流し屋

敵当人間

演劇部員の女子高生の話(脚本)

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〇田舎町の駅舎
  ある日、人気(ひとけ)の少ない片田舎に、
  男の人が座っていました。
  何やら看板には”流し屋”と書いてあります。
  どうやら無料で話を聞いてくれるようですね。
ヤングケアラー「・・・」
  買い物袋を片手に持った大学生ぐらいでしょうか?
  青年はじっと看板を見つめました。
ヤングケアラー(この間特集されてた”聞き屋”みたいなもんなのかな?)
ヤングケアラー(ヤベッ、目が合っちゃった!!)
  流し屋の男性と目が合うと、
  彼はそそくさと家路に着いてしまいました。
  流し屋の男性は、数少ない駅前の人通りを
  何の気なしに眺めています。
「おにーさーん、こんばんはー!」
  どうやら常連であろう2人組の様です。
「こんばんは」
「今日も部活大変だったの?」
JK②「そーなの!聞いてくれる!?」
JK①「や、ほんと、人生理不尽なのよ」
  二人はどうやら怒りを抱えている様です。
  一緒に聞かせてもらいましょう。

〇ディベート会場(モニター無し)
  演劇部、部室────。
JK②「あぁ、どうしてこうなったの!?」
JK②「私は悪くない!」
JK②「全部、アンタの所為よ!!」
JK①(気合い入ってんなー)
JK①(昨日も先輩にコテンパンに言われてたもんなー)
先輩「ストップ」
先輩「坂下」
JK②「はいっ!」
先輩「何回も言うけど、台本読んだ?」
JK②「も、もちろん、読み込みました!」
先輩「台本に感情の流れを書き込めって言ったけど、」
先輩「さっきの3つに対してどんな流れを書いたのか教えな」
JK①(出たよ、先輩の坂下イビリ・・・)
JK②「ひ、一つ目の『あぁ、どうしてこうなったの!?』に対しては、」
JK②「戸惑い、と書きました・・・」
JK②「二つ目の『私は悪くない!』に関しては、」
JK②「怒り、と書いて・・・」
JK②「三つ目の『全部アンタの所為よ!!』に関しては、」
JK②「憤り、と書きました・・・」
JK②「・・・」
先輩「怒りと憤りの区別を説明しろ」
JK②「え?」
先輩「分かってるから書いたんだろ?説明しろ」
JK②「・・・」
JK②「わ、分かりません」
先輩「馬鹿か、お前は!」
先輩「そうやっていい加減に熟すから、演技が薄っぺらいんだ!」
先輩「観客だって馬鹿じゃない」
先輩「声を大きくすれば怒ってると思うだろう、」
先輩「そういう役者の惰性はすぐに見抜くんだぞ!」
先輩「そもそも、このシーンは誤って友人を殺害したシーンだ!」
先輩「そんな単純な感情で終えると思うな!」
先輩「深くキャラクターと向き合う気がないなら、お前を役から引き摺り下ろす」
JK②「ま、待ってください!」
JK②「先輩に言われた通りの事をしてるのに、どうしてここまで言われなくちゃいけないんですか!?」
先輩「言われた事をこなすのは裏方の仕事だろ!?」
先輩「役者は観客を世界に引き込む入り口だ!」
先輩「その入り口に魅力がなけりゃ、誰も店に寄り付く訳ないだろうが!」
先輩「あんまりにも他力本願が続くなら、お前が土下座しようと下ろすからな!」

〇田舎町の駅舎
「ってな感じだったの!!」
  2人はそう言うと、
  お互いに見つめ合って笑いました。
「怖い先輩だね・・・」
「もっと寄り添ってほしいよね」
JK②「ほんとそれ!!」
JK②「人の気持ちが分からないお前が演技語んなって感じ!」
JK①「裏方のことも馬鹿にし過ぎ」
JK①「私は音響だけど、その世界観に合った雰囲気をどれだけ意識して選んでるか、」
JK①「役者だけが舞台を作る訳じゃないっての!!」
JK②「だから、誰からも好かれないのよ、アイツ」
JK②「友達多いアタシのことを僻んでんのよ!」
JK①「言えてるー!」
  オヤオヤ、あまりいい会話では
  なくなってきましたね。
「まぁまぁ、2人共・・・」
「そういう悪い人はいつか淘汰されるから、」
「水に流してあげれば良いんじゃないかな?」
  2人は水を受け取るとそのまま飲み始めました。
  もちろん彼は、一切金銭を貰いません。
「僕は坂下さんの主演、楽しみにしてるよ」
JK②「ありがとう、おにーさん!」
JK①「おにーさんと居ると悪口言いそうなの止まるから好き!!」
JK②「じゃ、おかーさんも心配するから!」
JK①「また話聞いてよね!」
  どうやら彼は邪な考えが出てきたタイミングで、
  良い意味で"水を差し"、その出来事を
  "水に流させる"から流し屋と言う様です。
  オヤ・・・?
  近くで決まりの悪そうな青年がいる様ですね・・・。
「こんばんは」
ヤングケアラー「こ、こんばんは・・・」
ヤングケアラー「ぼ、僕の話も聞いてもらえますか?」
「もちろんですよ」
ヤングケアラー「話せば長くなるんですが・・・」
ヤングケアラー「その・・・」
ヤングケアラー「何分、だとか」
「ありませんよ」
「僕は聞き流すだけですから」
ヤングケアラー「で、でも、その指輪・・・」
ヤングケアラー「結婚、されてますよね?」
ヤングケアラー「ご家族さん、とか・・・」
「・・・」
「良いんです」
「家族は全て了承済みです・・・」
ヤングケアラー「そうだったんですね・・・」
ヤングケアラー「えっと、じゃあ・・・」
ヤングケアラー「聞いて貰えますか?」
「もちろんです」
「聞かせてください、僕に」
  オヤオヤ、今度はどんなお話が
  待ち構えているのでしょうか?

次のエピソード:ヤングケアラーの青年の話

コメント

  • 話している内に噴き出した負の部分を、諌めるわけではなく水を差して水に流す。この流し屋さんは粋ですね!

  • こちらの長編、なぜか見逃しておりました💦
    面白かったです✨オムニバス形式もイイですね。
    すごいアイディアだなぁ。さすがです!

  • 本人の姿が見えないという設定が面白いです(今後もずっとそうかはわかりませんが)。そのことで逆に話に引き込まれる気がします。確かにいろいろなものが複雑に絡みあった現代社会においては、需要がかなりありそうなお仕事ですね。

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