第13話 言葉より前… 前編(脚本)
〇綺麗な病室
ミア「“真のテレパシー”?」
カイン「カナタはその最初の被験者に志願したのさ」
カナタが悲しそうな顔で
私を見つめている。
ミア「カナタ本当なの?」
カナタ「うん。真のテレパシーの実現には テレパシー障害の人が必要らしいんだ」
ミア「一体何なの? その真のテレパシーって・・・」
カナタ「普通、テレパシーは感情を伝える事が 出来ないんだろう?」
カナタ「だけど、カインさんの考案した 新しいテレパシーシステムは、 感情が伝わるようになるんだ」
カナタ「感情だけじゃない。自分が感じたありと あらゆる感覚を共有することが出来る。 それは記憶の共有すらも可能にする・・・」
カナタ「もう他人との隔たりで苦しむ事の無い 世界が実現するんだよ。ミア・・・」
ミア「・・・じゃあ何で そんな悲しそうな顔をしているの?」
カナタ「それは・・・」
カイン「実現すれば言葉は消滅するからだ」
ミア「え・・・」
カイン「正確に言えば、言葉は完全に 必要無くなる。言った筈だ。 俺はこの世界から言葉を失くすと・・・」
ミア「で、でも言葉を失くすなんて そんなこと・・・、どうやって・・・」
カイン「真のテレパシーを使い、言葉に関する ありとあらゆる記録を消去させてもらう。 もちろん古文書の類も処分するつもりだ」
ミア「そ、そんなことしたら・・・、 バベルさんは・・・! 私達の今までの努力はどうなるんですか!」
ミア「カナタも本当にそれで良いの? 言葉が無くなったら私達が出会った事も 否定することになるんだよ?」
カナタ「・・・カインさん。 少し二人にさせて貰えますか?」
カイン「・・・良いだろう」
カインさんは病室を去って行き、残された
私達の間に重苦しい空気が流れ始めた。
ミア「ねぇカナタ・・・ 本当に言葉を失くすのに賛成なの?」
カナタ「・・・・・・」
ミア「何か言ってよ!」
カナタ「・・・・・・」
ミア「カナタもクレアさんが亡くなったのは 言葉のせいだって思ってるの?」
カナタ「それも少なからずあると思う・・・ でも根本は違うんだ」
カナタ「ミア、出会った頃言ってたよね? 誰とも繋がれず貴方は寂しいって・・・」
ミア「ち、違う! あれは・・・!」
カナタ「大丈夫。分かってる。ミアのせいじゃない」
カナタ「僕が生まれた時、両親は僕を捨てた。 それ自体はテレパシー障害の人にとって 別に珍しい事じゃない」
カナタ「クレア先生やバベルさんも居てくれたし。 カイやミアとの会話だって、 とても楽しい・・・」
カナタ「言葉を学び、人と繋がる事は 僕にとってはかけがえのない喜びだ」
ミア「だったら何で・・・」
カナタ「それでも、テレパシーでやり取りする 人を見る度に、羨ましいと思ってしまう 自分が居る・・・」
ミア「あれは本当に簡単なやり取りを しているだけで、 カナタが憧れるような物じゃ・・・」
カナタ「それでも良い・・・。 僕はもっと人と繋がりたいんだ」
ミア「それで言葉が無くなったとしても?」
カナタ「・・・うん」
ミア「何で・・・何でそんなこと・・・! 私はカナタに出会えたから・・・ 言葉を覚えたから・・・!」
カナタ「ミアにも僕に伝えたい事、あるんでしょ? でも上手く言葉に出来ずにいる・・・」
ミア「・・・・・・」
カナタ「もし僕にテレパシーが使えたら、その想いも知ることが出来るかもしれない・・・」
カナタ「ミアの気持ちを受け止めて上げることが 出来るかもしれないんだ」
ミア「そんなこと言わないでよ・・・」
カナタ「・・・・・・」
カナタは遠くを見つめて、話し始めた。
カナタ「生まれてからずっと・・・ 疎外感を感じて生きてきた・・・」
カナタ「いやきっとこれは僕だけじゃない。 人はみんな孤独な存在なんだと思う・・・」
ミア「だから言葉を尽くすんでしょ・・・?」
カナタ「それでも全てを分かってあげられる訳じゃない・・・。言葉だけじゃ足りないんだよ」
ミア「・・・・・・」
カナタ「ミア。これはチャンスなんだ。 人が、人ともっと繋がる為の・・・」
ミア「カナタ・・・」
私はカナタを分かっているつもりだった。
いつもあの優しく眩しい笑顔を私に向け、
困っている私に的確なアドバイスを
してれくれる。
カナタは私の事なら
何でも分かってくれていると・・・。
カナタの抱える悲しみなど、気にもせず、
彼は完璧な存在なのだと、
そう思い込んでいたんだ・・・。
〇古書店
数日後。
カインさんを筆頭にして、
情報管理局の人達が店にやって来た。
その人達は古文書を取り上げ、
燃やし始めたのだ。
バベル「やめろ! どれだけの価値があるか 分かっているのか!」
カイン「ああバベル。 だから燃やさなくてはならないんだ」
バベル「こんなことをして クレアが喜ぶと思ってるのか!」
カイン「この先の世界を見れば、 クレアも納得するさ・・・。 バベル・・・お前自身もな・・・」
バベル「・・・っく!」
カイン「ああそれと、 お前はしばらくウチで拘束させてもらう」
カイン「せっかくの計画を邪魔される訳には いかないからな」
情報管理局の人達が
バベルさんを連行する。
ミア「バベルさん!」
情報管理局の一人が私の腕を掴んだ。
ミア「痛たっ・・・!」
バベル「ミアちゃん! やめろ! その子に 乱暴な事をしたらただじゃおかないぞ!」
カイン「そう熱くなるな。 お前が大人しく従えば、この子は家に帰す」
バベル「・・・本当だね?」
カイン「ああ約束する」
バベル「わかった」
バベル「ごめんミアちゃん。少しの間待ってて! 必ず帰って来るから!」
ミア「バベルさん! 待って下さい! バベルさん!」
そう言い残し、
バベルさんは連れていかれた。
取り残された私は何も出来ずに、
荒れた店内をただ見渡す事しか
出来なかった・・・。
〇化学研究室
それから数週間。
私は言葉を覚える以前に行っていた
父の医療業務の手伝いをしていた。
何かをしていなければ、
落ち着かなかったからだ。
ミア父(本日の業務終了・・・。帰宅準備を始める)
ミア(了解・・・)
ミア父(ミア・・・。 最近体調不良が見受けられる。 健康状態は良好か?)
最近、父はテレパシーの中でも、
私の名前を呼んでくれている。
私の身を案じる大量の思考が
父から送られてくる。
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