音色を探して

72

出逢いと暴動(脚本)

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〇外国の田舎町
  車に乗って移動をしている。何故か懐かしさと物足りなさを感じている。・・・初めての体験・・・懐かしさはどこから?
  物足りなさは・・・何だろう?何かが足りないような気がする。
  病院で聞いた音楽。 車の中は常にそれが流れているものだと感じている。何でだろう
  この時はまだ、猫の時の記憶が断片的だったから、不思議な感覚に陥った時、疑問が残るままモヤモヤしている事が多かった

〇児童養護施設
  「杉の森学園」。これから私が過ごす場所
  ここでは知的に障害のある男性、女性が約60人生活をしている。
  他にスタッフと呼ばれている人もいる。一緒に過ごしてくれる人、料理を作る人、よく電話をしてる人。何人くらいだろう?
  とにかく沢山の人が過ごしていた。病院に似ているところもあったが、かなり賑やかな場所だった

〇行政施設の廊下
  入居者は割と私に似ていた。言葉を話すのが苦手な人、バランスよく歩けない人から、話すのが得意な人、スタスタと歩き回る人
  トイレや食事が一人で行えないため、スタッフという人達に手伝ってもらっている人もいた

〇行政施設の廊下
  私は少しワクワクした。この中で過ごせば、私はもっと自由になれる気がしたから
  私が不自由に感じていた事は2つ。歩行と言葉だ
  歩行は歩行器を使う事で、自由な移動は出来ていたが、それでも周りの人達のように、歩行器無しで歩けるようになりたかった
  言葉に関しては話しかけられる言葉も解らず、自分からも話せなかったので、自分の不自由さすら解ってなかった
  入居されていた先輩方は、得意なことも苦手なことも皆バラバラ。スタッフの支援を受けている人もいたけど、全てが勉強になった

〇行政施設の廊下
  歩行の苦手な先輩。バランス悪くふらつきながら歩いていたけど、何故か転ぶことはなかった。
  私も歩行器に頼らずに歩けるよう、練習していこうと決めた
  箸もスプーンも持てず、スタッフに食事を手伝ってもらっている人もいた
  一方で箸を楽々と使って、食事を食べている人もいた。そんな先輩達はどことなくかっこよく見えた
  私はスプーンを使って食べているが、先輩達に比べると、食べこぼしが多かった
  病院の生活よりも、色んな事が解りやすかった。自分の目標となる人が、周りにたくさんいたからだ

〇浴場
  お風呂もかなり勉強になった。
  お風呂は一回に約7人程の人数で、順番に入っていく。自分一人で入れる人もいれば、スタッフに体を洗ってもらって入る人がいる
  病院にいた時、私は体を洗ってもらっていたが、訳も解らず、されるがままだった
  自分以外の人が、自分で体を洗っているところ、スタッフに体を洗われているところを見ることで、少しずつ正解が解ってきた。

〇空きフロア
  日中の過ごし方は人それぞれ
  パズルをする人、何かの部品の色分けをしている人、部品と部品を組み合わせている人など
  何かをする時には、常にスタッフが近くにいて、必要な事を教えてくれたり、場所が変わる時には分かりやすく誘導してくれていた

〇ベビーピンク
  私がもっとも成長をした時期だった
  まず、早々に歩行器を使わずに歩けるようになった。バランスが悪くてもフラフラしていても、歩ければいいのだと思ったからかも
  それとやはり元猫だからかな?身体能力の高さを実感する事は、その後も結構多かった
  病院にいた時はあまりにも突然で体の動かしかたが分からなかった。しかし先輩達と過ごす事、真似ることで一気に上達していった

〇グラウンドの隅
  私は杉の森学園で過ごすようになり、2日目でフラフラ歩き、3日目にはかなりしっかり歩けるようになった
  走る事、跳ねる事も少しずつ学んだ。物を掴む事、押す事、引っ張る事なども出きるようになった
  会話の理解も少しずつ増えていった。ただ、話すことは苦手なままだった。体は上手く使えるのだが、舌を使う事が難しかった
  それにしゃべれない先輩達もいたので、それでもいいかとも思っていた。少しあきらめていたのかもしれない

〇行政施設の廊下
  杉の森学園では男性と女性と別々のフロアで過ごしていたが、食事の時、朝の体操と散歩、日中に行う活動の時は一緒に過ごした
  やけに近寄ってくる人もいれば、まったく一人の世界で過ごしているような人もいた。時々大きな声を出す人には驚きもした
  気持ちを整理することが苦手なのだと、後になって知った。最初の頃は怖くなって近寄る事も出来なかったけど

〇空きフロア
  私は元猫。撫でてほしい相手がいたのなら、きっとぴったり寄り添っていたのだろうが、警戒心が上回り距離をとって過ごしていた
  ただ、動作や言葉など、いつも周りの人達をじっと見ていた。それが私にとっての日課だった。
  あくまでも私が勝手に取り組んでいた事だったが

〇簡素な部屋
  自分の部屋を用意されていたが、1日の多くは他の人達と過ごすようになっていた
  だから自分の部屋は、しばしの休息と寝ることぐらいの場所だった
  そもそも私自身もスタッフも、私の興味関心が分からなかったから、楽しむ方法も楽しませる方法も分からなかったのだ

〇音楽室
  杉の森学園に入って一週間。その日はボランティアさんと呼ばれる人がやってきた。
  その日は午後の活動で、「音楽」という事を行う日だった。
  私は「音楽」が大好きだ。しかしこの時はまだ、この言葉は覚えていなかったし、意味も分かっていなかった
  そしてこの日初めて体験した「音楽」は、私を大きく混乱させた

〇音楽室
  部屋の前方にボランティアの先生とピアノ、その前には椅子が並べられていたが、座っている人は少なかった
  参加している入居者、いつもより少し興奮しているようだった
  「音楽」も「ピアノ」も分からなかった当時の私。
  それでも、いつもと違う様子から、これから起こる何かへの期待は高まった
  スタッフも数人、先輩達の中に交じっていた。ソワソワしている人、集団の中に入れない人に声をかけて、その場を和ませていた

〇音楽室
  ボランティアの先生はピアノの椅子に座ると、皆に何の歌を唄いたいかを訪ねてから、リクエストに応じて曲を弾く
  実はある程度弾く曲は決まっていて、その中で行われるやりとりだったのだが。
  訳も分からない私だが、皆の楽しそうなやりとりに、自然とニヤニヤした
  そしてボランティアの先生がピアノを弾き始めた

〇水玉2
  「音楽」それが私の好きな事の名前?
  お腹の辺りがジワジワ暖かくなり、体中の皮膚がくすぐったくなった
  だけどそれは一瞬で終わった

〇音楽室
  参加していふ先輩達が、一斉に唄い出した
  大きな声、ずれている音程やリズム
  怒りと悲しみが同時に現れ、私はパニックになった
みあ「アァー、ワァー、ワァー」
  興奮した私は大きな声で泣き叫んだ

〇音楽室
  周りにいた先輩達は、私の叫び声を聴いて一斉に不穏になった
  泣きながら興奮している私は、そのまま自分の部屋に連れて行かれた

〇簡素な部屋
  私は部屋に入ると、そのままベッドに泣き崩れた
  スタッフはしばらく見守っていたが、私が騒ぐのをやめてたため、しばらくしてその場を離れた

〇簡素な部屋
  私は急に悔しくなり、壁を叩いた
  「バン」
  私は不思議に思い、今度は少し軽く、何度か壁を叩いてみた
  「パン パン パン」
  音が鳴る。猫の手では起こりえない事
  私は昔の何かを思い出すように、何度も叩いていた。右手、左手、足も鳴らしてみた

〇アート
  音でも「音楽」が出きる事に気がついた
  お姉ちゃんが怒っている時によく聴いていた音楽が、頭の中に流れこんだ
  パン パン パッ パッ パン パン パッ パッ ♪
  皮肉にもその時の音楽は、クラッシュの「white riot」
  元白猫が小さな暴動を起こした日には、ぴったりな曲だったかもしれない

〇水玉
  音を聴いて見にきたスタッフは、楽しそうな私を見てその場を去ったとの事
  私は気がつかずに叩きまくっていたけど

次のエピソード:さらなる成長

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