死神珍奇譚

射貫 心蔵

特別ゲストの死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

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〇養護施設の庭
  人外魔境・奇跡の森
  ここで
  愛・慎み・美を司る三美神が
  定期的にお茶会を開いていた
  愛の神エプロシネ
  慎みの神タリア
  美の神アグリー
  仲良し三姉妹が
  毎月旧知の神をゲストに呼び
  優雅に世間話をしようという試み
  さて、今回のゲストは?
死神「お招きいただき光栄です」
  コレ、焼いてきました
  よかったらどうぞ
「どうもご丁寧に!」
愛の神エプロシネ「ちょっと、誰よアレ呼んだの?」
愛の神エプロシネ「辛気臭いったらないわ!」
慎みの神タリア「まぁまぁ たまに趣向を変えるのも乙なものですよ」
美の神アグリー「その通り 死神なんて、普段は目も合わせない」
美の神アグリー「レアな体験だ」
愛の神エプロシネ「え、えーと まずは仮面をとったら?」
死神「私の姿は、死者か死に近い者 ごく一部の純真無垢な者にしか見えません」
死神「この仮面を被っている間だけ 皆さんに姿をお見せすることができるのです」
(くっら!)
慎みの神タリア「せっかく来ていただいたのです ざっくばらんにいきましょう 私たちのことは呼び捨てで構いませんよ?」
死神「ありがとう、お三方」
死神「嬉しいなぁ」
愛の神エプロシネ(なんか寂しそう)
慎みの神タリア(人間にも神々にも嫌われて──)
美の神アグリー(人生に恵まれてないんだなァ)
「・・・・・・」
  ようこそ奇跡の森へ! 歓迎いたします!!
  楽しい思い出にするべく
  三美神は誠心誠意、ゲストをもてなした
  ゲストもまた
  明るい雰囲気を壊さぬよう
  口を閉ざした
  死神の体験談など
  誰が好んで聞きたがろう?
  譲り合いが功を奏し
  会はつつがなく進行した
愛の神エプロシネ「ねぇ 死神さんの素顔ってどんななの?」
「見た~い」
死神「つまらぬ顔です」
死神「仮に眉目秀麗であっても アナタ方の足下にも及びますまい」
「キャッ! そんな、やっだぁ~!!」
美の神アグリー「アタイたちも困ってるんだ 男どもの目を引いちまうことに」
美の神アグリー「以前、勇気の神を招待したとき──」

〇養護施設の庭
勇気の神バハグー「・・・・・・」
「・・・・・・」
  ほとんど会話にならなかった

〇養護施設の庭
慎みの神タリア「戦の神、アレイズを招いたときも──」

〇養護施設の庭
戦の神アレイズ「女史諸君! 世の中力こそ全て!! 私のパワーで、三人とも娶ってくれよう!!」
  ぬぉぉおおおお!!!
  あれから約六時間
  命がけの鬼ごっこをするハメに

〇養護施設の庭
愛の神エプロシネ「知恵の神ポポを呼んだときなんて──」

〇養護施設の庭
知恵の神ポポ「ポポ、♀、好キ 三人トモ、好キ」
知恵の神ポポ「ウキャーッ! ウキキキーッ!!!」
「ポポさん! 言語言語!!」

〇養護施設の庭
死神「美しすぎるのも考えものですな 殿方の人生を、次々と狂わしてしまう」
「そんなことないですよー!!」
慎みの神タリア「コホン!」
慎みの神タリア「かつて私は人間界に興味津々でした 沸き立つ好奇心に押され、降臨しますと──」
美の神アグリー「タリアにのぼせた男どもが 争奪戦をおっぱじめたんだろ?」
慎みの神タリア「もうアグリーったら 先に言っちゃうんだから」
死神「・・・・・・」

〇黒
  タリア様は我が国に微笑んだのだ!
  いーや違う!
  我々に温情をお与えくださったのだ!!

〇荒廃した市街地
  敵を殺せ!
  タリア様を我が手に!!
  タリア様! 我々に勝利をお与えください!!

〇戦場
  タリア様バンザ~イ !!
  聖女タリアに栄光あれ!!

〇基地の広場(瓦礫あり)
兵士「はぁ、はぁ、俺はもうダメだ」
兵士「お、お嬢さん タリア様は我々に微笑んだんだよな?」
死神「慎みの神は万人に微笑みます 敵も味方もありません」
死神「己を特別視する愚かさを知りなさい」
兵士「う、うそだ」
兵士「タリア様、こそ、わが、いの、ち」

〇養護施設の庭
死神「その戦争ならよく知っています」
美の神アグリー「タリアよ アタイならもっと大きな戦争を 起こすことができるぜ」
慎みの神タリア「ほほう、どうやって?」
美の神アグリー「タリアの慎み深さは 確かに庇護欲を掻き立てるが──」
美の神アグリー「自分から攻めないことには 次のステップには進めない」
美の神アグリー「その点アタイは突進タイプ 自ら男を口説きにかかる」
美の神アグリー「上目遣いで相手を見て 「愛しています」と囁けばイチコロさ」
慎みの神タリア「確かにアグリーの甘言には 反発しがたい引力がありますからね」
愛の神エプロシネ「美貌と誘惑のダブルパンチね!」
美の神アグリー「これで世界の大半を盲目にできる 地球規模の大戦争だ!」
「やるぅ~!!」
死神「・・・・・・」
愛の神エプロシネ「タリアが受け身でアグリーが突進か」
愛の神エプロシネ「各々 長所を活かして男を虜にするようだけれど 一つ重要なことを忘れているわ」
愛の神エプロシネ「人口の半分は女なのよ?」
愛の神エプロシネ「愛の力で老若男女落とす!」
愛の神エプロシネ「これで全面戦争になるわ!!」
慎みの神タリア「その手がありましたか!」
美の神アグリー「盲点だったぜ!」
愛の神エプロシネ「こんなのはどう?」
愛の神エプロシネ「誰が一番大きな戦争を 起こせるか競争するの!」
慎みの神タリア「う~む 慎みを司る私には不利な条件」
美の神アグリー「それよか三人で世界中を 桃色に染め上げた方が面白そうだぜ!」
愛の神エプロシネ「あ、それいいかも!」
慎みの神タリア「人間たちがどう狂っていくか、見物ですね」

〇幻想2
  楽しげな三美神の会話を──

〇モヤモヤ
  死神は無言で聞いていた
  愛、慎み、美
  誰もが羨む美徳を
  司っているにも関わらず──
  当人らはこれらを独占し
  ゲームの材料にしてしまっている
  エプロシネの愛を他者へ向ければ
  恨み・辛み・憎しみの感情を
  根絶することができる
  タリアの慎みを分け与えれば
  思慮分別が身につき、蛮行を起こすまい
  アグリーの美を振りまけば
  表面だけでなく、内面をも輝かせ
  心身ともに充実させることができよう

〇養護施設の庭
死神「お三方、私を過労死させるおつもりか」
「し、失敬!」
死神「アナタ方は確かに美しい それは疑いようがありません」
死神「ですが一番大切な要素が欠落しておられる」
「大切な要素?」
死神「理解です」
死神「人々を虜にした後を考えてごらんなさい」
死神「彼らの人生はもうメチャクチャ 寝ても覚めても頭に浮かぶは アナタ方のことばかり」
死神「家族や友人を捨て置き 未来永劫、三美神の幻影にすがって 生きつづけるハメになる」
死神「鉄の鎖で拘束するようなものだ」
死神「鎖を解き 自由にしておやりなさい 人類に理解を示すのです」
愛の神エプロシネ「や~よめんどくさい!」
美の神アグリー「人類なんて、所詮我々の亜種だろう?」
死神「神を尊ぶ愛すべき隣人です 無下にしてはいけない」
慎みの神タリア「意外とロマンチストですね」
慎みの神タリア「蛮族に手を貸して何の得が?」
死神「人類は未だ発展途上 文明という自転車の ペダルを漕ぎはじめたばかり」
死神「進むも転ぶも補助輪(加護)次第」
死神「神々の威光は人類の信仰によって 保たれていることをお忘れなく」
美の神アグリー「アンタが人間を贔屓にしてるのは よくわかったよ」
美の神アグリー「でもな 三種の神器を授けても ヤツらが有効活用するとは思えない」
美の神アグリー「人類は高慢だ 叡智を身につけ、万能感に浸るや否や すぐさま神に挑戦し、なり変わろうとする」
美の神アグリー「バベルの塔を思い返してみろ 神々のヒンシュクを買い、言語を分断された」
死神「アレは彼らの落ち度です 弁護のしようがない」
死神「しかしながら、転んでも タダでは起きないのが彼らの強み」
死神「言語を分断されてなお 個々で協力し、独自の文化を築き上げた」
死神「失敗を成功の母とし、一歩前進する 進化の縮図です」
死神「今は蛮族でも ゆくゆくは神の盟友として君臨するでしょう」
愛の神エプロシネ「頑固だなぁ、死神さんは」
  ヒョイ、パク!
  エプロシネが手慰みに
  死神のクッキーを食べた瞬間
  風向きが変わった
愛の神エプロシネ「うまい!」
愛の神エプロシネ「ねぇ二人とも コレ食べてみなよ、すっごく美味しいよ !?」
「どれどれ──」
「Oh!!」
愛の神エプロシネ「死神さん、このお菓子は一体!?」
死神「人間界で流行のクッキーというものです」
愛の神エプロシネ「信じらんない!」
美の神アグリー「人間は毎日 こんなウマいモン食ってるのかよ !?」
死神「クッキーだけではありません」
死神「グルメ、娯楽、芸術など 様々な分野で目覚ましい発展を遂げています」
死神「私などは とりわけ音楽に興味がありまして」
(何、この枯れ果てた曲)
死神「人間界のラブソングです」
死神「ヒドイものでしょう? 三美神の加護なくして ラブソングは完成足りえません」
死神「一流の音楽には、一流の歌い手が必須」
死神「どうか私めに 魂のこもった美声を披露して頂けますまいか」
「・・・・・・」
「仕方ないなぁ、一回だけだからね?」

〇基地の広場(瓦礫あり)

〇基地の広場(瓦礫あり)

〇戦場

〇戦場

〇荒廃した市街地

〇荒廃した市街地

〇地球

〇地球
  三美神の歌声が
  世界を優しく包み込んだ!

〇養護施設の庭
死神(人類に幸あらんことを)
「どう、聴いてくれた?」
死神「感動という言葉では言い表せぬ 感慨にふけっております!」
死神「全人類を代表して、お礼を言わせて下さい」
死神「ありがとう エプロシネ、タリア、アグリー」
愛の神エプロシネ「やられた まんまと乗せられたわ」
死神「これでいいのです」
死神「感じませんか? 天啓を授かった、人類の新たな息吹きを」
「・・・・・・」
美の神アグリー「しっかしアンタの口笛、アリャなんだ?」
慎みの神タリア「テンでなってませんでしたね」
愛の神エプロシネ「これは特別授業が必要のようね」
死神「へ?」

〇空
  そりゃないよー!
  特別授業開始!!

次のエピソード:レトロフューチャーの死神

コメント

  • 確かに神は、人間を不要な争いと死に導く存在ですね。死神さんが至る前段階を、彼女らが作っているといっても過言ではなさそうですね。神と死神の対話、新鮮なアプローチを楽しませてもらいました。

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