異世界でローンとか、ありえないから!(脚本)
〇戦地の陣営
異世界転生二日目の翌朝。
目を擦り眠たそうにしている寝起きのマルリーティを引っ張って、『道具屋』へと急いだ俺は。
タツヤ「……おじさん! 一生のお願いです! この銅の剣を分割で売ってください……!」
道具屋の主人に8千ルーンの銅のミドルソードを、千ルーンの頭金と千ルーンの7回払いでどうにかできないものかと交渉中である。
なんで俺がこんな目にっ……! 異世界で武器をローン購入とか、ありえないからっ!
道具屋「うーん……聞いてやれないこともないけど……アンタたち、昨日村に来たばっかだろっ? 馴染みの客ならともかくなぁ……」
確かに正論すぎるほどの正論である。
道具屋「それににいちゃん。大層ご立派な剣を腰にぶら下げてるじゃないか。今更チンケな銅の剣なんているのかね?」
至極もっともなご意見に、ぐうの音も出ません……!
タツヤ「そ、そうなんだけど……ちょっとこの剣は訳ありで……その、簡単には使えないと言うか……ぶっちゃけ使いたくないって言うか……」
道具屋「まあ、人それぞれ事情ってもんがあるから深くは聞かないでおくよ……じゃ、その剣を質草に預けるなら銅の剣を分割で売ってやるよ」
タツヤ「……えっ? ホント!? ぜひお願いし」
マルリーティ「———そ、それはダメェェェェェェ!!」
俺の後ろで興味なさそうに一部始終を眺めていたマルリーティが、急に割って入ってきた。
俺を引っ張り主人に背を向け、小声でまくし立てる。
マルリーティ「た、タツヤあなたっ! 仮にも『神世界』から授かった神剣を、よりにもよって質草に出すなんて、何考えてるのよぉぉぉ!!」
タツヤ「し、しょうがないだろ! この剣でレベル上げなんてできないっちゅーの!! 今は使えない神剣より目先の武器が必要だろうが!?」
マルリーティ「そうかもしれないけど……と、とにかく! ダメなものはダメなのっっっっ!!」
道具屋「……まあ、その剣がイヤなら無理にとは言わないけど、やっぱり何かないとなあ……」
小声で揉めてる俺たちを見かねた主人が、少し申し訳なさそうに声を掛けてきた。
とある事をひらめいた俺は、勢いよく振り返る。
タツヤ「……じゃあ、他の質草を預けるから! これなんかどうっすか!?」
マルリーティ「あああああああああっっ! 私のワンピースぅぅぅぅ!!」
俺はマルリーティの手からワンピースとむしり取ると、それを店主に差し出した。
道具屋「ふーむ……まあ、そうだな。このワンピースを預かっていいってんなら、分割でもいいだろう」
マルリーティ「いやあああああああっ! 私のワンピースを返してええええええっ!」
タツヤ「おまっ! 落ち着けっ! 預けるだけだっ! それによく考えてみろ! あんな服を着てレベル上げになんかにいけないだろっ!?」
タツヤ「また昨日みたいにモンスターに追われて転んだりしたら、ドロドロに汚れるぞっ!」
その言葉に渋々納得したマルリーティは、恨めしそうな目つきでワンピースを持った主人を睨み出した。
道具屋「……は、はははは。な、なんかにいちゃん大変そうだな。俺もかかあには頭が上がらなくてな、気持ちは痛いほどわかるぜ。」
道具屋「ま、頑張れよ。……これはサービスだ、持っていきな」
主人は同情を寄せた表情で、銅のミドルソードに薬草を二つ付けて俺に手渡した。
……こうして俺たちは、転生二日目で所持金ゼロになり、借金も背負うことになりました