死神珍奇譚

射貫 心蔵

黒い影の死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

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死神珍奇譚
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〇モヤモヤ
  私はチャンク・レイジー
  退役軍人病院の入院患者だ
  枕の下に拳銃が一つ
  銃口をこめかみに当て、引き金を──
  スカ!
  スカ! スカ!
  弾が出ない
  スタッフに抜かれたんだ
  頼む、私を死なせてくれ!

〇荒廃した街
  私は二一三部隊に所属し
  市街の襲撃に駆り出されていた
  最前線といえば聞こえはいいが
  実際は仲間の足を引っ張ってばかりの
  お荷物軍人
  これといった取り柄もなく
  活躍する機会もないまま
  今の今まで生き延びた

〇血しぶき
  世の中は不公平だ
  私のような無能が生き残り──
  私より
  はるかに生きるに値する者が散っていった
  親友の三人も
  マックは料理番で
  独創的な新作を次々と開発
  自分の店を持つのが夢だと常々語っていた
  リュークは故郷に愛妻と二人の娘がいる
  よく娘たちの写真を見せてもらったっけ
  レンは漫画家志望
  殺伐とした軍隊において
  彼のユーモアは心のオアシスだった
  実の兄弟より仲がよかったが
  固い絆は一瞬にして──

〇殺風景な部屋
  二一三部隊は、私を置いて全滅
  私には特別な才能も、家族もない
  死んだところで、悲しむ人間は一人もいない
  なぜ生き残った?
  仲間への申し訳なさから
  あらゆる自傷を敢行
  リストカット
  飛び降り
  睡眠薬の過剰摂取
  首吊り未遂
  拳銃未遂
  etc
  あまりの多さに、簡素極まる特別室へ
  私はすでに死んでいた
  生きながらの死人だった
  生を拒み、死を渇望する
  人生そのものが蛇足なのだ

〇病室の前
  時に
  この病院には不思議な伝承がある
  よなよな患者を死に導く
  シャドウが出没するという
  口笛吹き吹き
  獲物の病室へ侵入するそうだが
  姿は誰も見たことがない
  おそらく悪魔や妖怪の類いだろう

〇モヤモヤ
  シャドウの正体について
  様々な憶測がなされた
  看護師が口笛を吹いていただけだの
  故人が悲しみを紛らわせるために
  口笛を吹いただの
  私はこう思う
  シャドウは本来戦場で死ぬべきだった者を
  あとから一人ずつ、然るべき場所へ
  連れていっているのではないかと
  運命のとりこぼし
  死神の見落とし
  定員漏れ──
  とにもかくにも
  若干の遅延はヨシとしようじゃないか
  人によっては死をおそれるだろうが──
  私のように
  生に罪悪を感ずる者には、むしろ吉報
  シャドウがいち早くわが病室へ
  足を運んでくれることを願う

〇病室の前

〇殺風景な部屋
  聞こえる、口笛の音が
  シャドウが現れたのだ!
チャンク「お~い、ここだ!」

〇病室の前
  私を殺してくれぇ~~~!!

〇病室の前

〇殺風景な部屋
  結局
  口笛が聞こえただけで
  私にはなにも起こらなかった
チャンク「やはり看護師が 吹いていただけだったか」
  ベッドへ駆け込み
  シーツを頭からひっかぶるや
  私は息を殺して泣いた
  口笛なぞに殺してくれと
  願った自分が情けなかった
  お荷物なだけでなく
  自分で死ぬ勇気もないとは──
  一体なんのために生きているのだ?

〇黒
  隣室のハリーが死んだと聞かされたのは
  翌朝のことだった

〇殺風景な部屋
  どうしてハリーが・・・・・・
  近々退院する予定だったというのに
  すると夕べの口笛は、やはりシャドウが?
  なぜだ、なぜハリーが選ばれた?
  奴と私の違いはなんだ!?
  チャンク・レイジー、訪問客です
  受け入れますか?
  私の元へジョンがやってきたのは
  夕方間際のことだった

〇病室の前
ドクター「ジョン レイジーが君と会うそうだよ」
ジョン「そうですか」
ドクター「彼は強い自殺願望の持ち主で 面会などもってのほかだが──」
ドクター「君と彼は特別仲がよかった 君なら塞ぎこんだ彼の心を 開かせることができるかもしれん」
ドクター「よろしく頼むよ」
ジョン「はい先生」
ドクター「あ、そうそう 入室する前に、ボディチェックを」
ドクター「クツヒモで首を吊ったり スプーンを飲み込んだり 些細なものでも自殺しかねないからね」

〇殺風景な部屋
ジョン「やぁチャンク」
チャンク「やぁジョン」

〇黒
  ジョン・オコナーは
  ハタチになったばかりの若者で
  私と妙にウマが合った
  生死観や道徳観、シャドウについて
  よく議論したものだ
  病室に入るなり
  彼の表情が曇っていくのを
  私は見逃さなかった

〇殺風景な部屋
チャンク「どうしたね?」
ジョン「夕べ、ハリーが亡くなったね」
チャンク「そのようだな」
ジョン「次は僕の番だ」
チャンク「どういうことだ?」
ジョン「昨日 シャドウが僕の部屋へきたんだ ハリーと一緒に」
  ジョンの話はこうだ

〇病室のベッド
  深夜
  彼が病室で寝入っていると──
  ドアを開けることなく
  室内に口笛の音がこだました
  そして──
  ジョン・オコナーさん
  明日の晩、アナタをお迎えに上がります
  犯行予告とでもいおうか
  シャドウの奴が日時を指定した
  話し方や声のトーンからして
  女性のものだったそうな
  ジョンはおそろしさのあまり
  眠ったフリをして返事をしなかった
  敵が去ろうとする間際
  ジョンはこんな声を聞いた
  あばよジョン、達者でな
ジョン「ハリー!!」
  病室には
  驚愕するジョンの姿しかなかった

〇殺風景な部屋
ジョン「夢だと信じたかったが 実際にハリーは亡くなった」
ジョン「次は僕の番だ」
チャンク「スタッフにはその話を?」
ジョン「したけど 「君は疲れているんだ」の一点張りさ」
ジョン「得体の知れない怪物が徘徊しているなんて 病院にしてみれば マイナスイメージにしかならない」
ジョン「シャドウの存在を知りながら隠してるんだ」
チャンク「連中のやりそうなことだ」
ジョン「あぁ、なぜ僕なんだ!?」
ジョン「僕はまだ死にたくない!!」
チャンク「ジョン シャドウが来るのは今夜だと言ったな?」
ジョン「そうだけど」
チャンク「私に考えがある もしかしたら 君を助けることができるかもしれない」

〇病室の前

〇病室の前

〇殺風景な部屋
チャンク「・・・・・・」
  ズボンのゴムに忍ばせた
  針金を折り曲げ、鍵穴へ差し込む
  カチャリ!
  解錠完了!

〇病室の前
  待ってろジョン、今いくぞ!

〇病室のベッド
  コンコン!
  チャンクだ、開けてくれ!
ジョン「チャンク、一体どうやって──」
チャンク「話はあとだ それより君はベッドの下に隠れろ」
  よーし
  シャドウ、来るなら来い!

〇病室の前

〇病院の廊下

〇病室のベッド
死神「ジョン・オコナーさん、お迎えに──」
死神「わっ!」
チャンク「よく来たな、シャドウよ」
死神「シャドウ?」
チャンク「ジョンはここにはいない 安全な場所へ逃がした」
死神「アナタ、私の姿が?」
チャンク「よく見えるよ、お嬢さん」
死神「どうやら常人より 死に近い位置にいるようですね」
チャンク「あぁ、死を切望している」
チャンク「ジョンの代わりに私を連れていけ!」
  なにを言うんだチャ──
  のしっ!(ベッドに尻を弾ませる音)
チャンク「オッホン!」
チャンク「どうかねシャドウ?」
死神「できない相談です」
死神「アナタの寿命は、もっとずーっと先のこと」
チャンク「なぜだ!?」
チャンク「ジョンはハタチになったばかり! 将来有望な青年だ!!」
チャンク「私のような残りカスとは違うんだよ!」
死神「それは劣等感からくるアナタの思いこみです」
死神「アナタは生きなければならない」
チャンク「ふふふ、わかったぞ」
チャンク「私には死ぬ価値もないと言いたいんだろう?」
チャンク「二一三部隊はみな勇敢で 仲間想いのチームだった」
チャンク「彼らには夢や希望、家族があった」
チャンク「帰りを待つ人々がゴマンといたんだ」
チャンク「真に生き残るべきは彼らだった」
チャンク「なぜ私を殺してくれなかった?」
死神「天の采配です 人間がアレコレ口を挟むことじゃない」
死神「アナタは幸運にも 地獄の戦火を生き延びることができた」
死神「誰もが渇望した生還を手にしたのです」
死神「アナタの死にたがりは 仲間への義理立てなんかじゃない」
死神「独りよがりのエゴにすぎません」
死神「生きなさい、仲間の分も」
チャンク「おい待て! まだ話が──」
チャンク「逃げるなシャドウ!!」
チャンク「・・・・・・」
チャンク「ジョン、やったぞ」
チャンク「奴を追い払──」
  ジョンはベッドの下で息絶えていた!

〇病院の廊下
  今回も、私一人が生き残ってしまった

〇殺風景な部屋
  どうやら私は
  史上稀に見る幸運に恵まれているらしい
  天文学的確率で
  九死に二生も三生も得てしまう
チャンク(天の采配か)
  ムダなあがきはやめ
  私は一年後に退院した

〇霊園の入口
  戦没者ノ墓

〇草原
  至るところに建てられた、十字架の山
  二一三部隊の墓を求めて
  私は歩き通した
  はたして、墓はあった
  私がここへ出向いたのは
  偶然か、それとも必然か
  ただ一度、来なければならぬと思った
  戦友たちは、無言の内に
  私にエールを送ってくれた

〇黒
マック「生きろチャンク! 命尽きるまで!!」
リューク「俺たちの分も幸せをつかんでくれ!」
レン「人間らしく生きることが 最高の幸福なんだ!」

〇草原
チャンク「わかったよ皆」
チャンク「私は生きる!」
ジョン「頑張れチャンク」
死神「しっかりね」
チャンク「・・・・・・」
チャンク「あぁ」

〇霊園の入口
  かくして
  私の第二の人生は
  ここからはじまったのであった

次のエピソード:特別ゲストの死神

コメント

  • 死を渇望する存在と、死を予告する死神さん。これまでとは異なった角度からの物語ですね。輝かしい生へ誘う死神さん、面白いアプローチですね!

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