Pain

山本律磨

pain(脚本)

Pain

山本律磨

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〇古代文字
  『きっとソースケは来てくれる』
  『だって、僕のたった一人の・・・』

〇お台場
「結局俺、不器用なんすよ」
「超普通」
「まあ、優しさくらいしか持ち合わせてないっつーか」

〇コンサートの控室
ソースケ「あとあれだ。男らしさ?」
ソースケ「そこだけは忘れないでおきたいっす」
記者「あはははは」
マネジャー「いやいや愛想笑いはいいんで、とりあえずもう一枚お願いします」
ソースケ「え?愛想笑い?こんだけ身を削ってるのに」
記者「あ、その表情いただきです」
マネジャー「おーすげーな。完全なる変態じゃないか」
記者「でもそれが涼風ソースケの魅力ですよ」
マネジャー「こ、これが?」
記者「いやそういう意味じゃなくて」
記者「サービス精神の中ににじみ出る優しさとか温かさが、人気の秘密なんだと思います」
マネジャー「単なる天然ですよ」
マネジャー「タレントやってなきゃ今頃檻の中です」
ソースケ「失礼な!私服はこの一着だけだよ!」
マネジャー「私服かい!」
記者「あははは!こんな楽しい取材、私はじめてです!」
ソースケ「でもまあマジな話・・・」
ソースケ「人気とか、俺そんなのわかんねーけど」
ソースケ「ただ人との繋がりとか友情とかは、いつまでも大切にしたいっす」
ソースケ「友達っていうのは俺の宝ものだから!」
マネジャー「では取材の方はそろそろ」
記者「あ、はい。ではこれで。ありがとうございました」
ソースケ「あ、写真は全部消去するように!」
記者「あはははは!」
ソースケ「・・・さてと」
マネジャー「ソースケ。『彼』もう来てるけど打ち合わせしとこうか」
ソースケ「待たせときゃいいんすよ。今俺レオタード疲れしてんだから」
マネジャー「何だレオタード疲れって」

〇病院の廊下
陽二「・・・」
マネジャー「お待たせしました。お入り下さい」
陽二「あ、はい!」

〇コンサートの控室
陽二「や、やあ」
ソースケ「おー元気?ちょい老けたか?」
陽二「ひ、久しぶり」
ソースケ「・・・」
陽二「・・・」
マネジャー「えっと。じゃあスタッフさんから説明を」
ディレクター「まあ打ち合わせと言っても栗田さんは扉から出て、あとは司会者の質問に答えて頂くだけなんで」
ディレクター「普通でいいですよ。気楽にお願いします」
マネジャー「大丈夫ですよね。元相方なんですから」
陽二「はい!がんばります!」
ソースケ「テレビ初めてだろ?」
ソースケ「小さい小屋とは全然違うから。本当、普通に喋って普通に帰るだけでいいから」
陽二「手紙もちゃんと持ってきたよ」
マネジャー「メッセージコーナーですね。頑張ってソースケを泣かせて下さい」
ソースケ「頑張らなくてもこっちで勝手に泣くから」
陽二「二人でテレビに出れるなんて夢みたいだな」
陽二「あの、新ネタ考えてきたんだけど良かったらちょっと練習してみない?」
マネジャー「・・・」
ソースケ「・・・」
陽二「・・・」
ディレクター「じゃあこちらの控室でお待ち下さい」
陽二「は、はい!」
ソースケ「・・・」
ソースケ「う~~~わ~~~」
マネジャー「あの人、今、ネタ合わせしようとしてたぞ」
ソースケ「イタいイタいイタいイタいイタい」
ソースケ「イタイっしょ~。ああいう所あるんだよな」
マネジャー「まさか再結成とか考えてるんじゃ?」
ソースケ「そ、阻止!全力で阻止して下さい!」
ソースケ「てか、もうこういう感じの仕事入れないでもらえますか?」
マネジャー「まーまー。お世話になったバラエティだろ『サプライズキングダム』は」
ソースケ「あー面倒くせー」
ソースケ「ぼちぼち卒業したいっすよ。こんなくだらねー番組」
マネジャー「はいもしもし」
マネジャー「はい!はい!有難うございます!宜しくお願い致します!はい!」
マネジャー「坂本龍馬役、お前で決まったぞ!」
ソースケ「よっしゃああああ!これでこんな安っぽい仕事ともオサラバだ!」
マネジャー「こ、声が大きいっ!」
ソースケ「さ、サーセン・・・」

〇渋谷のスクランブル交差点
ソースケ「ええええええええええええーーーーーっ?」
ソースケ「ちょちょちょ、マジ聞いてないっすよ!」
  『あ、涼風ソースケだ』
  『またダマされてる。可愛い~』
  『あはははは♪』
  『面白ーい。あはははは』

〇テレビスタジオ
ソースケ「えー?じゃあお客さんもみんな知ってたってことー?」
  『ソースケ!可愛い!』
ソースケ「うっさい!」
大物司会者「お前、本当に騙し甲斐があるな~」
ソースケ「今日はサワリ―さんの番だって聞いてたんすよ~」
雛段芸人サワリ―岡本「は~いダマでした~」
ソースケ「え?ウソでしょ?マジで陽二がここに来るんですか?」
大物司会者「そうだよ。5年前、お前がまだ養成所だった頃の相方だよ」
大物司会者「いくらお前がおバカでもちゃんと覚えてるだろ」
ソースケ「はい!ダチの顔だけは忘れるはずがないっす!」
大物司会者「では登場して頂きましょう。涼風ソースケの元相方で、今は九州で農家をしてらっしゃる栗田陽二さんです!どうぞ!」
ソースケ「よ、陽二!」
ソースケ「マジかよおい!久しぶりだな!」
大物司会者「栗田さんは、ソースケがタレント養成所にいた頃の相方なんですよね」
陽二「はい。そうです」
陽二「ソースケはですね。僕みたいなイタい人間とコンビを組んでくれたんです」
ソースケ「おいおい。卑屈卑屈~」
ソースケ「こういう所あるんすよね~」
陽二「でも選んでくれて嬉しかったです」
大物司会者「おいおいソースケ。随分偉そうだな」
ソースケ「いや~。落ちこぼれ同士って感じで」
陽二「違うよ。ソースケは落ちこぼれなんかじゃないよ」
陽二「女の子にもモテたし。講師の演出家さんにも気に入られてたし」
陽二「今、ソースケはおバカタレントとか言われてるけど。僕は本当はそうじゃないって知ってるから」
陽二「頭も良くって、凄いヤツなんです」
ソースケ「な、何だよお前~営業妨害だろ~」
大物司会者「そうなのか~全部計算だったのか~」
ソースケ「そ、そうなんすよ!全部計算!」
雛段芸人サワリ―岡本「うひゃひゃひゃひゃ!」
ソースケ「うるさい雛段!レオタード着せるぞ!」
陽二「僕はソースケの言う通りにしてただけです」
陽二「だからソースケだけが売れたのも当たり前です」
大物司会者「ソースケ~。お前相方見捨てたのか~?」
ソースケ「ちょっと、言い方」
雛段芸人サワリ―岡本「怖っ!」
ソースケ「黙れ雛段!脱がすぞ!」
大物司会者「はーい。ではここでCMでーす」
ソースケ「ちょ待って待って!俺感じ悪い感じ悪い!」

〇テレビスタジオ
ディレクター「CM入りましたー!」
ソースケ「サワリ―さん。フォロー、すんません」
雛段芸人サワリ―岡本「ドンマ~イ」
雛段芸人サワリ―岡本「でも腋甘いんじゃない?ビジネスおバカとしてはさ。ひひひひ」
ソースケ「勘弁して下さいよ~」
ソースケ「今だってちゃんとレオタード仕込んでますから~」
ソースケ「・・・」
ソースケ「おい」
陽二「え?」
ソースケ「どういうつもりだよ」
陽二「ソースケは僕の憧れだったんから、おバカキャラとか言われてるのが何か悔しくて」
ソースケ「お前・・・」
ソースケ「だから売れなかったんだよ」
陽二「え?」
ソースケ「もっと空気読まねーと、どこ行っても生きていけねーぞ」
陽二「そ、そう?」
ソースケ「兎に角これ以上余計なことしねーでさ」
ソースケ「早く帰って、農作業でもやってろよ」
ソースケ「一般人」
陽二「・・・」
ディレクター「はいCM明けまーす」

〇新緑
「俺達のメモリー!」

〇テレビスタジオ
大物司会者「さあ、このコーナーは昔伝えられなかった思いを手紙で伝えて頂くコーナーです」
大物司会者「栗田さん、お手紙書いて来てもらえましたか?」
陽二「その前に、ちょっといいですか?」
ソースケ(・・・?)
陽二「昔、養成所でやったネタがあるんです」
陽二「へんし~ん!」
陽二「おつかれSUMMER!」
ソースケ「そういうのいいつったろ」
陽二「そうそう。そうやってツッコまれるんです。そしたらウケるんです」
陽二「最初は頭はたかれるだけだったけど、そのうち飛び蹴りとか膝蹴りとか」
ソースケ「うるさいよ」
陽二「服破られたり髪掴まれたり」
ソースケ「やめろって」

〇稽古場
陽二「稽古場でね。みんなが見てる前でボコボコにされてね。引きずり回されてね」
陽二「これがウケるんですよ~」
ソースケ「その話、やめろつってるだろコラ!」

〇テレビスタジオ
大物司会者「お、おいおい」
ソースケ「あ・・・」
ソースケ「て。ツッコむんす。俺ら兄弟みたいなもんだったからちょい乱暴気味に」
陽二「・・・兄弟か。嬉しいな~」
雛段芸人サワリ―岡本「お~お~ビジネス天然の化けの皮が剥がれてきたね~」
雛段芸人サワリ―岡本「ドラマの仕事増えてきて調子乗ってるからこうなるんだよ」
雛段芸人サワリ―岡本「死ね!」
ソースケ「お前が死ね!俺はバラエティ一筋だ!」
大物司会者「いや~今回はソースケの計算高い一面が知れて非常に有意義だな」
ソースケ「勘弁してくださいよ~。いつでもレオタード準備してるっちゅうねん」
陽二「ソースケは頭いいです。凄く計算してます」
ソースケ「ほめ殺しはいいから、とっとと服着て手紙読んで泣かせてくれよ」
大物司会者「泣く準備しとるじゃないか」
陽二「はい。じゃあ読みます」

〇新緑
陽二「ソースケへ。今僕は九州で農業をやっています。親の手伝いです」
陽二「僕、子供の頃からよく虐められてて。お笑い番組に元気をもらってて」
陽二「いつからか芸人になりたいと思って。でも東京きて全然ダメで。そんな時、ソースケだけが僕の相手してくれて」
陽二「タイツとか裸とかいろいろと恥ずかしかったけど。ソースケがツッコんでくれたら、みんな笑ってくれて」
陽二「僕達のコンビはソースケで持っていたんだと思う。だから今君だけが売れてるのも当たり前なんだ」

〇モヤモヤ
陽二「君がよく言ってたように僕はイタいから、君の言う通り一度田舎に戻って人生経験をつんでいます」
ソースケ「・・・え?」
陽二「そしてあの約束を待っています」
陽二「『もう一度一緒にコンビを組もう』」
陽二「家族は呆れて笑うけど。僕は君の言葉を信じている」
陽二「君は僕の、たった一人の友達だから」
ソースケ「・・・」

〇テレビスタジオ
陽二「2021年6月11日」
大物司会者「え?2021年って去年じゃ・・・」
ソースケ「お、お前・・・誰だ?」
陽二「当ててみろよ。兄弟みたいなもんなんだろ」
陽二「分かるわけないか。何の興味もない。お前にとっては自分がのし上がるためのただの道具だったんだからな」
陽二「俺の双子の弟は」
ソースケ「双子・・・?」
大物司会者「ええ、これはですね。そう。サプライズというか」
陽二「そうだ。サプライズだ。弟はもうこの手紙を読む事はできないんだから」
陽二「転居先不明で戻ってきたものだ。友情熱い天然君にしては随分薄情じゃないか」
ソースケ「・・・」

〇テレビスタジオ
陽二「交通事故でね。アンタを葬式に呼ぼうにも連絡先すら教えてなかったみたいだから。この番組があって丁度良かったよ」
マネジャー「ちょ、ちょっと!すぐコーナー終わらせて下さい!」
ディレクター「いや~もう少し続けてみたいですね~」
ディレクター「熱血天然キャラの冷酷な真の姿・・・随分と反応いいですよ~」
マネジャー「こ、困ります!」
ディレクター「ソースケはこの番組が育てたんです」
ディレクター「ドラマ班に移る前に恩返しして下さいよ。へへへへ」
マネジャー「・・・!」

〇テレビスタジオ
大物司会者「つ、積もる話もあるでしょう」
大物司会者「しばらくお二人で昔話に花を咲かせてみたらいかがです?」
大物司会者「かつての相方さんを偲んで」
ソースケ「・・・」
陽二「番組の方は続けてほしいみたいだね」
陽二「じゃあこれからじっくり、君が日々大事にしている友情とやらについて語り合おうか」
陽二「私はお笑いに関しては疎いので、とりあえず質問していいですか?」
陽二「イタイって・・・どういう意味だい?」

〇渋谷のスクランブル交差点
  『涼風ソースケ、またダマされてるみたいだぜ』
  『なんか、今回はガチっぽいよ』
  『なにがガチなの~』
  『ちょっと見てこーぜ』
  『うひひひひ♪』
  『オモシローイ。ウヒヒヒヒ』

コメント

  • 読んでいるうちに同じ世界に入り込んでる感覚になりました。
    怖い、というか恐ろしい?感覚に近い気がしますが、恨みがここではらされるのか?!ってところで終わってしまってどうなったのか気になりますt,

  • 自身のキャラ自体を売るビジネスなので、都合の悪い要素をそぎ落としていくのはある意味仕方ないことかもしれませんが。。。ビターな後味の、考えさせれる物語ですね。

  • 表裏って誰でも少しはあるものの、ソースケのように芸能の世界で成り上がっていく人って、それをある種の武器にしているんでしょうね。それでもまだ無名だった頃はこんな奴ではなかったはず、そうでないと旧友からこんな手紙が届くはずはないし。充分に頭を冷やす機会を与えられましたね。

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