ep.1 雲の底(脚本)
〇雲の上
ラノ(今夜は満月── また、誰かが・・・)
ラノ(・・・せめて、見届けるよ)
「大人しくしろ!」
男「いっ、嫌だ・・・ なんで俺なんだ!」
「そりゃお前が役に立てるのは これくらいだからさ!」
男「ひ、ひぃっ!」
「どこに逃げるつもりだ!?」
男「うぅ・・・」
男「あ、あぁぁ・・・」
「さあ喜べ! 皆、お前をきっと忘れないぞ」
「尊い犠牲だ・・・感謝するよ」
男「お、俺はもっと、自由に──!」
ラノ(・・・!)
男「いろんな──景色を・・・」
〇黒
〇雲の上
民「あいつ一人の命なんて安いものだ」
民「満月の夜に一人の犠牲・・・ それで竜達は我らを救ってくれる」
ラノ「・・・」
民「お前は──巫女様の”お気に入り”」
民「さっきの男を笑いに来たか? 本当はお前の番だったかもしれんぞ」
ラノ「彼が僕なんかの代わり? そんなの、彼に失礼だ」
民「お前もいずれは竜の胃袋行き・・・ あいつが一足早かっただけさ」
民「巫女様の気まぐれに せいぜい感謝するんだな」
ラノ「感謝・・・それもそうですね」
ラノ「僕なんかに恵みを与えてくださって ありがとうございます」
民「身分はわきまえているようだな」
民「ふん、胡散臭い」
ラノ(行ったな・・・)
ラノ(あんな安いセリフで満足か・・・ 相変わらずくだらない価値観だ)
ラノ「・・・ねえ、君」
ラノ「どうして君たち竜は 僕ら人間なんかに協力するの?」
ラノ「満月のご馳走はおいしい?」
ラノ「もう行くの?」
ラノ「君たちはいつから そうやって生きてるのかな」
ラノ「・・・うらやましいな、翼があって」
〇水の中
「ねえ、雲の底には何があるの?」
「──かつて”理想郷”と呼ばれたものだ 地上には人間が暮らしていた」
「チジョウ?」
「お前たちの言う雲の底には 陸と海が広がっていて」
「お前たちの知らない物が沢山ある」
「陸、海・・・ それに、知らない物が沢山──?」
「ね、いつか僕を連れてってよ」
「ああ、私の力が戻ったら お前の望みは叶えよう──」
「ラノ」
〇雲の上
空に浮かぶ雲の国──アークトピア
〇洞窟の深部
とある洞窟内にて
「ラノ」
「ラノ!」
ラノ「わっ!」
カルディア「とっとと目を覚ませ」
ラノ「なんだよルディ! 僕は昨日の夜ふかしで眠いの!」
カルディア「また人身御供を見ていたのか いい趣味だな」
ラノ「生け贄を喜んで食べる君の仲間こそ なかなかの趣味してるよ」
カルディア「仲間扱いするな・・・ まだ寝ぼけているのか」
ラノ「いいよね、ルディは眠らないんだから 朝の眠たさもわからないんでしょ」
カルディア「眠らないのではなく、眠れないんだ」
カルディア「無駄口はいいから、早く街へ行け 今朝は人間どもが騒がしい」
ラノ「へえ? 一応見に行くよ・・・ 知るに越したことはないからね」
カルディア「気をつけろ・・・不穏な気配がする」
ラノ「僕になにかあったら助けに来てよね」
カルディア「・・・そうだな、その時は この翼を千年ぶりに羽ばたかせよう」
ラノ「冗談だよ! ちゃんと飛べるようにしっかり休みなよ」
ラノ「それじゃ、行ってくる!」
〇西洋の街並み
ラノ(ルディの言う通り、嫌な感じがする)
ベスル「皆様、落ち着いて聞いてください」
ラノ(ベスル・・・”巫女”様のありがたいお話か)
ベスル「──私の予言は、真実です」
「もちろん、みんな信じてます!」
「今日はどんなお言葉を授けてくださるの?」
ベスル「・・・この国は──滅亡します」
「こ、この国が滅ぶ?」
「そんな──どうして!?」
ベスル「雲の底からやってくる、 私たちとは”違う”人間──」
ベスル「彼らによって、この国は滅ぼされるでしょう」
「雲の底に人がいるの・・・?」
ベスル「彼らは、私たちの知らない 不思議な力を持っています」
ベスル「たとえ竜の協力があっても 彼らの侵略から逃れるのは困難・・・」
「そんな! どうすれば!」
ベスル「ひとつだけ、方法があります」
ベスル「彼らがここへ来る前に 先に彼らを滅ぼしましょう」
「滅ぼすって・・・どうやって──?」
ベスル「ラノ」
ラノ「え?」
ベスル「あなたは、特別な竜と親密なようですね」
「特別な竜? あの生け贄候補がなんだって?」
ラノ「ど、どうしてルディを知って──」
ベスル「あの竜こそ、私たちの最後の希望・・・ 皆の盾、そして矛となってもらいましょう」
ラノ「ルディを何だと思ってる?」
ベスル「”兵器”です あれ無しでは私たちの滅亡は免れません」
ベスル「ラノ、あの竜をここへ」
ベスル「あなたが今まで生け贄を免れていたのは 私のおかげでしょう? 報いなさい」
ラノ「ベスル、そういうことだったのか やけに僕を特別扱いしてたのは」
「インチキ野郎! ツケを払え!」
「そうだ! やっと役に立てるときがきたんだぞ!」
ラノ「別に、役に立ちたくなんか・・・」
ベスル「──それがお前の本心ですか?」
ベスル「この国で人は皆── 時には竜とさえ助け合い暮らしているのに」
ベスル「あなたはその環から外れると言うの?」
ラノ「・・・僕は元からそこに入っちゃいない」
ベスル「許しません」
ベスル「ラノ、あなたにその気がなくても あの竜には協力してもらいます」
ラノ「協力? 利用の間違いだろ?」
ラノ「そんなの・・・僕は認めない」
ベスル「助け合わないどころか 皆の邪魔をすると言うのですね」
ベスル「・・・ラノ、そう言うのならば あなたにはもう望みません」
ベスル「誰か、ラノを縛りなさい!」
ラノ「──何の冗談?」
ベスル「あなたには交渉材料になってもらいます」
ラノ「こ、交渉材料・・・?」
ベスル「ええ、あの竜とあなたの間には 特別な絆があるようですから」
ベスル「あなたを人質にすれば あの竜は言うことを聞くでしょう?」
ラノ「──ルディは僕なんか・・・」
ラノ(・・・いや、きっとルディは 僕を助けようとしてしまう・・・)
ベスル「助けに来ますよね? 友ですもの・・・ 人間みたいでかわいらしいですね」
ベスル「喜ばしいことです」
ベスル「元は生け贄としての価値しかなかった あなたが、国を守る礎となれるのですよ」
ラノ(──そんなの、冗談じゃない)
ラノ(僕なんかのせいで ルディを利用されるわけにはいかない!)
ラノ「──ベスル、僕は君の駒じゃない!」
ベスル「待ちなさい!」
〇雲の上
ラノ(ダメだ、逃げ場がない・・・)
「追い詰めたぞ!」
「捕まえろ!」
ラノ(僕は何もできないまま ここで捕まるのか・・・?)
ラノ「──そんなの、嫌だ」
ベスル「観念しなさい、ラノ」
ベスル「この状況で、あなたに何ができるの?」
ラノ「ベスル・・・僕はせめて このまま捕まりたくはないんだ」
ラノ「だから、これが──僕ができる、精一杯だ」
ベスル「ラノ!」
何もできない僕なんかが
唯一できる精一杯・・・僕は──
「あ・・・あいつ、飛び下りたぞ!」
ラノ「僕は、ルディを信じるよ」
〇黒
〇雲の上
ラノ「ルディ!」
カルディア「無茶をするな・・・」
ラノ「君を信じただけだ」
カルディア「このまま地上に行くぞ」
ラノ「・・・!」
ラノ「うん!」
「あいつ、本当に竜を──!」
「なにか一人で話してるぞ!」
ベスル「下を目指しているようですが・・・」
ベスル「戻りなさい! 竜が長くは飛べないと知っているでしょう!」
ラノ「もちろん知ってる でも──ルディ、君は・・・」
カルディア「竜は巨体を休めるためにすぐ眠る 故に、長くは飛べない」
カルディア「しかし私は眠らない竜だ」
ラノ「眠らないんじゃなくて 眠れないんでしょ」
「巫女様・・・奴ら、戻りません」
ベスル「──ラノ! あなたはいつか後悔することでしょう」
ベスル「雲の底など滅ぼすべきだったと!」
〇空
ラノ「ルディ」
カルディア「なんだ」
ラノ「体の調子はもういいの?」
カルディア「ああ・・・休みすぎたくらいだ」
ラノ「そっか、よかった! ルディって本当に飛べたんだね!」
カルディア「当然だ・・・」
ラノ「すごい! アークトピアがもう見えないよ」
ラノ「・・・」
ラノ「・・・ベスルの予言は、本当かな」
ラノ「本当に、国は滅ぼされるのかな 地上の人たちは、どうしてそんなこと・・・」
カルディア「・・・自分の目で確かめることだ」
ラノ「──そうだね、僕はもう自由なんだから」
ラノ「自由に、いろんな景色を見られるんだ」
カルディア「そうだ・・・ お前の望みは叶えよう」
ラノ「・・・僕がこれから見るものを いつか、空に帰って教えられるかな」
ラノ「きっと、知らないから怖いんだ・・・ ベスルも、みんなも」
ラノ「ちゃんと知れば──きっと・・・ 何事も少しはよくなるはずだよ」
カルディア「そうかもしれないな」
ラノ「だから僕は、この世界のことをちゃんと ──あっ!」
ラノ「”地上”が見えてきた!」
カルディア「もうすぐ下りるぞ」
ラノ「あの青い水が海? それと、あれは──」
カルディア「──!! ラノ、伏せろ!」
ラノ「え──」
ラノ「ル、ルディ──!」
〇荒れた競技場
ラノ「う・・・ルディ・・・」
カルディア「・・・」
謎の男「・・・これは驚いた」
ラノ「君がやったのか?」
謎の男「さぁ・・・何のことやら」
ラノ「ルディに触るな!」
謎の男「ほう? 今、お前が立っているその地──」
謎の男「そこは我が帝国の領地でな つまりお前らは俺の管理下にある」
ラノ「な、何・・・? 管理下?」
謎の男「お前とそこの怪物は もう我が帝国のモノってことだ」
ラノ「そんな・・・」
ラノ(僕はまだ、自由になれないのか──?)
竜の背に乗って空を飛びたいなぁ、、、
空中都市アークトピア、竜との共存。ワクワクする設定で一気に引き込まれました! ファンタジーは設定が多いので説明っぽくなってしまいがちですが、ほとんどセリフでわからせているストーリーの運びに驚嘆しました。勉強になります。地上に降り立ったラノとルディに早くもトラブルが起きていましたが、一体どうなるのやら、次回も期待してます。
次から次へとやってくる試練。果たしてラノは乗り越えることができるのか⁉︎ BGMや効果音、エフェクトの噛み合いが絶妙でした!続きが楽しみ!