新婚の女性の話(脚本)
〇田舎町の駅舎
新婚の女性「流し屋さーん!!」
「おや、こんにちは」
新婚の女性「こんにちは、じゃなくて、こんばんはでしょ?」
新婚の女性「はい、差し入れ!」
「いつもいつも、気を遣っていただいて・・・」
「ありがとうございます」
新婚の女性「いいの!いつも話を聞いてもらってるもの!」
「あとで美味しくいただきますね」
新婚の女性「奥さんと仲良く分けてね!」
「・・・」
「はい、そうさせてもらいますね」
新婚の女性「きっと喜ぶと思うわ!」
新婚の女性「これ、半年待ちのお菓子だから!!」
「そんな貴重な物、良いんですか?」
新婚の女性「もちろんよ!」
新婚の女性「この慣れない土地で私の話を聞いてくれるのは」
新婚の女性「流し屋さんだけなんだもの!」
「都会からこちらに嫁ぐのは、さぞ心細かったでしょうね」
新婚の女性「確かにね」
新婚の女性「でも私、旦那さんを信じてるから!!」
「奥さんの鏡ですね」
新婚の女性「そーぉ?」
「もちろんですよ」
「まぁ、立ち話もなんですから、どうぞ」
新婚の女性「ありがとう!」
「さて、今日はどんな話を聞かせていただけるんですか?」
新婚の女性「今日話したかったのはね、」
新婚の女性「昨日旦那さんが3ヶ月記念日だからって、ケーキを焼いてくれたの!!」
「えぇ!?凄いですね」
新婚の女性「でしょう!?」
新婚の女性「もう本当に自慢の旦那さんなの!!」
新婚の女性「真っ赤な薔薇の花束も買ってきてくれるし」
新婚の女性「今日着てるこの服も買ってきてくれてね!」
新婚の女性「日本人とは思えないほど、愛の言葉も囁いてくれるし、」
新婚の女性「私、世界中で一番幸せなんじゃないかなって錯覚しちゃう!」
新婚の女性「愛される事ってこんなにも幸せなんだなぁって思うし」
新婚の女性「女に生まれてきて良かったな、って思うの!!」
「本当に、幸せそうで何よりです」
新婚の女性「本当に幸せだもの!」
新婚の女性「毎日、旦那さんの事を”早く帰って来ないかな?”って楽しみに出来るの!」
新婚の女性「友達は、少し旦那さんと距離を置きたくなるとか言ってるけど、」
新婚の女性「それって結局、惰性で結婚したからだと思うのよね!」
新婚の女性「私は妥協なんかしなかったし、」
新婚の女性「もうこの人しか居ないと思って結婚したから」
新婚の女性「本当に運命だと思うの!!」
新婚の女性「だからこそ、友達のところみたいに飽きも来てないし、」
新婚の女性「すっごく幸せ!!」
「旦那さんさえ居れば良い、って感じでしょうか?」
新婚の女性「大袈裟に言うとね!」
新婚の女性「でもやっぱり、こうして話したくなると言うか」
新婚の女性「幸せな話って、他人の話でも幸せな気持ちになれるじゃない?」
新婚の女性「だから、誰かにも共有したくなっちゃって!」
新婚の女性「結局のところ、話を聞いてくれる誰かは必要なのよね」
「ご友人の方にお話されたりは?」
新婚の女性「それがね!!」
新婚の女性「なんか分かんないけど、既読無視されちゃうっていうか!」
新婚の女性「最近、友達がどんどん連れなくなってきてね」
新婚の女性「私だってみんなの話を聞いてたのに、」
新婚の女性「どうして私の話は聞いてくれないんだろうって」
新婚の女性「もう、人間不信になっちゃうよ・・・」
「そうですね・・・」
新婚の女性「そうよね!?」
新婚の女性「分かってくれるわよね!」
新婚の女性「私が可笑しい訳じゃなかったんだ・・・」
新婚の女性「良かった・・・」
新婚の女性「もうでも心機一転しようと思ってるの!」
新婚の女性「あんな酷い人達とは縁を切って」
新婚の女性「新しい友達を作れば良いかなって!!」
新婚の女性「流し屋さんもその一人だって思ってるよ!」
「・・・」
「旦那さんが、余り良い気がしないんじゃないでしょうか?」
新婚の女性「そんな筈ないでしょ!?」
新婚の女性「流し屋さんも既婚者だし、うちの旦那さんは」
新婚の女性「本当に心が広くて、私の事が大好きなんだから!」
新婚の女性「私がこうしたいって言ったら」
新婚の女性「絶対許してくれる人だもの!」
「愛されているんですね」
新婚の女性「そうなの!!本当にそう思う!!」
「一度に喋って喉が乾きませんか?」
「これをどうぞ」
新婚の女性「ありがとう!」
新婚の女性「嬉しくなると一気に喋り過ぎちゃって」
新婚の女性「いただきます!」
「お気になさらず」
新婚の女性「うん、美味しい!」
「それは良かった」
新婚の女性「そう言えば、ずっと気になってたんだけど、」
新婚の女性「流し屋さんの話を聞いてくれる人っているの?」
「どうしたんですか?急に・・・」
新婚の女性「自分の話を誰かに聞いてほしいってならないの?」
「・・・」
「はい、妻が聞いてくれますから」
新婚の女性「そうだったのね!」
新婚の女性「何でも話し合えて、素敵なご夫婦だわ!」
新婚の女性「もしも奥さん以外に話したくなったら、いつでも話して!」
新婚の女性「友達として、何でも聞くから!」
「・・・ありがとうございます」
新婚の女性「良いのよ、気なんて使わないで!」
新婚の女性「水くさいじゃない!!」
「念頭に置いておきますね」
新婚の女性「ま、堅苦しさがウリでもあるものね!」
「ご夕飯のお時間は大丈夫ですか?」
新婚の女性「本当だわ!」
新婚の女性「それじゃあ、流し屋さん、また来るわね!」
「えぇ、いつでもいらしてくださいね」
「・・・」
不良の男子高校生「よ、流し屋」
「あぁ、こんばんは」
不良の男子高校生「さっきのおばさん、マジヤバかったじゃん」
「そんな事を言ってはいけませんよ」
不良の男子高校生「サンキュー」
不良の男子高校生「でも事実じゃん」
不良の男子高校生「幸せなマウント張りたいだけだっての見え見えだぜ?」
「大事なお客様なので、怒りますよ?」
不良の男子高校生「へーへー」
不良の男子高校生「ま、今日は話したい事あんだよ」
不良の男子高校生「耳貸せよ」
「かしこまりました」
「お話、お伺いいたしましょう」
そうなんですよ。愚痴は人に聞いてもらいやすいけど、幸せ話はなかなか「聞いて」とは言いづらいですよね😅
でもどっちも話せる相手がいいなぁ。流し屋さん、最高です💓
このお話にモデルがあったなんて…なかなか深い話ですね。前回のように愚痴や悩み相談が多いのかと思ったら、こんなパターンもあるんですね。人間の思考や悩みは複雑です…
あー、あるある。と、思わず頷いてしまいました。その違和感をさりげなく感じさせてくる表現力。流石です!