第8話 配偶者推進プロジェクト 後編(脚本)
〇オフィスビル前の道
カイ「1年前・・・、 ちょっと外に出る用事があってな」
カイ「行きは問題無かったんだが、 帰り道、迷ってしまったんだ・・・」
カイ「周りの人に助けを求めようにも、意思の 疎通が出来ない。途方に暮れたよ・・・。 そんな時、彼女が現れた・・・」
カイ「彼女は俺がテレパシー障害だと察したのか、ただ黙って手を引いてくれた・・・。医療センターまで連れてってくれたんだ」
カイ「その時の温かい手の感触・・・、 俺の手を引くその後ろ姿を、 俺は美しいと思った・・・」
〇公園のベンチ
ミア「彼女、カイさんの事 ちゃんと覚えていましたよ」
カイ「そうか・・・。それは嬉しいなぁ」
カイさんは空しいそうに天を仰いだ。
カイ「どうして俺はテレパシー障害なんかで 産まれて来たんだろうな・・・」
カイ「彼女と話がしてみたい・・・。 彼女と心を通わしたい・・・」
ミア「カイさん・・・」
カイ「悪い・・・しんみりしちゃったな。 そろそろ帰るか」
ミア「・・・はい」
そう言って、私達は公園を後にした。
〇オフィスビル前の道
そしてその帰り道。
カイ「いろいろ世話になったな。ありがとう」
ミア「いえ、大切な人と会えなくなるのが嫌だって気持ちは私にも分かりますから・・・」
カイ「カナタのことか?」
ミア「いや、その、そうですけど・・・。 カナタだけじゃないですよ」
カイ「フッ・・・俺とお前は似てるのかもな」
ミア「似てる?」
カイ「よく分からない感情に振り回されてる」
ミア「私は別に・・・」
カイ「そうか?」
カイ「カナタと話す時と、俺と話す時、全然 違うじゃないか。敬語使わないし・・・」
ミア「それはカナタは同い年ですし・・・。 バベルさんから、年上には敬語を 使うように教わりましたから」
カイ「それだけじゃないような 気もするが・・・。まあ良いや。 それじゃあ俺は行くよ」
ミア「・・・・・・」
ミア「あのカイさん!」
カイ「ん?」
ミア「このまま終わらせないで下さいね! 彼女とのこと・・・」
カイ「・・・・・・。ああ分かってる」
そう言ってカイさんは去って行った。
カイさんは彼女に対する想いを
“よく分からない感情“だと言った。
確かに不思議なタイミングで
カナタの顔が思い浮かぶことがある。
会いたい人の話題、大切な人の話の時、
配偶者を紹介された時、何故かカナタの
笑顔が私の頭に浮かぶのだった・・・。
〇綺麗な病室
翌日、私はカナタの病室を訪れていた。
ミア「どうすれば二人は一緒に居られるのかな?」
カナタ「彼女がそう望んでいないんだ。 仕方ないよ」
カナタ「カイの一方的な気持ちだけでその意志を 曲げちゃうのは一人よがりだと思う」
ミア「ただ傍に居たいって そんなにわがままな事かな?」
カナタ「どうしてミアはそうまでして カイとその彼女をくっつけたいんだ?」
ミア「私はただ・・・一緒に居たいのに、 一緒に居られないのは とても悲しい事だと思うから・・・」
カナタ「・・・・・・。相変わらずだね。 ミアは・・・。そうやって 人の心に懸命に寄り添おうとする」
カナタ「そんなミアだから僕は 友達になろうって思えた」
ミア「カナタ・・・」
カナタ「もしミアが結婚しても、 友達で居て欲しいって僕は思ってる」
ミア「・・・・・・」
私はカナタの目を真っ直ぐと見つめる。
ミア「カナタ。私、カナタとは友達は嫌だ」
カナタ「え・・・? それどう言う・・・」
その時、勢いよく扉を開ける音が響いた。
カイ「よっ! カナタ! 邪魔するぜ!」
ミア「カ、カイさん!?」
カナタ「ビックリしたぁ・・・。ノックぐらい してくれっていつも言ってるだろ!」
カイ「ごめんごめん。おっ! ミアも居るのか! ちょうど良かった!」
ミア「?」
カイ「オレ考えたんだ!」
カナタ「何を?」
カイ「何が彼女のためになるのか・・・ どうすれば彼女が幸せになるのか・・・」
カイさんは決意を込めた表情で
私を見据えていた。
カイ「ミア! 手伝ってくれるか?」
〇ビジネス街
彼女の仕事の最終日。私とカイさんは再び
この大きなビルの前にやって来ていた。
ある物を持って・・・。
ミア「カイさん。本当に良いんですよね? これを渡し終えたら、 もう彼女とは会えなくなります」
ミア「最後にもう一度結婚を申し込むのは・・・」
カイ「良いんだ。考えてみたら、俺はあの時の 恩返しが出来ればそれで良い・・・」
カイ「今度は俺が彼女の手を引きたい。いや 違うな・・・。背中を押してあげたいんだ」
ミア「カイさん・・・」
何処か悲しそうに微笑むカイさんの前に
彼女は現れた。
カイ「来た・・・。ミア、頼んだぞ! 俺の代わりに伝えてくれ!」
ミア「はい・・・!」
カイさんは彼女の元に行き、
ある物を渡した。
それは、彼女が今まで結んできた
夫婦の写真だった。
私は伝える。
これが、カイさんの発案だと言うこと。
困難を顧みず、方々を周り、
写真を撮ったこと。
素晴らしい出会いを導き続けたこと。
この写真があれば、知識を忘れようと、
それを思い出せること。
そしてこれがただ、アナタの為だけにした
行為であると言うことを・・・。
彼女は写真を見て微笑んだ。
そしてその安らぎに満ちた瞳からは
涙がこぼれていた・・・。
カイさんは真っ直ぐと彼女を見つめ、
深々と頭を下げた。
カイ「あの時はありがとう! どうか幸せになってくれ!」
そう言って、カイさんは彼女に微笑んだ。
彼女もカイさんに微笑み返した。
言葉の意味は分からずとも、カイさんの
真意は伝わったのだろうと私は思う。
〇古書店
バベル「ただいまぁ!」
ミア「あ、バベルさんお帰りなさい。 出張お疲れ様です」
バベル「うん。ミアちゃんも留守番ありがとう!」
バベル「どうだった? 何か変わった事はあったかい?」
ミア「はい。大変でしたよ。バベルさんが 居てくれたら、もしかしたら・・・」
バベル「ん?」
ミア「まあでも良いんです。これで・・・」
バベル「変なミアちゃん」
バベル「あ、そうだ。これお土産」
そう言ってバベルさんは
紅茶の茶葉を私に渡した。
バベル「ミアちゃんミルクティー好きだし、 買ってきちゃった」
ミア「“好き“・・・?」
バベル「どうしたの? もしかして気に入らなかった?」
ミア「いえ、そう言う訳じゃ・・・」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
想いを伝えるって大変なことで
さらに相手のために、なんて
とても素敵ですよね。
ミアちゃんもシアワセになるといいなぁ。
良いお話ですー!!!!!!(´;ω;`)
余談ですが、このお話の続きを読みたくて、ついにファンクラブ入りましたー!!!!!!!
素敵なお話ありがとうございます✨