第二話 泉の妖魔(脚本)
〇古いアパートの居間
空聖「おいっ!白栴ー! 茶!」
白栴「・・・何度言えばわかるんですか! お茶くらい自分で淹れて下さいっ!」
白栴の家に用心棒として暮らし始めた空聖は、思うがままに白栴をこき使っていた。
空聖「おっ?いいのかよ? オレ様にそんな口きいて・・・。 1人じゃ、この家の敷地もロクに出れねークセに?」
白栴「うっ・・・! うるさいなぁ! 爺様特製のお札と包帯があれば・・・大丈夫だもんっ!」
白栴は、そう言って痣のある方の腕を掴む。
空聖「ま、逆を言えば・・・ソレがねーとダメって事だよなぁ?」
白栴「うぅ・・・!」
白栴の爺様「ハハハッ! 今日も白栴と空聖殿は仲が良いな!」
白栴「じ、爺様〜!」
空聖と白栴のいつもの言い合いを白栴の爺様は眺めるのが近頃の日課になっていた。
白栴の爺様「そう言えば・・・白栴、もうすぐ甘露の日があるのを忘れてはおるまいな?」
白栴「あっ!そうだった! 裏山の甘露の泉に行かなくちゃ!」
空聖「甘露?」
白栴「うん! ここら一帯を守ってくださっている神様の誕生日を祝うお祭りの事だよ」
白栴の爺様「儂らは、代々・・・裏山の甘露水を麓の家に配って回る役割をしているんじゃが。 今年は、その役割を白栴に任せようかの?」
白栴「えっ!!」
空聖「何だ?何だー? 楽しそうじゃねーかよ!」
白栴「で、でも・・・爺様・・・。 私、みんなに嫌われてるし・・・!」
白栴の爺様「大丈夫じゃて。 今年は、心強い用心棒殿もついている。 おまえも、もう少し村の皆と仲良くするべきだと思っての?」
白栴の爺様「とりあえず、空聖殿と共に裏山へ甘露水を汲みに行って来なさい」
〇睡蓮の花園
白栴と空聖は、大きな水甕を抱え甘露の泉へと向かった。
白栴「って、そんな大きな水甕じゃなくても・・・良かったんじゃ・・・? お、重くないの?」
空聖「ヘヘッ! こんなモン、軽ぃ♪軽ぃ♪ ま、大は小を兼ねる!! たくさん汲んで、村の人達にたくさん配ろうぜ?」
空聖「それにしても・・・いい泉だなぁ! 甘露って言うんだから、甘いのか!?︎ ・・・どれどれ、一口・・・」
白栴「だ、ダメッ!!」
白栴が静止するのと、空聖が泉の甘露水を口に含むのは同時だった。
すると、泉が急に荒ぶる。
空聖「なんだ? なんだぁ!?」
白栴「この泉の水は、汲んで持って帰ってもいいけど・・・その場で飲んじゃダメなのっ! 飲んだら妖魔が現れるって言われてて・・・」
空聖「妖魔?」
すると、泉の中心から空聖めがけて水の斬撃が襲いかかる。
それを難なく空聖は腕一つで弾き返す!
空聖「ハハッ! 面白ぇなぁ! おい!水ん中に隠れてねーで出て来いよ! オレ様が相手してやんぜ?」
すると、再び水の斬撃が水龍の形になって空聖を襲う!
白栴「わわわわわわっ!! 空聖さんっ!!」
空聖は、水龍に怯むことなく弾き飛ばす!
そして、フッと掌に息を吐きかけると・・・炎を纏った竜巻が泉の中心に繰り出される!
その衝撃で、泉の中心が露わになり・・・そこに1人の青年が忌々しそうに空聖を睨んで立っていた。
天玉「チッ!!」
空聖「んだよ? もう、終わりかー?」
天玉「忌々しい・・・この攻撃・・・!」
天玉「空聖っ!! オマエ! 生きてたのか!?」
空聖「ハハハッ! やっぱりお前か!天玉(てんぎょく)!! 久しぶりだなっ!」
白栴「へっ!? し、知り合いっ???」
空聖「相変わらず、ケチくせぇな? 泉の水くらい、飲んだっていいだろ?」
天玉「何を言うっ! この泉は、功徳(くどく)様との"約束"の泉!! そう易々と口にされては堪らんっ!」
"約束"
その言葉に、白栴の心がざわめき立つ。
白栴「なんだろう? "約束"?」
天玉「おいっ!女!」
白栴「へ!? は、ははははいっ!」
天玉「まさか、その甕いっぱいに水を汲んで行く気か?」
白栴「あっ、いえ! 甕の・・・は、半分くらい汲んで行こうかとー・・・って、あっ!」
そこで、白栴は甕の中を覗き込んで驚く。
空聖「ん? どうしたよ?」
白栴「ごめんなさい! 甕の中に・・・いつの間にか魚が・・・!」
白栴「ほらっ!泉にお帰り・・・。 甕の中に入っちゃダメだよ・・・!」
その光景を見て天玉は、目を見開く。
天玉「まさか・・・功徳様?」
白栴「あ、あのあの! 魚は持って帰りません! 甘露水も少しだけ分けて欲しいだけですっ!」
空聖は、面白そうに白栴と天玉を眺めていたかと思うと・・・徐に白栴の痣のある方の腕を掴む。
空聖「そうだ!天玉! ちょっと面白ぇモンがあるんだよ! まぁ、落ち着いて・・・これ、見てみ?」
白栴「え!? ちょ!ちょちょちょちょっと! 何するの!?」
空聖は、白栴の腕に巻かれた包帯を剥がし取る。
すると・・・その場に・・・妖魔を惹きつける甘い香りが漂い、蓮の花の痣が露わになる。
天玉「その痣・・・!! まさか・・・本当に・・・? 功徳様・・・?」
白栴「な、ななな! 何てことするのよー!! 早くっ!早く、包帯返してっ! 妖魔が寄って来ちゃうじゃないっ!」
空聖「安心しろって! 妖魔が寄って来てもオレ様達が蹴散らせてやるからよ! な?天玉?」
天玉と呼ばれた青年は、何かを考え込むように目を閉じる。
そして、白栴に近付くと・・・膝を折り、白栴の痣のある腕にそっと触れた。
天玉「・・・永く・・・永く・・・功徳様に再び逢える日を・・・待ち望んでおりました・・・」
天玉「この腕の印は・・・我らの誓いの証・・・。 姿形は変わっても・・・この天玉、再び功徳様にお仕えしたい所存」
白栴「え・・・えーと・・・? 何かよく分からないですが・・・人違いじゃ・・・? く、空聖さーん?」
そう言いながら、白栴は空聖を仰ぎ見る。
空聖「ハハハッ! 良かったなー!白栴。 下僕が手に入って!」
白栴「げ・・・下僕?」
白栴「と、とにかく! 何かよく分からないけど・・・ か、甘露水・・・少し分けて欲しいんですが・・・?」
空聖「天玉、白栴もこう言ってんだ。 ケチケチせずに汲んで行ってもいいだろ?」
天玉「ああ。功徳様の頼みなら仕方ない。 その甕いっぱい甘露水を汲んで行く事を許そう」
白栴「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
かくして、白栴と空聖は無事に甘露水を手に入れた。