2つの事件(脚本)
〇学校の屋上
深夜の学校
屋上から一人の少女が・・・
〇中庭
飛び降り、命を絶った
〇役所のオフィス
校長「皆さん、早朝から集まっていただき申し訳ありません」
校長「昨夜、わが校の生徒が屋上から飛び降り自殺を図りました」
校長「今現在も警察の捜査が続いています」
校長「先生方に置かれましては、捜査に協力しながら、生徒らに動揺が広がらないよう細心の注意をお願いいたします」
桐生陽一(速水京子・・・)
桐生陽一(校内きっての優等生が自殺か・・・)
〇学校の廊下
桐生陽一(しかし、昨夜からずっと警察が捜査を続けているとなると・・・)
桐生陽一(何か不審な点でもあったのだろうか・・・)
佐山郁美「先生!」
佐山郁美「先生、ちょっと桐生先生、待ってください!」
桐生陽一「ん?ああ、佐山先生、すいません何か?」
佐山郁美「「何か?」じゃないですよ、もう、さっきからずっと呼び掛けていたのに」
桐生陽一「申し訳ありません。少し考えごとをしていたもので」
佐山郁美「やっぱり!さっきの校長先生のお話、速水さんの自殺の件、気になりますよね」
桐生陽一「というと、佐山先生も何か気になることでも?」
佐山郁美「ええ、出勤時に少し屋上を覗いてみたんですが・・・」
佐山郁美「完全に立ち入り禁止になっていて、鑑識の方たちがものものしく出入りしていました」
桐生陽一「自殺でもそこまでするものなんですか?」
佐山郁美「そこなんですよ!」
桐生陽一「??」
佐山郁美「早々に自殺と結論付けられれば、普通あそこまでしません」
佐山郁美「おそらく何か事件性があると、警察はにらんでいるんですよ」
桐生陽一「なるほど」
桐生陽一「しかし先生、お詳しいんですね」
佐山郁美「へへ、実は私、だいの推理小説マニアなんです」
桐生陽一「以外ですね」
佐山郁美「とと、こんな時に少々不謹慎でした」
佐山郁美「あ、そうそう」
佐山郁美「教員も順番に、警察からの聴取があるみたいなんで、桐生先生もそのつもりでお願いしますね」
桐生陽一「わかりました」
佐山郁美「あっ、それと・・・」
桐生陽一「はい?」
佐山郁美「あれ?」
佐山郁美「もう一つお伝えしたいことがあったのですが・・・」
佐山郁美「忘れてしまいました」
桐生陽一「・・・・」
佐山郁美「あはは、思い出したらまたお伝えしますね」
佐山郁美「とりあえず、後で警察の聴取だけお願いしますね」
佐山郁美「それじゃ」
桐生陽一「聴取か・・・」
桐生陽一(1限までは時間がある。俺も屋上を少し見ておきたいな)
???「陽にぃ!」
三沢葵「ねえねえ、陽にぃ、屋上で生徒が飛び降りたって本当?」
桐生陽一「葵か、今朝は随分はやいな」
桐生陽一「あまり大きな声でそういうことを言うんじゃない」
桐生陽一「あと、学校では「先生」だろ」
三沢葵「いいじゃん、いいじゃん、まじめだな~、陽一お兄ちゃんは」
桐生陽一「だいたい生徒たちにはまだ詳細は知らされていないはずだぞ」
三沢葵「何言ってるのよ。あれだけ警察が上り下りしてりゃ、誰だって察しが付くわよ」
桐生陽一「まったく・・・」
三沢葵「で?3年の速水先輩なんでしょ? 自殺した生徒って」
桐生陽一「おい!いくら何でも、なんでそんなことまでお前が知ってる」
三沢葵「あー、えと、推理よ、推理」
三沢葵「大丈夫、自殺した生徒については、僕、誰にも言ってないから」
桐生陽一「なんか、怪しいな」
三沢葵「怪しくない、怪しくない、ね、ね、そんなことよりもさ、今から屋上観に行こうよ」
桐生陽一「ああ、丁度いまから向かおうとしていたんだ」
三沢葵「やったー、じゃ一緒に行こうよ」
桐生陽一「馬鹿言うな。お前はだめだ」
三沢葵「固いこと言わないでよ。1限が始まるまでまだだいぶ時間あるじゃん。さ、行こ行こ!」
言うなり、葵はさっさと屋上への階段を上り始めた。
桐生陽一「まったく、しょうがない奴だな」
〇屋上の入口
案の定、屋上へ出るための扉は、厳重に立ち入り禁止となっていた
桐生陽一(鑑識の数が多いな、念入りにゲソコンまで取っているぞ。自殺でここまでやるか?)
怪訝そうに向けられる警察の視線をものともせず、葵はキープアウトのテープの奥をしきりに覗き込もうとしている
三沢葵「うーん、よく見えないな・・・」
桐生陽一「さすがにテープをくぐって入るわけにもいかないし、もう戻るぞ・・・」
桐生陽一「っておい! 本当に入っていくんじゃない」
佐々木刑事「こらこら、立ち入り禁止が見えないのかお嬢ちゃん」
三沢葵「ひえ~」
桐生陽一「すいません」
桐生陽一「葵! ほら戻ってこい」
佐々木刑事「先生と生徒さんですか?」
三沢葵「そうだよ~」
佐々木刑事「丁度、事情聴取のために降りていくところでした」
佐々木刑事「今ここで少しお伺いしてもよろしいですか?」
桐生陽一「はい、かまいません」
桐生陽一「葵、お前はもう教室に戻っているんだ」
三沢葵「は~い」
佐々木刑事「ん?」
佐々木刑事「お嬢ちゃん」
三沢葵「なーに?」
佐々木刑事「いや、この学校の生徒は皆いつも裸足なのかい?」
三沢葵「あー、これね」
三沢葵「きっと今日だけだよ、刑事のおじさん」
佐々木刑事「そうかい、現場は何が落ちているかわからんから上履きを履いた方がいい」
三沢葵「わかった! じゃね~」
桐生陽一「それで、私は何をお答えすればよいのでしょうか」
桐生陽一「自殺した速水京子については担任の先生に聞かれた方が早いと思いますが」
佐々木刑事「ええ、被害者の人となりについてはすでにある程度の情報は得ています」
桐生陽一「被害者!?」
桐生陽一「ちょ、ちょっと待ってください」
佐々木刑事「先生、率直に申しますが、私どもはこの件を自殺とは見ておりません」
佐々木刑事「今はまだ、詳しいことはお教えできませんが・・・」
1限目開始を知らせる始業ベルが鳴った。
佐々木刑事「おっと、お時間をとらせてしまいましたね」
佐々木刑事「この件については、これから全ての教職員の方にお伝えした上で、先生にも改めて色々とお聞きすることになると思います」
佐々木刑事「ひとまずお名前だけよろしいですか?」
桐生陽一「桐生・・・、桐生陽一と申します」
〇教室
お昼の休憩時間、桐生は葵の教室を尋ねた。
三沢葵「わー! 陽にぃの方から僕を尋ねてきてくれるなんて感動だなぁ」
桐生陽一「「桐生先生」だ」
三沢葵「はいはい、桐生せんせ~」
桐生陽一「そんなことより」
桐生陽一「自殺した生徒が、なんで速水京子だって知ってたんだ?」
三沢葵「えっ、そ、それは~、えと、」
桐生陽一「正直に答えろ」
三沢葵「朝、職員室の前を通ったとき、校長の馬鹿でかい声が聞こえたんだよ」
三沢葵「偶然よ、偶然」
桐生陽一「盗み聞きしてたのか」
三沢葵「ぐ、偶然だってば」
桐生陽一「まぁ、いい」
桐生陽一「それよりお前、いつもの好奇心でこの件に首突っ込もうとするんじゃないぞ」
三沢葵「なんで?」
桐生陽一「なんでって、当たり前だろ」
三沢葵「ふーん、やっぱり自殺じゃないんだ」
桐生陽一「くっ」
桐生陽一(こいつは昔から妙に勘が鋭いところがある)
桐生陽一「とにかく、余計なことはしないように」
桐生陽一「それともう一つ」
三沢葵「はい?」
桐生陽一「お前、朝から何で裸足なんだよ?」
三沢葵「えー?」
三沢葵「陽に・・・桐生先生、 「もうひとつの事件」のこと聞いてないの?」
桐生陽一「もうひとつの事件?」
三沢葵「下駄箱荒らし」
桐生陽一「下駄箱荒らし??」
三沢葵「今朝、下駄箱に入れてあった生徒のスリッパが散乱してたんだよ」
桐生陽一「なんだって?全校生徒のか」
三沢葵「ううん、2年生の青スリッパだけ、そりゃもう、めちゃくちゃだったんだから」
三沢葵「下駄箱ごとひっくりかえってるのもあったし、実際、もうどれが誰のだか、わからなくなってたからね」
この学校では、かかとを履きつぶさないように上履きとしてスリッパが採用されている
学年によって色分けされており、1年は黄色、2年は青色、3年は緑色である
三沢葵「僕のもどこにあるのか、もう全然わかんなーい」
桐生陽一「なるほど、それで今朝から裸足の生徒が妙に多かったわけか」
三沢葵「気付くの遅いよ、せんせ~」
桐生陽一(自殺なんて大きな事件の裏で、そんな騒ぎが起きていたとは)
桐生陽一(佐山先生が俺に伝えそびれてしまったのは、おそらくこのことだったのだろう)
桐生陽一「わかった、気になっていたことはそれだけだ」
桐生陽一「スリッパのことは佐山先生と相談して何とかするから」
桐生陽一「お前はもう、いつも通り大人しく勉強だけしてるんだ」
桐生陽一「じゃあな」
三沢葵「あっ、陽にぃ!」
三沢葵「・・・」
三沢葵「ううん、何でもない」
始まりから一気に引き込まれました、話しの展開がとても上手にされていて最後まで集中して一気に読ませて頂きました、犯人は誰なんでしょうか、、、
飛び降り死と他殺としての警察の捜査、そして下駄箱荒らし、気になる要素満載でテンポよく進められたプロローグで、次話が気になります。
女生徒が亡くなったという事実が色々な疑惑を生んでいて、それぞれ問いかけが始まったばかりで、かなり引き付けられる描写でした。一番気になるのは葵ちゃんですが・・・。