エピソード2(脚本)
〇学校の廊下
智也「あの人は雨宮さん。 いつもあんな感じなんだ」
日笠 さとる「あんな感じって?」
智也「だから、1人でチェスをして 誰とも話したがらないんだよ」
日笠 さとる「な、何で!?」
智也「俺だって知らねえよ。 去年からずっとそうなんだ。 教室でも喋ってないらしい・・・」
そうか・・・
無視されたのは
僕だけじゃないんだ・・・
智也「たぶん人間と話したくないんじゃないか。 ついたあだ名は「盤上のリトルマーメイド」だし」
智也「ま、とりあえず今日のことろは もう家に帰ろうぜ」
〇街中の道路
雨宮さんって、
僕と家が同じ方角なのかな──
帰宅の途中、雨宮さんが僕の前を歩く。
風でスカートが揺れる。
たとえ後姿でも
雨宮さんを見ていられるだけで
幸せだった。
━━チリン、チリン・・・
俺の後ろから
チャリに乗ったおばさんが、
そこをどけと言いたげにベルを鳴らした。
日笠 さとる(たくっ、車道を走れよ・・・)
チリン、チリン・・・
再度、おばさんがベルを鳴らす。
ところが雨宮さんは
道を開ける気配がなかった。
チリン、チリン、チリン!
しびれを切らしたおばさんは
ちょっとした隙間を狙って
強行突破を決行した──
雨宮さんの顔がこわばっている。
おばさんの行動に驚いたというより、
自転車の存在そのものに
驚いているようだった。
日笠 さとる(雨宮さんってもしかして━━)
〇生徒会室
『僕と友達になってくれませんか?』
雨宮 ゆりか「・・・」
僕はスマホに入力した文字を
雨宮さんに見せた。
昨日の帰り道、
雨宮さんは自転車を
避けなかったんじゃない。
自転車の存在に気づいてすら
いなかったんだ。
つまり、彼女は耳が聞こえていない。
雨宮 ゆりか「・・・」
雨宮さんの返事を待つ。
イエスかノーで済むことなのに、
しばらく考え込んでいるようだった。
雨宮さんがスマホを見せてきた。
日笠 さとる(キモい、ストーカー、こっち来んなとか 書かれてたらどうしよう・・・)
判決を言い渡される被告人の気分だ。
━━私にチェスで勝てたらいいよ━━