第三話 奏羽の思い(脚本)
〇教室
夕凪に初めて会ったのは
小学校の入学式の日だった。
出席番号が一つ前の
自分より少し背の低い男の子にちょっかいを出した。
振り向いたその子は、透き通るような白い肌で、琥珀色の瞳をしていた。
すぐに仲良くなりたいと思った。
奏羽(小学生)「かざま君って言うんだ? 僕、かざみ。似てるね」
夕凪(小学生)「う、うん かざまゆうなぎ」
奏羽(小学生)「僕、そうわ ゆー君って呼んでいい?」
夕凪(小学生)「うん そ、そーちゃん!?」
奏羽(小学生)「うん」
それから、クラスが別になることもあったが
ずっと夕凪の一番仲良しの座を守り続けた。
〇学校の校舎
中学に入った頃から、ただの友達では足りなくなった。
奏羽(中学生)(ゆー君に触れたい、抱きしめたい)
と思うようになった。
夕凪に彼女が出来て、自分が一番じゃなくなったらと考えると耐えられなかった。
そんな気持ちから逃れようと別の高校に行くことにした。
夕凪(中学生)「そーちゃん、N高校行くんじゃないの?」
奏羽(中学生)「親父が、私立のT高校に行けって」
夕凪(中学生)「そっか うちは私立は無理だからなぁ」
親父の言うことなど聞かず、同じ高校に行くことも出来たのに・・・
そうしなかった。
自分から夕凪の一番の座を退いてしまった。
〇学生の一人部屋
高校一年の夏
母を亡くした夕凪を励ます為と理由をつけ
また会うようになった。
自分から離れると決めたのに・・・
数ヶ月会わなかっただけの夕凪は、自分の背を越していて
可愛いからカッコイイに変換されていった。
奏羽(高校生)(抱きしめられたい、キスしたい)
という気持ちを抑え難くなった。
男同士でその先どうなるかという事は
考えないようにしていた。
夕凪(高校生)「そーちゃん 女の子に告白されちゃった」
夏休みが明けて、恐れていた事が起こった。
奏羽(高校生)「えっ」
夕凪(高校生)「どうしよう?」
奏羽(高校生)「どうしようって・・・ ゆー君はどう思ってんの?」
夕凪(高校生)「よくわかんないけど・・・ 可愛い子だな──とは思った」
奏羽(高校生)「なら、付き合っちゃえば」
奏羽(高校生)(やめろ 何でそんなこと言ってんだよ)
夕凪(高校生)「そうだね 付き合ってみる」
完全に夕凪から離れるしか無くなった。
〇学校の校門
高校卒業後、何の目標も持てず、フリーターになった。
格好ばかりチャラついていったが、心まで軽くなる事はなく
夕凪を忘れることも、他の誰かを好きになることもなかった
成人式で夕凪と再会した。
すっかり大人びて、いっそう人目を引いた。
夕凪「そーちゃん、久しぶり どうしたのキンキンの頭して 今更の反抗期?」
変わらない友達ノリで夕凪は話しかけてきた。
奏羽「うっせーよ ただのイメチェンだよ」
夕凪「でも、似合ってる」
奏羽(なんだよ、そういうとこ ずりーよ)
奏羽「写真撮ろーぜ」
夕凪「うん」
夕凪「そーちゃん また前みたいに会いたいな」
〇おしゃれな食堂
奏羽(わー! ゆー君の周りお花畑になってる)
同級生A「風間君、かっこよくなったね」
夕凪「・・・」
奏羽(相変わらず人見知りなんだな 顔固まってるよ)
同級生B「彼女とかいるの?」
夕凪「付き合ってる人いるよ」
奏羽(だよな 彼女いるよな)
夕凪「あっ! そーちゃん どこにいたの?」
奏羽(だから、ずりーって・・・その笑顔)
同級生A「風間君が笑った」
同級生B「相変わらず連んでるんだね」
奏羽「いや、久しぶりに会ったんだよ」
『付き合ってる人いるよ』
知ってしまったから
また、会えなくなってしまった。
やっぱり、夕凪は手に入らない。
何度も見返すことになる写真と
宙ぶらりんの思いが残された。
〇病室(椅子無し)
病室の窓際に並んで体育座りする奏羽と夕凪。
奏羽「ねぇ、ゆー君」
夕凪「なぁに、そーちゃん」
奏羽「ゆー君ってゲイだったの?」
夕凪「どうだろ、女の子とも付き合ったことあるし バイなのかな?」
奏羽「だよな、彼女いたよな だから俺、諦めたのに・・・」
夕凪「でも、女の子とはしっくりこなくて 長続きしなかったな」
奏羽「んだよ、俺にもチャンスあったんじゃねーか」
夕凪「中学の頃さ、そーちゃん俺のこと好きなんじゃないかなって 俺も・・・でも、思春期のアレかなって」
奏羽「アレで済ますなよ」
夕凪「そーちゃんが違う高校選んだから それが答えかなって・・・」
奏羽「高一の頃は会ってたじゃん 俺めっちゃ下心あったよ でもお前に彼女が出来たから・・・」
夕凪「このままだとヤバいなぁって思って・・・ 彼女作った」
奏羽「何だよ、それ」
夕凪「中高の頃ってさ、そう簡単に自分がゲイだって認められないじゃん」
奏羽「もし俺が告ってたら、付き合ってくれた?」
夕凪「どうだろ、親友でいたかったからなぁ」
奏羽「で、今は?」
夕凪「今、愛してるのは空だけ」
奏羽「んだよ、死んでるんだからサービスしろよ」
どちらとも無く唇を重ねる奏羽と夕凪。
奏羽「触れたとこ、ピリピリするな」
夕凪「魂どうしって、そうなんだな」
奏羽「なぁ、知ってる? エロいこと考えると霊って消えるらしいよ」
夕凪「へぇー」
奏羽「エロいことしてみる?」
夕凪「俺、抱く方だよ。そーちゃんもでしょ?」
奏羽「したことねーから、わかんねーよ」
夕凪「えっ! その見た目で童貞!? って・・・無いわ」
奏羽「ほっとけ」
夕凪「・・・」
奏羽「お前になら抱かれてもいいよ」
夕凪「無理。空が最後の男だって決めてるの」
奏羽「さっきキスしたじゃん」
夕凪「・・・」
夕凪「ねぇ、童貞って言ってたけど キスもしたことなかった?」
奏羽「あるよ。お前と」
夕凪「えっ!?」
奏羽「高一の時、お前が寝てる時こっそりした」
夕凪「マジか じゃ、俺の初キスそーちゃんじゃん」
奏羽「えへ」