エピソード8(脚本)
〇古いアパート
介護士(大塚さん)「御手洗さん、居ますかー」
大塚さんが扉を開けた瞬間、
異臭が吹き出した。
神崎 ゆい「(くさい!! なにこのニオイ!?)」
今までに嗅いだことのない
強烈なニオイがした。
例えるなら空気に
茶色と黄色を混ぜたような・・・
まさか、ウンコとオシッコ?
介護士(大塚さん)「ほら、あんたも早く 入ってきなさい!」
〇散らかった居間
ゴミだらけ・・・
カップラーメンのゴミや
黒く変色したバナナの皮があった。
食べた後、
そのまま投げ捨てたかのようだった。
床には茶色や黄色のシミが
たくさんあった。
でも、これはニオイの原因の
ほんの一部に過ぎない気がする。
部屋の中に人糞があって
クサイのとはわけが違う。
なんというか、
部屋全体の空気が汚物なのだ。
まるで便器の中にいるようだ。
ここはもう人が住む家とは言えない・・・
〇散らかった居間
介護士(大塚さん)「御手洗さん、 今日は高校生の神崎さんが お手伝いに来てくれました」
大塚さんが御手洗さんの耳元に
大きな声で話しかけた
神崎 ゆい「は、初めまして。 介護体験実習で参りました 神崎ゆいと申します」
私は慌てて自己紹介をする。
だが、御手洗さんはピクリとも
反応しない。
ただ、じっと壁を見つめている。
神崎 ゆい「あの? 御手洗さん・・・?」
御手洗(みたらい)「あんた誰よ!」
御手洗(みたらい)「なんで人の家にあがってるの。 出てってちょうだい!」
御手洗(みたらい)「は!私の財布がない! どこ?どこ? ないないないない!」
御手洗(みたらい)「さてはあんたが盗んだのね! 返しなさい!」
神崎 ゆい「きゃっ!」
急に御手洗さんが
私の両肩に掴みかかってきた。
神崎 ゆい「いやっ!」
そのまま体重をかけてきたが、
足がよろけて、
私が押し倒される形となった。
神崎 ゆい「痛っ!!」
神崎 ゆい「(大塚さん、助けて)」
介護士(大塚さん)「あんた、なにしてんの!?」
介護士(大塚さん)「御手洗さん、大丈夫ですか?」
大塚さんは私より先に
御手洗さんの心配をした。
御手洗(みたらい)「この小娘が私の財布を盗んだのよー」
御手洗さんは私の二の腕を
強く握りしめている。
御手洗(みたらい)「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」
介護士(大塚さん)「ほらあんた、 御手洗さんに謝りなさい!」
神崎 ゆい「(ふざけんな! そのババアが突っかかって 来たんだろうが!)」
言ってやりたいことは
山ほどあるが、言葉がでない。
体が震えて言うことを聞かないのだ。
寒くもないのに歯がガチガチと
音を立てている。
大塚さんが部屋に響き渡る声で
「謝りなさい」と叫ぶなか、
私の脳裏に校則の一文が浮かんできた。
『介護実習中は何があっても
利用者に暴行を加えてはならない』
介護のリアルな空気感が伝わってきますね。現在においても、介護については「ニオイ」とか「ヨゴレ」とかについて触れられることがないですからね。そんな生々しさを排除して「キレイゴト」にしたい人たちもいるようで……