メイサ

Akiyu

読切(脚本)

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〇木の上
  ぼくのいえは大きな木の上にあります。
  その木は小さな学校の、小さな校庭にあります。木のなまえは、わかりません。
  じぶんのいえのなまえなんて、だれもわからないでしょう?
  木のなまえはわからないけど、わかっていることもあります。
  この木がずいぶん、歳を取っているということです。
  だってこの木が生まれたのはずっとまえ。
  ぼくのお父さんのお父さんのそのまたお父さん、ずーっと、ずーっと昔のお父さんが生きている頃からあったということですから。
ミミズク「ねえ、君はいつか、死んじゃうの?」
  ぼくはいえにききます。本当は聞きたくなかったけど、聞かなきゃいけないと思ったんです。
  いえは答えました。
「もうすぐ、業者さんが来る。業者さんは、ワシの根元をレンガで囲んで延命治療をしてくれる」
「そうすれば、長生きできるよ。しばらくはね」
  しばらくって、いつまでだろう。お年寄りの話は、ときどきわかりません。
  それからまもなくして、業者さんがやってきました。業者さんは、いえが言ったとおり、根元をレンガで囲んでくれました。
ミミズク「よかったね、これで長生きできるね」
  ぼくはいえに言いました。
「ああ。そうじゃな」
ミミズク「そうだ。延命治療のお祝いに、ぼくが君に名前をつけてあげるよ」
「それは嬉しい。この歳になるまで名前なんてもらった事なんてないからな」
  いえは、とても嬉しそうにしていました。ぼくは一生懸命、名前を考えました。そして良い名前を思いついたのです。
ミミズク「そうだ。命が咲くと書いて”めいさ”だ。僕達一族の命をずっと見守ってくれた君に、この名前を付けてあげたい」
「おお、良い名前じゃ。気に入った」
ミミズク「よろしくね、命咲」
  それからぼくは、命咲と共に過ごしました。
  だけどそんな日々は長く続きませんでした。延命治療で延命できたのは、僅かな時間。別れの時はすぐにやってきました。
  命咲の根元が腐り、今にも倒れそうになったのです。
「どうやらワシもここまでのようじゃ。もう長くはないだろう」
ミミズク「嫌だよ。別れたくないよ。寂しいよ」
「ワシは、この高い位置から沢山の時間をかけて見てきた。生まれてくる命と消えていく命。それだけワシは長生きしたんじゃよ」
ミミズク「そんなこと言わないで。寂しいよ」
「よく聞くんじゃ。ワシは死ぬのではない。生まれ変わるんじゃ」
ミミズク「生まれ変わる?」
「ああ。小さな種になる。そしてその種は、やがて芽が出る」
「そしてそれは、長い時間をかけて大きな大きな木になるのじゃ。そしてまた命を咲かせる命の木になるのじゃ」
ミミズク「そうしたらまた会える?」
「ああ。きっとまた会える。そうやって命は繰り返されていくんじゃ。その中できっとまた巡り合える」
  そう言うと命咲は、倒れました。
  僕は命がある限り、頑張って生きようと思いました。
  だってそうしないと命咲にお礼を言う事ができないから。

コメント

  • どのように命を全うするかが大事であって、死をただ悲しい事実だと考える必要はない、そういうメッセージを受け取りました。自身の事もそうですが、大事な人への思いやりもより一層大事にしたくなりました。

  • 生きることの意味、受け取るもののこと、遺してゆくもののこと、そして命と命の出会いについて、思いを巡らすよう導いてくれるお話でした。名前をつけるという愛のこもった行為が素敵です。限りある時間の中で、私もそうした愛情を繋げていきたくなりました。

  • 名前にそんな素敵な意味が込められていたのですね。命が繋がっているとはこういうことなのかとわかりやすく描かれていました。道徳に教科書にのっていてもよさそうなそんなお話でした。

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