魔界転生 〜転生したらめんどくさい魔女がオマケについてきました〜

うみ

最初の村で初ディナーとお買い物(脚本)

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うみ

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〇寂れた村
  モンスターと遭遇としないよう細心の注意を払いながら俺たちは草原を抜け、小川沿いにしばらく歩くと、小さな村を発見した。
  小川からの動力で回る水車が鄙びた雰囲気を醸し出す、一見して長閑な村のようだ。
  建物の数は多くない。15軒ほどだろうか。どの建物の煙突からも細い白煙が立ち昇っていて、ほのかに漂う炊事の香り。
  ここまでの道中、初めての異世界探索に夢中で気づかなかったのだが、空はうっすらと暗くなり、夜の帳が落ち始めている。
  村の人達は社交的で初めて見る俺たちにも優しく『アンファ』という村の名前と、一軒だけある『宿屋』の場所を教えてくれた。
  その『宿屋』で部屋を確保すると、マルリーティが何を思ったのか「一人で村を探索したい」と言い出した。
  今日は本当に色々あった。17年間平凡な人生を送ってきた中で、まず間違いなく一番濃い一日だ。
  だから俺も、暫く一人になりたかった。
  なのでマルリーティの申し出を二つ返事で了承し、しばらくしてまた『宿屋』の前で落ち合う約束をしたのだが。
  ———後々振り返ってみれば、そう考えたのが失敗の元でした。
  マルリーティと別れた俺は、これからどうするかを考えて、はたとある事に気がついた。
  そう。『インセンティバー(懸命の対価)』以外に戦える武器を手に入れることだ。
  絶大な威力を発揮するこの剣は、頼れる武器であるのだが、命を代償とした使用制限がある以上、闇雲にブンブン振り回せやしない。
  この剣は、いわば切り札的存在だ。いつも使いとなるメインの武器を、早めに用意する必要がある。
  町の人に聞いたところこの町に『武器屋』と言うものはなく、『道具屋』に武器の類が置いてあるらしい。

〇戦地の陣営
  俺は教えられた通りに『道具屋』に行くと、置いてある武器を見せてもらった。
  売っていた武器は銅製のミドルソードと鉄製のミドルソードの二種類のみ。小さな村の『道具屋』では、仕方ないのかもしれない。
  俺は店主に「また来る」と告げ、『宿屋』に戻る道すがら。

〇寂れた村
タツヤ(———そういえば、言葉も文字も理解できるんだな)
  そんなことを今更ながらに思った。
タツヤ(……マルリーティの奴、『転生担当者(ナビゲーター)』ならちゃんとチュートリアらなきゃいけない事が他にもあるだろうにっ!)
タツヤ(実はもっと大切なこと言い忘れているんじゃないのかっ!?)
  胸にモヤモヤ広がる不信感を抱きながら歩を進めると、何やら包みを持ったマルリーティが既に『宿屋』の前で待っていた。
マルリーティ「……もう遅いわよ! 私お腹空いちゃったから、部屋に行く前にご飯食べましょうよ」
タツヤ「そうだな……確かに腹ペコだ。そういえばあっちに『食堂』っぽい店があったぞ」
マルリーティ「じゃあ決まりね。そこで美味しいものでも食べましょう!」

〇戦線のテント
  『食堂』では数人の先客が既に食事を楽しんでいて、店に充満する香ばしい匂いに腹の虫を抑えつつ、俺たちは空いている席に座る。
  店主のおすすめを二人前注文すると、それほど待たずにテーブルに料理が並べられた。
  日本では目にした事がない野菜類もあったが味は悪くない。空腹という調味料も相まって、目の前の料理をあっという間に平らげた。
タツヤ(パッと見は、結構かわいい女の子なんだけどなぁ……)
マルリーティ「……んんっ? 私に顔に何かついてるのかしら?」
タツヤ「ああ、いっぱいついてるよ。野菜の切れっ端とか、その他もろもろ」
  慌てて顔を拭うマルリーティを見ながら、さっきの疑問が頭を過る。
タツヤ「なあマルリーティ。この世界に来て思ったんだけど……俺にまだ言ってないこととか、隠してることあるんじゃないのか?」
マルリーティ「……えっ! そそそんなこと、なないわよ……!」
  どうやらウソが下手なタイプらしい。
タツヤ「おい、正直に言ってくれ。この『ロザリオンデ』で生きてくためには、情報ってのはとても重要なんだよ!!」
タツヤ「お前『転生担当者(ナビゲーター)』なんだろ!? ちゃんとキッチリ仕事してくれよっ!」
マルリーティ「ちょっとっ! 変な勘ぐりはしないでくださいっ! 『転生担当者(ナビゲーター)』として完璧と言えるくらいのナビっぷりよっ!」
マルリーティ「これ以上教えられる『ロザリオンデ』の基本情報は、もうないの!」
  どうやらこれ以上聞き出すことは難しそうだ。しかし、それならこちらにも考えがある。
タツヤ「……わかった。じゃあ、ここまででいいや。今までありがとう。もう『転生担当者(ナビゲーター)』としての役目は終わっただろ?」
タツヤ「買い物包みを持ってるって事は金を持ってるんだよな? そのお金を初期費用として少し置いて、とっとと『魔界』に帰ってください」
マルリーティ「はぁっ!? な、なんて事を言うのこの男は!? お金を置いて帰れとかありえなくないっ!? 女子に言うセリフじゃないわっ!!」
マルリーティ「『転生担当者(ナビゲーター)』は『転生者』が新しい世界でちゃんと生きていけるか確認し、冒険の手助けさえする存在よっ!」
マルリーティ「自身の意思で元の世界に戻ることはあっても三行半を突きつけられるなんて聞いた事ないわよぉっ!? 絶対に帰りませーんっ!!」
  くっ……このアマっ! 前言撤回っ!! ちっともかわいくねぇぇぇ!
タツヤ「わ、わかったよっ! 勝手にしろっ!!」
  ベロベロと舌を出し人を小馬鹿にする態度に若干の殺意を覚えつつ、食事を終えた俺たちは『宿屋』に向かうことにした。

〇英国風の部屋
  狭いスペースにベッドが二つ。簡素を絵に描いたような『宿屋』の部屋で、俺は明日からの予定を真剣に考えていた。
タツヤ(まずレベルを上げないとだよな。『道具屋』の店主の話だと村に『ギルド』はないけど『冒険者許可証』は作れるって言ってたな)
タツヤ(当面はこの村を拠点として、少しずつ行動範囲を広げよう。レベルが上がれば大きい街まで行ける筈。そこで身の振り方を考えよう)
  ふとマルリーティに目を向けると、部屋にある姿見鏡の前で赤いワンピースを体にあてて、何やら楽しそうに鼻歌なんか歌っていた。
タツヤ「なあマルリーティ。『インセンティバー(懸命の対価)』の他に武器を買いたいんだけど、金を少し貸してくれないか?」
  鏡に向かいご機嫌だったマルリーティは、小さく「ほぅ」とため息をついた。
マルリーティ「仕方ないわねぇ。……はい、無駄遣いしちゃダメよ」
  そう言って、札を一枚渡してきた。そこに書かれた金額は『千ルーン』。
タツヤ「……はっ!?  いや、これだけじゃ全然足りないんだけども。『食堂』でお金払ってたよね!? もっと貸してくれないかなっ!?」
マルリーティ「もうないわよ」
タツヤ「……え!?」
マルリーティ「もうお金ないの。食事代もそうだしここの宿屋代だって払ってるのよ。この服も買ったし、すっからかんになってしまいました」
タツヤ「……な、なんてこった。明日からのレベル上げ、どーすりゃいいんだ……」
タツヤ「メインの武器を買う金を貯めるまで、この剣で戦うしかないのか。いやダメだ。それじゃすぐカウンターの数字を使い切っちまう……」
  苦悩に頭を抱える俺の前で、飽きる事なく鏡に向かってポーズをとるマルリーティ。
  ふと顔を持ち上げると。服の襟からひらひら揺れるタグが視界に入り。俺は勢いよくそのワンピースを引ったくった。
タツヤ「…………おまっ! こ、これ5万ルーンもしてんじゃねーかあああああっ!!」
マルリーティ「ちょっと! 返してよ!『服屋』の前を通りかかったら私に『着てください』ってこの服が語りかけた……そんな気がしたのよっ!」
タツヤ「お前、立派なアホか!? この剣は回数限られてんだぞ! このままレベル上げなんかやったら一瞬で俺は天寿を全うしちまうぞ!」
タツヤ「他の武器がなきゃ先に進めないだろーがああああああっ!」
マルリーティ「何よ! 女の子に泥の付いた服をそのまま着てろって言うわけ!?」
マルリーティ「それにちゃんと手加減すればカウンターは『500』も減らないわよ! 敵の強さも分からずに、全力を出すタツヤが悪いのよ!!」
  このアマ、助けてやったのに。なんて言い草なんだ。
  
  ……しかし、貴重な情報を手に入れた。
  手元の微妙なさじ加減で『インセンティバー(懸命の対価)』のカウンターの減る数値は変わるらしい。
  ……どんだけめんどくさい神剣なんだ。
  それにしても……
  
  そういう情報を教えるのが『転生担当者(ナビゲーター)』の役目じゃないんですかっ!?

次のエピソード:異世界でローンとか、ありえないから!

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