月光の君 ~越歴草紙より~

やましな

月光の君 第3章(脚本)

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〇屋敷の大広間
  十六 摩利の教に改宗する側女の小夜
侍女の小夜「若殿さまはお屋敷に摩利安尼さまをお招きになりました」
侍女の小夜「私は若殿さまや、ご家臣とともに摩利安尼さまに従い、天上皇帝《でうす》さまに帰依することを誓いました」
侍女の小夜「もちろん、一族の方々や侍従番衆の方々もそれに従い、摩利の教の宗徒となりました」
侍女の小夜「聖水で頭を浄められ、それぞれに《くるす》という小さな十文字の護符と、《びぶりお》という綴じ本を頂いたのでございます」
侍女の小夜「私たちが頂いた《びぶりお》は、本朝のやさしい言葉で《でうす》さまや《ぜす・きりしと》さまのお言葉が記されており、」
侍女の小夜「嬰児(みどりご)を抱いた摩利女菩薩や、大蛇と戦う異国の鎧武者などの絵姿が描いてあるのでした」
侍女の小夜「すっかりやせ細ってしまわれた姫さまのしとねの脇に、摩利安尼さまと若殿さまが並ばれました」
侍女の小夜「その後ろに夜番の平信さま、配下の多くの強そうな若侍がならんで座っておられます」
侍女の小夜「皆、姫さまを救うために改宗したのです。みなさま、ほかのどのようなことでもするくらいの覚悟はしておいででした」
侍女の小夜「摩利安尼さまの脇には姫さまの源氏の折本が五帖積んでありました」
侍女の小夜「摩利安尼さまは、これまでのことをお聞きになり、しばらく考えておいででした」
侍女の小夜「が、姫さまの首筋にのこる咬みあとをご覧になったとたん、眉をひそめられました」
摩利安尼「『これは―――やはり外つ国の妖魔の仕業に違いありませぬ』」
侍女の小夜「摩利安尼さまは、ご自身の《びぶりお》という綴じ本をめくられたあと、ぱたんと閉じられました」
侍女の小夜「その本は表紙にこの国のものと違って堅い皮のようなものがつかわれており、籠目の紋所や十文字の印などが描かれているのでした」
侍女の小夜「中身はむつかしい横綴りの異国の文字で記されておりました」
摩利安尼「『厄介な魔物でございます―――』」
侍女の小夜「摩利安尼さまは金色の十文字の念珠を握り、むつかしそうなお顔をなさいました」
摩利安尼「『唐天竺よりはるか西の彼方に、羅馬尼亜(らまにあ)、杜連城(とれんしろ)という国がございます。』」
摩利安尼「『その国の森の奥深くには、人の生血をすすり、永遠を生きるという吸血鬼(ばんぴえろ)という化物がおるそうでございます』」
堀川の若殿「『ばんぴえろ、でございますか』」
侍女の小夜「若殿さまが不思議そうにおっしゃいました。 そのお首にはちいさな銀の十文字の護符をかけておられます」
摩利安尼「『天上皇帝でうす様に背き、悪魔沙丹(しゃたん)に魂を売った者でございます』」
摩利安尼「『一度死んだ身なれば、その身は不死身で刀で切っても死なず、からだがちぎれても、また肉がより集まって元に戻るといいます』」
摩利安尼「『その牙で血を吸われた者はじょじょに命を失ってゆき、葬られたあと墓穴より黄泉返り、その者もまた血を吸う鬼となります』」
堀川の若殿「『では、妹は―――』」
摩利安尼「『危ない状態にありますが・・・ 早急にその吸血鬼を倒し、然るべき処方をこうじれば、まだ十分助けて差し上げられるでしょう』」
堀川の若殿「『いかにすればその鬼を倒せるのでありましょうか』」
摩利安尼「『まことに鬼神が吸血鬼《ばんぴえろ》ならば、天上皇帝《でうす》を畏れるはず。血吸い鬼はこの十文字の護符を何より畏れます』」
摩利安尼「『そして、天上皇帝の神勅を畏れます。善主麿《ぜす・きりしと》の威光を畏れます』」
摩利安尼「『聖句により清めたる水をおそれます。 清めたる刀をおそれます。 清めたる白木の杭をおそれます』」
摩利安尼「『大蒜の匂いをおそれます。 流れる水をおそれます。 そしてなにより天上皇帝の光、日の光をおそれるのでございます』」
摩利安尼「『姫さまは、「満月の夜に月の世界に旅立つ」とおっしゃられたのでございましょう。となれば、もう時間がありませぬ』」
摩利安尼「『満月は明晩でございます。 これより手分けをして、出来るだけ早いうちに血吸い鬼を迎え撃つ準備をせねばなりませぬ』」
堀川の若殿「『うむ。あいわかった』」
侍女の小夜「若殿さまは大きくうなづき、眠っておられる姫さまをじっと見ておられました」
侍女の小夜「しばらくのあいだ、どなたも何もおっしゃいませんでした。 屋敷の外の虫の声だけが聞こえておりました」
侍女の小夜「血吸い鬼は流れる水をおそれる」
侍女の小夜「摩利安尼さまの言葉に、私は初めて光の君と惟光さまを見た夜のことを思い出しておりました」
侍女の小夜「惟光さまに魅入られそうになった私を救ってくれたのは、突然のにわか雨でありました」
侍女の小夜「あれは天からの、まさしく流れる水でありました。私は天の《でうす》さまに感謝をせずにはおれまれませんでした」
伴平信「『しかし、摩利安尼どの、光源氏の君はあくまでも物語の中の人物でございましょう』」
伴平信「『それがどうして現の世にその外つ国の鬼としてあらわれたのでしょうか』」
侍女の小夜「夜番頭の平信さまが口を開かれました。 それは私も心の中に抱いておりました疑問でありました」
摩利安尼「『姫君は源氏の君の物語の世界をこよなく愛しておられたと申されましたね。 吸血鬼は淫らな妖魔でございます』」
摩利安尼「『また、夢と現を自在に往来する力を持っております』」
摩利安尼「『この淫魔は、姫君の抱いていた源氏の君への願望を察知し、それにつけ込むためにそのような姿かたちで現れたのでしょう』」
伴平信「『そのようなものでございますか』」
侍女の小夜「摩利安尼さまは、源氏の折り本のうちの一帖を手に取り、開いてご覧になりました。『若紫』の帖でありました」
侍女の小夜「摩利安尼さまは、青い瞳と異国めいたお顔だちをしてはおられますが、本朝の文化にもよく通じておらるようでございました」
伴平信「『その折本―――源氏の物語には障りはないのでございますか―――いっそ灰にしてしまったほうがよいかと思うのですが』」
侍女の小夜「忌まわしげに平信さまがおっしゃいました」
摩利安尼「その必要はございませぬ。これはただの物語、たんなる言葉の連なりでございますゆえ。本当の物語は読み手がつくるもの」
侍女の小夜「摩利安尼さまはその手の源氏の帖装本を閉じると、いつになくやさしい目をなさって、平信さまにそれを手渡そうとされました」
伴平信「『はあ』」
侍女の小夜「平信さまはわかったようなわからないような返事をされましたが、それをお受け取りにはなりませんでした」
堀川の若殿「『ふむ』」
侍女の小夜「代わりに若殿さまがそれをお受け取り、小憎いような困ったようなお顔で表紙を開き、不機嫌そうにばらばらと目を通されました」
摩利安尼「『いらぬ心配はせずともよろしゅうございます。あとは天上皇帝のご威光とこの摩利安尼の法力を信じて頂くしかありませぬ』」
摩利安尼「『なにより《でうす》を信じることにございます。そうすれば必ず姫さまはもどってこられましょう』」
侍女の小夜「そうおっしゃると摩利安尼さまは目を閉じ、宙に十文字を描かれたのでございました」

〇日本庭園
  十七 月を見上げる夜番の平信
伴平信「これは小夜どのではないか。 なあに、心配することはない」
伴平信「我らには摩利安尼さまが、我らの上には《でうす》さまがついておられるからな」
伴平信「なにがおかしいことを言ったか? 小夜どの」
伴平信「まあ、以前の俺なら考えられぬことだが、俺は摩利安尼さまの摩利の教に心から帰依したのだ」
伴平信「《ぜす・きりしと》さまのお言葉は俺の心に今までに経験したことのなかった大きな感動を俺の心の中に呼び起こした」
伴平信「武の道を邁進し、おのれの身体を鍛えることにしか興味がなかった俺が、まじめくさってこんなことを言うのはおかしいか」
伴平信「武を求める心も、神を求める心も変わりはせぬ。人の心はどこまでも突き詰めきれぬ何か、極めきれぬ何かを求めるのであろう」
伴平信「なんだ、これか。これは樫の木の杭だ。 これを鬼の心の臓に打ち込んでくれるのだ。この木槌でな」
伴平信「こいつで、あの鬼は確実に殺せるらしいのだ。 鬼め。目にものみせてくれるわ」
伴平信「しかし―――不思議な気分だ。この十文字を首から下げていると、吸血鬼どころか、あの月にさえ風穴を穿てそうな気がしてくる」
伴平信「まったく《でうす》さまのお力とは凄まじきものよなあ」
伴平信「それはそうと、小夜どの」
伴平信「もし、明晩、俺が鬼に殺されなんだなら、俺と・・・」
伴平信「恥ずかしい? 誰もみておらんではないか」
伴平信「そうか。《でうす》さまが見ておられるのだったな。忘れておったわ」

〇草原
  十八 御簾をもたげる侍女の小夜
侍女の小夜「ねえ、ごらんになって、平信さま」
侍女の小夜「月が、雲に飲み込まれてゆきますわ」

〇日本庭園
  十九 息巻く五位の少将
堀川の若殿「あの夜の、青いような白いような、皓々とした満月の光だけは、忘れようとしても忘れられるものではございませぬ」
堀川の若殿「摩利安尼どのは、聖水(きよめたるみず)をもってわれらの体や甲冑、刀などを清めました」
堀川の若殿「おなじように、いやそれ以上に念入りに妹の体を清められたのでした」
堀川の若殿「比丘尼は我々に十字の切り方や、天上皇帝の御力におすがりするための聖なる言葉を教えてくださいました」
堀川の若殿「思えば勝手なことをしました。 私は妹の身を救いたいがために、家臣までも摩利の教えに改宗させたのでございますから」
堀川の若殿「摩利安尼どのがとなえる摩利の呪法の低い陀羅尼だけが部屋のなかに響いておりました」
堀川の若殿「突然、灯りが消えて、閃光があたりを真っ白に焦がしました」
宵待の姫君「『おまちしておりました』」
堀川の若殿「さきほどまでやつれ果てた姿で眠っていた妹が、甘美な、切なげな声で言いました」
宵待の姫君「『さあ、早く行きましょう―――  光の君!』」
堀川の若殿「私は目を見張りました。妹の身がひとりでに宙に浮かびはじめたのでございます」
堀川の若殿「『おのれ、妖怪変化め』」
堀川の若殿「私は妹の身を両の腕でかき抱き、妹の背にまわした両手で、銀の十文字の護符をかざしました」
堀川の若殿「『《ぜす・きりしと》よ、護り賜え! あめん!』」
堀川の若殿「私はどんなことがあっても妹を守りきる決心で、両腕でそのからだを抱きかかえ離さないつもりでした」
堀川の若殿「しかし妖魔の力はおそろしく強く、私はその怪力にあらがうことさえできませんでした」
堀川の若殿「流されるまま私と妹は縁側の遣戸を突き破り、そのまま庭まで引っぱられてしまいました」
堀川の若殿「『摩利安尼どの!  《くるす》の力が効きませぬ!』」
堀川の若殿「比丘尼の話では、吸血鬼は十字の護符をおそれるはずなのですが、それが効かないのです。 私は焦っておりました」
堀川の若殿「『摩利安尼どの!』」
摩利安尼「『少将どの! 信ずるのです。信ずれば救われます。 父なる天上皇帝を、子なる《善主麿きりしと》を、心の底より信ずるのです』」
摩利安尼「『さすれば聖霊たちが護ってくれまする』」
堀川の若殿「摩利安尼のいうには十文字の護符の力の強さは、その持ち主の信仰の強さによるものだということでした」
堀川の若殿「そう考えれば、私には信じる力というものが足りなんだのかも知れませぬ」
堀川の若殿「しょせん邪宗門の、異教の神だとか、妹が救えたらまた宗旨替えをすればよいといった、心の奥底を見通されたのかも知れませぬ」
堀川の若殿「それを《でうす》さまはご存じだったのでしょう」
堀川の若殿「なるほど、中途半端な信仰心しかもたない私などに天上皇帝がご加勢してくれるはずなどなかったのです」
堀川の若殿「私は吸血鬼に吹っ飛ばされ、そのまま地面で頭や腰をうちつけて、気を失ってしまったのでございます」
堀川の若殿「『まったく、情けないことでございます』」

〇大きな日本家屋
  二十 天使の祝福をうける夜番の平信
伴平信「若殿さまと姫さまが見えない吸血鬼の力によって屋敷の外に引きずられてゆくのを見て、私はすぐさまそれを追い、庭に出ました」
伴平信「庭には冴え冴えした月の光が満ちており、あたりは青くくすんではいたものの、」
伴平信「私にはまるで夜明け前か黄昏どきのようにあらゆるものが冴え冴えと、はっきり見渡せるのでした」
伴平信「しかし、かの鬼の姿は私にはみえませんでした」
伴平信「『悪鬼め―――よくも若殿を』」
伴平信「私は右手に清めたる刀を構え、左手に十文字を握っておりました」
伴平信「腰にはいつでも引き抜けるように尖った白木の杭と木槌を差し、背にも地に杭を打つ時に使う大木槌を負うておりました」
伴平信「『全知全能なる天上皇帝《でうす》よ』」
伴平信「私は鬼の姿をさがして、あたりを見回しました。 しかし、いっこうに見えぬのでございます」
伴平信「姿無き相手をどう倒してよいものかと迷うておりますと、縁がわより摩利安尼さまの声が聞こえてきました」
摩利安尼「『平信どの、姿形は見えなくとも《ばんぴえろ》お鬼はそなたのそばにおりまする』」
摩利安尼「『大蒜(おおびる)の粉をお使いなさいませ』」
伴平信「『者ども、大蒜の粉を!』」
伴平信「十数人の若侍が『応』と叫び、大蒜の粉を詰めた小さな玉を、姫君のおられるあたりめがけて次々に投じました」
伴平信「玉の中身は微塵におろした大蒜の粉で、地に落ちると割れて粉が撒き散らされるように細工してありました」
伴平信「大蒜すなわち、にんにくは血吸い鬼の最も苦手とするものゆえ、摩利安尼どのが命じて作らせたものでした」
伴平信「大蒜の粉は土埃のようになってあたりにもうもうと立ちこめておりました。 それはもう、すさまじい匂いでございました」
伴平信「なにしろ、百個を越える大蒜の玉を一度に投じたのでございます」
伴平信「『ぎゃああ』 この世のものとは思えない悲鳴が粉塵の中より響き渡りました」
伴平信「しだいに風が煙幕を流してゆき、鬼は月光のなかにその姿をあらわしました」
伴平信「吸血鬼は苦しげに顔を両の袖で覆い、ぜえぜえと小さく細かく咳き込んでおりした」
伴平信「姫さまも地面に尻餅をついて、大きく咳き込んでおられました」
伴平信「吸血鬼が顔を覆っていた袖を下ろしました。 まだ咳き込んでいらっしゃる姫さまに向かって手を差し伸べようとしておりました」
伴平信「姫さまをさらって行こうとした鬼は、これまで見たこともないような美しい男でありました」
伴平信「私は思わず見とれ、もうすこしで魅了されてしまいそうになりましたが、摩利安尼さまの声によって我に返ったのでした」
摩利安尼「『平信どの。 浄めたる刀をお使いなさいませ』」
摩利安尼「『天上皇帝様の聖句によって浄められたる刃ならば、たとえ不死身の吸血鬼であってもすぐには回復はいたしませぬ』」
伴平信「『応、心得たり!』」
伴平信「私は刀を抜き放ち、覚えたばかりの聖句を唱えながら、吸血鬼―――光の君にむかって斬りかかりました」
伴平信「『なむ全知全能の天上皇帝《でうす》よ』」
伴平信「『摩利聖母と抱かれし神の子《善主・きりしと》よ』」
伴平信「『天軍(あまついくさ)百万の聖衆(あんじょ)よ。我を護り賜え! 亜免!』」
伴平信「まったくおそろしくはありませんでした。 むしろ、私は喜びに打ちふるえておったほどでありました」
伴平信「その瞬間、私の目には見えておりました」
伴平信「数え切れぬほどの輝ける翼をもつ天使(あまつつかい)の神々(あんじょ)が、」
伴平信「あたたかくまぶしい聖光のなかに、私を護って飛び交っておられるのが、」
伴平信「確かにはっきりと見えておりました」

〇屋敷の門
  二十一 怒れる宵待の姫君
宵待の姫君「もう、とにかくものすごい怒りをおぼえたのでございます」
宵待の姫君「せっかくまた夜が来て、いいところにつれていっていただけると思っておりましたら、なんということでございましょう」
宵待の姫君「お兄さまが私の恋路をじゃまするなんて」
宵待の姫君「私、もう、ほんとにお兄さまなんて、馬に蹴られて死んでしまえばいいのになどといけないことを思ったりするのでございます」
宵待の姫君「お兄さまや、あの『野蛮頭の平信』のせいで、いい雰囲気で光の君さまに抱かれていた私は、」
宵待の姫君「その腕からこぼれ落ちて、おまけに尻餅までついてしまったのでございます」
宵待の姫君「これでは雰囲気がぶちこわしではございませんか」
宵待の姫君「だから、光の君がお兄さまを吹き飛ばしたときは、ほんとうに胸がすうっとしたのです」
宵待の姫君「まったくいい気味でございますこと」
宵待の姫君「さらにあろうことか、お兄さまは平信に命じて、私たちの旅立ちを阻止しようとするのです」
宵待の姫君「あの獣くさい熊男の平信が、私をいいところに連れてってくださる光の君にむかって刀をむけているのです」
宵待の姫君「あの限りなく美しいお方に向かって」
伴平信「『いかに不死身の吸血鬼といえども、さすがに天上皇帝の御威徳の前では、微動だにできぬと見えるわ』」
宵待の姫君「聞くに耐えないだみ声で平信が叫んでおりました」
摩利安尼「『さあ、平信どの、いまでございます』」
宵待の姫君「縁側に座っている珍奇な女が耳障りな金切り声をあげました」
伴平信「『あめん!』」
宵待の姫君「平信が、わけのわからない言葉を発しながら、私の光の君に、刀を打ち下ろしました」
宵待の姫君「ところがでございます。 光の君は顔色一つもお変えになりません」
光の君「『惟光!』」
宵待の姫君「闇の中から従者の惟光さまが光の君の前にあらわれ──」
宵待の姫君「その身をていして光の君をおかばいになったのでございます」
宵待の姫君「惟光さまは肩口からおなかのあたりまで切り裂かれておしまいになりました」
宵待の姫君「『惟光さま!』」
宵待の姫君「私は思わず叫びました。 惟光さまは表情もおかえにならずに、じっと立っておられました」
宵待の姫君「動けない惟光さまにさらなる刃が襲いかかりました」
光の君「『我らは尋常(よのつね)の武器では傷つけられないよ』」
宵待の姫君「光の君がずたずたになった惟光さまの姿をご覧になりながらおっしゃいました」
光の君「『ほら。私たちは決して死なないよ』」
宵待の姫君「光の君は再び私の手をとりました」
光の君「『きみも、もうすぐ、そうなるさ──』」
宵待の姫君「『素敵――そうなれば、年をとることも、苦しむこともないのね』」
宵待の姫君「私は再び光の君の腕の中に抱かれて目を閉じました」
宵待の姫君「そうでございました」
宵待の姫君「永遠を生きる私の美しい光の君や、惟光さまが、おろかな人間なんかに殺されたりするわけがないのです」
宵待の姫君「とくにあの醜く汚らわしい『野蛮頭の平信』などには」
宵待の姫君「ところが──」
光の君「『どうした、惟光』」
宵待の姫君「光の君があまりにも声を荒げておっしゃったので、私は驚いてしまいました」
宵待の姫君「不死身のはずの惟光さまの様子が、なんだかすこしおかしいようなのです」
宵待の姫君「惟光さまのからだが、ふらふらゆらゆらと、今にもたおれそうに揺れておりました」
宵待の姫君「野蛮頭の平信が、手に大きな木槌を持って、惟光さまの前に立っておりました」
宵待の姫君「惟光さまの胸には太い木の杭が──」
宵待の姫君「ふかぶかと刺さっていたのでございます」

〇日本庭園
  二十二 涙を流す側女の小夜
侍女の小夜「夜番頭の平信さまは木槌を振り上げ、惟光さまの胸に白木の杭をあてがって、打ち込みました」
伴平信「『亜免! 亜免!』」
伴平信「『天つ使いの聖衆(あんじょ)のご加護、我らが上にあり! あめん!』」
侍女の小夜「一尺ばかりなる木の杭が、根本近くまで打ち込まれたとき── 惟光さまはどさっと倒れ込みました」
侍女の小夜「一瞬の後、そのからだのあらゆるところから人魂のような燐光を生じて──」
侍女の小夜「そのままどろどろと溶け崩れはじめました」
侍女の小夜「人の姿を完全に姿を失うまでにさほど時間はかかりませんでした」
侍女の小夜「惟光さまは大地に吸い込まれ── さいごにはただの地面の黒い染みになっておしまいになりました」
光の君「『惟光―――』」
侍女の小夜「光の君はいつになく驚いたようすでつぶやかれました」
侍女の小夜「信じられないといった表情で惟光さまを見つめ、光の君は叫ばれたのでした」
光の君「『―――惟光!』」
侍女の小夜「私はそれを見て、どうしようもなく悲しく切なくなって── こらえようもなく涙を流しておりました」
侍女の小夜「なぜ憎むべき吸血鬼である惟光さまに涙を流さねばならなのかわかりませんでしたが、」
侍女の小夜「涙は両の目尻より流れ落ちてゆくのでありました」
侍女の小夜「あるいはあの夜、惟光さまの光る眼で見つめられた瞬間──」
侍女の小夜「私はほんとうに惟光さまに心を惹かれておったのかもしれません」
侍女の小夜「そう思うとなんだかいまここで泣くことへの戸惑いが消え失せるような気がして──」
侍女の小夜「ますますこみ上げてくるものを抑えきれなくなってくるのでございました」
侍女の小夜「一方で、そのような不埒な神をも恐れぬ感傷を抱く私を、ひどく忌まわしく思うのでした」
侍女の小夜「私は体の中に悪しきものが残っているのではないかと、そらおそろしくなりました」
侍女の小夜「《でうす》さまの御威光に癒されたい、穢れを、不浄を祓いたい──」
侍女の小夜「と強く願わずにはおれなくなっておるのでございました」

〇大きな日本家屋
  二十三 睨み付ける宵待の姫君
宵待の姫君「私は悲しくて悲しくてしょうがありませんでした」
宵待の姫君「惟光さまのような美しく高貴なお方が、なぜ《野蛮頭の平信》のような醜いだけの「けだもの」に滅ぼされねばならないのでしょうか」
宵待の姫君「涙こそ流しませんでしたが、まるで私自身の胸に、白木の杭が突き立てられたかのような苦しさと息苦しさに襲われました」
宵待の姫君「ああ、平信はなんということをするのでしょう。哀れなことに、自分のしたことの意味さえわかっておらぬのです」
宵待の姫君「光の君とともに永遠を生き──いくつもの世界の始まりと終わりを見てこられた惟光さまの、その命を・・・」
宵待の姫君「永遠を奪うということが、どれほど不遜な行為であるかを・・・・・・あの獣並みの心では計ることができないのでございましょう」
宵待の姫君「さらに憎むべきはそれが兄の手の者であるということでございました」
宵待の姫君「ひときわ大きな体をした猪のような侍が、手に先を尖らせた木の棒と大きな木槌を持って、光の君の前に立ちはだかりました」
宵待の姫君「どこかで見たことのある化け物だと思えば、野蛮頭の平信なのでした。まったく、呪わしい男でございます」
伴平信「『吸血鬼め。 《でうす》さまの御力を思い知るがよい!』」
宵待の姫君「底知れぬ暗さをたたえた目をして、平信が白木の杭を構えてにじり寄ってきました」
宵待の姫君「『光の君、私を置いて、早くお逃げになって!』」
光の君「『いやだ。きみと一緒でなければ』」
宵待の姫君「光の君は強く、そうおっしゃって、私をかばうように平信のほうに一歩出られました」
宵待の姫君「そのお顔はいくらか苦しげにひきつっておられるのでございました」
宵待の姫君「なんといまいましいことでありましょうか」
宵待の姫君「これはきっと、さきほど浴びた臭い粉塵と── あの奇怪な女の唱える妖しげな呪文のような声のせいでありましょう」
宵待の姫君「私はその声を発する女を睨みつけました。あれも、お兄さまの差し向けた醜い呪い師なのです」
伴平信「『摩利安尼さま、お力添えを!』」
宵待の姫君「野蛮な けだものが 生意気にも にんげんの言葉で 叫んでおりました」
摩利安尼「『天翔ける聖衆の力は汝(いまし)が剣に宿りたり!   悪魔を討つは今なるべし!』」
宵待の姫君「きてれつな女が 天を仰ぎ 狂ったように 踊りながら わけのわからぬことを 言いよりました」
宵待の姫君「野蛮なけだもの男の持つ刃が、 ぶきみな闇色の光をはなち けだものは 光の君に 斬りかかりました」
摩利安尼「『あめん! 南無天上皇帝!  その広大無比の御威光の下に浄化の聖雨を降らせたまえ! あめん!』」
伴平信「『うおおおおおおおお』」

〇日本庭園
  二十四 神を讃える五位の少将
堀川の若殿「私は雨音で目を醒ましました」
堀川の若殿「雨はしかし、私の上には降ってはおりませんでした」
堀川の若殿「銀の糸のような雨は、ただ吸血鬼と夜番の平信、それにすこし離れたところに立ち尽くす私の妹の上だけに降っていました」
堀川の若殿「はるか天上のかなたより細い滝のように──」
堀川の若殿「天上の雲間から垂らされた一本の蜘蛛の糸のように──」
堀川の若殿「しずかにまっすぐ、降り続いているのでありました」
堀川の若殿「天には雲もなく、ただ満月が変わらず皓々と輝いております」
堀川の若殿「それはまさに奇跡としか言いようのない光景でございました」
堀川の若殿「私は十文字の護符を額にかざし、天に向かって叫びました」
堀川の若殿「『おお、美哉(あなにやし)』」
堀川の若殿「『なむ《でうす》さま!』」
堀川の若殿「『天晴也(あめん・はれるや)!』」
堀川の若殿「私は天のはるか彼方に飛び違う、幾万の輝ける聖霊(あんじょ)の姿を──」
堀川の若殿「今はっきりとこの目に認め、われ覚えず熱涙をこぼしたのでございました」

〇大きな日本家屋
  二十五 罪を告白する夜番の平信
伴平信「意を決するのに時間はかかりませんでした」
伴平信「私には諸々の天使(あんじょ)がついておるのですから」
伴平信「摩利安尼の降らせた浄化の雨は吸血鬼の身を焦がし、その邪悪の力を封ぜしめました」
伴平信「私は聖雨によって動けなくなった吸血鬼―――光の君の胸に樫の木の杭を突き立てました」
伴平信「その瞬間、背筋に快感のようなものが疾ったのでございます」
伴平信「おそれおおいことでございますが、そのとき私は神と一体化したかのような錯覚さえ覚えたのです」
伴平信「『あめん!』」
伴平信「私は木槌を振りおろしました」
宵待の姫君「『やめなさい、けだもの!』」
伴平信「姫さまが私の前に立ちふさがり、 痩せたからだを、ずぶぬれにしながら──」
伴平信「けなげにも吸血鬼を護ろうとしておるのでございました」
伴平信「『おどきください』」
伴平信「むろん、私にはその妨害を排除するのにはさほど時間はかかりませんでした」
伴平信「姫さまは私の腕につかまり、木槌を使えなくするつもりであったのでしょう」
伴平信「が、私の腕力をもってすれば、姫さまを腕につかまらせたまま、吸血鬼に木槌を叩きつけることも可能であったでしょう」
伴平信「私はやすやすと姫さまを振り払いましたが、なおも木槌につかまってくるので、私は木槌ごと姫さまを突き放しました」
伴平信「まさか木槌を放すとは思っていなかったのでしょう」
伴平信「姫さまは木槌の重みにふらつきながら水たまりの中に倒れ込みました」
伴平信「私は背中に背負っていた大槌を両手に構えました」
伴平信「地面に杭を打つときにつかうような五尺近い長さの大槌で、これも聖水と聖句によって浄めたものでございました」
伴平信「『亜免!』」
伴平信「続いて私はふりかぶった大槌を大きくふりおろし、杭を吸血鬼の胸の奥深くまでたたき込みました」
伴平信「私はそのとき、苦悶の表情を浮かべる魔人の、美しい顔を見てはっとしました」
伴平信「魅せられた、といって差し支えありますまい」
伴平信「私は、この世でもっとも美しいものを、この手で、この大槌で、壊すことができる」
伴平信「永遠を生きるという吸血鬼のその永遠を断ち切ることができる」
伴平信「私はその考えに、考え自体に欲情したのでございます」
伴平信「高まりを覚ええたのでございます」
伴平信「これは《でうす》さまに対しての罪にあたるのでございましょうか」
伴平信「善主麿さまにたいしての冒涜になるのでございましょうか」
伴平信「このような不遜な者に波羅葦僧(ぱらいそ)の扉をくぐる資格があるのでございましょうか」
伴平信「私はそう思いながらも、幾度も幾度も槌を振り下ろし、その無上の悦楽に酔いしれたのでございます」
伴平信「杭を打ち込むたびに、心の臓がきりりと痛んだのは、神の戒めなのでございましょうか」
伴平信「それとも悪鬼の魔術による最期の抵抗であったのでございましょうか」

〇空
  二十六 神々を呪う宵待の姫君
宵待の姫君「光の君の胸を貫く杭は、どうやっても抜けませんでした」
光の君「『姫・・・・・・』」
宵待の姫君「光の君は、はらはらと涙をお流しになっておられました」
宵待の姫君「赤い涙でございました」
宵待の姫君「『光の君!』」
光の君「『私の・・・・・・ちを・・・・・・永遠を──』」
宵待の姫君「それが、最期のお言葉でございました」
宵待の姫君「今となっては光の君がなにをおっしゃいたかったのかはわかりません」
宵待の姫君「私にはただ一つの意味にしか、取ることが出来ませんでした」
宵待の姫君「『光の君―――!』」
宵待の姫君「ああ、自らを神と名乗る奢れる者は、どうして美しい者を──」
宵待の姫君「こんなにも憎みねたむのでしょうか」
宵待の姫君「美しい者が美しいまま永遠を生きることをどうして『神々』はお許しにならないのでしょうか」
宵待の姫君「どうして月光の中では美しくいられるのに、太陽の光を浴びたとたんに消えてゆかねばならないのでしょうか」
宵待の姫君「私はたまらなくいとおしくなって、光の君の首筋に口を押しあて──」
宵待の姫君「その首を咬み──」
宵待の姫君「その脈打ち流れる冷たい血を吸いました」

〇日本庭園
  二十七 雨に濡れる側女の小夜
侍女の小夜「銀色に輝く神々しい雨でございました」
侍女の小夜「私は光る雨の中へ走ってゆきました」
侍女の小夜「かつて私が惟光さまに襲われそうになったときに降った雨のことを思い──」
侍女の小夜「そのふたたび神の降らせたまう聖雨を浴びたい、救われたいといった衝動に駆られたのでございます」
侍女の小夜「浄めの雨が私の髪を濡らし、衣袖を濡らし、顔を濡らし、足を濡らすたびに、私のなかの穢れが消えてゆくような気がしました」
侍女の小夜「光の君にすがりついて離れない姫さまを、平信さまが引きはがしました」
侍女の小夜「さらに大きく大槌を振りかぶり、力をこめて白木の杭を打ち込みました」
侍女の小夜「その瞬間、光の君が断末魔の悲鳴をお上げになりました」
侍女の小夜「光の君の体が、美しいそのお顔が──月明かりの中に醜くどろどろにとけてゆくのを──」
侍女の小夜「私は浄めの雨にうたれながら、ただ──ただ見つめておりました」

〇宇宙空間
  二十八 月にさけぶ宵待の姫君
宵待の姫君「気がついたときには私は呪わしい平信の忌々しい腕に抱きかかえられて、満月を見上げておりました」
宵待の姫君「私はそこから逃れようと、もがいたのですが、からだがしびれたようになって、まったく力が入らないのでした」
宵待の姫君「舌の上に残るあの方の血の味がどうしようもなく悲しくて、あの方の事を思うと息苦しくなって―――」
宵待の姫君「私は知らないうちに月に向かって、叫んでおりました」
宵待の姫君「私の光の君は――― 月明かりの雨の中で、」
宵待の姫君「静かに美しくとろけてしまったのでございます」

〇屋敷の大広間
  流章 越歴機を欲する文書の博士
文章の博士「例の・・・堀川の鬼の騒ぎの聞き書きじゃが──」
文章の博士「・・・まるで稚児の夢じゃの。 源氏を読みすぎておかしゅうなった姫君の戯言──」
文章の博士「であれば、よかったのじゃが・・・」
文章の博士「お主の聞き書きと、検非違使の調べ書を併せて考えるに──」
文章の博士「やはり堀川の鬼事件は実際にあったことであるといわねばならぬ」
文章の博士「もう少し、詳しゅう話を聞きたいの」
文章の博士「特に吸血の鬼を退じた伴平信なる武者と、異国の尼僧・摩利安尼──」
文章の博士「そして堀川の姫君と、その侍女あたりから──」
文章の博士「・・・なに?」
文章の博士「四人とも行方知れず、じゃと? どういうことぞ」
文章の博士「ほう、姫君が狂騒して出奔したというのか」
文章の博士「侍女を道連れに・・・」
文章の博士「平信がそれを追い、尼僧もおそらく──ということか」
文章の博士「せっかく救うた妹君が、ひと月たたずして逐電するとは・・・。 堀川の若殿の悲しみもいかばかりか・・・」
文章の博士「で、伴平信と摩利安尼はどこに向かったのじゃ」
文章の博士「《月なる世界》へ、とな?」
文章の博士「──これはまた、異なことを申すの」
文章の博士「違う? そりゃそうじゃ。 なよ竹のかぐや姫であるまいしの」
文章の博士「《次なる世界》とな?」
文章の博士「平信が書き付けを残して行ったのか」
伴平信「《吸血の鬼は滅せども、望月の夜──鬼の気毒は蘇り、姫様を襲い──姫様、月を見て狂奔せり。》」
伴平信「《吾、摩利安尼とともにそれを追うものなり》」
伴平信「《姫に襲(かさな)りし鬼は『次なる世』に跳べり》」
伴平信「《吾ら摩利安尼の『越歴機』の神法を用いて追い、必ずや姫を取り戻さん》」
文章の博士「な、なんじゃこれは」
文章の博士「この『越歴機(えれき)』とは」
文章の博士「平信の証言にある・・・ あれのことか──」
文章の博士「にわかには信じられぬが・・・ 外つ国には《次なる世界》に跳ぶという業があるというのか・・・」
文章の博士「否、あるわけはない」
文章の博士「時を跳ぶなど、神の御業」
文章の博士「わが国の神話において、いざなぎの神が、黄泉の国から戻りしとき、」
文章の博士「その身の穢れを禊いだ際に腕から取り外し、永遠に失われたという──」
文章の博士「《時量師(ときはかし)》の力がまさにそれだが・・・」
文章の博士「そのような力を、異邦の──邪宗門の尼僧が持っておるとは──」
文章の博士「ほほほっほ!」
文章の博士「ああ、残念じゃ。 残念じゃ」
文章の博士「この堀川鬼騒動の話が本物であらば、この『越歴機』なる奇蹟もまた本物であろうよ」
文章の博士「何より残念なのは、これから伴平信と摩利安尼が体験するであろう──」
文章の博士「外つ国の奇譚、異なる世界の夢のような話が、儂には、すぐに聞けぬことじゃて!」
文章の博士「儂もその異世界の旅に同行し、奇妙なる時空の遍歴を見てみたいぞよ」
文章の博士「ええい、儂も欲しい! 時も場所も自在に操るという時量師の神の力を!」
文章の博士「時を、歴史を越えてゆく『越歴機』の御業とやらを!」
文章の博士「たれか! たれかおらぬのか!」
文章の博士「外典の神話に残る時の神の器、時量師の行方を知る者は!?」
文章の博士「たれか、おいさき短いわしに、はるかな過去や未来、異(い)なる世界を、見せてくれんか!」
文章の博士「死ぬ前に一度、摩利安尼が平信が見たような、世界の奇蹟を、この目で見たいのじゃ!」
文章の博士「ええい。飲まずにはおられぬわ」
文章の博士「あの酒、珍陀(ちんた)なる酒を持てい!」
文章の博士「そうじゃ! 外つ国の、血の色の酒じゃ!」
文章の博士「・・・なんじゃ?」
文章の博士「何? この書物の名前を決めろじゃと?」
文章の博士「『越歴草紙』(えれきそうし)とでもしておけばよかろう」
  月光の君 ~越歴草紙より~ (完)

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