盤上のリトルマーメイド

望月 風花

エピソード7(脚本)

盤上のリトルマーメイド

望月 風花

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〇街中の道路

〇一戸建て

〇男の子の一人部屋
日笠 さとる「へ~手話の動画ってこんなにあるんだ」
  家に帰ってからも
  ひたすら手話の練習をした。
  動画サイトで検索すると
  初心者用から日常会話用、
  有名曲に合わせた手話なんてのもあった。
  これまで熱中したものなんてなかったのに、
  僕は寝食を忘れるほど手話に夢中になった。
日笠 さとる(一日でも早く、 雨宮さんと語り合いたい)

〇田舎の学校
  ──3カ月後
日笠 さとる「『テスト、難しかったね』」
  夏休み前の中間テストが終わったその日、
  僕は雨宮さんに手話で話しかけた。
日笠 さとる「『数学の問3の答えって Y=5で合ってる?』」
雨宮 ゆりか「『あれはひっかけ問題。 答えはY=10だよ。 2をかけ忘れてるね』」
日笠 さとる「『まじか、やっちまった!』」
雨宮 ゆりか「『やっぱり日笠君って・・・』」
  彼女は右手でキツネの形を作り、
  口をパクパクさせた。
  その意味は知っている──
雨宮 ゆりか「──おバカさん──」
  4月にチェス部に入部してから
  3か月が過ぎた。
  この3か月間、必死に手話を習得し、
  どうにか日常会話はできるようになった。
  もちろん、雨宮さんの教え方が
  上手なおかげだ。
日笠 さとる(ここまでくれば大丈夫。 気合い入れろ!)
日笠 さとる「『あの、夏休みなんだけど・・・』」
日笠 さとる「『よかったら遊びに行かない?』」
  言った。言っちまった!
  迷惑じゃなかっただろうか・・・
雨宮 ゆりか「『いいよ。どこに行く?』」
  やった! OKされた。
  鼓動が速くなる。落ち着け。
  
  昨日の練習通りに雨宮さんを
  映画に誘うんだ。
日笠 さとる「『ド、ドッグマン2を観に行かない?』」
雨宮 ゆりか「・・・」
雨宮 ゆりか「・・・」
  あれ? 
  あの映画は好きじゃなかったのかな・・・
  
  いや、好きじゃないなら
  スタンプには使わないだろう──
  と、ここまで考えたそのとき、
  僕は致命的なミスに気がついた。
日笠 さとる(しまった!  彼女は耳が聞こえないんだ。 映画なんて行きたいわけがない)
  まずい、デリカシーのないやつだって思われた。
  
  僕は焦ったが、もうどうしようもない。
  現実のコミュニケーションには
  LIMEのような取り消し機能はないのだ。
雨宮 ゆりか「『・・・。いいよ・・・。 そのかわり字幕でもいいかな?』」
日笠 さとる「『ごめん、無理しなくていいよ。 僕の配慮が足りなかったね』」
雨宮 ゆりか「『ううん、違うの。 私は映画が好きなんだけど・・・』」
雨宮 ゆりか「『いままでの友達は気を遣って、 誘ってくれなかったから・・・』」
雨宮 ゆりか「『日笠くんは他の人と 違うんだって驚いただけ』」
日笠 さとる「『本当にいいの?』」
雨宮 ゆりか「『もちろん!』」
  こうして僕らは初デートの約束をした。

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