第5話 彼女が自宅にいる理由(脚本)
〇テントのある居間
穂高亜樹「どうしてそんなに家を出たくないんだよ」
晴菜ハル「亜樹には、関係ない」
〇学生の一人部屋
穂高亜樹「関係ない、か・・・はぁ」
穂高アキ代「関係ないって言うんだったら 関係ないんじゃないのかい。 知らないけど」
穂高亜樹「おかん!? だから勝手に部屋に入るなって!」
穂高小鳥「ハル姉ちゃんに言われたの? ヤバくない?」
穂高亜樹「お前もだよ小鳥!」
穂高アキ代「ケンカしたのかい? そう言えば最近 ハルちゃん家に行かないしねえ」
穂高小鳥「おかげで野菜の在庫切れて 困ってるんだけど!」
穂高亜樹「そんなこと俺に言われても」
桜井桜子「おかげでハルがカレー作って くれなくなったぞ、どうしてくれる」
穂高亜樹「そんなこと俺に・・・ ていうかなんで桜子姉ちゃんまでいるの!」
桜井桜子「亜樹、どうにかしろ」
穂高亜樹「・・・何をですか?」
桜井桜子「ハルが引きこもっちまった」
穂高亜樹「・・・元から引きこもりじゃ?」
〇テントのある居間
桜井桜子「ハル! いい加減出てこい!」
穂高亜樹「・・・反応ないですね」
桜井桜子「この調子だよ。家の中に張った テントの中から出てこないんだ」
穂高亜樹「引きこもりイン引きこもり・・・」
桜井桜子「せっかく帰ってきたってのに カレーが食えねぇ」
穂高亜樹「自分で作ればいいじゃないですか、 カレーくらい」
桜井桜子「アタシが作れる訳ないだろ」
穂高亜樹「偉そうに言わないでくださいよ」
桜井桜子「つーわけで、亜樹。カレー作って」
穂高亜樹「えっ?」
桜井桜子「カレーくらい作れるだろ。 こないだもピザ作ってくれたじゃんか」
穂高亜樹「あれは具を載せて焼いただけで・・・ カレーは作り方くらい知ってるけど、 ちゃんと作ったことは・・・」
桜井桜子「わーったよ、アタシも手伝うから! 2人いればなんとかなるだろ」
〇テントのある居間
穂高亜樹「・・・なんとかなったんですかね、コレ」
桜井桜子「おい、なんでカレーにモチが入ってんだ?」
穂高亜樹「それは桜子姉ちゃんが入れた きりたんぽです」
桜井桜子「アタシ、なんでカレーに きりたんぽ入れたんだろ?」
穂高亜樹「こっちが知りたいですよ!」
桜井桜子「あと何で青いの? ブルーカレーってある? グリーンカレーの親戚?」
穂高亜樹「ないですよそんなもの。 ブルーベリーが溶けたんですね」
桜井桜子「ま、とにかく食おうぜ。亜樹も食うよな? せっかくアタシが作ってやったんだから」
穂高亜樹「食べますよ食べますよ」
桜井桜子「じゃあ外行こうぜ。カレーと言えば外だ。 あとはビール、お前も飲むよな?」
穂高亜樹「何度も言うけど高校生です」
桜井桜子「じゃアタシの分だけ・・・ どうした? さっさと庭に行こうぜ」
穂高亜樹「えっと、その・・・ハル?」
穂高亜樹「モチ、食べる? いやきりたんぽだけど。 じゃなくてカレーだけど」
桜井桜子「なに1人で漫才してんだ」
穂高亜樹「・・・カレー食べるかなって」
桜井桜子「ハル! カレー置いとくから腹減ったら食えよ」
穂高亜樹「・・・反応ないですね」
桜井桜子「ま、食いたきゃ食うさ。ほっとけ」
穂高亜樹「は、はい」
〇川のある裏庭(発電機あり)
穂高亜樹「桜子姉ちゃん、カレーのおかわりは・・・」
桜井桜子「スヤァ」
穂高亜樹「相変わらずあっという間に寝るな・・・」
桜井桜子「ふぁー、よく寝た」
穂高亜樹「起きるのもあっという間ですね!?」
桜井桜子「で、ハルのことだけど。 亜樹と何かあったんだろ? 教えろよ」
穂高亜樹「何かっていうか・・・ 修学旅行に誘っただけですよ」
桜井桜子「修学旅行? どこに行くの?」
穂高亜樹「北海道の雪山でスキーです」
桜井桜子「雪山ね・・・それで?」
穂高亜樹「学校じゃなくて山なら行くかもなって 思ってたのに、ハルは行かないって」
穂高亜樹「どうして行きたくないんだって聞いたら、 亜樹には関係ないって・・・」
桜井桜子「まあ、山はまだムリだろうな」
穂高亜樹「山は?」
桜井桜子「いつか行けるようになるかもしれない けど、気長に待ってやってよ」
穂高亜樹「はぁ・・・?」
穂高亜樹「・・・あ、あの。 ずっと聞こうと思ってたんですけど」
桜井桜子「何だ?」
穂高亜樹「どうしてハル、引きこもってるんですか?」
桜井桜子「んー、引きこもってるっていうか・・・ サバイバル、してんのかな」
穂高亜樹「サバイバル?」
桜井桜子「そう。 生きるために、家の中に閉じこもってんの」
穂高亜樹「・・・どういう意味ですか」
桜井桜子「うちの親父、 ハルが高校に進学する前に死んだんだよ」
穂高亜樹「え? 親父さんが!? そんなこと、ハルひと言も・・・」
桜井桜子「まあ、こんな時勢だし、 葬式は身内だけで済ませたんだ」
穂高亜樹「そんな・・・ 連絡くらいくれてもいいじゃないですか」
桜井桜子「亜樹は親父と仲良かったもんな。 キャンプに連れて行ってもらったり。 連絡しなくて悪かったよ」
桜井桜子「でもハルが言いたがらなかったんだ。 たぶん、まだ認めたくないんだよ。 親父が死んだってことをさ」
穂高亜樹「・・・親父さんはどうして?」
桜井桜子「外国の雪山で遭難死。難しいルートを 登っててさ、死体も降ろせなくて、 まだ山の中にある。だから遺骨もない」
桜井桜子「うち、母親は早くに死んでるし、 ハルは父親っ子だったから、 気持ちの踏ん切りがつかないんだろうな」
穂高亜樹「・・・そうだったんですか」
桜井桜子「でも何とか立ち直って 元の生活に戻ろうとしてんだよ」
桜井桜子「そのために、今は家に閉じこもって 気持ちを整えてんの」
桜井桜子「まあ、引きこもりすぎて、出るタイミングがわからなくなってる感も否めないけどな」
穂高亜樹「・・・そうだったんですね」
そう言えば、ハルはこう言っていた。
〇黒背景
晴菜ハル「・・・私も、同じだから」
〇川のある裏庭(発電機あり)
俺が、怪我を理由にして
野球から逃げたって言ったときだ。
その時は何が同じかわからなかったけど、
ハルは自分も逃げてるって言ったんだ。
辛い出来事に背を向けて、
閉じこもってるだけだって。
でもそうしてるのは、辛い時期を耐えて、
もう一度前に進むためなんだ。
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