エピソード6(脚本)
『もしよかったら・・・』
こんな不躾なお願いをしたら、
嫌われてしまうかもしれない。
でも、途中まで送信してしまった以上、
もう後には引けない。
『僕に手話を教えてくれませんか?』
送った。送ってしまった。
これはつまり、
あなたともっと会話がしたい、
仲良くなりたいという意味。
僕にとっては告白に等しい行為だった。
日笠 さとる(キモがられたら、どうしよう・・・)
〇生徒会室
『いいよ。私もLIMEの会話が
ちょっとめんどくさいと思ってたの 笑』
自分でも呆れるくらい、
心が躍ったのがわかる。
『僕、頭悪いから覚えるの遅いと思う』
『迷惑かけると思うけど、よろしくね。
途中で嫌になったらいつでも言ってね』
『それはお互い様だから大丈夫』
そう言って彼女は
スタンプを送信してきた。
アメリカで大人気ヒーロー、
ドッグマンが「了解!」と言っている。
日笠 さとる(雨宮さんって ドッグマンが好きなのかな・・・)
〇生徒会室
『手話の基本は
相手の目を見ながら話すの』
『手だけの動きじゃ限界があるから、
ちゃんと表情も見せてね』
僕のスマホに
雨宮さんからのメッセージが表示される。
雨宮さんと目を合わせると、
僕の好意がバレるんじゃないかと思って、
つい目をそらしてしまう。
『こら、ちゃんと目を見なさい 笑』
雨宮さんに叱られるのが嬉しかった。
〇生徒会室
『中指と薬指を親指にくっつけて、
人差し指と小指はピンっと立てて・・・』
『ちょうどキツネさんを作るみたいに』
そういって、
彼女の右手はキツネになった。
そして、キツネの口をパクパクさせた。
その意味は・・・
──おバカさん──
最初は挨拶とか
自分の名前の練習かと思ったら、
まさかの侮辱する言葉。
いったい、
どのタイミングで使えばいいんだ。
というより──
『手話にそんな表現まであるなんて
知らなかったよ』
『なんでも信じちゃうんだね』
『これは私のオリジナルだよ 笑』
日笠 さとる「──なっ!」
そういって、
彼女はキツネを僕に向けて
また口をパクパクさせた。
彼女の顔はニヤニヤしていて
唇は「おバカさん」と動いている。
彼女にからかわれた恥ずかしさと、
そんないじわるをしてくるくらい
仲良くなれたのが嬉しかった。
〇田舎の学校
〇生徒会室
その後は普通にあいさつ、
あいうえお、自己紹介を習った。
しかし、どうも手の動きがわからない。
僕が混乱するたびに
雨宮さんが俺の手を握って
正しい動かし方を指導する。
不謹慎かもしれないが、
手話よりも雨宮さんと
手をつないだことに
意識が集中してしまった。
日笠 さとる(やわらかくて、温かい・・・)