊「一般コースへ行くつもりだけど──」
  一般コース?
  かーっ! もったいねぇ~!!
  お前の頭なら
  ロボット工学科のトップを狙えるのに
マー坊「トップならレンジがいるじゃないか!」
  それもそうか、ガハハ!
  しかしマジな話
  首席はダメでも次席は狙える
  一緒に
  ワン・ツー・フィニッシュ目指そうぜ!
マー坊「気持ちは嬉しいけど 僕、ロボットってあんまり好きじゃないや」
マー坊「人間みたいなカッコしてるけど 中身は機械だ」
マー坊「心がない」
マー坊「人間の最終的なよりどころは心だ」
マー坊「どんな精密機械も 良心に基づく咄嗟の判断はできない」
  お前って時々
  やたら小難しい話をするよな?
  俺にもわかるように説明してくれ
マー坊「えっと、例えば──」
マー坊「買い物の帰りに 車に轢かれそうな幼児がいるとする」
マー坊「人間なら 買い物袋を放っぽって助けに行くけど──」
  ロボットは買い物のミッション中
  袋を手放すなんてもってのほかか
マー坊「そう、それだよ!」
  理屈はわかるが、どうだろう
  俺も痛い目に遭いたくねーから
  ヘタすると傍観者を決め込むかもしれん
マー坊「そこは話に乗ってくれよぉ~」
  スマンスマン
  いずれにせよ、お前の不在は
  ロボット工学科の大きな損失だぜ?
マー坊「ありがとう そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
  だがマー坊、俺は諦めが悪い
  今日がダメでも明日・明後日と
  声をかけまくるから覚悟しとけよ?
マー坊「頑固さ加減なら僕も負けない」
  それじゃあまた、学校でな
マー坊「あぁ、おやすみ」
  プツン
マー坊(ロボット工学科か)

〇お化け屋敷

〇お化け屋敷

〇お化け屋敷
  行ってきまーす!!
トトリ「行ってらっしゃい、坊っちゃん」
マー坊「黙れガラクタ」
トトリ「・・・・・・」

〇おしゃれな住宅街

〇学校の校舎

〇学校の校舎

〇おしゃれな住宅街
マー坊「ウチに帰りたくないなぁ」
マー坊「――っていうか、トトリの顔を見たくないや」
レンジ「いや、どんだけ嫌ってんねん」
レンジ「おい、マー坊!」
マー坊「あぶない!!」
  バッキャロー! 死にてぇのか!?
レンジ「まだだマー坊!」
マー坊「へ?」
マー坊「イッ!」

〇おしゃれな住宅街

〇おしゃれな住宅街
レンジ「マー坊、大丈夫か!?」
「・・・・・・」
  二台目の車から二人を救ったもの──
  それは買い物帰り
  身を挺して二人の盾となった
  トトリ一号であった
  道ばたには、投げ出された買い物袋
  中身は見るも無惨に散乱していた
マー坊「トトリ!!」

〇黒
トトリ「坊っちゃん、おケガはありませんか?」
マー坊「僕はいい、それより君が──」
トトリ「坊っちゃんが無事で、なによりでございます」
マー坊「そ、そんな! 僕は君に謝らなくちゃ──」
トトリ「いいんですよ 坊っちゃんのおっしゃったことは すべて事実」
トトリ「私は時代遅れのガラ──」
マー坊「本気じゃないよ、本気じゃ!」
マー坊「家族に古いも新しいもないだろう?」
マー坊「僕が悪かった」
マー坊「神様! どうかトトリをお救いください!!」
トトリ「坊っちゃんが気に病む必要はありません」
トトリ「私はただの機械 故障するだけですから──」
マー坊「トトリ! 死んじゃ嫌だ、嫌だよぉ!!」

〇おしゃれな住宅街
マー坊「トトリ!!」
レンジ「マー坊」
幼児「お兄ちゃん」

〇サイバー空間
死神「お迎えに上がりました、ミス・トトリ」
トトリ「ここは?」
死神「アナタの心の中とでも申しましょうか」
トトリ「心?」
トトリ「ロボットに心はありません」
トトリ「あるのは打ち込まれたプログラムのみ」
死神「なにを言うのです」
死神「アナタはご自分の意思で 女の子とマー坊を救いに飛び出された」
死神「ロボットにそんな芸当はできません」
死神「まいりましょうミス・トトリ 新たな世界へ」
トトリ「私が人間? 私が──」
  少女の手を取り、旅路に出る刹那
  トトリは泣きじゃくるマー坊に目を向けた

〇おしゃれな住宅街
マー坊「彼女は僕を助けてくれた 命の恩人だ」
マー坊「今度は僕が彼女を助ける」
マー坊「待ってろトトリ 何年かかるかわからないけど 僕が必ず、必ず元通りにしてみせるから」
レンジ「それじゃあ──」
マー坊「あぁ」
マー坊「行くよ、ロボット工学科へ」

〇サイバー空間
トトリ(坊っちゃん)
死神「ミス・トトリ、そろそろ──」
トトリ「お嬢さん」
トトリ「せっかくのご厚意ですが やはり私は ただのロボットで結構でございます」
トトリ「私の家族が 元通りにすると誓ってくださいました」
トトリ「その時がくるまで待ちとうございます」
死神「そうですか」
死神「・・・・・・」
死神「いいご家族を持ちましたね、ミス・トトリ」
死神「アナタが再び目覚めることを祈っています」
トトリ「ありがとう」

〇黒
  プツン!

〇研究所の中枢
  その後
  一家はトトリを治すべく
  バラバラの体をロボット病院へ持っていった
  彼女の素体は極めて原始的で
  思考は愚か、手足もロクに動かせぬ
  鉄人形だと断じた
  魂でも入っていない限り
  自由に動き回る代物ではないと
  すると、七十年もの間
  家族を支えてきた彼女は──
  機械のイタズラか? 生命の神秘か?

〇お化け屋敷
  そして月日は過ぎ──

〇お化け屋敷

〇お化け屋敷

〇お化け屋敷

〇ビジネス街
レンジ「よぉマー坊」
マー坊「やぁレンジ」
レンジ「お前昨日の宿題やった?」
マー坊「もち」

〇学校の校門
  ○○中学校・ロボット工学科
  マー坊はトトリ復活を夢見て
  今日も勉学に励んでいる

次のエピソード:部屋の隅に佇む死神

コメント

  • ロボットの死に、まさかの死神さんが登場!魂が宿るというのは一見荒唐無稽に思えるのでしょうが、付喪神的な文化・価値観からしたら納得もできますね。藤子F先生の作品のようなレトロフューチャーな空気感で懐かしくなります。

成分キーワード

ページTOPへ