死神珍奇譚

射貫 心蔵

成敗された死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

今すぐ読む

死神珍奇譚
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇山並み
  東洋のある小国

〇けもの道
  幾多のけもの道をくぐり抜けた先に──

〇谷

〇小さい滝

〇古びた神社
  ――古神社が一つ
  余命いくばくもない老爺が
  身よりのない二人の子供に
  武芸百般を教えていた

〇後宮の一室
老師「お前たちに 集まってもらったのは他でもない」
「・・・・・・」
老師「知っての通り、ワシはもう長くない」
老師「夕べ、この部屋に死神が来てな」

〇後宮の一室
死神「こんばんは、おじいさん」
老師「・・・・・・来たか」
老師「で、いつじゃ?」
死神「飲み込み早っ!」
老師「この歳になると チッとやソッとのことじゃ驚かん」
死神「さすが武芸の達人! 肝が座ってらっしゃる!!」
死神「えっとですね──」
死神「明日 この時計が午前三時に なったらお迎えに上がります」
老師「明日の午前三時じゃな」
老師「了解した!」
死神「・・・・・・」
老師「どうした?」
死神「いえ、ちょっと 物わかりがよすぎるなぁって」
老師「自分の体のことは 自分が一番よく知っとる」
老師「老いと死 どんな屈強も、コレには勝てん」
死神「おじいさんみたいに拳を極めると みんな達観するようになるんですか?」
老師「年の功じゃよ」
老師「もし五十歳若くて健康体なら──」
老師「力ずくでお前さんを 追い返したかもしれんな」
死神「おみそれしました!」

〇後宮の一室
デコ「なにヒヨッてんだジッチャン!?」
デコ「八つ裂きにしてやりゃよかったのに!」
  【一番弟子・デコ】
  曲がったことが嫌いな熱血漢
  格闘センスは皆無
ボコ「話し合いで寿命を延ばしてもらうことは できなかったんですか?」
  【二番弟子・ボコ】
  男まさりな自称レディ
  おそろしく強い
老師「フォッフォッフォッ!」
老師「若くていいのぉ!」
老師「死に直面した時、人は様々な行動に走る」
老師「抗う者、和解を図る者、逃げる者──」
老師「若い内は、いろいろ試して 知見を広めるがよろしい!」
デコ「抵抗しねーのかよ、ジッチャン」
老師「死神というのは、人間の形をした死 生涯最期の友じゃ」
老師「邪険にするものではない」
老師「死神に魅入られる それすなわち天命なり」
デコ「俺にはサッパリわかんねーや」
ボコ「お話はそれだけですか?」
老師「いや ワシがいなくなった後の お前たちの身の振り方じゃが──」

〇古びた神社

〇古びた神社

〇屋敷の一室
デコ「なんで俺が大道芸人!?」
ボコ「弱いからに決まってるでしょ」
ボコ「こないだも悪ガキに イジメられてる亀を救おうとして 返り討ちに遭ったじゃない」
ボコ「浦島太郎になり損ねたわね~!」
デコ「じゃかまし!」
ボコ「その点、私は日本のカッコイイ忍者隊!」
ボコ「やっぱり親方はわかってるわ! 私の手腕を高く評価している!!」
ボコ「ニンニン!」
デコ「凶暴なだけじゃねーか、オトコ女!」
デコ「いってぇ!」
ボコ「ゴメンなさ~い 手がすべっちゃったァ!」
デコ「テメェ、今度やったら 俺も二、三発手ェすべらすかんな!」
ボコ「私なんか足すべらしちゃう!」
デコ「俺はドタマすべらす!!」
「イ~~~~~ッだ!!!!」
「あははははははは!!!!」
デコ「なぁボコ」
ボコ「なぁに?」
デコ「死神ってどんな奴かなぁ?」
ボコ「それはアンタ・・・・・・アレよ」
ボコ「人をあの世へ連れていくんだから そりゃあもう悪魔みたいに残酷な奴よ」
ボコ「頭にツノが生えてて 目は金色に光り、耳はとんがってる 口が目尻まで裂け、鋭いキバは伸び放題」
デコ「・・・・・・」

〇雷
  とんでもねぇ化物じゃねーか!!

〇屋敷の一室
デコ「ジッチャン、死神に食われないだろうか?」
ボコ「親方、死神は邪険にするものじゃないと 言ってたけれど──」
ボコ「やられるのを黙って見ている法はないわね」
デコ「そうとも! 俺らはいつもジッチャンの 世話になりっぱなしだった」
デコ「今度は俺らが助ける番だ!」

〇古びた神社
  反撃の時は来たり!!
  かくして
  少年少女の凸凹コンビが
  死神撃退作戦を開始したのだった!

〇山並み

〇けもの道

〇谷

〇小さい滝

〇古びた神社
死神「ぜー、ぜー」
死神「なんてキツイけもの道なの・・・・・・」
  ぜぇはぁ息を切らしながら
  少女はドアに目をやり
  ・・・・・・一時停止した
死神(ドアの上部にバケツが・・・・・・)
死神(開けた瞬間 頭上からペンキがビシャーか)
死神(子供たちの仕業ね)

〇黒背景
  あの子たち
  私からおじいさんを守るために
  そこかしこに罠を仕掛けたんだわ

〇古びた神社
死神(仕方がない)
死神(この手は あんまり使いたくなかったけど・・・・・・)
  少女が取り出したのは
  ガイコツの仮面
  これを被ると、死期の遠い人間にも
  彼女の姿を可視化できる
  世間一般の死神のイメージが
  ガイコツ姿なのは、このためである
死神「バァ! オバケだぞぉ!!」

〇後宮の一室
  いたっ!
  あぶなっ!
  ギャッ!
  のわぁぁああああ!
  ひゃう!
ボコ「なんだか効いてるみたい!」
デコ「死神め、ザマァ見やがれ!」
デコ「よーし、そろそろ俺たちも突撃だ!」
ボコ「親方、ここで待っていてください! 悪い死神を退治してまいります!!」
老師「お手柔らかにな!」
老師「・・・・・・」

〇御殿の廊下
死神「あ~イタタ イヤンなっちゃうなァ!」
死神(まぁ こういうサービスも たまには悪くないか)
  おいガイコツ野郎!
デコ「ジッチャンには指一本触れさせないぜ!」
死神(坊や、頑張れ)
死神「貴様か 私に歯向かう愚か者は?」
デコ「ひっ!」
死神「わ、私は コレと決めた目標は必ず達成させる」
死神「おじいさんを冥界へ連れていく」
ボコ「そうはさせない!」
デコ「あれ? ボコ!?」
死神(女の子が消えた?)
  うしろだよ
死神「なにっ!?」
ボコ「食らえ!」
「必殺!!」
「トリプルスマ~~~ッシュ!!!!」
  説明しよう!
  トリプルスマッシュとは
  超高速移動により三体に分身し
  そのまま三人分の攻撃を行う秘奥義である!
死神(冗談じゃないよ!)
  まいった!
  もうこの家には来ない~!!
ボコ「デ・・・・・・デコ・・・・・・」
デコ「ボコォ・・・・・・」
「やったァ! 死神を追い払ったぞぉ~!!」

〇後宮の一室
  凸凹コンビは大喜びで
  死神退治のニュースを老爺に伝えにいった
老師「そーかそーか 死神を退治したか」
デコ「ホラ、もう午前三時をすぎた 死神の予告した時間は、反古になったんだ」
ボコ「親方! これで安心して長生きできますね!!」
老師「あ、あぁ・・・・・・」
デコ「ジッチャン 俺、わかったんだ 自分には戦う才能がないことが」
デコ「死神をやっつけた時も ビックリして、一歩も動けなかったもんな」
デコ「ボコが助けてくれなかったら 俺もやられてたかもしれない」
ボコ「デコ・・・・・・」
デコ「俺、大道芸に行くよ」
デコ「ここで鍛えたことが 無駄じゃなかったことを 向こうで証明してやるんだ!」
ボコ「デコならきっとできるよ 私が保証する!」
デコ「イチから出直しだ!」
老師「わかってくれたか、デコ!」
ボコ「ねぇデコ、今日はこの部屋で寝ようよ 親方と三人で」
ボコ「ねぇいいでしょう?」
デコ「ったく お前は本当に甘えん坊だなぁ」
デコ「待ってろ! 人数分の布団を持ってきてやる」
ボコ「あ、まって! 私も行くぅ~!!」
老師「・・・・・・」

〇古びた神社
  死神を倒した喜びと
  老爺を守った嬉しさから
  三人は数年振りに、川の字になって眠った
死神「・・・・・・」

〇後宮の一室
「ZZZ・・・・・・」
死神「おじいさん」
老師「来たかやはり」
  三時はとうにすぎとる
  時間を守らんのは感心せんな
死神「いえいえ、私はこう言ったのです」
  この時計が午前三時になったら
  お迎えに上がります
死神「一時間遅れてるんですよね、コレ」
老師「なぜそんな手段を?」
死神「・・・・・・」
「ZZZ・・・・・・」
死神「止めてほしかったんですよ 愛する人を連れて行くのを・・・・・・」
老師「・・・・・・」
老師「ごくろう様じゃったな、お嬢さん」
死神「いやぁ、私も楽しかったですよ!」
老師「・・・・・・」
「ZZZ・・・・・・」
老師「・・・・・・」
死神「――まいりましょう、おじいさん」

〇古びた神社

〇古びた神社
  翌朝
  デコとボコの間で
  老爺が冷たくなっていた

〇後宮の一室
デコ「どうしてこうなった? 死神はやっつけたハズなのに・・・・・・!」
ボコ「親方、親方ァ・・・・・・!!」
デコ「お、おいボコ ジッチャンの腹んトコに 手紙が置いてあるぞ!」
ボコ「本当だ!」
ボコ「ねぇデコ、読んでみてよ」
デコ「えー、なになに──」

〇空
  デコ殿
  ボコ殿
  身よりのない諸君を預かり
  何年たちましたでしょうか?
  二人とも
  ずいぶん立派になりましたね
  私から教えられることは
  もうなにもありません
  本当はもっと一緒にいたかった
  大人になるまで、見守っていたかった
  その望みは叶えられそうにありません
  私の命が尽きるのは
  諸君の努力不足ではない
  天命なのです
  私は
  諸君が全力で困難に立ち向かう
  姿を見て「もう大丈夫!」と確信しました
  安心して旅立つことができます
  この先、辛いことや悲しいことが
  たくさんあるでしょうが──
  今日までの教訓を活かして
  乗り越えてください

〇後宮の一室
「親方・・・・・・」

〇古びた神社
  老爺の遺言を胸に
  少年少女は新たな一歩を踏み出した!!

次のエピソード:真っ暗闇の死神

コメント

  • 何だかんだ、子供たちの仕掛けた罠にかかりっぱなしの死神さんを微笑ましく思ってしまいます。今話は、残された人達の心を救い成長を促す、悲しくもハートフルな話ですね。

成分キーワード

ページTOPへ