エピソード4(脚本)
〇生徒会室
先攻は雨宮さん。
慣れた手つきで
キングの前のポーンを2マス動かす。
僕も同じく
キングの前のポーンを2マス進めた。
さらにc2-c4,c7-c6と続き、
ここまでは定石通り。
『僕は日笠さとるです。よろしくね』
僕はさっき雨宮さんと交換した
通話アプリのLIMEで
さっそく話しかけた。
『私は雨宮ゆりかです。
こちらこそよろしくお願いします』
ただの挨拶だけど、
返事をもらえたことが嬉しかった。
『雨宮さんって
チェスをどれくらいやってるの?』
『5歳くらいからかな。
昔はよく、お父さんとやってました』
『そんなに小さい頃からやってたんだ。
さすが、チェスの手つきがプロだよ!』
『なにそれ 笑』
ここで一旦、沈黙が訪れた。
なにか言わなきゃと
はやる気持ちとは裏腹に
なにも出てこない。
日笠 さとる(──休みの日は何してるの? (いやこれはプライベートに干渉しすぎか?))
日笠 さとる(──チェスは好き? (5歳からやってるんだから好きに決まってるだろ))
日笠 さとる(──実は僕、マンガも好きでね (いきなり話題を変えるなよ。 それにオタクみたいだろ))
まずい、
このままではつまらないやつだと
思われてしまう。
〇生徒会室
雨宮さんの方を向くと、
ニヤニヤこっちを見ている。
『日笠くんなんか
コテンパにしちゃうぞ?』
これから、「いじわるするぞ」っていう
イタズラ好きの顔だった。
〇生徒会室
〇生徒会室
『チェックメイト』
『負けました』
雨宮さんは右手をぎゅっと拳にして、
小さくグッと片手のガッツポーズをした。
そのポーズが愛らしくて、
僕はもう、雨宮さんの虜になっていた。
雨宮さんは最初の印象とは全然違った。
無視したかと思えば、
すごく話すのが好きな人
表情がないかと思えば、
喜んだり、いじわるしたり、
とても表情豊かな人だった。
会話をするのが
こんなにも楽しくなる日がくるなんて
思ってもみなかった。
そして、
その会話がこれから減っていくなんて
思いもしなかった。