one phrase ~言葉より前の物語~

本間ミライ

第10話 クロスワードパズル 後編(脚本)

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本間ミライ

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〇洋館の玄関ホール
マルコ「わざわざ遠くから苦労かけたな」
バベル「いえいえ。私も一度、ペドロさんの 屋敷には来てみたかったものですから」
「──────」
ミア「ここで働いている人達はみんな 言葉を話せるんですね。驚きました」
マルコ「大体の使用人はテレパシー障害だからな。父の意向で仕事を与えている。 父の為ならなんだってする連中さ・・・」
  そう言ったマルコさんは
  何処か悲しい表情をしていた。
マルコ「金庫は父の部屋にある。こっちだ」

〇おしゃれな居間
マルコ「ここが父の部屋だ」
バベル「散らかっていますね」
ミア「資産家ってよりも、 何だが研究者の部屋みたいですね」
  ふと戸棚の方を見ると、ペドロさんと
  幼い日のマルコさんと思わしき人物の
  写真が飾ってあった。
マルコ「これが金庫だ」
バベル「立派な金庫ですね」
ミア「これは文字を打ち込む パネルみたいですね」
ミア「ここに三文字のパスワードを 打ち込むと・・・」
マルコ「そうだ。 早速で悪いが取り掛かって貰いたい」
マルコ「私は仕事があるから、 何かあれば使用人を呼ぶと良い」
  そう言って、マルコさんは
  部屋を出て行った。
バベル「じゃあ早速取り掛かろうか」
ミア「はい。それでこのクロスワードパズルと 言うのはどうやって解くんですか?」
バベル「簡単に言えば、この白い空欄のマスに 文字をはめて、言葉を完成させる」
バベル「完成した言葉は各々、次の言葉と 繋がっていたりするんだ」
ミア「何だかしりとりみたいな感じですね」
バベル「確かに少し似ているかもね」
バベル「言葉の頭となる空欄のマスには 数字が書いてあるだろう?」
バベル「それが二枚目のヒントの番号と 直結しているんだ」
ミア「①は・・・意味を表すため、口で言ったり、文字で書いたりして伝えるもの。 コミュニケーション方法の一つ・・・」
バベル「真ん中に“ト”が付く、僕達の専門分野は?」
ミア「専門分野・・・? 言語・・・言葉・・・ あ、そっか! “コトバ”だ!」
バベル「正解! これで①と③の頭文字が分かったよね。 こうやってどんどん空白を埋めていくんだ」
ミア「なるほど。面白いですね!」
バベル「でしょ? ただ一つ問題があって・・・」
ミア「問題?」
バベル「肝心の答えとなる三文字のパスワードなんだけど、これがどうやら個人的な物らしいんだよね・・・。ヒントを見てごらん」
ミア「えっと・・・ “完成したパズルの言葉を組み合わせて、 私のかけがえのない宝物を見つけよ“」
バベル「そう。パズルが全て解けたとしても、 この宝物が何なのか分からなければ、 金庫を開ける事は出来ないんだ」
ミア「これはなかなか大変そうですね・・・」
バベル「まあそこが面白いんだけどね」
ミア「じゃあ、 私はその宝物について調べてみますよ!」
ミア「バベルさんは、 パズルを解くのに集中して下さい」
バベル「助かるよ! やっぱりミアちゃんを 連れて来て良かった!」
  それから私とバベルさんは手分けして
  パズルを解くために動きだした。

〇書斎
ミア「あの~」
マルコ「なんだ? 私は忙しいのだが?」
ミア「すみません。でも、金庫を開ける為に マルコさんにもちょっと聞きたい事が あるんですよ」
ミア「ペドロさんのかけがえのない宝物と聞いて、何か思い浮かべる物はありませんか?」
マルコ「父の宝物・・・?」
ミア「三文字の言葉なんですが・・・」
マルコ「うーん。お金・・・? いや、父の事だから 言語に関する何かか・・・?」
マルコ「ダメだ。すまないが・・・わからん。 父とはずっと疎遠だったから よく知らないんだ」
ミア「そうですか・・・」
ミア「・・・・・・。 あの、一つ聞いても良いですか?」
マルコ「何だ?」
ミア「なぜ疎遠だったんですか?」
マルコ「・・・・・・。 それは金庫を開ける為に必要な情報か?」
ミア「いえ、あの。そうかもしれませんし、 そうじゃないかもしれません。 個人的に知りたいのが本音ですかね・・・」
マルコ「フン。図々しい娘だな・・・」
マルコ「何てことはない。仲違いしただけだ。 言っておくが、父は君が思ってるほど、 良い人間じゃない」
ミア「どう言う事ですか?」
マルコ「ここの連中は心から父の事を慕っている。 そんな連中を父は洗脳しているんだよ。 テレパシー障害なのを良い事にな・・・」
ミア「そんなこと無いと思います!」
マルコ「君に父の何が分かる? アイツのせいで、私の大切な友人は、 情報管理局に捕まったんだぞ!」
ミア「情報管理局・・・」
  それは、政府の機関の一つで、巨大な
  ネットワークシステム〈ノア〉の管理と、
  様々な情報の管理を行っている
  政府の中枢機関だ。
マルコ「ろくに育児もしない・・・。 父との思い出など・・・」
  同じかもしれないと思った。
  相手を知りたいと言う気持ち。
  それが分からなくて、もどかしくて。
  そう言うものをこの人も抱えているのかも
  しれないと、そう思った。
ミア「マルコさん」
マルコ「何だ?」
ミア「本当はお父さんのこと、 もっと知りたいんじゃないんですか?」
ミア「本当はどう言う人だったのか・・・ だから金庫を・・・」
マルコ「違う! 私は、財産さえ見つかればそれで良い。 父のことなど・・・!」
ミア「本当に綺麗な思い出は 何一つ無いんですか?」
マルコ「・・・・・・。 もう出てってくれ。君達はただ、 金庫を開けてくれさえすれば良いんだ」
ミア「・・・・・・」

〇洋館の玄関ホール
  その後も、“かけがえのない宝物”に
  ついて調べたが、手がかりになる情報は
  得られなかった。

〇おしゃれな居間
  私がペドロさんの部屋に行くと、
  バベルさんは、昼間と同じ姿勢で
  パズルを解いていた。
ミア「もうこんなに解けたんですね! 流石です! この調子なら明日には終わりそうですね!」
バベル「そうだね。そっちはどうだった? 何か手がかりは見つかったかい?」
ミア「私の方は何も・・・。それどころか マルコさんに余計なこと言って、 怒らせてしまいました・・・」
バベル「あはは・・・」
  呆れたように笑うバベルさんを横目に、
  私はパズルを眺めていた。
  そこに気になる言葉が見つかった。
ミア「ここの“コイ”と言う言葉・・・。 これは何ですか?」
バベル「ああそれね。旧世界にそんな名前の 魚も居た気がするけど・・・どうだろう?」
バベル「前にも言ったけど、 基本言語プログラムは完璧じゃないからね」
バベル「失われてしまった言葉も あるのかもしれない」
バベル「まあ分からなくてもパズルは 完成するから問題は無いんだけどね」
ミア「そうですか・・・」
  “コイ”その響きは何処か可憐で魅力的な
  雰囲気に包まれていた。
  それと同時に何処か物哀しさを
  感じてしまうのは何故だろうか?
  そして、これ程までにこの響きに
  惹かれてしまうのは何故だろう?

〇おしゃれな居間
  翌日。
バベル「ふぅ・・・。何とかパズルの方は 完成したね。問題は・・・」
ミア「その答えですね・・・かけがえのない宝物」
マルコ「解けたのか?」
バベル「パズルの方は解きました。 ですが・・・肝心の答えが分かりません。 この中から三文字の言葉なんですが・・・」

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コメント

  • 本当に大事なものは
    身近にあるものだったりしますよね。
    家族はとても近いのに、どうしても遠くに
    なってしまいがちで、大切にしたいものです。

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