第1話 自宅内生存少女(脚本)
〇山並み
穂高亜樹「ハル!」
晴菜ハル「アッくん」
穂高亜樹「約束する。俺、絶対にお前を 甲子園に連れてってやるから!」
晴菜ハル「ムリだと思う」
穂高亜樹「えっ」
晴菜ハル「だって野球やめたでしょ」
穂高亜樹「え、あ、その」
晴菜ハル「たいした怪我でもなかったくせに」
穂高亜樹「ど、どうしてそれを」
晴菜ハル「そんなヘタレな男・・・」
晴菜ハル「私、大っきらい!」
穂高亜樹「うわあああ!」
〇学生の一人部屋
穂高亜樹「うわあああ!」
穂高亜樹「って・・・なんつー夢だ」
穂高亜樹「あんなこと言ってないし、 そもそもアッくんとか呼ばれたことないし」
穂高亜樹「でも、学校に行ったらハルに会うよな。 ホントにヘタレくらい 言われちゃうかも・・・はぁ」
穂高亜樹「学校、行きたくない・・・」
穂高アキ代「朝からため息かい。辛気臭いねぇ」
穂高亜樹「おかん!? 何で部屋の中にいるんだよ!」
穂高アキ代「息子の寝顔くらい見てもいいじゃないか。3年ぶりなんだから」
穂高亜樹「高校生の息子にすることかよ」
穂高アキ代「学校、行きたくないのかい」
穂高亜樹「いや、まあ、何となく」
穂高アキ代「ハルちゃんに会わす顔ないんだろ」
穂高亜樹「う」
穂高アキ代「甲子園に行くとか偉そうに言って、 野球名門の中高一貫校に行ったくせに」
穂高アキ代「高校生になってちょっーと怪我しただけで 野球を諦めて地元に戻ってきたなんて、 ハルちゃんどう思うかねぇ」
穂高亜樹「べ、別にハルがどう思おうと」
穂高アキ代「だってあんた、ハルちゃんのこと好きだろ」
穂高亜樹「@*+¥&%!」
穂高小鳥「母ちゃん、その辺にしてあげて。 兄貴のライフはもうゼロだよ」
穂高亜樹「なんで小鳥もいんだ!」
穂高小鳥「兄貴の寝顔くらい見てもいいじゃん。 3年ぶりなんだから☆」
穂高亜樹「お前そんなブラコンじゃないだろ・・・」
穂高小鳥「兄貴、ハル姉ちゃんに会いたくないの?」
穂高亜樹「あ、会いたくないというか」
穂高小鳥「ハル姉ちゃん、学校行ってないよ」
穂高亜樹「え?」
穂高小鳥「あ、今日から物資は 兄貴に持ってってもらおうよ」
穂高亜樹「え? 物資って?」
穂高アキ代「そうね。亜樹、この煮物 ハルちゃんに持ってっとくれ」
穂高亜樹「なんで俺が」
穂高小鳥「だって兄貴、 ハル姉ちゃんのこと好きじゃん」
穂高亜樹「@*+¥&%!」
〇綺麗な一戸建て
晴菜ハルは、隣の家に住む幼馴染だ。
おかんの言う通り、野球部をやめた俺は、
野球名門校を退学した。
地元の高校に編入して、二学期、つまり
今日から通うことになっているのだが、
その高校にはハルがいる。
何て言われるか怖くて、
顔を合わせたくない。
我ながら女々しい・・・ハルとは真逆だ。
元レンジャー隊員の父親に育てられた
ハルは意思の強い女の子だ。
自分のことは自分で決めるし、
困難は自分の力で打開する。
小学生の頃にキャンプで
道に迷ったときも・・・
〇森の中
6年前
穂高亜樹「僕たち遭難しちゃったのかな・・・」
晴菜ハル「落ち着いて。まずは持ち物の確認。 持ってる物を見せて」
穂高亜樹「・・・タオルと双眼鏡」
晴菜ハル「私は懐中電灯とチョコ。水分がない。 さっきの湧き水のとこに戻ろう」
晴菜ハル「あそこは周囲が見渡せるから、 体力を温存しながら助けを待つ」
晴菜ハル「大丈夫。パパが絶対見つけてくれるから」
穂高亜樹「う、うん」
〇川のある裏庭
冷静で、判断が的確で、
物事をやりとげる強さがある。
俺はそんなハルに憧れていた。
ハルに釣り合う男になりたくて野球に
打ち込んでたけど・・・このザマで。
そのハルが学校に行ってない?
きっと理由があるんだろう。
やりたいことが見つかったとか。
俺みたいに何となく行きたくないとか、
ヘタレな理由じゃなくて・・・
穂高亜樹「・・・ん? あのジャージ姿で 庭仕事してるのって、ハル? 雑草見つめて何やってんだ・・・」
晴菜ハル「・・・・・・」
ひょい、ぱくっ。
穂高亜樹「えーーーっ!?」
晴菜ハル「亜樹?」
穂高亜樹「ハ、ハル!? あ、え、その・・・」
晴菜ハル「ひさしぶり」
穂高亜樹「ひ、ひさしぶり・・・ていうか! 今雑草食べたよね!?」
晴菜ハル「これは貴重な栄養源」
穂高亜樹「栄養って、これ草じゃん!」
晴菜ハル「これはスベリヒユ。 癖がなくて食べやすい。亜樹も食べる?」
穂高亜樹「食べないよ!」
晴菜ハル「何か用?」
穂高亜樹「用って・・・あ、これ、おかんから・・・ 物資? とか言ってたけど」
晴菜ハル「ありがと」
穂高亜樹「えーと、その・・・」
穂高亜樹「・・・学校、行ってないんだって?」
晴菜ハル「うん。退学はしてないけど」
穂高亜樹「何かやりたいことがあるとか?」
晴菜ハル「・・・なんとなく」
穂高亜樹「え? 学校行かずに何やってんの」
晴菜ハル「家にいる」
穂高亜樹「ずっと? ほら、キャンプとか行かないの? 昔よくやったじゃん」
晴菜ハル「してる。ほら」
〇テントのある居間
〇川のある裏庭
穂高亜樹「え? ・・・は!? なんで家の中にテント張ってんだよ!」
穂高亜樹「そういうことじゃなくて、 ほら、山に行ったりとかさ?」
晴菜ハル「家から出たくない」
穂高亜樹「・・・お前、どうしちゃったの」
晴菜ハル「他に用は? なければ私、 やることがあるから」
穂高亜樹「よ、用はないけど・・・」
晴菜ハル「じゃ」
穂高亜樹「・・・あいつ、どうしちゃったんだ」
〇川のある裏庭(発電機あり)
とまあ、ハルとの再会はなんだか最低
だったけど、担任にプリントを押し付け
られた俺は、夕方再びハルの家を訪れた。
穂高亜樹「顔合わせづらいな。ポストに入れて 帰ろうかな・・・って、ええっ!?」
穂高亜樹「ハルの家の庭に塔が立ってる!?」
晴菜ハル「さっき完成した」
穂高亜樹「ハル!? 何だよあれ? てっぺんに 傘の残骸みたいなの乗ってるけど」
晴菜ハル「傘でできたブレードを風で回して、根本の 発電機で蓄電してる。つまり風力発電装置」
穂高亜樹「何のためにこんなもん作ったんだよ・・・ 工作ってレベルじゃねえぞ」
晴菜ハル「生きるため」
穂高亜樹「へ?」
晴菜ハル「実は電気とガスが止まってる」
穂高亜樹「は? 止まってる?」
晴菜ハル「お姉ちゃんに止められた」
穂高亜樹「なんでそんなことになってんの!?」
晴菜ハル「だから電気は自分で発電しなくちゃ ならない。そしてこれは亜樹の自転車を 改造した小型発電機」
穂高亜樹「何で俺の自転車改造されてんの! どうりでないと思ったよ!」
晴菜ハル「これで発電を手伝って」
穂高亜樹「はい?」
〇川のある裏庭(発電機あり)
穂高亜樹「ぜーぜー・・・電気作るって・・・ 大変なんだな」
晴菜ハル「当座の電力は確保できた。 お礼に珈琲淹れる」
晴菜ハル「これ体に塗って。ドクダミの焼酎漬け」
穂高亜樹「・・・これ、キャンプのとき 虫除けに塗ってたっけ」
晴菜ハル「そこの折りたたみ椅子に座ってて。 今焚き火台に火をつける」
穂高亜樹「焚き火していいの?」
晴菜ハル「田舎だし、派手にやらなければ」
穂高亜樹「あ、それ、キャンプのときに ハルの親父さんが珈琲淹れてたポット?」
晴菜ハル「パーコレーター。 抽出終わるまで少し待ってて」
――ポコポコ
穂高亜樹「はは、湧いてきた。 ホントにキャンプしてるみたいだな」
穂高亜樹「なんか・・・ホッとする」
晴菜ハル「そう」
穂高亜樹「・・・昔、ハルの親父さんに キャンプに連れて行ってもらって、 こうやって焚き火したよな」
晴菜ハル「うん」
穂高亜樹「俺、焚き火好きだったんだ。焚き火 してると、なんか素直になれる気がして」
穂高亜樹「普段言えないようなことでも、 ぽろっと喋れたりとか・・・」
晴菜ハル「うん」
穂高亜樹「・・・・・・」
穂高亜樹「・・・俺が野球やめた理由、聞いてる?」
晴菜ハル「小鳥ちゃんに聞いた。怪我したって」
穂高亜樹「そう言ってるけど、ホントは違うんだ」
穂高亜樹「前から才能に限界を感じてて、 やめるきっかけ探してただけなんだ」
穂高亜樹「だからたぶん・・・怪我を言い訳にして、 逃げたんだよ」
晴菜ハル「いいと思う」
穂高亜樹「え?」
晴菜ハル「逃げてもいいと思う。 生き抜くことがサバイバルの基本」
晴菜ハル「辛いときは、逃げてもいい」
穂高亜樹「そうかな・・・」
晴菜ハル「私も、同じだから」
穂高亜樹「え?」
晴菜ハル「できた。はい、珈琲」
穂高亜樹「サンキュ・・・ん」
穂高亜樹「子供の頃は苦いとしか 思わなかったけど・・・すげーうまい」
晴菜ハル「空、見て」
穂高亜樹「空? ・・・あっ」
〇星
〇川のある裏庭(発電機あり)
晴菜ハル「今日は流星群が見える日」
穂高亜樹「・・・すげーはっきり見える」
晴菜ハル「田舎だから」
穂高亜樹「・・・田舎も悪くないな」
晴菜ハル「うん、悪くない」
穂高亜樹「・・・あのさ」
晴菜ハル「なに?」
穂高亜樹「何かあったらまた声かけてよ。 俺でできることなら、手伝うから」
晴菜ハル「いいの?」
穂高亜樹「野球やめて暇だし」
晴菜ハル「ありがと」
穂高亜樹「べ、別にお礼なんて・・・」
晴菜ハル「亜樹」
穂高亜樹「ん?」
晴菜ハル「おかえり」
穂高亜樹「・・・ただいま」
帰ってきてわかったこと。
①田舎も悪くない。
②外で飲む珈琲はめっちゃうまい。
③ハルが引きこもりになってた。
④それでも俺は・・・
やっぱりハルが好きだってこと。
自宅内で知識を駆使して生きる。かっこいいですね
部屋でキャンプを張る高校生。次に理由が気になる展開ですね。面白かったです
こんにちは!
専門的な知識盛りだくさん、見たことない題材、恋愛要素あり、すごく面白いです!