エピソード1(脚本)
人生で一番楽しい瞬間は、
誰にもわからない
二人だけの言葉で、
誰にもわからない
二人だけの秘密や楽しみを
共に語り合っているときである。
──ダンテ・アリギエーリ
(イタリアの詩人)
〇生徒会室
〇生徒会室
──かわいい・・・
初めて女の子に目を奪われた。
目に飛び込んできた瞬間、
心臓が速くなったのがわかった。
陽の満ちる部屋のなか、
その子は一番奥のテーブルで
ガラスのチェスを指していた──
〇生徒会室
小さい手で優しく
乳白色のポーンをつかみ、
2マス移動させる。
相手のターンだが、
その席には誰もいない。
次に彼女は青のナイトを移動させた。
つまり彼女は一人で
二人分の駒を動かしていたのだ。
その手つきは慣れたもので、
いかに長い間、駒を扱ってきたかが
用意に想像できた。
そして、彼女の周囲の空間までをも
白く染め上げ、
上品な印象をかもし出していた──
〇教室
──さかのぼること、1時間前
智也「頼む! チェス部に入ってくれ!」
日笠 さとる「チェ、チェス部?」
智也「3年の先輩が卒業したから 誰か1人入れないと 廃部になっちまうんだ💦」
智也「頼むよ~。 部費は払わなくていいし、 名前を貸してくれるだけでいいんだ」
智也「あ、もちろんチェスで遊んでもいいし、 部室のロッカーは好きに使っていいから! な!」
〇生徒会室
智也「ここが部室だ。 好きに遊んでくれ!」
日笠 さとる「ああ。 思っていたより、けっこう人数がいるんだな」
日笠 さとる(他の部員は皆ペアを組んでる・・・。 余っているのはあの子だけ。 チャンスだ)
日笠 さとる「じゃ、じゃあ俺・・・ あのきょ・・・ いや、あの一番奥の子と対戦して来るよ」
智也「ん? あ、あの人は── おい、ちょっ・・・」
ドクン・・・
ドクン・・・
大丈夫だ。
落ち着け、俺!
僕と一局、勝負しない?
ほら、他に空いてる人がいなくて × 3
日笠 さとる「びょくと・・・」
━━噛んだ、思いっきり噛んだ
何だろう、恥ずかしいとか、
そーゆー感情じゃなくて・・・
そう、死にたい! スゲー死にたい
日笠 さとる「ん・・・んん! 僕と一局、勝負しない?」
雨宮 ゆりか「・・・」
日笠 さとる(え? 無視?)
どうしたらいいのか固まっていると、
後ろから智也が僕の肩をトントンと叩いた。
どうやら見ていられなかったようだ。
その目が「一旦外に出て俺の話を聞け」
と語っている。
部活にしても学校にしても、ときめき対象の相手ができると、会える時間が待ち遠しくなりますね。その相手が掴みどころのないミステリアスな感じだと、余計相手のことを知りたくて興味が膨らみそうです。
冒頭のダンテの詩が二人の今後の展開を予想させているように感じました。一時期チェスを勉強していたのでとても興味深いお話です。続きを楽しみにしています。