流し屋

敵当人間

ヤングケアラーの青年の話(脚本)

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〇田舎町の駅舎
「とりあえず、立ち話もなんですから、どうぞ・・・」
ヤングケアラー「あ、ありがとうございます」
ヤングケアラー「な、何から話しましょうか?」
「ゆっくりで構いませんよ」
ヤングケアラー「とりあえず、僕の家族の話をしますね!」
「えぇ、よろしくお願いします」

〇綺麗な一人部屋
ヤングケアラー「僕の家は元々3人家族でした」
ヤングケアラー「穏やかな母と少し勝気な父と」
ヤングケアラー「細やかながら幸せな生活をしていたんです」
ヤングケアラー「ある日までは」

〇綺麗な一人部屋
ヤングケアラー「まぁ、どこにでも転がってる話でしょう」
ヤングケアラー「不倫だなんて」
ヤングケアラー「逆ギレした父は母を罵る様になり」
ヤングケアラー「母は心労から床に臥せりがちになり、」
ヤングケアラー「僕が高校2年生の時、父は家に帰らなくなりました」
ヤングケアラー「当たり前ですが、母はうつになり、」
ヤングケアラー「そこから全般性不安障害という」
ヤングケアラー「常に原因不明の不安が付きまとう症状が出始めました」
ヤングケアラー「この症状を和らげる薬がまた厄介で、」
ヤングケアラー「・・・パーキンソン病という病気をご存知ですか?」
ヤングケアラー「意識はしっかりしてるんですが、」
ヤングケアラー「体が指先が震え出して、身体が鉛の様に重くなって」
ヤングケアラー「どんどん動けなくなっていく病気です」
ヤングケアラー「表情もどんどん乏しくなって」
ヤングケアラー「仮面様顔貌と言って表情も無くなっていくんですが、」
ヤングケアラー「僕の母は、向精神薬を飲み続けた結果、」
ヤングケアラー「このパーキンソン病になってしまいました」

〇綺麗な一人部屋
ヤングケアラー「えぇ、この部屋は母のための部屋です」
ヤングケアラー「体もほとんど動かなくなってますから」
ヤングケアラー「ベッドからテレビを観れるようにしました」
ヤングケアラー「母は真面目に年金を納めていましたから」
ヤングケアラー「障害者年金で2級が出ているので」
ヤングケアラー「必要な費用は全て賄ってくれています」
ヤングケアラー「僕もコンビニのフリーターをするぐらいで」
ヤングケアラー「生活が出来ているので、本当に優秀な母ですよ」
ヤングケアラー「凄く自慢の母だったんです」
ヤングケアラー「優しくて、料理が上手で、」
ヤングケアラー「毎日、僕のことを気にかけてくれてたんです」
ヤングケアラー「不幸?」
ヤングケアラー「そんな筈がないじゃないですか?」
ヤングケアラー「母さんが今まで僕に尽くしてくれていた事を」
ヤングケアラー「僕が返しているだけですから」
ヤングケアラー「ただ、母さんが時折、静かに涙を溢すんです」
ヤングケアラー「声も上げずに、さめざめと泣くんです」
ヤングケアラー「その時、僕が至らない所為だろうかと、」
ヤングケアラー「正社員になって立派な大人にならなかったからだろうかと」
ヤングケアラー「情けない大人になってしまったんじゃないかと」
ヤングケアラー「それだけが心残りで」

〇田舎町の駅舎
ヤングケアラー「え!?」
ヤングケアラー「流し屋さん、大丈夫ですか?」
ヤングケアラー「とりあえず、これを・・・」
「ありがとうございます」
ヤングケアラー「いえ、僕の所為ですから」
「いいえ、貴方のおかげです」
「貴方のおかげで、僕は涙を流すことが出来る」
ヤングケアラー「・・・」
「傍についてあげるのが、一番の親孝行ですよ」
ヤングケアラー「なんだか、不思議です・・・」
ヤングケアラー「僕、同情されるの嫌いだったんです」
ヤングケアラー「可哀想に、とか、大丈夫?って言葉って」
ヤングケアラー「僕のことを対等に見てくれていないような気がして・・・」
ヤングケアラー「お涙頂戴モノとか反吐が出ます」
ヤングケアラー「号泣して、ストレス発散してるのが目に見えて」
ヤングケアラー「大声上げて泣く人って汚いなぁって・・・」
ヤングケアラー「でも、流し屋さんの泣き方は」
ヤングケアラー「なんだか母に似てるので」
ヤングケアラー「全然不快じゃありませんでした」
ヤングケアラー「流し屋さん」
「なんでしょう?」
ヤングケアラー「流し屋さんも何か理由があるんですよね?」
ヤングケアラー「泣けない理由・・・」
「もちろんです」
「僕は業の深い人間ですので」
「自分の事で泣くのは”罪”だと思っています」
「でも、どうしようもなく泣きたい時だってあるんです」
「そんな時、こうして皆様に助けていただいているんです」
ヤングケアラー「僕の話が誰かの為になる事なんてあったんですね」
「もちろんですよ」
「同じ悩みを抱えている人は尚のこと、知りたいと思っている筈です」
「貴方が、この苦難をどう乗り越えたのかを・・・」
ヤングケアラー「ははっ」
ヤングケアラー「エッセイでも書こうかな?」
「もしもお時間があれば、そうしてみてください」
「きっと誰もが貴方の話に耳を傾けてくれる筈です」
ヤングケアラー「だったら良いなぁ」
ヤングケアラー「流し屋さん、ありがとうございます」
ヤングケアラー「自分の為に誰かが涙を流してくれるのって」
ヤングケアラー「こんなにも心地良いんだってこと」
ヤングケアラー「気付けて良かったです」
「こちらこそ、お話くださりありがとうございました」
「また、いつでもいらしてくださいね」
ヤングケアラー「そう言えば、僕にお水はくれないんですか?」
「あぁ、アレですか」
「アレは悪い言葉が口の中に残らない様に」
「渡している水なんです」
「申し訳ございません」
ヤングケアラー「そうなんですね」
ヤングケアラー「じゃあ、次は愚痴っぽい話でもしに来ようかな?」
「えぇ、是非そうしてください」
「いつでもお気軽にお越しくださいね」
ヤングケアラー「はい、それじゃあ」
「ありがとうございました」
「・・・」
「もしもし」
「もしもし、いかがなさいました?」
「さっき来た青年、マークしといてくれないか?」
「かしこまりました」
「ありがとう」
  どうやら、今日はこれで店仕舞いの様です。
  明日はどんなお客さんが来るのでしょうか?

次のエピソード:新婚の女性の話

コメント

  • ヤングケアラー問題は深刻ですよね。
    涙も流す流し屋さん。
    次はどんな方がいらっしゃるのでしょうか?
    楽しみです。

  • 中学生だと17人中1人がヤングケアラーに該当するようです
    で、この全国調査が“初めて”行われたのが2年前
    問題として認識はされてたのに、国の動きは遅いな、とニュースを見て感じたのを思い出しました
    地域で支援の輪が広がると良いですよね

  • ヤングケアラーは本当に悩ましいですよね。

    もっと昭和的に地域の助け合いの輪があればいいんですが、孤立トレンドはどうしようもないですからね。

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