白の都

アシア

エピソード1(脚本)

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〇海沿いの街
ダフィー「やっと着いた~」
  馬車から降りた私の目に飛び込んできたのは眩い白と青の色彩だった。
ダフィー「ここが白の都、グレイスかぁ」
ダフィー「・・・綺麗」
  その見惚れる程の美しさに思わず我を忘れてしまいそうになる。
ダフィー「・・・はっ!?」
ダフィー「こんな事してる場合じゃない」
  私は慌てて荷物を抱えると城門に向けて歩き出す。
ダフィー「・・・今日から私はここで暮らすんだから」
  私がグレイスに来たのは観光のためではない。
  この王都にある寄宿学校に通うためなのだから。
  ここから私の新しい生活が始まるのだ。

〇西洋の住宅街
  始まるはず、だったのだが。
  しかし。
ダフィー「ここ、どこ・・・?」
  私は今絶賛迷子になっていた。
  周囲に広がるのは全て白色の建物ばかりである。
  私には目の前の建物が住宅なのか商店なのかの区別もつかなかった。
ダフィー「が、学園は・・・?」
ダフィー「私が生活する寄宿舎はどこに・・・?」
  泣きそうになりながら周囲を見渡しても、目に入ってくるのはやはり白色のみだ。
ダフィー「本当にここはどこなの・・・?」
  どっちに進めばいいのかも分からずに途方に暮れてしまう。
  長時間馬車で移動してきた疲れもあり、私は道の端に座り込んでしまった。
ダフィー「はぁ・・・」
ダフィー「お母さんに一人で大丈夫、って言ってきたのに・・・」
  思い出すのは出かける際の母の心配そうな様子だ。
  母は以前グレイスに住んでいたそうで、一緒に行こうかと言ってくれていたのだが・・・。
ダフィー「はぁ・・・」
  先ほどから出てくるのはため息ばかりだ。
  もしかしてこのまま夜になってしまうかも、と心配になってきていたのだが。
ケル「・・・お姉さん、大丈夫?」
ダフィー「──えっ?」
  すぐ近くから聞こえてきたその声に驚いてしまう。
  視線を横に向けるとすぐ隣に同い年か少し年下くらいの少女がいた。
ダフィー「え、えと・・・?」
  私に目線を会わせるように腰を落としているその少女。
  いきなりな状況に私は上手く言葉を返す事が出来なかった。
  そんな私に彼女は柔和な笑みでさらに口を開く。
ケル「お姉さん。 もしかしてグレイスに来るの始めてなんじゃない?」
ケル「それで道に迷っちゃった、とか」
  困惑している私の状況を彼女は的確に言い当ててくる。
ダフィー「な、何で?」
ケル「何で、って。 皆そうなんだもん」
ケル「この王都、全部白色だから分かりにくいよね」
ケル「まぁ、綺麗だし私は好きなんだけどさ」
  彼女はそう言いながら立ち上がって手を伸ばしてくる。
ケル「私は・・・、うん。ケル、って言うんだ」
ケル「せっかくだし道案内しようか? お姉さん」
  私はしばらく呆気に取られていたが、すぐに我に返ってその手を掴んだ。
ダフィー「わ、私はダフネ。 ダフィーでいいよ」
  彼女の笑顔に導かれるように私は立ち上がった。

〇西洋の住宅街
ケル「へぇ ダフィーはグレイス王立学園に通うため来たんだ」
ダフィー「う、うん そうなんだ」
  ケルに導かれながら私は王都の道を歩く。
  彼女はこの王都に住んでいるそうで、学園の場所も知っているそうだ。
ダフィー「お母さんが是非行きなさい、って」
ケル「・・・あぁ、そっか」
ケル「あの学園って・・・」
ダフィー「うん ルセラン女王の功績の一つ」
ダフィー「誰でも平等に教育を受けられるように、って地位や立場に関係無く入学試験を受けることができる」
ダフィー「私の家も貧乏って訳じゃないけど・・・」
ダフィー「それでもタレイアの片田舎に住んでた私が通えるのは女王様のおかげ」
ケル「タレイア、って・・・。 ここから北東の?」
ダフィー「そうそう 周りには湖と森しかないの」
ケル「・・・たしか王国最大の湖のタリア湖がある場所だよね?」
ケル「夏季には王族の避暑地にもなってたはずだけど・・・」
ダフィー「よく知ってるね?」
ケル「・・・一部では有名だよ?」
ケル「公務ばかりの女王様がその期間だけはかならず休む、って」
ダフィー「あ、ルセラン女王様の事だからか」
  ルセラン女王。
  母である前女王の不幸により、歴代史上最年少で即位した女王。
  祖母であるレオフォルディーネ殿下の力を借りながらも、数々の功績を残している王国の至宝。
ダフィー「やっぱりすごい人なんだね」
ダフィー「どんな人なんだろうなぁ」
ケル「・・・」

〇西洋の円卓会議
ルセラン「──何か報告のある者は居ますか?」
  部屋の中に凛とした少女の声が響く。
  その声を呼び水として周囲の大臣達から声が上がり始めた。
  農耕、漁業、治水、医療、教育等々。
  様々な言葉が上がるなか、彼女は一つ一つ丁寧に答えていく。
ルセラン「・・・現在王国の状況は安定しています」
ルセラン「今は特に医療、教育に力を入れるべきでしょう」
ルセラン「作物の収穫量や漁獲量は増加 周辺国との関係も良好」
ルセラン「この機に国の基盤を強固にすべきです」
ルセラン「・・・他に何か告げるべき事がある者は居ますか?」
  周囲からもう何も発言が無い事を確認すると、彼女は視線を横に走らせる。
  テーブルから少し離れた所には、一人の老年の女性が腰かけていた。
  女性は少女からの視線に無言で頷く。
ルセラン「・・・ではこれで議会を終わらせていただきます」
ルセラン「──ルイス」
ルイス「はい」
ルセラン「では皆様、私はこれで失礼させていただきます ・・・行くわよ、ルイス」
ルイス「かしこまりました、ルセラン女王」

〇貴族の応接間
ルセラン「ルイス以外は下がって良いわ」
  部屋にもどるなり、ルセランは他の従者にそう言い付けて扉を閉める。
ルイス「・・・ルセラン女王 この後はどうなさいますか?」
ルイス「取り急ぎの公務もございません。 夕食までお時間が──」
ルセラン「──無理です」
  ルセランは唐突にそう呟く。
ルイス「女王?」
ルセラン「無理です、無理です無理ですよ~!!」
ルセラン「ルセラン女王様~!! もうこれは止めましょうよ・・・」
ルセラン「・・・えー?」
ルセラン「大丈夫よ 今日の会議だってちゃんとやれてたじゃない」
ルイス「そういう問題じゃ無いんですよ~!!」
ルイス「今日だって殿下の視線が怖かったんですからね!!」
ルセラン「大丈夫よ。おばあ様は特に何も言ってこないし」
ルセラン「・・・たぶん」
ルイス「自身無さげじゃないですか!?」
ルイス「というか、この頃は公務のほとんど私がしてますよね?」
ルセラン「・・・だって、貴方がやった方が捗るんだもの」
ルイス「女王の公務を女王以外が行うことが問題なんです!!」
ルイス「殿下も公務のほとんどを女王に任せて後見人をなされているんですから・・・」
ルセラン「それは、そうなんだけど・・・」
ルセラン「ルイス、貴方は私のメイドであると同時に私の影武者でもあります」
ルイス「え!? は、はい」
ルイス「そ、それは存じていますが・・・」
ルセラン「王族とは危険が伴うものです」
ルセラン「影武者であるあなたが私の代わりを行う」
ルセラン「何も問題はありません」
ルイス「大有りです!!」
ルイス「国の主要な人物だけの定例会議で襲ってくる刺客がいるものですか!!」
ルイス「どれだけ厳重な警備をしているかは姫様もご存じでしょう!?」
ルセラン「ちぇー・・・」
ルイス「言 葉 使 い ! !」
ルセラン「分かっています」
ルセラン「貴方の前でしかこんな事言いませんから」
ルイス「もう・・・」
ルイス「従姉妹のケリー様はあんなにも礼儀正しくしていらっしゃいますのに」
ルセラン「え?」
ルセラン「あの子、よく城下町に抜け出して行ってるわよ?」
ルイス「この王族のご息女様達は本当に、もうー!!」

〇西洋の住宅街
ケル「・・・凄い人ではあるんだけどね」
ダフィー「──え?」
ケル「・・・ううん」
ケル「なんでもない」
ケル「・・・あれが学園だよ、ダフィー」
  ケルが指差す先には一際大きな門があった。
ダフィー「!!」
ダフィー「ありがとう、ケル!!」
ダフィー「おかげで助かったよ~!!」
ケル「どういたしまして」
  そのまま学園に向かおうとしたのだが。
ケル「・・・ねぇ、ダフィー」
ケル「お礼代わり、じゃ無いんだけど1つお願いしてもいいかな?」
ダフィー「?」
  ケルが声をかけてくる。
ケル「また今度、学園が終わった時間にこのあたりに来るからさ」
ケル「その時は、一緒に遊んでくれない?」
ダフィー「それなら喜んで!!」
  私はケルの両手を握り、おもいっきり握手を行う。
ダフィー「今日はありがと、ケル!!」
ダフィー「またね!!」
ケル「・・・うん」
ケル「またね、ダフィー!!」

〇貴族の部屋
ルセラン「・・・夜分に失礼いたします、レオフォルディーネ殿下」
ルセラン「・・・はい」
ルセラン「・・・全て滞りなく進んでおります」
ルセラン「はい 誰にも気付かれてはいないかと」
ルセラン「・・・はい」
ルセラン「承知しております」
ルセラン「・・・全ては王国、そして」
ルセラン「──ルセラン様のために」

次のエピソード:城下町編 グレイスの夕焼け

コメント

  • すっごく素敵な世界観ですね。
    情景描写もよくて、きれいな風景が目に浮かぶようです。
    新しいところに来るとなんだかワクワクしますよね。
    この後何が起きるんだろう?と楽しみです。

  • 冒頭から地中海の太陽の光がさんさんと輝くような国を想像してわくわくしました。ダフィはケルと友達になり、この王国の事を深く知ることになるんでしょうね。何が隠されているのかとても楽しみです。

  • とてもわかりやすい世界観で作中に引き込まれていました!
    登場人物との繋がりや、やり取りもわかりやすかったです!
    もし自分が一国の重要人物だとして…自分は実際の目で見に行けるのか…難しそうです汗

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