最後の一球(脚本)
〇野球のグラウンド
死神の娘「こんなところにいましたか」
大黒誠「えっ?誰?」
死神の娘「こんにちは。大黒誠さん。私は、死神です」
大黒誠「死神?・・・はは、ほんとにいるんだな」
大黒誠「俺は魂を取られるのか?地獄へ落ちるのか?」
大黒誠「妹を泣かしたり、こっそりお菓子食べたりしたから」
死神の娘「いえ、それはそれで許せませんが・・・」
死神の娘「死神は魂を導く存在です。そして死神は、最後のお別れのお手伝いをさせて頂いています」
大黒誠「最後のお別れの手伝い?というと?」
死神の娘「簡単に言えば、最後に一人、夢枕に立って現世の人と話せるのです」
大黒誠「あー、なるほど」
大黒誠「・・・やっぱ俺死んだんだな」
死神の娘「はい。あなたの家がお父さんの煙草の不始末のせいで夜中に火事になり、あなたの家族一家全員焼死しました」
大黒誠「誰も助からなかったんだな。それで?親父達は?」
死神の娘「もう先ほどあの世へ導いてきました。あなたが最後です。あなただけどこかへ行っていたので探してました」
大黒誠「そうか。そりゃ手間かけさせたな」
大黒誠「死んだのはなんとなく分かってたんだけどさ、なんかグラウンド見たくなってさ」
死神の娘「野球やってたんですか?」
大黒誠「そう。俺、ピッチャーでエースだったんだぜ。いずれはメジャーリーグで活躍する投手になる予定だったんだ」
死神の娘「そうですか。私は野球の事はよく分かりませんが、凄かったんですね」
死神の娘「それで最後に誰の夢枕に立ちたいですか?」
大黒誠「そうだな・・・。家族は全員死んだんだろ?」
死神の娘「はい。残念ながら」
大黒誠「なら笹田に会いたい。俺の女房役。キャッチャーだった奴だ」
死神の娘「野球部のチームメイトですか?」
大黒誠「ああ、そうだ」
死神の娘「分かりました。ではいきましょう」
〇幻想空間
大黒誠「よっ!笹田!」
笹田「誠!?誠・・・なのか!?」
大黒誠「ああ。最後にお前に会いに来た」
笹田「お前!!何勝手に死んでんだよ!!ふざけんなよ・・・。俺はな・・・俺は・・・ううっ・・・ううっ・・・」
大黒誠「わりぃな。でも親父の煙草の不始末だからよ。まあ勘弁してくれよ」
大黒誠「チームの皆には、よろしく言っておいてくれよ」
笹田「ふざけんな!!そんなこと自分の口で言え!!」
大黒誠「冷たい事言うなよ。お前、俺の女房役だろ?相方だろうが」
笹田「お前はいつもそうだ。お気楽な性格のせいで制球が乱れても治そうとしない」
笹田「相手に点差つけられても絶対に勝つって闘志が感じられない。マイペースで馬鹿で」
大黒誠「でもそれがお前の持ち味だ。乱されないのがお前の強みだ。そう言ってくれたのもお前だったぜ?」
笹田「・・・・・・」
大黒誠「頼むよ。チームの皆には、あの世で家族と楽しくやってるよって伝えてくれよ」
笹田「お前、約束したよな。一緒にメジャーへ行こうって。その約束は!!どうするんだよ!!」
大黒誠「わりぃな。叶えられそうにない。本当に悪かったよ」
笹田「くそっ!!もういい!!さっさと行っちまえ!!」
大黒誠「おう。じゃあな。元気でな」
〇野球のグラウンド
死神の娘「いいんですか?あんな別れ方で」
大黒誠「いいんだよ。いつもどおりさ」
大黒誠「なあ。死神さん。ひとつどうしても頼みたい事があるんだ」
死神の娘「何ですか?」
大黒誠「1分でいい。俺を生き返らせてもらえないか?」
死神の娘「ええ!?そ、それは・・・できませんよ」
大黒誠「頼む!!何か方法はないか!?あの世へ行った後なら償いは何でもする!!」
死神の娘「う、うーん・・・。 実はなくはないですが・・・」
大黒誠「ほんとか!?」
死神の娘「お父さんが持ってるネックレスを使うんです。そうすれば1分くらいなら生き返れます」
大黒誠「そのネックレス、貸してくれ!!」
死神の娘「ただしネックレスを使った後、耐えがたい苦しみがあると聞きます」
大黒誠「耐え難い苦しみ?」
死神の娘「私もよく知らないですけど、激しい痛みがあるとかってことなんじゃないかなー」
大黒誠「何でも良い!!そんな事耐えてみせるよ!!だから貸してくれ!!」
死神の娘「分かりました。使った人は見た事ないですけど、お父さんに言えば貸して貰えますから」
大黒誠「頼む!!」
こうして私は、お父さんに復活のネックレスを貸してもらって、大黒さんを1分間生き返らせたのです。
〇野球のグラウンド
大黒誠「笹田」
笹田「ま、誠!?どうなってんだ!?お前、死んだんじゃ!?あの世へ行ったんじゃ!?」
大黒誠「1分だけ頼んで生き返らせてもらった。時間がない。俺の球受けろ」
笹田「な、何言ってんだよ!?いきなり!!」
大黒誠「いいからミット構えろ!!」
笹田「わ、わかったよ」
大黒誠「いくぞっ・・・。これが俺とお前の最後の一球」
大黒誠「俺とお前のメジャーリーグだ」
ズドーンッ!!
誰もいないグラウンドに、ボールの音だけが響き渡った。
大黒誠「へへっ。お前との最後の思い出だ。この感覚、一生忘れんなよ?」
笹田「うっ・・・ううっ・・・誠っ・・・。ぐすっ・・・。ううっ・・・」
大黒誠「バカ。泣くときは優勝した時だけにしろ。試合頑張れよ」
大黒誠「・・・じゃあな」
〇幻想空間
死神の娘「そうだったんですね。あの最後の一球を投げる為に生き返ったんですね」
大黒誠「ああ。おかげでもう本当に思い残す事は何もない。どれだけ痛い事がこの先あっても耐えられる」
死神の娘「それなんですけどね。お父さんに詳しい話を聞いたんです」
死神の娘「そうしたら、一度生き返ってしまうと、現世への未練が出てきてしまい、そのままあの世へ行かなければならないから」
死神の娘「それが苦痛になるってことみたいです」
大黒誠「じゃあつまり痛い思いはしなくてすむってこと?」
死神の娘「そうですね。現世への未練がないのであれば、心が痛むこともないので、問題ないってことです」
大黒誠「そっか・・・」
死神の娘「だから安心して家族の元へ行ってください。さあご案内しますよ。こちらです」
大黒誠「ああ、よろしく頼むよ」
〇幻想2
死神の娘「野球かー。そんなに面白いのかな?」
死神の娘「私も何か熱中できるような事に出会えたらいいなー」
死神の娘「でも今は、死神の仕事がなんだかんだで大変だけどやりがいあるし」
死神の娘「私にとっても死神の仕事が、彼にとっての野球みたいに大切なものになるといいな」
死神の娘「さて今日もよく頑張った。私」
死神の娘「次の魂を導きにいこうかな」
死神の娘「次はどんな魂と出会えるかな」