大間柾の日常(脚本)
〇カウンター席
自称女神騒動の次の日・・・
【柾・有馬】
ありがとうございました~
明石 晴馬「ふぅ~、ひと段落っすね」
大間 柾「ああ・・・今日は人が多かったな。 SNSの宣伝効果か? 結構な事だ。」
山口 清香「でも、こんなに混むなんて・・・正直、人手が足りませんよ」
SNSで店を宣伝は前からやっていたのだが、新商品を有名なインフルエンサーが拡散した事で、店は一気に客足が増えたのだ。
明石 晴馬「SNSでバズるとはこういう事か・・・いくら混む日曜とはいえ、昨日と同じ店とは思えないっすよ。」
大間 柾「店長、人件費はかかりますが、やはり人手を急増やした方が良いかと思います。」
大間 柾「店が回らなくなって、SNSで不評が拡散すれば、それこそ最悪な展開です。」
店長「う~ん、僕も今まさにSNSの恐ろしさを実感したな~。 不満や不評が募れば大変な事になりそう。」
大間 柾「土日だけ・・・いや、それこそ平日だけでも人員増加はありです。」
大間 柾「代わりに、休日は100%労力を注げるように人事を考えるのも手かと・・・」
店長「あ、そうだ! あの子なら──」
大間 柾「あの子? ・・・誰ですか?」
店長「うん。僕の家に住んでいる女の子が──」
大間 柾「──え!?」
店長「──え?」
山口 清香「て、店長の家に・・・?」
明石 晴馬「・・・女の子?」
山口 清香「・・・警察に電話しますか?」
明石 晴馬「店長・・・自首しましょう」
店長「いや、なんで!? 別にやましい事はないでしょ!?」
明石 晴馬「どこをどう聞いたら・・・」
山口 清香「・・・そんな風に聞こえるんですか?」
店長「待って、みんな僕の事どんな風に思ってるの?」
大間 柾「待て、みんな落ち着け──」
店長「大間くん──」
大間 柾「こういうのは、事情聴取をしてから判断するんだ。」
店長「せめて事情って言い方してほしいんだけど!」
店長の話では、親戚の女の子が東京へ出てきたので、部屋を提供しているという。
店長「僕はもう家内と二人暮らしだからね。 部屋は余ってるから、別に問題無いと思ってね。丁度、娘の部屋も開いてたし」
大間 柾「なるほど、その子にバイトに入ってもらうという事ですか?」
店長「何分世間知らずだから迷惑はかけると思うけど、すごく良い子だ。 それに物覚えも早いからね。即戦力になると思うよ」
明石 晴馬「女の子! 大歓迎です!」
大間 柾「有馬、あくまで戦力としてだからな?」
明石 晴馬「わ、分かってますよ!」
山口 清香「どうだか・・・」
店長「それじゃ、彼女に勧めてみるよ。」
──翌日
赤井アリア「赤井アリアです。 おじさま──店長からのススメで今日から働かせていただきます。 よろしくお願いします。」
明石 晴馬「うひょ~! すげぇ美人!」
山口 清香「うわっ、ヤバ、ホントにすごい。 美人過ぎ・・・自信無くす・・・」
明石 晴馬「俺は明石有馬! 気軽に有馬くんって呼んでね!」
赤井アリア「あ、ありがとう。有馬さん」
山口 清香「あ! この人は無視していいですよ!」
明石 晴馬「──え?」
山口 清香「私は山口清香です。 高校生ですが、アルバイトさせてもらってます。」
赤井アリア「こ、高校生? じゃあ貴女、えっと・・・十代なんですか? お、大人っぽいんですね。」
山口 清香「え? ホントですか? ありがとうございます。」
山口 清香「アリアさんは大学生ですか?」
赤井アリア「え!? あぁ・・・その、私もまだ十代で・・・えっと今年で、一応17歳なんです。」
山口 清香「え!? 私と同い年! そうなんだ。それじゃお互い敬語は止めましょう。」
山口 清香「仕事の事、分からない事があったら聞いてね」
赤井アリア「あ、ありがとう。清香さん。」
山口 清香「さん付けじゃなくていいのに~」
明石 晴馬「なんか、俺ら蚊帳の外っすね?」
大間 柾「・・・・・・・・・・・・」
明石 晴馬「柾さん? お~い」
大間 柾「お!? あぁ──」
大間 柾「まぁなに、気にするな。男なんてそんなものだ。だが、同い年は好都合。 清香ちゃんは教育役として色々教えて貰おう。」
大間 柾「同じ女性同士だ。 その辺りは異性より良いだろう。」
明石 晴馬「え~! 俺が教えますよ!」
大間 柾「そのうちやってもらうさ。 だが、今はバズりが落ち着くまで総力戦だ。 わがまま言わないでくれ。」
大間 柾「ともかく、今はできる限り早く戦力に育てる事が急務だ。それを最優先するぞ。」
明石 晴馬「まぁ、柾さんがそう言うなら・・・ 店長に言われたら納得しないけど・・・」
店長「なんで僕だと納得しないの? 明石くん? なんで?」
明石 晴馬「でも! 俺も隙を見たらバンバン手取り足取り教えますから!」
大間 柾「そ、そうしてくれ・・・もう何も言わんよ。」
大間 柾「とりあえず、俺がバイトリーダーをやってる大間柾だ。好きなように呼んでくれ。 これからよろしくな」
赤井アリア「ッ!? あ、あなたは──!?」
大間 柾「ん? どうしたんだ?」
赤井アリア「い、いえ・・・そんなはずないわね。 気にしないでください。」
山口 清香「え!? ま、柾さん? し、知り合いなんですか?」
大間 柾「・・・いや、スマン。 身に覚えはない。もしかして、どこかで会った事が?」
赤井アリア「いいえ! それはあり得ないので・・・人違いです。他人の空似です」
大間 柾「そうか・・・とにかく! バイトの方、期待してるから頼むぞ」
山口 清香「・・・・・・・・・・・・」
明石 晴馬「いや~、美人だな~アリアちゃん。 清香ちゃんもそう思わない?」
山口 清香「ちょっと明石さん、ムシャクシャするんで引っ叩いてもいいですが?」
明石 晴馬「なんで!?」
〇カウンター席
大間 柾「アリアちゃん。素晴らしい仕事ぶりだったよ。 是非、今後もウチの戦力でいてほしいくらいだ。」
仕事を終えた「ジュリコ」。
閉店後の店内では、アリアの仕事ぶりに一同感心していた。
赤井アリア「ありがとうございます。 こんなに楽しい仕事は初めてでした。」
大間 柾「それはよかった。 君のような人がいてくれれば、この店もよりクオリティを上げられる。」
赤井アリア「大間さん。 このお店の事、親身に考えてるんですね。」
大間 柾「ここでは色々学ばせてもらってるしな。 いつか、自分の会社を持つのが目標だ。 店の管理や経営もさせてもらってる。」
明石 晴馬「本来、経営者の店長がやるべきことを全部やってんのがホントヤベェっす」
大間 柾「まぁ、当面は大学へ行くのが一番の目標だ。経営学部か経済学部、商学部か、未だに迷ってはいるがな。」
明石 晴馬「つーことは受験っすもんね~。 俺、受験は思い出したくもない。」
大間 柾「大学受験の勉強も楽しいものだぞ?」
明石 晴馬「い、一度でいいからそんな風に言いてぇ~」
赤井アリア「・・・・・・・・・・・・」
大間 柾「どうしたんだ?」
赤井アリア「い、いえ・・・その・・・」
赤井アリア「私は、目標とか、そういうのが無くて、なんというか・・・」
明石 晴馬「意識高い系で引いた?」
山口 清香「意識だけ無駄に高い人と、柾さんを一緒にするってだけで意識低さがにじみ出てるわ~」
明石 晴馬「そこまで言われる失言だった!?」
赤井アリア「そんな風には・・・ただ、私は、ここにきてから、何も考えてなくて・・・」
アリアは歯切れが悪い。
まるで自分が今までの人生言われるまま生きてきたような──そんな印象だ。
大間 柾「・・・君の過去の事は分からない。 だが──」
大間 柾「気にする必要はないな!」
赤井アリア「いや、気にするなって──」
大間 柾「そもそも、これだけ選択肢が数多ある日本で、いきなりコレになりたいと思う方が無理だ。」
山口 清香「どういうことですか?」
大間 柾「そのままの意味だ。 選択肢が多いからと言って全てが選べるわけじゃない。」
大間 柾「それに、やりたい事とできる事は違うんだ。 接客に向く人と、向かない人がいるようにな。」
大間 柾「できることを増やさなければ、やりたい事だってやれない。」
大間 柾「自称有識者は目標から逆算しろと言うが・・・それは違うと思っている。」
大間 柾「実際、その有識者だって最初から有識者足り得た訳ではない。 いつの間にかその位置にいただけだ。」
大間 柾「第一、自分が有識者となる未来が見えて逆算したなら、それは未来予知だ。 そこまで逆算できたらむしろ気持ち悪いだろ。」
大間 柾「自分のできる事、好きな事を見つけて、行ける所まで行った。 それだけ、ただひたすらやり続けてただけだ。不器用にな。」
赤井アリア「不器用に?」
大間 柾「自分が出来た事──それを好きになったんだよ。 できれば賞賛され、賞賛されれば嬉しい。 そしてまたやる。」
大間 柾「そんな感じでやってたら、たまたま有名人になって金になっただけだ。 一昔前のユーチューバーなんて、その典型だろ?」
大間 柾「将来、ユーチューバーは億万長者になれる・・・なんて思ってた人間など、古参の現役ユーチューバーにはいなかったはずだ。」
大間 柾「珍しいところで言うなら、靴磨きなんてそうだ。」
赤井アリア「く、靴磨き・・・?」
大間 柾「そうだ。 誰でもできる靴磨きも、こだわって極めれば、そこらの一流サラリーマンより稼げるんだぞ?」
大間 柾「需要と供給・・・色々な言い方があるが、価値を付けられれば、どんなモノでも価値が付くんだ。」
大間 柾「何をするか、何をやるか、何を生み出すか──大事なことだ。だが、一番大事なのは、価値を付ける事だ。」
大間 柾「色々な経営者のドキュメンタリー番組を見ても、結局『価値を付けろ』に着地する。」
大間 柾「多様な国で、そんな好きな物に価値を付けられる経営者は実に良い職業だ。 だから、俺は価値を付ける側に立ちたいんだよ。」
大間 柾「それができれば、世界征服だってできる。」
赤井アリア「せ、世界征服!?」
大間 柾「いや、物の例えだけどな・・・」
明石 晴馬「ふ、深いっす」
店長「そうでもないよ? 大間くんの言ってることは気付きでしかない。」
店長「日本の教育はサラリーマン育成教育だからね。 異端児が白い目で見られ、空気を読める真面目な人が賞賛されるでしょ?」
店長「日本はね。そう言う『価値』を植え付けられてるんだよ。 他を教えてくれる人がいない。ただ、それだけの話なんだよ。」
明石 晴馬「なんか、都市伝説みたいで怖いっすね。 洗脳みたい・・・」
店長「洗脳は言い得て妙だね。 価値を付ける努力をして、世界を変えてきた偉人は、常識と言う洗脳に疑問を持った異端児かもね。」
店長「異端児の言い方を変えればいいんだよ。 挑戦者、革命家、変革者、改革者、発明家。 なんだっていいのさ。」
店長「ただ、一つ確かなのは、それくらいじゃないと社会は動かないってことだろうね。」
店長「歳を取っていくと、そういう事も見えてくるよ。若いうちに気が付いても、気が付くだけで終わってしまう人も多いはずだ。」
大間 柾「そう言った事にも向き不向きはありますからね。」
店長「大切なのは、幸せを感じる生き方だと思うね。 歳をとると尚の事そう思うよ。 周りに影響されると碌な事にならない。」
店長「挑戦や向上が幸せに感じるなら、そう生きるべきだよ。 安定や平穏が幸せなら、それを大事にして生きた方が良い。」
店長「みんなまだ若いから、その辺りを少しだけ考えてみれば、きっと楽しく幸せになれるんじゃないかな?」
大間 柾「幸せの形は人それぞれ。 少なくとも日本と言う国は比較的選択のできる国ですしね。」
大間 柾「・・・・・・本当にこの国は恵まれている。」
店長「さて、みんな閉店の時間だ。 仕事が終わった人は帰って、仕込みなどがある人はこの後もよろしくね。」
山口 清香(あ~やっぱり柾さんかっこいい~ホント素敵。 仕事もできるし、大人の男って感じだし! ・・・一緒の大学行けないかなぁ~)
赤井アリア(大間さんも、おじさまも、こんなに考えてるのね・・・それに比べて、私はここでも向こうでも・・・)
特にアリアの脳裏に『洗脳』という言葉が、強く印象づいた。
赤井アリア(・・・・・・私のした事は、正しかったの? 分からないよ。)
明石 晴馬「仕事終わり~!」
赤井アリア(こういう感じだけど、明石さんもきっと色々考えてるんだろうな。)
山口 清香(この人はなんにも考えてないんだろうなぁ)
ジュリコはこうして繁忙日を乗り切ったのだった。