305号室「恋は突然に……」(脚本)
〇白いアパート
アパート『めぞん・ど・めぞん』
1年前に父を亡くし──
19歳でここの管理人となった私は──
変態である
〇配信部屋
趣味は、店子の部屋に仕込んだ
隠しカメラを見ることだ
これは父から引き継いだ仕事でもある
〇配信部屋
父「大家が親なら店子は子──」
父「家族だ」
父「親は子の事を、 いつも気にかけていなければならない」
〇配信部屋
父の言葉の是非はともかく
他人の部屋を覗くのは──
〇明るいリビング
〇女の子の一人部屋
〇一人部屋(車いす無し)
実に楽しい──
〇配信部屋
神様気分だ
覗いて何もしないのならば可愛いものだが──
私は、何かする
具体的には店子の生活リズムを正確に把握し──
〇一人部屋(車いす無し)
〇女の子の一人部屋
〇一人部屋(車いす無し)
家を空ける時間に合鍵で侵入して──
過ごす
1~2時間で数軒を巡り
1日の業務終了である
この生活は
父が病死した1年前から続けている
私は見た目が清潔なので
店子達も不審がりはしない
むしろ「若くて可愛い」と人気があるくらいだ
法を犯していることは重々承知だ
しかし、私は19歳。未成年
20歳までは「訓練」と思って欲しい
それに法律の上でも
犯罪は未成年の間に経験するに限るのだ
〇オフィスの部屋の前
この日は、午前11時から
402号室の浪川さん宅に入り──
奥さんが不倫から帰宅する
午後2時45分までまったりし──
305号室の高田さん宅に移動──
高校生の娘が帰ってくる午後4時まで、
布団で娘の日記読んでゴロゴロして──
207号室の西浦さんの夜勤に合わせて移動し──
朝7時まで寝て
勤務を終えるつもりだった
〇女の子の一人部屋
305号室
予定は大体予定通りいくので、
今日もそのように過ごせるだろうなと思っていたら──
「ヤァー!」
後頭部に激痛が走った
〇白いアパート
しばらくして、
目覚めた私は──
〇女の子の一人部屋
私は──
車イスにくくりつけられていた
目の前には──
高田さんの娘がいた
確か、高校二年生だ
きつく縛られているので逃げようがない
私は平静を装って話し出す
工藤公一「・・・何が目的だ?」
高田実子「え?」
彼女はとても冷静だった
高田実子「いやいや。 あんたが入ってるんだからね」
ここは勢いで──
工藤公一「そうじゃない──」
工藤公一「午後2時52分── なんで君がこの時間に「帰宅」しているのかと聞いているんだ」
高田実子「え?」
工藤公一「学校をさぼったのか?」
堂々とすれば名探偵に見える
高田実子「近頃、私の日記に──」
高田実子「硬そうな毛が入ってる」
高田実子「おそらく男の毛」
高田実子「だから一言物申してやろうと、 タイミングを見計らってたの」
やれやれ──
彼女の方が名探偵だった
ごまかすしかない
工藤公一「男の毛なら、 君のお父さんのものかもしれない」
工藤公一「父親は子供が心配なものだ」
工藤公一「日記なんて、絶対に見る」
・・・どうだ?
高田実子「お父さんは──」
高田実子「ハゲてる」
ダメか・・・作戦変更
工藤公一「私はあやしいものじゃない」
工藤公一「このアパートの管理人だ」
工藤公一「合鍵を持っているので入れる」
高田実子「管理人ってことは、知ってる」
知ってたのか──
工藤公一「確かに頻繁に部屋には入ってるが」
工藤公一「何かを盗んだことはない」
工藤公一「たまにベッドで寝るだけだ」
工藤公一「時々、裸の時もある」
工藤公一「それで、毛が落ちたのかも」
高田実子「変態」
高田実子「ド変態」
高田実子「人間のクズ」
工藤公一「さっきから黙ってりゃ言いたい放題──」
工藤公一「私のアパートだ。 嫌なら引っ越せばいい!」
高田実子「この状況でよく開き直れるね」
工藤公一「私は、哲学を持って店子の部屋に入っているからな」
高田実子「どんな哲学?」
工藤公一「大家と店子は──」
工藤公一「家族だ」
工藤公一「家族だ 家族だ 家族だ」
高田実子「詭弁よ」
・・・だめか
工藤公一「・・・私を警察に突き出すか?」
高田実子「そんなつまらないことはしない」
高田実子「大体、そんなことしたら、 私も捕まっちゃう」
工藤公一「捕まる?」
高田実子「私、あなたと同じで犯罪者なの」
工藤公一「え!? 犯罪者?」
高田実子「だから警察と関わりたくないし」
高田実子「あなたに関しては弱みを握ったわけだから──」
高田実子「おもちゃにしてやろうと思ってるわけ」
工藤公一「おもちゃ・・・」
高田実子「ちなみに、ここでのやりとりは隠しカメラで仲間が見ている。」
工藤公一「何だって!?」
高田実子「私にやんちゃしようったって無駄。 そこが理解できたら解放してあげる」
敵は一枚上手だ。
工藤公一「理解しました」
高田実子「オッケー」
高田実子「なら、解放してあげる」
彼女は、
私を拘束しているワイヤーを切った
工藤公一「ありがとうございます・・・」
高田実子「はい。 ではお願いです」
工藤公一「お願い?」
高田実子「私の彼氏になって欲しいの」
工藤公一「え?」
生まれて初めて告白された──
工藤公一「・・・いいのか?」
高田実子「いいよ」
工藤公一「いきます!」
私は、
娘の胸を揉んだ
〇遊園地の全景
私たちは遊園地に来た
〇ジェットコースター
デートのようだった
でも、私は知っている──
私は、彼女の日記を見ていたから
彼女には、既に彼氏がいる
だから私は「本当の彼氏」ではない。
〇遊園地
だから、女装は必然だった
高田実子「似合うわよ!」
工藤公一(女装)「ありがとう」
高田実子「さ、飲も飲も!」
2人で1つのクリームソーダを飲む
高田実子「おいしー!」
彼女の名は、実子と書いてミコと読む
ミコの目的はデートではない
ミコは離れた場所の男性カップルを
終始見ていた
ふたりとも、最近売り出し中の
高校生モデルだった
高田実子「あの金髪、私の本当の彼氏なの」
だしぬけな告白だった
しかし、心の準備はできていたので
普通に返せた
工藤公一(女装)「へ~、そうなんだ~。 雑誌で見たことがある。 どちらも、芸能人だろ?」
高田実子「うん」
高田実子「でも、芸能人なんてそこらにいる」
高田実子「私も芸能活動してるし」
高田実子「売れないアイドル」
高田実子「だから平日に学校を休める」
高田実子「仕事ないから休まないけどね」
ミコは、聞いてないことをペラペラしゃべる
ちなみにこの場所は、彼のスマホをハッキングして突き止めたらしい
高田実子「ねぇ。 あれって、浮気だと思う?」
工藤公一(女装)「浮気?」
工藤公一(女装)「男同士だし。 遊んでるだけじゃないか?」
高田実子「もう、そんな時代じゃないでしょ。 同性の方が理解できたりもするんだから」
工藤公一(女装)「そうなの?」
私は、恋愛をしたことがない
ふと、金髪が1人になった
高田実子「あ!」
高田実子「案ずるより産むがやすし!」
ミコは、私の腕を引くと彼に向かう
「おい!」
高田実子「リュウ!」
金髪は、あからさまに驚いた
龍「ミコ。 どうしてここに──」
高田実子「浮気の現場を捕まえようと思ったんだけど──」
高田実子「浮気どころか──」
高田実子「彼とは浮気じゃないでしょ!」
高田実子「本気でしょ!」
高田実子「私にはわかる──」
高田実子「私にはわかるの」
リュウは口ごもる
それは、完全に肯定していた
龍「俺──実は男が・・・」
高田実子「いいんだよ、本気でも」
高田実子「あるよ。 あるある」
龍「え?」
高田実子「私も、この娘とこんな感じだから!」
ミコは私に飛び乗り──
お姫様抱っことなる
高田実子「わ~い。わ~い」
柔らかな体が震えていた
気付いているのは私だけだ
龍「あんた、ミコのなんなんだよ?」
私は、ミコのなんなのか?
工藤公一(女装)「私は──」
工藤公一(女装)「彼女の大切なひとです」
工藤公一(女装)「家族です」
これは、私の告白だった
〇白いアパート
『めぞん・ど・めぞん』に戻った
私は、着替えながら考えていた
ミコは彼のために、
私を女装させたのではないか
彼のありのままを認める為に──
彼女はすばらしい
彼女は、最高の女の子だ
〇屋上の隅
工藤公一「君が──」
工藤公一「あんなに優しい子だなんて──」
工藤公一「ずっと見てたのに、知らなかった」
高田実子「ありがとう」
高田実子「私は、あなたが優しい人だって知ってたよ」
高田実子「ずっと見てたから」
工藤公一「え?」
工藤公一「スマホ?」
ミコはアプリを起動して、
画面を私に見せた
その画面には──
〇配信部屋
私の監視部屋が映っていた
〇屋上の隅
工藤公一「これは!?」
高田実子「言ったでしょ? 私もあなたと同じ犯罪者だって」
高田実子「『めぞん・ど・めぞん』の店子は──」
高田実子「好きな時に全ての室内を見ることができる」
高田実子「それがあなたのお父さんが作った入居条件」
高田実子「みんな、あなたに見られていることも──」
高田実子「合鍵で部屋に入ってることも知っている」
高田実子「知らなかったのはあなただけ」
工藤公一「そんな。何の為に──」
高田実子「あなたのお父さんは死期を悟っていた」
高田実子「その上で、あなたの居場所を作りたかったんじゃないかな」
高田実子「神様として見守るべきものを作ることで──」
高田実子「みんなと家族になれた」
高田実子「大家と店子は家族──」
高田実子「あなたと私も家族」
高田実子「そう、あなたは私の大切なひと」
高田実子「私は生まれた時からあなたを見ていたよ」
工藤公一「恥ずかしい──」
高田実子「恥ずかしくない」
高田実子「誰かに見られるのは 当たり前でよくあることなの」
高田実子「風呂上りは裸で歩くの」
高田実子「家族ってそういうものなの」
高田実子「これはきっかけ」
高田実子「あなたはここを飛び出して──」
高田実子「街を、世界を見る」
高田実子「世界に飛び出していく」
高田実子「そうすれば、 あなたの家族はどんどん増えていく」
工藤公一「そんなことできるわけない──」
高田実子「大丈夫」
高田実子「あなたはずっと見られて来たんだから」
高田実子「怖がることはない」
高田実子「それに──」
高田実子「私がいる」
高田実子「まかせて!」
思い出した──
私は、彼女のおもちゃだ
変態カミングアウトから始まるヒューマンドラマ、切り口が斬新すぎですね。テンポのいい会話と展開に、どんどん引き込まれてしまいました。
ノリのいい展開と、会話のリズムが心地よくてグイグイ読めました。
でもまさか自分が見られてるとは思ってなかったでしょうね笑
楽しいお話でした!
最後のオチにびっくりしました。まさか自分の秘密を他人が把握しているなんてショックですよね。続き、読んでみたいです、楽しいストーリーでした。