新しき扉

山本律磨

駅にて(脚本)

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山本律磨

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〇駅のホーム
私「私は見守っている」
私「たとえば彼は、とある会社の営業職だろうか?」
私「この物語は彼の物語だ」
私「しかし彼は今訥々と独白ができる精神状態ではないのだろう」
私「虚ろな瞳と青白い唇がそれを物語っている」
私「嗚呼・・・」
私「このホームのメロディが、人を死へと誘(いざな)う」
私「・・・というのはただの噂」
私「私に言わせれば、誘うのは音ではない」
私「逆光だ」
私「全てを黒い影に変える、あのけだるい夕日のせいだ」
私「忌々しき・・・逢魔が時」
  『まもなく各駅停車東京行きが参ります』
私「なぜ飛び込むのか答えはない」
私「きっと、たまたまなのだ」
私「日々の苦痛の積み重ねが!嗚呼、黒い影となって!悪魔となって!」
私「彼の背を、今、押す!」

〇駅のホーム
私「よかった」
私「今のは彼のせいではない。だがこれで彼の瞳に正気が戻っただろう」
私「私はこれからも見守らなければならない。だからここでモノローグを終える」
真島「そして俺は我に返った」
  『只今、車両点検のため緊急停車をいたしております。お急ぎの所まことに申し訳ございません』
真島「今日も一日、ろくでもなかったな・・・」
  『それはたるんでるからだ!』

〇オフィスのフロア
真島「す、すみません・・・」
バカ上司「何だその目の下のクマ。飲み過ぎか?真島お前営業なめてんのか?」
真島(これが営業成績一位の村田だったらきっと・・・)
バカ上司「何だその目の下のクマ。疲れてんのか? 村田君、あんまり根つめるなよ~」
真島(となる)

〇駅のホーム
真島「こいだの夜も、ろくでもなかったな・・・」

〇飲み屋街
チャラ後輩1「真島先輩ゴチでしたー!」
真島「いいんだよ。若い奴は気を使わなくて」
真島「こっちも誘ってもらって嬉しいしね」
尻軽女後輩1「ねー早く!タクシー来たよ!」
チャラ後輩1「じゃあ俺らここで」
真島「え?二次会?」
尻軽女後輩2「え~真島さんも~」
尻軽女後輩1「シッ、声大きい」
チャラ後輩2「あのう先輩。二次会ライブハウスっつーか」
チャラ後輩1「超うるさいとこでっつーか。頭痛くなるような場所でっつーか」
真島「あー行かない行かない。なんか疲れたし。年だしさ」
真島「あ、DVDも返さないと」
尻軽女後輩2「今日はごちそうさまでしたー!」
真島「あーお疲れ様。あー眠い眠い」
尻軽女後輩2「ヒソヒソ・・・」
尻軽女後輩1「&ヒソヒソ・・・」

〇オフィスのフロア
バカ上司「え~皆さん。皆さんの営業努力はちゃんと見ていますよ」
バカ上司「この会社は結果主義ではありません。努力を見る会社です」
真島(見る?)
真島(睨む、だろ)
真島(見下す、だろ)
  『おいどけよコラ!!』

〇駅のホーム
真島「す、すみません」
人間のクズ系カップル♂「リュックでかいんだよ。抱えろバカ」
人間のクズ系カップル♀「もーこっちこっち。人ごみ最悪」
人間のクズ系カップル♂「おー今行く」
人間のクズ系カップル♂「死んどけオッサン」
  『ただいま車両点検のため、上下線ともに運転を見合わせております。お急ぎの所まことに申し訳ございません』
真島「睨まれてばっかりだ・・・」
「ちょっと・・・」
真島「見下されてばっかりだ・・・」
「ちょっと・・・」
真島「いつも。誰からも見られてなんか・・・」
クソ女「ちょっとやめて下さい!」
真島「え?」
クソ女「駅員さああああん!この人おおお!」
真島「え?え?え?え?え?」
バカ駅員「どうしました?」
クソ女「触られたんですけど」
真島「はあ?」
バカ駅員「やったのか!」
真島「やってません!」
バカ駅員「とにかく事務所行こう。あなたも」
クソ女「え~私もですかあ~?」
真島「だからやってないって!」
クソ女「はあ?何いってんの?」
真島「や、やってないです・・・」
クソ女「あっそ。分かったわ」
クソ女「警察行きますから。出る所出ますから」
バカ駅員「そうですね。詳しい話は交番で」
真島「警察?ちょ、ちょっと待って下さい!」
バカ駅員「ああ、動かないで!」
真島「俺、何もしてません!」
バカ駅員「騒ぐなおい!」
真島「きっと、誰か見てたはずなんです!」
クソ女「誰も見てないから触ったんでしょ!」
真島「誰も見てない・・・」

〇雑踏
真島「誰も見てない」
真島「そうだったな。誰も見てない」
真島「俺のことなんて、誰も」

〇黒
真島「多分、神様だって」
  『見ていました』
真島「え?」

〇駅のホーム
彼「その人はやっていませんよ。私が見ていました」
クソ女「はあ?」
彼「あなたの勘違いではないですか?」
クソ女「だからそういうのは警察で話すから。ちょっと早く警察行きましょうよ警察!」
彼「手を見せていただけませんか?」
クソ女「手?」
彼「あなたのではなく」
真島「僕の・・・ですか?」
クソ女「拭かないでよね。繊維とか証拠で残ってるはずなんだから」
真島「別にいいけど」
彼「・・・」
彼「見て下さい。指先」
クソ女「指先がなに?」
彼「鼻毛です」
クソ女「やだ」
彼「鼻毛です」
真島「こ、これは、その」
彼「おっと拭かないで。これが証拠の・・・」
彼「鼻毛です」
真島「何べんも言うな」
バカ駅員「あんた鼻ほじってたのか?」
真島「さ、さあ。どうだろ」
彼「ほじっていました」
真島「覚えてないな~」
彼「完全にほじっていました」
真島「ゴミじゃないかな~」
彼「だからそのままで!」
彼「皆さんよく見て下さい!彼の鼻毛です!」
彼「彼は痴漢ではなく鼻をほじっていただけなんです!その人差し指を第一関節ギリまでしっかりとねじ込んで、かつグラインドさせて!」
彼「ドリル!まさにドリル!」
彼「さあよく見てください。これが彼の、鼻毛なのです」
彼「よくしっかり調べて下さい。正にこれこそが彼自身の鼻毛なのです」
彼「いや、最早彼自身が鼻毛だと言ってもいいほどに疑いようのない鼻毛」
バカ駅員「何を言ってるんだあんたは」
バカ駅員「泣いてるじゃないか・・・」
彼「失敬。でもこれでお分かり頂けましたか?」
バカ駅員「左手で触って右手でほじってた場合もあるんじゃないのか」
彼「左手は無意識に鼻をほり、右手は意識的に触る。随分器用な行為ですね」
バカ駅員「ああ器用なヤツなんだろうな!」
クソ女「もういいわよ。面倒くさい」
バカ駅員「衣類に鼻クソがついてないか見ましょうか?」
クソ女「いいから!」
クソ女「てか私急いでんのよ!いつまで電車止まってんのよ!」
クソ女「もう苛々する!タクシーで帰るからどいて!」
クソ女「ちょっとどいて!どいてったら!」
真島「あ、あの・・・」
バカ駅員「だそうだ」
バカ駅員「あなたもねえ、あまり疑われるような態度とっちゃ駄目だよ」
真島「す、すいません」
彼「なんだその言いぐさは!」
彼「何ひとつ見てもいないのに決めつけるんじゃない!」
彼「私は見ていたんだ・・・彼を・・・ずっと」
彼「謝れ!彼に謝罪しろ!」
バカ駅員「も、申し訳ありませんでした」
  『各駅停車東京行き10分遅れで発車致します。お急ぎのところ誠に申し訳ございません』
彼「では私はこれで」
真島「あ、あの!」
真島「有難うございました。見ていてくれて」
真島「見守っていてくれて」
彼「はい」
真島(そうだ・・・きっとそうだ)

〇幻想空間
真島「気づかなかっただけなんだ」
真島「俺はちゃんと見られてたんだ!見守られてたんだ!」
真島「間違いない・・・この人は!」

〇駅のホーム
真島「あの!どちらまで?」
彼「新宿・・・二丁目よ」
真島「・・・」
  『ドアが閉まりま~す。ご注意下さ~い』

〇駅のホーム
真島「・・・」
真島「これ・・・名刺だ」
真島「新宿メンズビーナス。リブ子。出勤日、月、金、土、日」
真島「・・・」
真島「お店、覗いてみよっかな・・・」

コメント

  • 主人公のように、負のスパイラルに入り込んで孤独感を覚えることってありますよね。何かを変える、変わることが必要な状況ですから、新しき扉が必要だろうなと感じました。扉の向こうが何にせよ。

  • 恋!?びっくりしました。天使的な存在かと…。でも同じ人間に見守ってもらえるのが、やっぱり嬉しいですよね。誰かが見てくれるだけでこんなに鮮やかに窮地から救ってもらえるなんて、人の世も捨てたものではないですね。無罪の証明の仕方で笑いました。

  • ついてない時はとことんついてないものですね。青島くんは悪い人ではないんだが、オーラが死んでいる様に見えてしまいます。早く二丁目に行きましょう。

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