死神珍奇譚

射貫 心蔵

愛憎劇の死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

今すぐ読む

死神珍奇譚
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇屋敷の門
  大邸宅・稲山家

〇大きな日本家屋
  うぐっ!

〇風流な庭園
  はぅぅ!

〇屋敷の大広間
ジイ様「ギギギ!」
  稲山家当主、平八は死の淵にあった
  彼を囲み
  厳粛な面持ちで見守る関係者一同
善良なドクター「・・・・・・」
夫想いのバア様「・・・・・・」
敏腕弁護士「・・・・・・」
欲の皮の突っ張った長男「・・・・・・」
金の亡者の次男「・・・・・・」
とにかく金の欲しい三男「・・・・・・」
左うちわを夢見る長男夫人「・・・・・・」
家族より金を愛する次男夫人「・・・・・・」
金の力で一旗揚げたい長女「・・・・・・」
忠実なじいや「・・・・・・」
新人のお手伝いさん「・・・・・・」
死神「・・・・・・」
  一族総出で主の衰弱を凝視するサマは
  心配しているようにも
  末期を待ちわびるようにも見てとれた
ジイ様「はうっ!」
ジイ様「おぉ」
  ガクッ

〇屋敷の大広間
  一九六X年七月八日
  午後三時二十一分
  ご臨終です

〇屋敷の大広間
夫想いのバア様「あぁそんな! アナタ!!」
敏腕弁護士「・・・・・・」
欲の皮の突っ張った長男「親父、なんで死んじまうんだよォ!!」
金の亡者の次男「俺たちゃどうすりゃいいんだ、えぇ!?」
とにかく金の欲しい三男「フン」
左うちわを夢見る長男夫人(正規の配当なぞクソクラエじゃ 根こそぎ頂戴したる)
家族より金を愛する次男夫人(奪ってやる 不動産も、預貯金も、有価証券も 口八丁手八丁で)
金の力で一旗揚げたい長女(さて、守銭奴どもをどう出し抜くか──)
忠実なじいや(旦那様、おいたわしや)
新人のお手伝いさん(まいったな 悲しむべきかしら? 泣くべきかしら?)
  お嬢ちゃん、コリャ起きろ
死神「ハッ!」
死神「すみません、居眠りしちゃって」
ジイ様「いやぁ無理もない ワシも目を背けたいよ」
ジイ様「見てみぃ、奴らの醜態を」
  これが本当に──
  人間の姿じゃろうか?
  どいつもこいつも顔見りゃ財産
  人情や愛情をことごとく捨て去り──
  欲望をむき出して蹴落としにかかる
ジイ様「ワシにゃ地獄に住まう餓鬼に見えるわ」
死神「・・・・・・」
死神「お辛いのでしたら そそくさおいとましましょう」
ジイ様「待ちなされ。ここからが面白い」
敏腕弁護士「コホン!」
敏腕弁護士「コホン! コホン!」
敏腕弁護士「エキサイトされているところ恐縮ですが──」
敏腕弁護士「なぜ弁護士の私がこの場に 同席しているのかを、ご説明いたします」
敏腕弁護士「今回、ご家族の・・・・・・ ご遺族の皆さまにお集まりいただいたのは 稲山平八氏の意思によるものであります」
敏腕弁護士「「ハゲタカどもを待たせちゃ 気の毒だから、ワシが亡くなり次第 遺言書の開示をおっぱじめよ」と」
金の亡者の次男「なんじゃその言い草ぁ!?」
敏腕弁護士「平八氏のお言葉を そっくりそのままお伝えしたまでのこと」
  遺言書の登場により
  半分が妻、もう半分を
  子供たちが等分の方程式が崩れた
敏腕弁護士「彼なりの気づかいでしょうが 生命のともし火は非常に不安定 消ゆるも燃ゆるも神の御心次第」
死神「どもども」
ジイ様「不安定でスマン」
敏腕弁護士「素人目には判断しかねますゆえ ドクターの「危ない!」という タイミングでお越しいただいた次第」
金の力で一旗揚げたい長女「三日も待たされた理由がわかったわ」
金の力で一旗揚げたい長女「判断を誤ったわね、ドクター」
善良なドクター「は、はぁ。陳謝──」
夫想いのバア様「――する必要ありませんよ 快方へ導くのが ドクターの役目なのですから」
欲の皮の突っ張った長男「そうはいうけどね母さん 待ちぼうけを食った コッチの身にもなってくれよ」
欲の皮の突っ張った長男「大物相手の取引があったというのに」
金の亡者の次男「ワシんトコもじゃ 今回の損失分 キッチリ返してもらわんとアカンのぉ」
家族より金を愛する次男夫人「ホントよね 私たちの扱う額は ちょっと桁が違うのよ?」
左うちわを夢見る長男夫人「そんなら オタクはオタクの事業を優先せぇや!」
家族より金を愛する次男夫人「なにをいうの? お義父様を大事に思えばこそ こうして駆けつけたのよ!」
家族より金を愛する次男夫人「いうなれば家族愛のなせる業 アナタがた拝金主義とは 一緒にしないでもらいたいわ」
とにかく金の欲しい三男「部外者はスッこんでろや!!」
金の亡者の次男「おぅタツ、俺の嫁は部外者ちゃう」
金の亡者の次男「いくら弟でも ナメた口利くと承知せぇへんぞ!! あぁタツ!?」
とにかく金の欲しい三男「チッ!」
家族より金を愛する次男夫人「ありがとうアナタ 愛してるわ」
新人のお手伝いさん「こういう時、われわれはどうすれば?」
忠実なじいや「念ずるのだ、心の中で」
忠実なじいや「私は置物 タヌキの置物」
新人のお手伝いさん(私は置物 タヌキの置物)
夫想いのバア様「見てられないわ アナタたち一体どうしてしまったの?」
夫想いのバア様「四人とも 昔はあんなに仲がよかったのに」
金の力で一旗揚げたい長女「そりゃあ 社会の荒波に揉まれれば、人は変わるわ」
金の力で一旗揚げたい長女「その点、お母様は安泰でしょうね お父様のお膝元でぬくぬくと なに不自由のない生活をしていたのだから」
金の力で一旗揚げたい長女「日々の介護で 心をしっかりつかんでいたから 配当の方も、全然心配ないものねぇ」
善良なドクター「タマちゃん、それは違うよ!」
善良なドクター「君のお母さんはお父さんを愛していた! 心の底からね!!」
善良なドクター「仕事上 幾度も故人を看取ってきたが 彼女ほどマメな人を、私は知らない」
欲の皮の突っ張った長男「フン! 必死ですなぁ先生」
欲の皮の突っ張った長男「母に頼まれたのですか? 援護してくれと」
欲の皮の突っ張った長男「報酬はいくらです? え! 先生!?」
夫想いのバア様「な、なんてことを!」
死神「ウ~ム、愛憎がうずまいてますなァ」
ジイ様「これだけヒドイと、逆に客観できるわ」
敏腕弁護士「コホン!」
敏腕弁護士「ウェッホ! ゲフォ! コホン!!!」
敏腕弁護士「つもる話もありましょうが そろそろ遺言書を開示させていただきます」
敏腕弁護士「同書の内容は絶対厳守!」
敏腕弁護士「泣こうが喚こうが 座布団を投げつけようが ちゃぶ台をひっくり返そうが──」
敏腕弁護士「くつがえされることは ありませんので、予めご留意のほどを」

〇雷
夫想いのバア様(お、お父さん──)
欲の皮の突っ張った長男(遺産!)
金の亡者の次男(遺産をくれ!!)
とにかく金の欲しい三男(・・・・・・)
左うちわを夢見る長男夫人(私のものだ、私の!)
家族より金を愛する次男夫人(三日間のサル芝居をムダに させないでちょーだい)
金の力で一旗揚げたい長女(愛してるわお父様 だからお願い、遺産ちょーだい!!)
忠実なじいや(どうご決断を下されようとも 私は旦那様に従うのみ)
新人のお手伝いさん(新入りの私には縁のない話だわ)
ジイ様「さぁて餓鬼ども ワシの指示にどう答えるかな?」
死神「なんて書いたのです?」
ジイ様「今にわかるさ」

〇屋敷の大広間
敏腕弁護士「読み上げます」

〇大きな日本家屋
  拝啓
  ハゲタカ諸君
  三度のメシより遺産が好きな怪鳥ども
  喜べ、エサをくれてやる
  分け前はキッチリ等分
  余計にいただこうなんて気は起こすなよ?

〇屋敷の大広間
  等分か、まぁ妥当だろう
  参加者たちは、一応の納得をした
敏腕弁護士「お待ち下さい。まだつづきが──」

〇大きな日本家屋
  ワシは自分の財産を
  みんな遊びに使い込んじまった!
  全財産、みぃ~んな!
  のこったのは多額の借金のみ!
  受け取れハゲタカ!!
  仲良く返金に精を出すがいい
  それでは、遺族一同
  協力を絶やさぬように
  グッド・バイ!

〇風流な庭園
  カッコ~~~ン!

〇屋敷の大広間
左うちわを夢見る長男夫人「バ・・・・・・バ・・・・・・」
左うちわを夢見る長男夫人「バカヤロォォオオオ!!!!」
左うちわを夢見る長男夫人「クソジジイが! 財産よこせや!! コンチクショウ!!!」
善良なドクター「お、奥さんおちついて!!」
新人のお手伝いさん「ぷ、ぷぷ・・・・・・」
忠実なじいや「ふふ、ふふふ──」
「あ~はっはっはっは!」
家族より金を愛する次男夫人「バッカみたい! すっかり時間をムダにしたわ」
家族より金を愛する次男夫人「なにをグズグズしてるの!? 帰るわよ、アンタ!!」
金の亡者の次男「あ、あぁ」
欲の皮の突っ張った長男「まったく、とんだ茶番だ」
欲の皮の突っ張った長男「われわれも帰ろう」
とにかく金の欲しい三男「・・・・・・」
家族より金を愛する次男夫人「弁護士さん 私のところに借金なんかよこさないでよ?」
敏腕弁護士「そうはいきません ルールは絶対厳守ですから」
家族より金を愛する次男夫人「こんな亭主もらったのが間違いだったわ! 離婚よ離婚!!」
金の亡者の次男「そりゃねぇよ! 待ってくれぇ~!!」
敏腕弁護士「愚かな」
金の力で一旗揚げたい長女「あ~あ下らない。私も帰ろっと!」
ジイ様「わはははは! 餓鬼どもが帰っていきよる! いい気味じゃ!」
死神「私に演技は不要です、おじいさん」
ジイ様「・・・・・・」
ジイ様「鋭い嬢ちゃんじゃ」
  ◎大広間に残った者
  医師、妻、弁護士、三男、執事、家政婦
とにかく金の欲しい三男「母さん」
夫想いのバア様「辰夫、まだ帰ってなかったのかい?」
とにかく金の欲しい三男「もう一度、親父の死に顔を」
ジイ様「三男は勉強も運動もテンでダメでな」
ジイ様「長男の野心も、次男の勢いも 長女のしたたかさも持ち合わせなんだ」
ジイ様「正直、ワシは好かんかった ヤツは大物の器じゃない」
とにかく金の欲しい三男「親父」
とにかく金の欲しい三男「アンタの借金は、俺が背負う」
とにかく金の欲しい三男「あばよ」
夫想いのバア様「辰夫!」
夫想いのバア様「なぜ肩代わりを?」
とにかく金の欲しい三男「なぜもクソもあるか」
とにかく金の欲しい三男「親子だろう?」
善良なドクター「辰夫くん」
夫想いのバア様「辰夫」
忠実なじいや「辰夫様」
新人のお手伝いさん(荒野に咲く一輪の花だわ)
ジイ様「辰夫」
敏腕弁護士「稲山辰夫さん」
敏腕弁護士「稲山辰夫さん!」
とにかく金の欲しい三男「なんか用か?」
敏腕弁護士「アナタには お父上の財産を受け継ぐ資格がある」
とにかく金の欲しい三男「もう受け取ったよ、負の遺産をな」
敏腕弁護士「最後までお聞きなさい 借金の下りは、お父様のブラフです」
とにかく金の欲しい三男「どういうことだ?」
敏腕弁護士「遺言書には、まだつづきがあるのです」

〇大きな日本家屋
  一家のピンチを見捨てるヤツに
  ビタ一文やるものか
  進んで手を差しのべる者こそ
  相続人にふさわしい
  わが家に真の勇者が現れんことを

〇屋敷の大広間
  妻と勇者で遺産は山分け
  執事と家政婦にも相応の手心を加えよ
  ――と、文書は結ばれていた
新人のお手伝いさん「わ、私にも!?」
忠実なじいや「身に余るお言葉でございます」
ジイ様「ワシはなんという愚か者じゃ」
ジイ様「器は小さくとも ヤツは黄金に輝く聖杯じゃった」
ジイ様「辰夫!!」

〇幻想空間
ジイ様「ワシはお前を日陰に追いこんだ」
ジイ様「許してくれ!」
とにかく金の欲しい三男「・・・・・・」
稲山辰夫「あばよクソジジイ」

〇屋敷の大広間
死神「果報者ですね、おじいさん」
死神「行きましょう」

〇風流な庭園

〇大きな日本家屋

〇屋敷の門
  未熟な新当主を支えつつ
  稲山家は慎ましく幸福な日々を送った

次のエピソード:小劇場 子守唄を聞く死神

コメント

  • 関係者勢揃いのシーンで、さらっと死神さんが並んでいたのには笑ってしまいました。今話は、死の間際にスッキリではなく、死後にスッキリのパターンですね!それも魅力的です!

ページTOPへ